「007 スペクター」21世紀のボンドにスペクター
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BLUE ODYSSEY
アンドロイド愛梨 act.1~7
【アンドロイド愛梨】目次
目次の下の方に【 アンドロイド愛梨 】 第1話 があります。
○【 アンドロイド愛梨 】 第1話 act.1
○【 アンドロイド愛梨 第2話 】 通算act.16 まずは前作のおさらいから。
○【 第3話 いなくなった愛梨 】 通算act.76 いなくなったミータン
○【 第4話 愛梨のチョコレート 】 通算act.114 バレンタインデー
○【 第5話 アンドロイドの恋 】 通算act.141 愛梨君、機嫌が良い
○【 第6話 ネット上の女の子 】 通算act.166 ネット上の恋愛小説
【アンドロイド愛梨】 第1話
アンドロイド愛梨 [act.1]
時は……、今よりロボット工学が発達した少し未来。
「(最近何もかも上手く行かない。仕事はどん詰まり状態だし。同じ事の繰り返しばかりだ。)」
俺は卓巳(タクミ)。年齢28歳。
しがないWEBデザイナー。WEB関係のデザイン全般をこなす。
しかし、最近スランプ気味。
それに仕事単価は下がる一方。面白みのある仕事が来る事もまず無い。
「くそう!」
それでも頑張るしかない。
俺はこの住宅の一軒家に住んでいた。一応”俺の家”。だがローンがまだかなり残っている…。
ローンを払うために頑張ろうと思うのだが……、スランプ状態の身には何も新しい発想が思い浮かばない。
「くそう!」
それで飼っている兎の所へ行く。名前は”ミータン”。メスだ。
彼女は今の所唯一俺を癒してくれる存在。
サンルームの中の日影になる部分にカゴを置いて、その中で飼っていた。灰色の毛並みがぬいぐるみみたいだ。ミータンは猫のように大きな体をしていた。
確かミータンを最初にペットショップに見に行った時、
兎はイメージではピョンピョン跳ねる元気な感じがあったが……、実際飼って見るとそれほど元気そうに見えない。普段はもっさりしている。
買う時に”兎”にするか”猫”にするかずいぶん迷ったものだが……、やはり猫の方が良かった。
あちらの方が見た目には元気だ。それにリアクションが多い。
兎は少し変化に乏しい。
元気をもらいたくてペットを飼うのだから、やはりもう少し表情豊かな方が良かった。
しかし、今はもうミータンがかわいくて仕方ないので、そんな事はどうでもいい。
買い替える事も考えていない。
俺の家の隣には、黒ブチのメガネをかけた歳食った男が住んでいた。
どうも彼は1人切りでいつもいるようだ。
彼はサラリーマンのように時々背広を着て外出するが仕事はあまりしていないようだ。
いや、おそらく全然していないだろう。サラリーマン風に見せかけているだけである。
彼は家の中にいつもいる。
映画のDVDが好きなようで、毎日飽きもせずに観ているらしい。
前に少しお互いの家のフェンス越しに話をした事があったが、彼は何かにつけて”マニア思考”なようだ。
彼は見た感じ俺よりも元気だ。そりゃそうだ。
彼は実質何もしていないから。疲れる事が無いのである。
だが、本人は自分はコラムニストだとか、社会の動向を常に把握してるだの、芸術家だの、思想家だの、自分の事をいろんな風に呼んでいた。
彼の名字は”土(つち)”と言う。
俺は自宅に付いているサンルームで仕事をする事が多い。
カーテンもクーラーもサンシェードも取り付けてあるから、中は温室みたいに熱くはならないし、いつも快適だ。正面の道路側には背の高い木が植えてあり、人目からは遮断されている。
しかし、左側には問題がある。ここの机に座ると……、隣の”土”の家のサンルームが見えるのだ。
彼は”金”は持っているようで、そのサンルームは一際豪華だった。
俺の所の2倍は広いし、ステレオと大型スピーカーは置いてあるし、豪華なソファーも設置してあった。
そしてそのサンルームはまるで見せびらかすように、俺の家の方に向かって建てられていた。
俺が仕事をしていると、外から呼ぶ声がした。
土 「やあ卓巳君!仕事の方はどう?」
彼はたまに自宅のサンルームの開放部分を開けて、大きな声で俺を呼ぶのだ。
でも、彼は”友人”では無い。ただの”隣人”。
こっちもサンルームの開閉できる”窓”部分を開ける。
見ると…、土の横にはこれまで見た事もない綺麗な女性が立っていた。
身長も高く、すらりとしたプロポーション。顔は下を向いているのではっきりわからないが美人。
今まで彼は1人暮らしだとばかり思っていたが……。
あの美人はいったい誰なんだろう。知り合いだろうか?
