蒼い空、藍い海

蒼い空、藍い海

暴れん坊さんより20万打記念


その上引越し前で超多忙にもかかわらず、快く書いてくださった暴れん坊さん、ありがとうございます。
難産だったようですみませんでした~。
感謝・感激~!!!





・・喜助が死神になる前のこと。
そう、まだ流魂街で暮らしていたときのことだ。
その頃の喜助は人間の外見からすると10代前半。まだ顔にもあどけなさが残る頃合だ。
喜助には育ての親がいた。
育ての親といっても、年の離れた姉のような女性だった。
喜助はこの女性に育てられていた。

「喜助~~!!お前、何サボってるんだ!
部屋の掃除やっとけっていっただろうが!!」
ドゴッという鈍い音とともに喜助の頭が殴られる。
「・・・部屋の掃除はお前の仕事だって・・決めたよな・・・?」

喜助の育ての親は・・・・かなり威勢のいい女性だった。

「だって御姐さん・・・。」
ドゴッ!!またもや殴られる。
「・・母さんて呼べっていっただろうが・・!」
姉と呼ばれるよりも母と呼ばれたがる不思議な女性だった。

喜助の育ての母は器用な女で、ちょっとしたものをすぐに発明するような女だった。
喜助のいる流魂街の中心に大きな時計を作ってみたり、井戸の水をくみ上げる機械を作って流魂街の人たちの暮らしを楽にしたりもする。
特に得意なのはぜんまい仕掛けの機械だ。
ぜんまいを組み合わせて、様々なものを作っていた。
当然喜助はその母に育てられたわけだから、物を新しく作るという工程をイヤというほど見ていた。

「いいか?なんか新しいものを作ろうと思ったら、失敗を楽しむことだ。
失敗して嘆いてたんじゃ何も作れねえぜ?
いいか?楽しむんだよ失敗を。そして恐れねえことだ。
そうすりゃ、結果はついてくる。」

当然喜助はかなり鍛えられた。
7人がかりで喧嘩を吹っかけられ、3人目をなぎ倒した段階で、人質をとられ、反対に袋叩きにあって家に帰ってきたときのことだ。
「ちくしょう・・人質なんぞとりやがって。あの卑怯者・・」
そう愚痴った喜助に、手当てをしていた義母が言ったセリフはこうだ。

「・・ふざけんな。・・お前の弱さを人のせいにすんじゃねえよ。
お前が弱いから、負けたんだ。それ以外の何物でもねえ。お前は強い。人質をとられようがとられまいが、勝てたはずだ。」

・・かなり厳しい義母だと言えよう。そして必ずこういっていた。

「・・・お前は力があるんだ。それでダメなら・・ここを使うんだよ。ここを。この金髪頭の中身は空っぽか?策がないなら作り出せ。」
そう笑いながら喜助の頭を指差す。

12月、喜助の誕生日が近づいたある日のことだ。
義母が何かを作っている。
「・・なに作ってんの?」
「懐中時計。」
「かいちゅう時計って何?」
「手の中に収まるくらい小さい時計のことさ。お前もうすぐ誕生日だろう。それにあわせて作ってやる。」
「そんなのホントに出来んの?」
「・・・分からん。なんせ部品から作ってるからな~~~。」

・・・かなり力強い答えだった。
それから夜遅くまで何やらやっていたようだが、「ああ~~ダメだこりゃ。」だの「なんで動かねんだ?」だのというひとり言が寝耳に入るくらいだったから、喜助もあまり期待してはいなかった。

・・・そして、12月の29日のことだった。

喜助のいる流魂街がホロウに襲撃された。
何人もの犠牲が出た。
喜助の義母は、ホロウのことを聞くや否や、喜助にこういって飛び出していった。
「あたしは囮になる。お前は家でいろ。いいか、一歩も出るんじゃねえぞ?」
「無茶だよ、義母さん!!死神でもないんだし!!」
「その死神が来るまでの囮なんだよ!そう長くはかからんはずだ!!」

・・・そして。
喜助の義母はそれきり・・・帰らなかった。

自らが作った機械式の道具でホロウをひきつけ時間を稼いでいたものの、死神が到着した時は、既に瀕死の状態だった。
喜助がその死神に呼ばれ、現場に行ったときには、義母はとても見られる状態ではなかった。
「・・・喜助。・・これを。」
そう言って手渡したのは、血だらけになった懐中時計だ。
「・・・一足早いが・・誕生祝だ・・・どうだ・・間に・・合っただ・・ろ・」

・・そうして義母は息を引き取った。他に犠牲者はゼロ。
そしてその中でも懐中時計は奇跡的に無事だった。

・・・確かに正確な時を刻んでいた。


それ以来だ、喜助が死神になることを決意したのは。
実は喜助は義母の跡を継いで、流魂街で発明し、人々の暮らしの役に立つものを作ろう、という夢があった。

しかし義母をホロウに殺されたということが喜助の人生を変えてしまった。


元々喜助は天才肌だ。
霊術院にもすんなり入り、すんなり死神となった。
その在院時にも新しい発明をし、周囲を驚かせることもしばしばだ。

死神になってからは、四楓院家の当主、夜一という、異性ながら良き友も出来た。

ある日のことだ。
現世に派遣されていた喜助が2週間の謹慎処分を受けた。
罪状はプラスを直ぐに魂葬せず、ホロウになるまで放置した罪と、人間一人を惨殺したという罪である。


