「007 スペクター」21世紀のボンドにスペクター
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BLUE ODYSSEY
第4話 月の都市 act.11~20
スポルティー・ファイブ 第4話 月の都市 [act.11]
それからいよいよ、皆は建物内へと入った。
そこは壁も床も天上もステンレス色の金属が使われていた。それは地球の工事現場で組み立てられる簡易の事務所の建物によく似ていた。
少々違和感はあるものの、同じような生命体がこの施設を使用していた事は間違いない。
アイクの案内で、皆は奥へと進んだ。
内部の照明はその時その時そのエリアに侵入するとセンサーが働いて自動的に点いた。
しばらく行くと奥に事務所のような場所があった。
ここがアイクの言っていた[コントロールルーム]らしい。
デスクトップコンピューターらしき物が机の上に置かれていた。
またペンや紙の書類らしき物もあった。
広さは縦20メートル、幅10メートルぐらい。長細く奥行きがあった。
机、書棚、ガラスケース、ロッカー等地球の物と変わらない家具が置いてあった。
クリス「確かに地球と似てますね。」
アイク「そうでしょう。
デザインや機能が違うだけで、ここに置かれている物は地球の物とよく似ています。」
アイクは次にそこから出て、通路を歩いた。
そして奥に広がる広大な採掘施設の1つを案内した。
そこの頭上には巨大なクレーンが設置されていた。それがレールのような骨組みの上に放置してあった。何とも巨大で重量がありそうで、それが細いレールだけで浮いているのは信じられなかった。だが月の重力下ではこれで普通なのであろう。
その下には採掘中でありながら、途中で放棄された露天掘りの跡があった。
周囲には細いタラップのような通路が張り巡らされていた。
皆でそこを歩いて行った。
ここもオリハルコン採掘基地と同じく、通路はどこもこのような簡素なタラップを使うようだ。
クリスはなぜか突然、さっきの[コントロールルーム]が気になり始めた。
理由は分からないが、酷く気にかかった。
ここから[コントロールルーム]まではまだそう離れていない。
クリスは皆に断ってからさっきの[コントロールルーム]まで1人戻った。
戻ってみて、クリスは[コントロールルーム]の中で立ち尽くした。
ヘルメットを通して見るその”事務所”の様子。地球でよく見かける事務所との酷似点は多く、なんとも不思議な感じがした。
しばらく経っても”さっき湧き上がった感覚”が静まらなかった。
しかしその感覚の理由がわからないので、クリスはしばらくそこにいる事にした。
そこで写真資料などを探してみた。だが”異星人”の姿は映っておらず、露天掘りの進行状況を映したような画像ばかりだった。
クリス「…………。」
その後、クリスは皆の後を追った。
その時横に繋がる通路を発見した。
そこはチューブ状の通路で、明るい色のライトが点き、内部全体がオレンジ色の光で染まっていた。
ちょうど基地のエアロック用のチューブにそっくりだった。
あまりにも強烈なイタリアンレッドのオレンジ。
クリスはそれに導かれ、その通路を奥へと進んで行った。
しばらく行くと傾斜になり、チューブは下降を始めた。そして奥に潜るにつれ、内部の光はさらに明るくなった。クリスにはどうもこれは地下の居住区へ通じる通路のような気がしてならなかった。
クリスは不意に人の気配を感じて振り返った。
視界の隅に何か過ぎったような気がしたのだ。
見ると………、
”あの男”が立っていた。
クリス「…………。」
幽霊では無い。それははっきり実体を持っていた。
レイチェルが言っていたあの”幽霊”は、やはりこの男に間違いない。
彼は宇宙服を身に付けていなかった。
代わりに白い制服のようなタキシード風の服を身にまとっていた。
クリス「貴方は誰です?」
「誰でもいいではないか?