でも、彼女の服装は…、なんだかアニメのキャラかキャンペーンガールみたいな感じだった。
ちょっとファンションセンスの方は……。
土 「くくくく……。」
彼のニタ付くような笑い方。下品だ。
彼はイヤミを言うのが大好きなタイプの人間だった。
どこで知り合ったか知らないが、その女性を俺に自慢したいのだろう。
確かに今の俺には「妻無し、彼女無し、女友達無し」の状態が続いていた。それは彼も知っている。
土 「仕事頑張ってる?」
「(なにが言いたいんだ?コイツは?)」
俺は適当に返答する。
「頑張ってるよ!忙しい。」
土 「くくくく……。」
また笑う。
コイツは絶対に女にモテるタイプでは無い。同性にさえ好かれない。
その彼は、今日はいかにも隣の女性について聞いて欲しそうにしている。
しかし、聞くのはシャクだ。
それにこの男の会話はいったん喋り始めると、長ったらしいだけで聞くに堪えない内容だ。
だが、まあいいだろう。聞いてみよう。隣の女性の事が気になるので。
「その隣の方は誰ですか?」
いつもは土にこんな丁寧な喋り方はしないが…、今日は女性がいる手前、仕方ない。
土 「くくくく……。」
そうら、始まった。彼は満足気に笑う。
土 「”ロボット”さ……。」
「ロッ、ロボット!」
驚いた!これがロボット!人間と見間違えてしまった。
最近のロボットって人間とまったく見分けがつかないのか?!
「それがロボットだって?いったいどうしたんだ?買ったのか?」
土 「そう。2300万ぐらいでね。」
「2300万だって!!」
俺は驚いた。ロボットは高額だとは聞いていたが……。
それにしてもロボットにそんな大金をかけられるなんて…。
確かに土はたぶん自分で働いた金じゃ無いから、そんな物に大金が払えるのだろうが。
土 「うらやましい?」
くおーーーーーー!
コイツはあああーーー!
また腹の立つ事言いやがってーーー!!
男なら誰でもそれが羨ましいと思っているのか!
だいたいこの男の女性趣味はついていけない!
このロボット、よく見るとセンスが変だ。
最近のロボットは自分好みに外観をセレクトしてから購入出来るのだ。
彼の好みを具体化した姿……、そんな暑苦しい女を見せられても羨ましくもなんとない。
土 「羨ましいなら、君も買えばいいんだよ!」
くそーーーーーー!
コイツはーーーーー!!
誰が”羨ましい”と言った!言ってない!
それに今の俺が余裕の無い生活をしているのを知った上でそう言っているのか。
ちきしょう!
俺の好みのタイプは「清純でおしとやかで優しい感じのする女性」だ!
決して、そんな悪趣味でベタベタのキャンギャルもどきはいらねえんだよ。
土 「まあ、”彼女”に興味があるなら、このサンルームを時々覗いていいよ。
彼女とはこれからここで過ごす時間が多くなりそうだ。
あーーー、見られても、俺、全然平気だから。訴えたりしないよ。」
かーーーーーーーーーーーーー!!コイツはあああ!!!
俺は「じゃあ、またな!」とだけ言って、さっさと自分の仕事に戻った。
アンドロイド愛梨 [act.2]
それからというもの……、サンルームで仕事をしていると、その視界の隅に土とロボットの姿が見えた。ロボットは今日は綺麗に着飾っていた。おそらく、本物の女性用の服を買って来て着せたのだろう。
「(がーーーーーーーん!
