BLUE ODYSSEY

BLUE ODYSSEY

オイラは不良品













オイラはロボット。

オイラはある工場の生産ラインで目を覚ました。
これが自我の始まりだった。
この瞬間からオイラには物心が付いた。

気が付くと、周りには同じようなロボットたちが何体もベルトコンベアで運ばれていくところだった。

オイラはちょっと以前までは“頭”だけが完成していた。そして仮の体(ボディー)の上に乗せられていた。だが、今ではオイラの体にはちゃんとオイラ用の手足が付けられている。
洋服も着せられ、見栄えも良くなった。靴下まで履かされた。靴もあった。



ああ、もうすぐロールアウト…。
これで工場から出られる。
そして“良い家庭”にもらわれていくんだ。オイラはそこの家族とともに幸せに暮らす。
これはオイラが今まで夢見てきた事。
思い出すなあ。
オイラがまだ頭だけが完成して仮のボディーを付たまま「教室」で授業を受けていた時の事を。
そこの”先生”はこの工場の人だった。教室も工場内にあった。
ここでオイラはいろんな事を学んだ。

そこで考えたのは“良い家族”、オイラを必要とする家族にもらわれる事だ。
そうすればオイラは幸せになる。でもって、そこの家族にも幸せを与えてあげられる。
オイラはそうするために生まれた家庭用ロボット。
先生もそう教えてくれた。

やがてもう後5メートルでベルトコンベアが終わるという所まで運ばれて来た。
先に行ったヤツラはもうベルトコンベアから降ろされている。
さあ、今度はオイラの番だ。だが、少し先の方、目の前にコンベアのルートが2つに分岐する地点がある。
ここは最終チェックの場所だ。もっともこのドタンバに来てはねられるヤツなどめったにいないが。
そんなワケで、ここを越えれば終わり。
後は発送用の箱に詰められるだけ。
もう先にロールアウトした仲間がおばちゃんの押すカートに乗せられて梱包作業用の部屋へと運ばれて行く。
皆表情はにこやかだ。これでやっと店頭に出られるから。
それはオイラたちにとって新しい人生の出発点だった。


と……、
どうした事か?なんとオイラはその分岐地点で“はねられ”てしまった。
ああ、どうしたんだいったい?これは夢だろう?
悲しいかな、オイラはたった1台だけ別の方向へ行かされた。
そのコンベアの先には部屋があり、『不良品ライン』と書かれたプレートがはってあった。



それからのオイラは……………。
気むずかしそうな現場主任が飛んで来て、なにやらリストの用紙をせわしくめくり始めた。
そして、「ああ、困った!」だの、「しまった、忘れていた!」だの何度もこぼしていた。
そのうち工場長がここへやって来て、「ロールアウトして他の製品に混じらなかっただけでも不幸中の幸いだ。そんな事になれば、店頭に並んだ同じロットの製品全てを自主回収しなくてはならなくなる!」と、のたまった。

それから工場長はオイラの目の前にやって来て、
「処理に困る。」だのと、さんざん言った………。




オイラはいったいどうなるんだろう?






オイラは不良品 [act.2] 



しばらく経ってから、オイラは『ジャンク品』として売りに出される事が決まった。
ほかの同じ時期にロールアウトした仲間は全て”メーカー指定のディーラーのショーウインドウ”に並べられたと言うのに。
あそこはきらびやかでいい。お金のかかったディーラーの建物。その中で接客用の“とてもなくムダに広いフロア”でいろんなお客さんに品定めされ………。
上品そうな家族がやって来て「ああだ。こうだ。」と会話を弾ませながら、これから長く使う事になる1台を選び出すんだろうな。
それがオイラたちが待ち望む瞬間。
ああ、良い家庭にもらわれたい。
オイラもそれに憧れていたのに……。






それでオイラときたら、数日後に電気屋街の裏手の方に建つ小さなお店に搬入された。
この店は見るからにみすぼらしい。
そこは小さな雑居ビルの2階にあった。店内の蛍光灯が暗い。棚は全て安っぽい組み立て式だった。棚にしかれたベニヤ板がまた泣ける。

店内には他にジャンクのパソコンやロボットたちがいっぱい置かれていた。
そして、この店にはショーケースなんてない。
なんとオイラはむき出しの状態で並べられた。
結構店内は埃っぽい雰囲気。
ふと、隣を見ると、そこにはもう1年ほど売れ残っていると思われる旧式のゴツいロボットが立っていた。肩にはうっすらと埃が積もっている。

それからオイラの肩にガムテープでベトッと値札がはられた。



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『ジャンク品につき、
市場価格300万円のところ→230万円!

