BLUE ODYSSEY

BLUE ODYSSEY

バレンタインの戦い 


バレンタインの戦い [act.1]





今回のショートショートはブラックユーモアです。
ご注意ください。
フィクションですから登場する団体名等は実際の団体と関係ありません。

それでは本編をお楽しみください。















2月14日…。












『血のバレンタイン法』



2月14日、それは女性が男性にチョコレートを贈る日である。

そして……、その中に毒を混入させ人を殺してもかまわない。

この日だけは殺人が許可される。



本命の男の子に贈られるチョコには当然毒は入っていない。
しかし、それ以外に贈るチョコには必ず毒を盛らなくてはならない。
そしてチョコを贈られた男性は………、
必ずそれを食べなくてはならない。
そう2月14日中に。

それが法律である。



別名、”血のロシアンルーレット”とも呼ばれる。

この日葬儀屋は1年中で一番忙しい。















 男性にとっては恐怖の一日である。

”春日 健”は男子高校生である。
しかし春日はあまり恐怖を感じていなかった。
これまで女性に嫌われるような事は何もしていない。
毒入りチョコを渡される心配はなかった。


朝、彼は家を出た。学校に行くためだ。






 春日には好きな女の子がいた。同じ高校の”林 椎名(しいな)”さん。
彼女とは毎日いっしょに下校していた。登校は時間がバラバラなので別々に行ったが、帰りは待ち合わせて2人いっしょに帰った。
よく話もしていた。

だが……、ただの”友だち”である。いやただのクラスメートと言うべきか。
彼女からチョコをもらうのを期待するのは無理である。
もし仮にもらえたとしても……それは……………………、
……の可能性が高かった。



それに、ここ3週間ほど彼女にはある男が言い寄っていた。
同じ高校の”山下”。
彼は毎日しつこく椎名に言い寄っていた。
椎名は嫌がっているように見えた。

しかし春日は…………、
別に椎名の彼女でもなんでもなかったので、
山下に注意する事は出来なかった。









 いつもと変わらぬ朝。
いや、しかし、
いつもと違い道路脇にはトラックと警察のパトカーが止まっていた。
トラックはホロ付きの軍用トラックである。

それを通り過ぎても、また別のパトカーとトラックが目に付いた。
何台もいる。
春日はまたそこを通り過ぎた。

春日「今日はバレンタインデーか………。」

春日は昨日遺言を書いておけばよかったと思った。
もし……、誰かにチョコを渡されて……、その中に万が一毒が入っていたら……。

春日はブルッと震えた。

春日「でも………、よく考えてみると……………………、渡される事はないな………」






 目の前に2人の男女の学生がいた。
高校生のようである。

仲の良さそうな2人。それは絵になっていた。
女の子は学生鞄からハート型の箱を取り出し、それを男子学生に渡した。
男子学生はさわやかな笑顔でそれを受け取る。

春日「(ああ、いいな、あの2人。ああいう感じで”安全な”チョコをもらいたいな」

男子学生は頬を赤めながら包みを開いた。
どうやらおいしそうな手作りのチョコレートのようだ。
男子学生は心から喜んで、何度も女の子にペコペコ頭を下げた。
女の子も恥ずかしそうに頬を赤らめた。女の子の方はモジモジしている。

「食べて……」

純真そうな笑顔だ。

男子学生はチョコを口に運んだ。

パクッ!

男子学生「おいしーーーーーーーーー!!」

女子学生「……………………。」

しかし、









男子学生「ぐは!うっうううううううーーー!!
うわああああああああああああ!!!!!!」








男子学生は突然口から泡を吹いて倒れた。





そして……………、





動かなくなった。





バタン!バタン!

路肩に止めてあったパトカーからすぐに警察官が降りてきた。
そして女の子になにやら質問している。
これは確認の為の事情聴取。
女の子はこの後すぐに開放される。
なにせ今日は殺人が許される日。
死亡者の身元確認や『血のバレンタイン法』で殺されたものか確認しているのである。

警官達はそれが済むと、今度は現場の写真を撮り、遺体をタンカでトラックに乗せた。








バレンタインの戦い [act.2]


 そして春日は学内の下駄箱までやって来た。

その下駄箱の目立たぬ所で、椎名が山下にチョコを渡そうとしている現場を偶然目撃してしまう。

春日「(いつも山下に言い寄られている椎名……。
表面上は迷惑しているようだった。
それなのに……………、
あいつをこんな所に呼び出して、自分からチョコを渡すのかよ?!!!)」

春日は怒った。嫉妬からだった。

春日「(なんだよ?!
普段は、


”彼、何度も断ってるのにしつこい!!”とか!!