市販の服を着るとまるっきり、人間の女性ジャン?!)」
女性ロボット「ご主人様、お茶が入りました。」
「(”ご主人様”だとお?)」
土 「うむ、ごくろう!うしししし!」
土と一瞬目が合った。すると彼は
土 「あ、”子猫ちゃん”、肩がこった。」
と言った。
女性ロボット「では肩をお揉みいたします。」
女性ロボットは優しく包み込むように土の肩を揉み始めた。
あのガキャーーーーー!
わざと俺に”見せ付ける”為にあんな事をおおおお……。
それになにが、”子猫ちゃん”だ!!
そんな呼び方止めろ!
彼はマッサージチェアーに座るがごとく、幸福そうな表情を浮かべ始めた。
土 「うむ、良い気持ちだ。うしししし!」
俺はカーテンを引いて、視界からその”うっとおしい物”を消し去った。
それからというもの毎日その舞台喜劇を”見せ付け”られた。
女性ロボット「ご主人様、お食事が出来ました。」
土 「うむ、ご苦労。では食べさせてくれ。」
女性ロボット「はい、わかりました。あ~~~~~ん。」
と言ってその女性ロボットは箸でご飯をつまんだ。そして土の口元へと運んだ。
土 「パク!うむ、おいしい。うしししし!」
またもや…、
俺はカーテンを引いた。
バシャーーーン!
土 「足がむくんでしまった。揉んでくれ。」
女性ロボット「はいわかりました。お揉みいたします!」
土 「あーーー、そうv その辺!」
バシャーーーン!
土 「テレビが観たくなった。何か面白いのを選んで点けてくれ。かわいい女性アイドルの出ていいるヤツを。」
女性ロボット「はい、わかりました。」
バシャーーーン!
ここここここ……、このヤロウ!
ふざけるのもたいがいにしろよーーー!
わざとやりやがってぇーーーー!!
俺は兎の”ミータン”の所へ行った。
こっちにだってなあ、かわいい”彼女”ぐらいいるんだぜ。
すると、ミータンはカゴの中で倒れていた。
「はっ?!ミータン?!」
もうすでに虫の息だった。急いで動物病院に連れて行ったが……、着いた頃には亡くなっていた。
「……………………。」
ミータンを飼い始めて6ヶ月。
こんな事になるなんて……。
死んだ原因はよくわからないが、ホントに悲しかった。
その夜、お線香を立てて、その横で仕事した。
寂しい……。
アンドロイド愛梨 [act.3]
次の日、俺は決心した。ロボットを買おうと。
カタログを取りにロボットディーラーに向かった。
今まで、そんな物を買おうという関心が無かった。ロボットはテレビでしか見た事が無かった。
……と思っていたが、ネットで調べてみると……、大型ショッピングセンターなどで接客していた女性や男性店員。今までてっきり”人間”だと思っていたが、その中にロボットが混じっている事がわかった。いままであまり気が付かなかったが。
とにかくいろんな製品が出ていた。
ネットでさらに調べてみると、実にいろんなバリエーションが発売されており、多岐におよんでいた。
家庭用ロボット、工業用ロボット、教育機関関係のロボット……。
またロボットは家事も出来れば、パソコンで簡単な仕事もこなせた。
食事を作る事や、洗濯、掃除、買い物、会話、なんでも出来た。
もちろん肩揉みに、足揉みや、食事を食べさてくれる事も出来た。
ようするに人間に近い。
それでいて、そのロボットの性格は従順。
いや、好みによって設定を変えれば、「反抗的、お喋りな性格、おとなしい性格」等好みのままに変えられた。
また会話する事もかなり上手だった。
情報はネットからひらって、自分で蓄えた。
だが……、やはり人間とは違う。真の意味で会話しているとは言いがたい。
プログラムが、人間からの質問に答えを返しているだけである。
ロボットの販売価格は新品の物で1体1600万から3000万前後。
ただし2000万以下の物は通常廉価版である事が多い。
また、会話や仕草、表情のバリエーションの少ない物はかなり安い。
つまり高額な金額は「外見を人間にそっくりに見せる為」に使われていた。
多くの大手の会社がロボットを開発・販売していた。
その多くは量産品で、お客を満足させる為に最大限の注意を払って開発されていた。
ネットで検索して調べた結果、ロボット開発に意欲的な比較的小さな会社を見つけた。
その会社、珍しく開発に”真剣”だった。
それは「安っぽい物を消費者に言葉巧みに売りつけてお金を儲けようとする会社」とは明らかに違っていた。
そこには新しい物を大金を投じて開発しようとしている意気込みすら感じられた。