だが名前は名乗っておこう。私は[ローレンス・フォスター]だ。」
クリス「[ローレンス・フォスター]?」
ローレンス「そうだ。君が[マギ クリス]君か?」
クリス「ええ。なぜ僕の名を知っているんですか?」
ローレンス「どんな男か一度見てみたかった。アンナは君にそうとう思い入れがあるようだ。」
彼がいきなり”アンナ”の名を口にした。
クリスはそれはありえない事だと思い、思わず震撼した。
だが、やはりこの男がアンナの言っていた”あの男”に間違いないと考えざるをえなかった。
クリス「それが、いったい何だと言うんですか?」
ローレンス「まあいい…。私はもう一度アンナに会ってみたいのだよ。ゆっくり話がしたいのだ。」
クリスはこの男がアンナに固執しているように見えた。なぜ固執しているのかはわからないが。
ローレンス「[マギ クリス]、君は実に変わった男だ。自分自身の事は何も知らないのに。」
クリス「それはどういう意味です?」
ローレンス「まあ、自分で調べたまえ。」
クリス「…では貴方はいったい何者なのですか?」
ローレンス「”月世界人”とでも思ったかね?あるいは”遠く離れた異星からやって来た異星人”だと?」
クリス「いいえ。貴方はこの間”アンナと会った人”………ですね。」
ローレンス「ふふふ……、そう、その通りだ。」
スポルティー・ファイブ 第4話 月の都市 [act.12]
その頃、クリス以外の他のメンバーはお互いの姿が見える位置で思い思いの場所を捜索していたのだが…、アンナは急に何かを感じて振り返った。
アンナ 「クリス君が!」
突然そう叫ぶアンナ。
委員長「どうしたのアンナ?クリス君に何かあったの?」
他の者はただクリスが少し遅れているだけだと思っていた。
だが、アンナはクリスの身に起こった出来事を察知したようだ。
レイチェルもその事に気が付いた。彼女も何かを感じ取っていた。
アンナに似ているのは顔や姿だけでは無くて、彼女もアンナ同様特殊な感覚の持ち主かも知れなかった。
アンナは通路を戻ってクリスを探し始めた。
アンナが1人きりにならないように、委員長と神田が慌ててアンナの後を着いて行った。
豪は残って専用銃を引き抜き、アイクとレイチェルの護衛にあたった。
1人切りになる事は危ないのだ。
クリス 「アンナに近づいた目的は?」
ローレンス「彼女に興味があったからだ。」
クリス 「興味?どんな興味ですか?」
ローレンス「君は何も知らないのか?彼女の真の値打ちを。
まったく…、君達にとっては宝のもちぐされだな。」
クリス 「どういう意味です?」
ローレンス「それも自分で調べろ。」
クリスはこの男に言い知れない不快感を抱き始めていた。この男の喋る内容はしばしば具体性に欠けている。それに喋っている内容が利己的というか自己中心的というか。
とにかくその態度はチクチクとクリスのカンに触ったのだ。
途中まで喋っておいて「自分で調べろ。」という言い方が続く事にも腹立たしさを覚えた。
それゆえ、この男の言う事を信じる気にはなれなかった。
クリスは会話を続ける気にはならず、その後特に何も喋らなかった。
するとそれを感じ取ったのか、その男は「また近い内に会おう。」と言い残して、クリスに背を向けた。そして施設の奥へ向かって歩き始めた。クリスにはなぜか居住区があると思えるその方向へ。
クリスは彼に付いて行こうかと一瞬考えた。居住区があるか確かめたかったのだ。
そこで、スポルティーファイブの護身用の銃を宇宙服のポケットから取り出した。
だが、クリスがもう一度”彼”の方を見ると…、その姿は消えていた。
その時、アンナがクリスを見つけた。委員長と神田もアンナに追いついた。
アンナ 「クリス!」
アンナは思わずクリスを呼び捨てにした。
クリスが無事でいる事にほっとしたのだ。アンナはクリスの身の上に重大な何かが起こったように感じていたのだ。
一方、クリスを呼び捨てにした事には委員長が驚いていた。
神田も驚いていたが……、アンナは神田達の目の前で宇宙服のままクリスに走り寄って抱き付いた。
ここは6分の1しか重力が無いので体がすぐに浮いてしまいブレーキがきかないのだ。
その光景を見てがっくりする神田。
委員長も呆然……。
あきらめた神田は委員長にタイミングよくささやいた。
神田 「あちゃーーーーー!委員長が可哀想で見ておれん!」
委員長「ぐぐぐぐぐぐぐ………!」
委員長は当然の事ながら怒った。
委員長「
かんだあ!!!!