状態:新品。バルク品。
メーカー保証はなし。』




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大きな文字で書かれた物はなんとか読めた。
そしてその下に小さいな字で”ジャンクの理由”が書かれているようだった。
それを見たいのだが、見えない。
なにせオイラは主電源が切られている。
内蔵電池により思考だけは行えるんだけど、手足を含む体は動かない。

「(くそう!手と頭さえ動けば、その紙に書かれているジャンク理由が読めるのに!)」

そう言えば、オイラはどうしてジャンクになったんだろう?
理由は聞いてなかった。



それにしてもこの店のお客さんは“濃いヤツラ”ばかりだ。
オイラの事をジロジロと見ていくヤツがいる。
時代遅れのデザインのメガネをかけ、なにかポスターのような巻いている紙をいくつも入れた手さげバッグを持ち、いかにも挙動不審な男。よく見るとその手さげバッグの側面にはアニメの女の子の絵が印刷されていた………。

また別のお客さんは筋肉モリモリの体付きだった。素肌に革ジャンを着て、開いているジッパーからは厚い胸板がのぞいていた。
そしていたる所に派手なシルバーメッキのアクセサリーをつけていた。
お尻のポケットには長い札入れが半分むき出し状態で入っており、反対のポケットからはストラップがジャラジャラと植物の葉のように垂れ下がっていた。
目にはサングラス。耳にはピアス………。

ソイツもオイラの事を上から下までなめるように見ていた。

「(ぞぞぞ…………。)」






オイラは不良品 [act.3] 


それにここの店長がまたなんと言うかオタクっぽい雰囲気を持つ男だった。髪の毛はボサボサで不潔。その店長がオイラの耳元でこんな言葉をささやいた。

「けへへへ。また不幸なロボットが1台来やがったぜ。
せいぜいサディスティックなご主人様にかわいがってもらうんだな。」

「(ガーン!)」

「最近そういうヤツが増えてるからな。
酷いのになると”うっぷん晴らしのためだけに”にロボットを買って行くヤツもいるんだ。
そんなのに当たれば、すぐにスクラップ行きさ!
そういうヤツは次々に新しいロボットを買い換えるからな。そして次々に破壊する。
ロボットを破壊する事に何のちゅうちょもないんだ。あっははは!
まあ、お前もぜいぜい楽しみな!」

「(そんな。とほほほほほほ………。)」





それからのオイラは……、
誰にもらわれるんだろうとビクビクしなが待っていた。
本当なら誰にもらわれるか、それを考えるのが一番楽しい筈なのに。

するとまたお客さんがやって来た。何かカッターナイフのような目付きの男だ。
それが少し離れた場所からジロジロとオイラの方を見た。殺気のような物さえ感じられる。
のぞき見する様に何度も何度もオイラを見た。決してオイラのすぐそばには来ない。
離れた場所から見てるだけ。
そしてその後、店長の所へ行った。どうやら値段をまけろと言っている。

「お客さん、もう十分安いですよ。」

「でも“ジャンク“だろ?あと少しまけろよ。20万ほど!」

「こっちも商売です。これ以上はまけられません!」

それでそのお客さんは怒って帰って行った。

「ふう。」





そして、閉店時間が近づく。

「(やれやれ今日は生き延びられたな…。
それに直立不動の姿勢はつらいんだよ。早く”起動”させてくれないかなあ。)」

もう店が終わるってんで、店長はテレビをつけた。
店内にお客さんはいない………。いや、足早に1人入って来た。
もう閉店まで時間が無いが、閉まる前にひととおり何か見ていこうとしている感じ。

ちょうどその時、店長がつけたテレビではサディステックな事件のニュースが流れた。
ロボットの不法投棄事件。
山林の道路わきにロボットが不法投棄された。
ロボットは鉄パイプのような物でめちゃくちゃに殴られ、着ている衣服と共にぼろ切れのような状態になっていた。
犯人は捕まった。その顔写真がテレビに出た。
何と言うか、顔は普通のサラリーマン。
にやけた顔。にっこり笑ってはいるが、なぜか少し不気味。
しかし、ともすれば人畜無害そうな感じ。でも、少しヒヨワ。
それでいてロボットを殴り倒して壊すなんて…………。
信じられない!!