だから、俺はまっさきにそのメーカーのロボットを販売してるディーラーを訪ねた。
『ロボットディーラー』は自動車のディーラーと同じく、一階部分はガラズ張りで大変広く、ロビーのような雰囲気だった。
その中に接客用テーブルがいくつかまばらに散らばっており、見本のロボットが何台か立っていた。それらはマネキンのように突っ立ったままである。動いてはいない。
応対に出て来てくれたそのショップの女性に、テーブル席に座る事を勧められた。
「あのぉ……、カタログをもらいに来ただけなんですが。」
女性「ええ、でもお席の方へどうぞ。お飲み物は何になさいますか?」
「いえ、けっこうです。」
女性「サービスですからご遠慮なく。」
「ええと、じゃあオレンジジュース。」
女性「はい、わかりました。お席の方で少々お待ちください。」
そしてその美人の女性は、しばらくすると飲み物を持って再び現れた。
よく見るとその女性、胸に自己紹介の名刺を付けている。
名前と顔写真が貼ってあるのだが……。
そこに小さく『接客用ロボット』と書かれてあった。
「(こっ、これがロボット?時代も進んだもんだなあ。)」
アンドロイド愛梨 [act.4]
しばらくすると誠実そうな営業マンが出て来た。
男性でメガネをかけていた。
なんとなくベタベタの営業マンが出てくると思ったのだが、どちらかというと彼は開発者風である。
ちょっと、安心した。
営業マン「どのようなタイプをお探しですか?」
どのようなタイプと言われても……。
「あのう、ロボットを買うのは初めてなのですが。」
営業マン「ではどのような使用目的でお買い求めですか?」
実は「土を見返してやりたくて」とはまさか言えない。恥ずかしくて。
「その、まあ、話相手と言いましょうか、アシスタント的な仕事を家庭内でしてもらうと言いましょうか……。」
俺は説明がどうもシドロモドロになった。
ふと目線を移すと、他のお客さん達は自分よりもっとクールに、もっと綿密に営業マンと話をしていた。値引きに関して営業マン顔負けのトークで話すお客さんもいた。
自分はどうやら勉強不足のようである。
「家事や会話が出来ればいいんです。そう、寂しさを紛らわせてくれるような。
それに”元気な”方がいい。見かけが元気な事が大事です。」
やはり”兎”より”猫”である。
「会話が出来て、私を楽しませてくれる物がいいです。
それと、何て言いますか……、」
そこで土のあの軽薄そうな、「他人に見せ付けるためだけにロボットを買った」ような態度が思い出された。
「真剣に向きあいたいんですよ。ロボットと。長く使用できる飽きの来ないタイプがいいですね。一度買ったら一生買い換えなくていいような。」
その時、営業マンの目が輝いた。
開発者が興奮するとたぶんこのような目付きになる。今の彼は子供のような澄んだ瞳だった。
「お客さん。それでしたらちょうど良いのがあるんですよ。
ですが、まだ一般販売してないプロトタイプなのですが。」
そう言って、その営業マンはまだパソコンプリンターで印刷されただけの紙資料を見せてきた。
「人間に限りなく近い”アンドロイド”です。”彼女”がいれば決して飽きる事はありません。
人間そっくりの感情を有していますので、いままでのロボットのように”上っ面”だけの付き合いではなくなります。」
「と、言いますと?」
「通常のロボットは感情らしき物はありますが、それは全てプログラムでそのよう見せかけているだけです。
泣いたり、怒ったり、ご機嫌斜めだったり、全てユーザーを飽きさせない為に作られたプログラムです。
でも、使っている内にそれは確かに”プログラム”に過ぎないとわかってくるものです。
テレビゲームと同じです。一度プレイしたRPG等のゲームを何回もすると飽きて来ます。しかし、人間同士でおこなうオンラインゲームはなかなか飽きが来ません。
それと同じ事なのです。
当社の次世代型アンドロイドは”本物”の感情を搭載してあります。
また、1固体1固体ごとに違った個性が存在し、自己をはっきり持っているのです。」
「自己を?」
「はい、アイデンティティーを持っています。自分を自分だとはっきり認識しています。
当社の新型アンドロイドを一度ご使用になれば、今までのロボットなど”おもちゃ”に思えてくる筈です。」
興味深かそうな話だ。俺は「最新機種」「新機能」という言葉に弱い。
それにしても”本物”の感情を持つとは!つまりそれは「人間そのものの存在」だという事?