」
その後は全員で無事オリハルコン採掘基地まで戻った。
そしてスポルティーファイブのメンバーは一度レッドノアに帰還した。
クリスらはスポルティーファイブの機体を使用した件の簡単な報告を郷田指令にしたが、例の”別の採掘場”の事は話さなかった。
アイクとレイチェルが話さないで欲しいと言ったからだ。
「まだ他に話すのは早いんじゃないか」と。
だがアイクは実はノアボックスに話す事にはそんなに反対していなかった。レイチェルがそう言っているので意見を同調させただけだ。
レイチェルは他人に話す事により、”あの男”が何かしてくるような気がしてならず、それが恐ろしかったのだ。
アイクは「そんな事をいちいち心配しても仕方がない。ノアボックスは特殊な専門機関だ。そこに話して調査してもらおう。」と言ったのだが、レイチェルは話す事には賛成しなかった。
アイク「(レイチェルはノイローゼ気味だ。それはあの男のせいなのに…。)」
それで結局この事はまだ伏せておく事にしたのだ。
彼らが発見した物なのでクリスはアイクとレイチェルの意思に従う事にした。
レイチェルはアンナ同様何かの特殊な感覚の持ち主であると思えた。
その力はアンナに遠く及ばないのかも知れないが、自分自身の身の危険を察知するぐらいの能力は備えているとクリスは考えたのだ。
スポルティー・ファイブ 第4話 月の都市 [act.13]
[食堂]でクリスはスポルティーファイブのメンバーと話をした。
ここの食堂にはクリス達メンバー以外は入ってこない。
クリスはあの時に会った例の男の話をした。
それは盗聴を気にして普通より小さな声で話された。皆はテーブルの真ん中辺りに顔を寄せて耳をそばだてた。
誰が聞くという事でもないが…、この話は一応トップシークレットだと思えたからだ。アンナは彼がレイドだと思っているらしいので。
神田 「あの時の男の事かいな?いったい誰やねん?その男の正体は?」
クリス「さあ?アンナは[レイド]と言っていたが。」
アンナ「……。」
豪 「なぜまた接触して来たんでしょうか?」
クリス「彼はなぜかアンナに固執しているように見えるんだ。また”アンナに会いたい”と言って来た。」
委員長「アンナに固執?なぜ?」
クリス「さあ?」
アンナ「……。」
クリス「レイチェルさんが見たのもきっと彼だ。彼がフラフラと宇宙服無しで現れたので幽霊だと思ったんだ。
あの基地には人間は2名しかいなかったし。
ひょっとすると、あの男がレイチェルさんの元へ現れたのも、レイチェルさんがアンナに似ていたからかも知れない。」
豪 「なるほど、それなら話のつじつまが合いますね。レイチェルさんだけが幽霊と遭遇したというのは。
つまり”あの男”はアンナさんと間違えてレイチェルさんに接触して来た………。」
神田 「それは単にあのタイプの女性が好みだったという事でないの?」
委員長「……………。 (メ-_-) 」
その時、
フォーーーーーン!フォーーーーーン!
レッドノアのブリッジに警報が鳴り響いた。
オペレータージョウ「郷田指令!あれを!」
大型スクリーンを見ると、レッドノアの前方に巨大な円盤が出現していた。
それは完全な円盤型をしており、その表面に細かいディテールがあった。それでかなりの巨体に見えた。それが月の地表から数百メートルの上空に浮かんでいた。
郷田指令「調査対象のUFOだな。レーダーで捉えているか?」
オペレーターミカ「いいえ。対物レーダーには何も映っていません。」
郷田指令「なんだって?目の前にいるのに?」
矢樹 「次元レーダーには映っているか?」
オペレーターメイ「いえ、これほど大きな物体の反応はありませんが……、他の地点に次元の裂け目のような反応がかすかに現れました。ちょうど[レイド]が出現する時のような反応です。」
大きな円盤はレッドノアの前方の空間を舞い続けた。それは不規則な動き方だった。
急に高速で移動したり、かと思えばいきなり停止したり、あるいは木の葉のように舞って見せたり。
郷田指令「あの飛行には何の意味があるのだ?」
矢樹 「あのUFOには質量が無い。見せかけだな。」
郷田指令「質量が無い?」
矢樹 「計器にはそう出ている。」
郷田指令「見せかけ?だが、いったい何の為に?」
矢樹 「さあな。」
しばらくしてからUFOは何事も無かったように宇宙へ飛び去った。
いや、飛び去ったように見えただけだ。それは映像のような物だから。
矢樹 「派手な挨拶の仕方だ。」
郷田指令「あれに何の意味がある?なぜあんな見せかけを?」
矢樹 「わからん。なにかのカモフラージュかも知れん。
”月の都市”の方を本格的に調査しよう。」
郷田指令「なぜだね?今のと関係があるのかね?」
矢樹 「”月に宇宙船が停泊していたり、都市があったり”という噂は以前から多い。
どれも非公式の物だがね。言ってみれば月にまつわる都市伝説のようなものだ。
”月面上の円盤”もそれらの内の1つだった。