”絶対嫌!”


とか言ってた癖に!!!)」





椎名「はい、チョコレート!手作り!これ全部で10300円もかかったのよ。」






春日「( 10300円だと?!!! )」






山下「へぇーーーーーーーーーー!!!
そうかあ!悪いなあーーーーーーーー!!」

椎名は山下にチョコを渡した。山下は遠慮なくその箱を受け取った。
自信満々といった感じ。

山下「ありがとう!君の気持ち大事にするよ!!」

椎名「じゃ、それ食べてね☆」





春日「(なんだよーーーーーーーーーーーーー!!!
椎名のヤツ!!!
結局、山下に”落とされた”のかよーーーーーーー?!!

いつの間にーー?!!!)」

椎名がその場を去ろうとしたので、春日も彼女に見つかる前に慌ててその場を立ち去った。












…………そして放課後。

教室の中で、鞄に教科書を詰めて下校準備をするピンピンした山下の姿があった。

山下「♪~~~~~~~♪」

春日「(……………………。

くそーーーーーーーーー!!)」







 しかたなく春日は1人で家に帰ろうとした。
いつもなら椎名といっしょなのだが…………。

春日「今日からは彼女を誘う事もないだろう……」

春日は、彼女と待ち合わせて下校した日々を思い出した。

春日「(当たり前のように思っていたが……、
今から思えば……、
あれって、”幸せ”だったんだ……。)」



しかし帰り際、椎名の方から春日に近づいてきた。
いっしょに帰ろうと言うのである。

言われるままに春日は2人で帰る事にした。
校門を出て、いつものように歩いた。
なぜか今日の椎名は一言も喋らなかった。春日も喋りかけなかった。

公園の所まで来た。
ここからは2人の家の方向が違う。いつもここで別れた。







 でも………、今日の椎名はそこで立ち止まっていた。
そして学生鞄の中からチョコレートらしき箱を取り出した。


近くにパトカーが止まっていたのに春日は気付いた。
その中の警官が一瞬自分の方を見たような気がした。







バレンタインの戦い [act.3]


「食べて」と椎名は言った。





春日「ああ、でも……………………、後で食べるよ。」

椎名「どうして?今食べてよ。はい、バレンタインデーのチョコ☆」

春日「……………………。」

春日はまだ死ぬ覚悟は出来ていない。
あわよくば……………、法を犯してでも、このチョコを口に含みたく無かった。

だが現代はシビアだ。
たとえチョコを食べなくても、結局女の子が警察に通報すれば、
『チョコを食しなかった罪』で警察に追われる事になるのだ。

椎名「あれーーーーーーーー?!
なに?食べないの?
私を信じてないのーーーーーーー?心外だなぁーーーーー!!」

そう言って椎名は笑った。

その笑顔には嘘が無いように見える。かわいくて純真な笑顔だ。
しかし…………。
今朝見かけたあの2人の学生カップル。その時の女子学生もこんな純真な笑顔を向けていた。

ブルブルブル……………………。

椎名「なんなのそれは?食べなさいよ!」

とにかく春日はそのチョコレートが入っている箱を開けた。

すると………、

小さな、少し不恰好な形のチョコが入っていた。
手作りではあるが……………………、
なんとなく”おなざり”に作ったような気もする。
それに山下に渡したチョコに比べて、明らかに箱が一回り小さい。

春日「……………………これ、いくらぐらいかかったの?」

椎名「えーーーーーーーーーーーーーー?!
なにその言い方?!!」

春日「いや、実にいい感じに出来ているからさ。凄くお金がかかったのかと思って!」

椎名「へっへぇーーーーーーー!!
たったの380円ですよ!☆
うまいでしょ!その金額でこれだけのもの作れるなんて!!」






















春日「( たったの380円?!






