「まだどこの会社もこの商品開発には成功していません。
当社でもこれはテスト機なのです。その為、内部に各種記録装置が取り付けてあります。
ちょうどモニターになってくれる方の募集を始めようと思っていた所でした。
もしよろしければ、貴方がなられてみませんか?」
「モニターにですか?」
「ええもちろん買っていただかなくてはなりませんが。アンドロイド自体は消耗品ですので。
しかし、お安くしておきます。」
「どのくらいですか?」
「総額3500万の所……、」
「3500万!」
とうてい無理な金額だった。
「モニターをしていただけるという事で1900万で結構です。」
「1900万……。」
それなら「平均2000万から」と言われるロボットの一般価格より安い。
しかし、俺は現金一括決済では無い。
「実は俺はローンでの支払いなんですが……、そんな高額なローンが通りますかね?」
「ローンですか?今回だけは特別にお通ししますよ。
私どもが保証人代わりになりますので。
ただし、”この機種を他に転売したり、使用を止めたりは出来ない”という条件付ですが。
”モニター報告も毎月キチンと提出され、最低5年使っていただける”のなら、ローン金利は今回特別に無料とさせていただきます。」
「金利無料!」
「ただし、先ほどの条件をどうしても満たされなくなった場合は、”そこまでの金利と、モニターとしての値引き分1600万”も合わせてご請求させていただきます。」
「ん~~~~~。好条件ですが、家に帰ってじっくり考えてみてもいいですか?」
「はい、後1日なら。」
「えっ?!1日?」
「明日の会議でモニター募集のための広告費を承認する予定なんです。
今日は偶然お客様がお越しなったので、このお話をさせていただいたのですが……、
明日予算が承認されれば、モニターの一般募集を始めます。
そこで正式にモニターを募集する予定です。
5年も同じ機種を使い続けるのは苦痛になるかも知れないからです。なかなか出来る事ではありません。こちらとしても、必ずお約束を守っていただける方にお譲りしたいのです。」
確かに車などは3年ぐらいで買い換える人が多い。
「できれば10年と使っていただける方を優先しますが、契約自体は5年とします。
それ以後は売られたり、使用を止めてもペナルティーは課せられません。」
そこで、俺はその日早速家に帰ってあれこれ考え始めた。
アンドロイド愛梨 [act.5]
検討する情報が多く、一度に把握しずらかった。
それで次の日の昼頃になってもまだ決められなかった。
土 「卓巳ク~~~~~~ン!」
土から俺を呼ぶ声がした。
カーテンを開ける。
見ると、サンルームに簡易プールを置き、その中にお湯を入れてお風呂に浸かる土の姿があった。
しかも泡風呂……。
その脇には……、
あの女性ロボットが高級なバスローブを着て立っていた。手にはやわらかそうなバスタオルを持っている。そのバスローブの下からすらりと細いサンダル履きの足が見えた。
土 「いやーーーー、いい天気だ。こんな時、サンルームで風呂に入るのもオツな物だよ。
さらに”彼女”に背中を流してもらおうと思ってる。これがまた良いんだ。」
ギラーーーーーーーーーン!
なんだって?!背中を流すだと!
