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パラリンピックを見ていてある同級生のことを思い出した。
彼とは中学、高校が同じ学校だった。30年近く前、大学に入ってすぐに彼は交通事故に遭った。学費の足しにと自転車で新聞配達をしている最中の、トラックとの衝突事故だった。
彼は幸い一命をとりとめたが脳に損傷を受け、20歳を前に寝たきりになった。意識はかろうじてあった。けれど起き上がることも言葉を交わすこともできなかった。お見舞いに行った時彼はじっと私たちの顔を見て泣いた。「泣くのが唯一の感情表現なの。きっとあなたたちのことが分かったのね」とお母さんが話してくれた。
彼は20年近く寝たきりのままで一生を終えた。亡くなったという連絡を受けた時、「息子を残しては逝けない」と話しておられたご両親のことを思い、切なかった。
人間の能力とはなんて儚いものだろう、と思う。たった一つの事故や病気で一瞬にして奪われてしまうものなのだ、と。歩いたり、座ったり、話したり、食べたり・・・そういうごく普通の能力を、自分がずっと持ち続けることのできる能力だと思い込んでいたけれど、本当は一時的に私に預けられているだけで、何かあれば一瞬にして失ってしまうものなのかもしれない。
失った能力への思いを断ち切り、自分に残された、今ある能力の全てを結集して闘うパラリンピックの選手たちの姿が美しかった。大切なのはどんな能力があるのか、どんな能力が無いのかということではなくて、今自分にある能力を精一杯使って生きることなんだと思った。