安すぎないか?






















それに、確か山下に渡したチョコは…………………… 10300円!!!



てっ事は、これは……………………。)」



椎名「ねっ、ねっ、食べて!」

春日「……………………。」

椎名「ねっ?どうしたの?食べなさいよ!」

春日「(椎名とはタダの”友だち”。
いや、ただのクラスメート……。
…………チョコをもらうほどの仲ではなかった筈だ!)」


ブルブルブル……………………。


椎名「なにそれ!”アタシから”だったら受け取れないって言うの?!」

春日「いや、そんな……………………」

椎名「じゃあ、食べなさいよ!!!!!今すぐ!!」

春日「今すぐ……………………?」

椎名「……………………。」

春日「(山下の時は”今すぐ”なんて言わなかった筈だ…………。)」

春日は意を決した。

春日「(どうせ、この場で食べずに明日学校へ登校しても………、椎名は俺の事を警察に通報するだろう。
そうなりゃ、一生追われる身だ。






ここは…………諦めて…………。
















……でも、遺言状書くの忘れたんだよな。
それだけが心残りだ。






けど考えてみりゃ、自分の好きな女の子に殺されるなら本望だな。そう考えなくっちゃ。

何せ、他の知らない女の子からチョコを受け取っても、食べなくちゃならないからな。
それが法律………。)」

椎名「食べた方がいいよ。
1人の女の子からチョコを受け取れば、後からもらったチョコは断れるんだよ。
後からのは食べなくていいようになるんだよ☆
それが法律☆」

春日の心の中を見透かしたような椎名の発言……………………。

春日「(ギクッ!どうして今俺の考えている事がわかったんだ?!!)」




椎名「どうしたの?食べなさいよ!!!!」




春日「わかった」




そう答えると椎名は微笑んだ。いつ見てもかわいい笑顔だ。

チョコをつかんだ。

手がガタガタと震えている。震えは止まらない。

春日「(手がこんなに大きく震えているのに………、椎名は何も言ってくれない。)」

ガタガタガタ……………。

春日「(これはもう覚悟を決めなくてはならないな。
今日が俺の最後の日だったなんて…………。

やはり、昨日テレビに夢中にならなきゃよかった。
遺言状を書いておくんだった。)」



椎名「はやく!食・べ・て!!!!!」



いよいよ彼女が怒った!







春日「(さよなら。俺、君の事が………………、好きだった。)」






パクッ!






食べた。






むしゃむしゃ。






あまり甘くないチョコだ。






サクサクしている。






お味は……………………、






どーーーーてこと無いような味だった。






ゴクッ。






すぐに食べ切れた。あまりにもあっけなく。






涙が出てきた。






その時、突然膝の力が抜けた!






ガクッ!






春日「(うわ!)」






春日は立てなくなり、地面に膝を着いた。その拍子に両手も着いてしまった。





でも……………………、
彼女は離れた所に立っているだけだった。
こっちには来ない……………………。





春日「(助けてくれないのか?ショボン)」





春日「(THE ENDか……………………。)」































しかし、

しばらくすると彼女は寄っ来て春日の肩をかついだ。

椎名「どうしたの?いったい?」

春日「どうしたって?!!足の力が抜けたんだよ!!
もう立てない!!!」

椎名「どうして??」

春日「どうしてって、君の………」



バタン!バタン!



パトカーのドアが開いた。








椎名「 立って!ほら!警官が来ちゃうじゃない!!







彼女にそう急き立てられると……













立てた。












しかしまだ足はガクガクと震えている。

椎名「飽きれた!腰が抜けたんじゃない?!!!
しっかりしてよ!こんな日に!

もーーーーーーーーーーーーーーーーー!!ムードぶち壊し!」

春日「…………だって、ほら、
山下には10300円のチョコ贈ったじゃないか!
俺のはたったの380円!!!

てっきり毒が入って……………………」

椎名「毒?

あーーーーーーーーー!

山下君のは、香典含んでるのよ。だってお葬式には出たく無いジャン!


300円のチョコと10000円。」








THE END








まあ、ブラックユーモアですよ。深い意味はありません。

あっ、そこ!石を投げないでくださーーいw


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