土 「まーーーー、君が仕事してる最中に悪いんだけどね。
あはははは!」
キチャマァーーーー!ワザとかーーーーー!!!
くそーーーーーーー!!
許せん!!!
俺は決めた!
そしてあのディーラーに行って購入契約を結んだ。
あの営業マンは「よろしくお願いします」と言って深々と頭を下げた。
どうやら今回はやはり普通のロボット販売とは違うようだ。
俺のモニターテストの結果いかんで、このタイプの量産をするかどうかが決まるらしい。
もっとも、徐々に他にもテスト機を作ってモニター契約を結ぶらしいが……、それすら俺のモニター結果が良好な場合のみ予算が下りるそうである。
しばらく日にちが経って、俺の家に一台のトラックがやって来た。作業員が大きな荷物を家の中に運び込んだ。
それはかなりデカイ代物で、なんとロボット専用のベッドだった。
完全密閉型のカプセルタイプで、長さ1.7メートルほどもあった。
とにかく重そう。
それを運び込んでもらった。
紙のマニュアルも同時に運び込まれた。厚さ7センチの物が4冊。これだけでも重い。しかもバインダー形式でかさばる。
「簡単な説明の方はCD-ROMの方に入ってますので。」
「はあ?簡単な事だけ?全部CD-ROMの方に入っているんじゃないの?」
「いえ、本機はまだ製品化されてませんので、それはありません。」
やれやれ……。
かくして、重い付属品とともに”彼女”が我が家にやって来た。
よく考えると、どんな人格のタイプにするかは普通ロボットを購入する場合に選べる。
高額な価格の中にはもともとそれが含まれている。
ところが、今回の試作品はそれが無い。価格は全て性能への対価である。
土の所の固体よりも予定販売価格が高いのは、この新機能の為である。
一度、写真などでチラッとその”彼女”の外観は見ていたが…、
まあ、普通の少女っぽかったので、特に気にしなかった。
「くくくく、見ておれ、”土”め。明日は腰を抜かさせてやる!」
俺は喜び勇んで、専用ベッドのカプセルを開けた。
カプセルの中は外からは見えない。窓が無いのだ。開けて初めて”彼女”と対面出来る。
すると、中にはいかにも少女っぽい格好をした”彼女”が寝そべっていた。
髪はツーテール。大きなリボン。ヒラヒラとしたスカート。フリル付き。まるでアニメの少女キャラのような感じだった。
「うわ。どうみても、キャピキャピって感じじゃないか?!」
イメージと違い「落ち着いた」感じはなかった。
外観は「地味な」タイプの方が良かったのだが。
まだ目を開けていないその寝顔は美しかったので一応ホッとした。
写真と違って、何か違和感がある顔ならどうしようと思っていたのだ。
たしかに今回そんな物は二の次の予定だったが、そこそこ綺麗であった方が”土”のヤツが羨ましがる。
そう”土”が……。
それに新機能「アイデンティティー搭載」というのも気に入った。
この機能があるのは今の所自分の機種だけなのだ。
これもマニアな”土”なら羨ましがるかも。
「くくくく………。これが1900万!安い買い物だった!俺はラッキーだ!」
とはいうものの、実際の支払いはチト苦しいが……。
アンドロイド愛梨 [act.6]
では起動。
自宅パソコンのネットを通して、”彼女”を起動させた。
目を開いた。
大きくて、まつ毛がくっきりしていた。
一応かわいい顔立ちである。
目付きは、はっきりした強目の感じ。
俺は「優しい感じ」の方が好みなんだがな。
むくりと”彼女”は上半身を起こした。
素早い動き。若々しい。人間で言えば16歳ぐらいの年齢に設定されている。
そして”彼女”は俺の方を向いた。
彼女 「……。」
「やっ、やあ、俺が君のご主人様だよ。」
彼女 「”ご主人様”?プーーーーーーー!今どきそんな事言う?!」
「え?」
彼女 「”ご主人様”なんて言い方止めましょうよ。ダサくて…。」
「ダサイ?」
”彼女”、なんだかエラそうな口の聞き方である……。
彼女 「おまけにココ、汚~~~~~い!少し掃除してくださいよ!」
「はあ?!掃除は君がするんだよ!君は1900万もしたんだぞ!