それを聞いた夜一は、3日後に喜助の部屋を訪れる。
部屋に入ると、喜助がいない。
よく見れば大量の空になった酒瓶に埋もれた喜助を発見した。
「・・・いい格好じゃのう、喜助よ。」
「これはこれは夜一さ~~ん!ようこそいらっしゃいました~~!
ささ、こちらで一緒に呑みましょう~~!!パ~~ッっと!!」
「・・・酔ってもないのに、酔った振りなど見苦しいぞ、喜助。」

言いつつ、夜一は周りの酒瓶を押しのけて座る。
「・・また、今日は奇抜な出で立ちで。」
夜一は昔のガンマンがかぶる様な皮で出来た幅広の帽子を被っていた。
「おお。土産で貰ったのじゃ。どうじゃ。似合うであろう。」
「はは、そうっスね。」

喜助の手には古ぼけた懐中時計が握られていた。
未だに正確なときを刻むそれは、彼の育ての親が作ったものだ。
「・・まだ動いておるようじゃのう。お主の義母の形見は。」
「一応定期的にメンテしてますけどね。」

それから暫く沈黙が流れた。

「何があったのじゃ。現世で。」
喜助は答えない。

「・・ねえ、夜一さん。」
「なんじゃ、喜助。」
「女の人って言うのは、自分の子供でもないガキのために死ねるもんなんスかねえ。」

「知らぬわ。」
夜一はすげも無い。
「夜一さんも一応、女性だったかと思いますが・・。」

「わしは女子じゃが、母の気持ちは分からぬわ。
母の気持ちというものは、母になったものにしか分からぬものじゃ。」

「・・アタシの義母はホントの母親じゃありませんでしたが、立派なアタシの母親でした・・。」
「・・それはお主の育ての親が、おぬしを子と認めていたからじゃ。
確かに女というものは子を育てるという本能を誰しも持っておる。
しかし、その本能は自らが『自分の子』と認め瑠様な存在が無い限りは出ぬものじゃ。

・・・実の子かどうかというのは関係ないのやもしれぬな。
少なくともお主の義母はお主を『自分の子』と思っておった。

程度はどうあれ、母は子の為に少なからずの犠牲を払う。
お主の義母は、その払える犠牲が自らの命まであったということじゃ。」


「生きている時、子供を死なせたことがあるって言ってましたっけ・・。
そのお子さんが好きだったのがゼンマイ仕掛けのオモチャだったって。

・・・アタシはそのお子さんの代わりだったんでしょうねえ」

「・・・そんな事はどうでもよいのじゃ、喜助よ。」
「夜一さん・・。」
「お主の義母はお主を子として愛していた。
お主の為に徹夜してその時計を完成し、お主の為に命を捨てられるくらいにのう。

それ以外に何があるというのじゃ。」
「・・・そうっスね・・。」
「そしてそんな義母に育てられたことを誇りに思えばよい。
いいか。喜助。過ぎたことで自分を責めるのはよせ。

お主の義母は死んだのは天命だったのじゃ。
義母の死を死を否定することは、義母の尊厳を否定することでもあるのじゃぞ?」

「・・・強いっスねえ。女の人ってのは。」

「それは当然じゃ。どんなに強い男でも、所詮は女の腹を借りねば出て来れぬからのう。
女が強いのは当然の事じゃ。

・・喜助よ。」
「・・なんです?」
「いろいろ溜めておるようじゃが、この際いっそ皆出してしまえ。
男は溜めると体によくないということじゃからのう。」

「は・・言ってくれますね。」
そして夜一は被っていた帽子を喜助の頭に被せてこういった。
「それはお主にくれてやる。
それならば・・・誰にも顔を見られまい?

ではな。喜助。いいか?今日中に『出して』おくのじゃぞ?」

そう言い置いて出て言ってった。

「全く夜一さんは・・。敵いませんねえ。」
そして喜助は頭に載せられていた幅広帽子を顔のほうにずらす。

「・・・帽子っていうのも・・結構いいもんスねえ。」


顔に帽子をのせたまま・・・喜助はじっと動かなかった。



そして朝が来る。
朝を迎えた喜助は何時もの飄々とした喜助に戻っていた。



・・・現世でのことだ。

喜助は、一つのプラスの女と出会っていた。
夫の連れ子である3歳くらいの女の子の為にと自ら縫った一枚の着物に憑いていた。
流行り病で死んでしまった今も、その子への愛情の為に現世に残ってしまったというプラスだった。
自分の実の子同様の愛情を注ぐプラスを喜助は魂葬できなかった。
もう少しなら、と思って放っておいたのが仇となった。

後妻が来たのだ。
後妻は死んだ先妻のことをひどく気にして、女の子が大事にしていたあの着物に火をつけた。
着物についた火を消そうとして火傷をしている子供の姿を見たプラスが、怒りのあまりにホロウとなってしまったのだ。
喜助はホロウを斬った。

そして・・・


返す刀で後妻を斬り捨てていた。


事態を知った仲間の死神が、喜助の元に駆けつけたとき、一切の感情を消した顔で死体の傍に立つ喜助を見て、戦慄を覚えたという。
喜助は一切弁明をしなかった。


謹慎が解けて復帰した喜助は何時もの喜助だった。
しかし現世で何が起こったのか、ついに一言も漏らさなかった。




なんちゃって。




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