アナウンサーが「もともと気晴らしのためにロボットを購入したそうです。」と説明した。

「(ブルブルブル…………。)」





オイラは不良品 [act.4] 


オイラも正規ディーラーに置かれたかった。あそこならここと客層が違う。
この店に来るお客さんはどいつもこいつも何と言うか……。

そんな時、さっきのお客さんがオイラの前に来た。
このお客さんもテレビの中の犯人と似てサラリーマン風w
オイラの事をマジマジと見る。そう、つま先から頭のてっぺんまで。
そしてその後は店長の所へすっ飛んで行った。

いやな予感がする……。

突然、オイラの目の前に紙がはられた。
オイラの視界はそのオレンジ色の紙によって遮られた。
紙を取ろうにも体が動かない。

「(くそ!なんだこの紙は?)」

紙がうっすらとすけて、文字が読めた。そこには『売約』と書かれていた。
よく見えないが、そのサラリーマン風の男は興奮気味にはしゃいでいるようだった。
「安い!安い!」と言う声がオイラの耳に響いた……。







数日後、オイラはその店から運び出され、運送屋のトラックで運ばれた。
トラックの荷台の中は真っ暗だった。
何時間も他の荷物とともに揺られ、オイラの入ったダンボールには隣に積まれたグランドピアノが何度もぶつかってきた。

着いた先はやはりあのサラリーマン風の男性の自宅だった。
住宅街の一軒家。中は清潔そう。
さっそくオイラは家の中に運び込まれた。
そして居間に置かれた。まだ体を動かす事はできない。
早く“起動“してくれ。


すぐに目の前にあのサラリーマンが現れた。
彼とは不釣り合いと思えるような美人の女性を伴って。
その女性は小学生ぐらいの女の子をつれていた。この子も美人だ。この女性の子供と思われる。きれいな顔だった。

「まあ!これが70万円引きのロボットなの?!」

「そうさ!しかも新品!最新型!いいだろう?!」

その女性もやはりオイラのつま先から頭のてっぺんまで見た。そして顔を食い入るようにジロジロと見る。

「かわいいわね。」





オイラは不良品 [act.5] 


「すごいだろ?!掘り出しモンだよ!見つけられたのは運が良い!
ああ、この子の誕生日に間に合って本当に良かった。苦労して探したかいがあったよ。
それにしてもこれが70万円引きだなんて信じられるかい?
今、人気のある最新機種だからね。ディーラーで買ってもせいぜい5万引きを出すのがいいところだ!」

「でも………、どうして70万引きなの?」

「それは”ジャンク”だから………。保証が無いんだよ。」

「まあ!それは困るわ!壊れるんじゃないの?壊れたらどうするの?」

「いや、新品だからまず壊れない。」

「でもジャンクなんでしょう?ジャンクになった理由が何かあるはずだわ!怖いわ。」

「大丈夫さ。」

そう言いながらサラリーマンは手に持っていた小さな薄手のノートパソコンを操作した。
そこにはオイラの“起動”キーが入っており、それを入力するとオイラはしゃべれるようにも動けるようにもなる。
そのキーが入った。

「しゃべってみろ!」

オイラはそう言われた。

「オイラをいじめないでね。」

それを聞いた女性と女の子は目を丸くした。

「まあ!”オイラ”ですって?!
まるっきり“男言葉”だわ。外見はこんなに”かわいい女の子”なのに!」

「それなんだよ。
これを買った店の店長の話だと、どうやら生産工場の”教育”の段階で試験的に1台だけ”男言葉や男性の性格付け”を行ったプログラムを入れたらしい。それを外すのを忘れたまま”教育”して、その後手足を取り付けて完成にいたったらしいんだ。
後でプログラムを入れ直すのは大変だから、そのまま”ジャンク”として売りに出されたんだよ。でも心配ない。故障して暴走なんて事はあり得ないから。」

「でも、この言葉使いは困るわ。このままだと恥ずかしくて人前にも出せない。
それに子供の相手もさせられないわ。」

「大丈夫。言語や性格のプログラムを入れ直すから。なに、パソコンのOSと同じさ。
手間はかかるけど……、きちんとした言葉づかいになるよ。」

「貴方はいつも”自分でやる”なんて言いながら、なかなかしてくれないんですもの。仕事が忙しくて!本当に子供の遊び相手をさせる前に必ずプログラムを入れ直してくださいね!」

「この手のロボットには学習機能もあるから………、ほっといても自然に直るよ。」

「ダメです!ちゃんと入れ直してください。子供が変な言葉を覚えないかと心配です!」

女の子の方はこの両親のやりとりを全然聞いておらず、ただただ嬉しそうな輝いた目でオイラの方を見てた。

「わーーい!遊び相手だ!」












THE END






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