それに君が来るっていうんで、これでも一応掃除したんだぞ。まだ汚いとか言う?」
彼女 「汚い。」
こっ、これはいったい……?
彼女 「ねえ、アタシの名前は?」
「名前?あーーーー、名前ね。まだ考えてなかったよ。」
彼女 「えっ?!なにそれ!はあ~~~~。」
”彼女”は「ダメねえ」という顔をした。
いきなり女性…、いや”女性そっくりのアンドロイド”にこういう事を言われると、無意味に男性は焦る。
「そうだ!”ミータン”ってのはどう?俺のかわいがってた兎の名前なんだが。」
彼女 「フーーーーーーーー!
”ミータン”?ミータンですか?!今どきそんなの付ける人、誰もいませんよ!」
”彼女”はグサグサと突き刺さる言葉を平気で吐いた。
「ああ、そうだね。じゃ、人間らしい名前で………、”聖子”なんてどう?」
彼女 「聖子?なにそれ?!
もーーーーー、ダサすぎる!いいかげんに考えてるでしょ?!」
確かにそうだ。少しいいかげん……。
「じゃあ、名前は後で決めるよ。」
すぐには決まらなさそう。
彼女 「そういう事はちゃんと先に決めておいてくださいね!」
「そうだね。」
”彼女”に注意されてしまった……。
アンドロイド愛梨 [act.7]
土 「卓巳ク~~~~~~ン!」
また、デーモンがいずこから俺を呼んだ。
今日の俺はカーテンを開けずに首だけ出した。
なぜか今”彼女”を見せるのはマズイと直感したのだ。
ヤツの前で、もし”彼女”に馬鹿にされでもしたら……。
デーモンのヤツは大型液晶テレビをサンルームに置いて何かの画像を見ていた。
土 「いやーーーー、最近の大型液晶はかなり映りがいい。太陽の下でもはっきり観れるかどうか試しているんだが……、なかなかいいね!」
今日もヤツは豪華すぎるソファーに座っていた。
女性ロボットはその横で足を組み、誇らしげにその脚線美の美しさをアピールしていた。
土は女性ロボットの肩に手を回し、満足気に微笑を浮かべた。
その表情は明らかに俺をバカにしている………。
オ、オ、オ、オノレーーーーー!
どこまで俺を愚弄すれば気が済むんだああーーー!!
俺は、顔を引っ込めた。
見ると”うちの彼女”は勝手にテレビを点けて見始めていた。
「おい!なに勝手に観てるんだよ?!」
しかし”彼女”はテレビのドラマに夢中でご機嫌のよう。
「~~~♪」
無視されてしまった……。
「おい、なにをアンドロイドがテレビなんて観てるんだよ?!」
「~~~♪~~~♪~~~♪」
また無視……。
嘘だろ?おい!
その夜、”彼女”の名前を考える事になった。
候補で上げた名前は彼女によって全て破棄された。
えみ
よしみ
あやの
みや
リボン
とにかく全滅。
彼女 「なんですか、それは?もっと真剣に考えてくださいよ!」
ぐわっ!
真剣だ!
真剣にやってるちゅーーーに!
「ようし、”ぴかちゅう”って名前にしよう!決まりだ!」
彼女 「サイテー!なにが”ぴかちゅう”ですか?!センスないですね!」
言いたい事言いやがってーーーー!!
「じゃあ、”じょーじ・くるーにー”って名だ!
さあ、”じょーじ・くるーにー”!もう俺は寝るから。眠いから。」
彼女 「何が、”じょーじ・くるーにー”っですか?!それが女の子に付ける名前ですかぁ?!!」
「(ちっ、いちいちうるさいなあ。)
じゃあ”くちふうじ”って名はどうだ!」
”彼女”は見下すような目付きをたっぷり俺に送った後……。
カプセルベットの中に入って行った。
バタン!
なんだよ?その態度は!
続きます。
アンドロイド愛梨 [act.8]→[act.15]
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