それが見せかけだったという事は……、他もきっとそうなのだ。
それを調査して確かめよう。」
郷田指令「つまり……、月の都市も単なる都市伝説だと?」
スポルティーファイブ 第4話 月の都市 [act.14]
その後、オリハルコン採掘基地のレイチェルとアイクはスポルティーファイブのメンバーを夕食に招いた。
やはり、人恋しさからだ。メンバーは快くそれに応じ、郷田指令も許可を出した。
レッドノアはまだオリハルコン採掘基地のハンガーデッキに接舷していたので。
そこでクリスらスポルティーファイブのメンバーだけで行く事にした。
基地に着くと早速ゲストルームに案内された。
そしてレイチェルが作った手料理が振舞われた。
食事の場ではレイチェルとアイクもまだ若かったので若者同士楽しい会話が弾んだ。
そしてクリス達はその夜また例の幽霊を調査する事にした。
レッドノアがあの見せ掛けのUFOの調査を担当し、クリス達は幽霊の方を調査する。
クリス達は宇宙服を着込んだ。
今夜は交替でこのオリハルコン採掘基地内を巡回する予定だ。
神田とクリスがまず一組となって行く事になった。
その後、交替で委員長と豪とアンナのチームが巡回する。
前回は1人きりになったクリスの所へだけあの男は現れた。それ以前はアンナが1人きりになった時に現れた。だから行動する時は各人を1人きりにしないように注意した。特にアンナとレイチェルは。
アイクとレイチェルは交替でどちらかが起きていてくれる事になっていた。
クリスらがこの横に長い基地の奥の方まで来た時、神田が急にトイレに行きたいと言い出した。
神田 「なんだか急に腹が痛くなった。」
クリス 「ああ、いいよ。行って来てくれ。」
神田 「すまん。すぐ戻るから。」
神田はすぐに見つけられると思ってトイレを探したが…、この広大な基地内ではなかなか見つけられなかった。それを見つける事は思ったより大変そうだ。
複雑に入り組んだ基地の通路。ここは広いがそんなにトイレは数多く設置されてないようだった。
そこでアイクかレイチェルに連絡を取って聞こうとしたが、通信はノイズが入って邪魔をした。
神田 「おかしいな?さっきは綺麗に入ってたのに。」
1人きりになったクリスは、その時、不穏な気配を感じ取っていた。
振り返ったクリスは通路上に”あの男”が立っているのを見つけた。
[ローレンス・フォスター]はクリスの方を見てかすかに笑みをこぼした。
やはり彼は今日も宇宙服を身に着けていなかった。
ローレンス「クリス、アンナを連れて来てくれ。アンナと私が2人だけで会えるようにしてくれないか?そうすれば君を”月の都市”にご招待しよう。」
クリス「”月の都市”だって?」
彼の言葉は宇宙服の外部マイクを通して聞こえて来た。ここは基地の中とはいえ、真空に近い状態だ。どうして声が聞こえるのだろう?
ローレンス「そこでかつてお前たち地球人と我々との間で起こった戦争について教えてやる。」
クリス「戦争?何の戦争ですか?」
ローレンス「かつて我々は地球人から”調査”と言う名目で侵略を受けた。我々の故郷がな。」
クリス「それは聞いた事がありません。どういう事ですか?」
ローレンス「我々の故郷は我々だけで長らく平和に暮らしていた。そこへ君らの星の人間がやって来た。最初は”調査”だと言っていたが…、いったいそれは何の為の調査だったのか?」
クリス「……。」
クリスはこのよくありそうな話にうんざりした。
どうもこの話はSF映画か小説に出てくるシチュエーションにそっくりだ。
本当の話だろうか?この男の話す内容はいつも具体性に欠ける。
それに、質問しても肝心な部分を言わないのでフラストレーションばかりが溜まるばかりなのだ。
クリス「それはいつの話です?」
ローレンス「フッ。今は言えない。君たちで調べたらどうかね?」
クリス「では貴方がたの国や星の名前は?」
ローレンス「それも調べてくれないかね?私の口からは言えない。」
クリス「……。」
その、後クリスはローレンスと別れた。
今日は自分から彼に背中を向けた。
幸い、何事も無く彼の元を去れた。
彼の話はもううんざりだった。
その口調は思わせぶりだけで内容が無かったからだ。
スポルティーファイブ 第4話 月の都市 [act.15]
その後、神田とはすぐに合流できた。
クリスはその夜の警備を中止して、一度レッドノアに帰った。
戻ったクリスは”あの男”の言葉通り、一応「戦争」について調べ始めた。
自室のコンピュターからノアボックスのデータベースにアクセスした。
ほどなくしていくつかのレイドと思える記述にぶつかる。
だが、その記述によると「レイドは向こうから侵略して来た」事になっていた。
これはクリス達が今まで聞かされていた事実となんら変わりは無い。
その後、いろいろな検索を試みたものの…、調査はすぐに行き詰った。だいたいクリスの持つキーカードとIDナンバーでは調べられる範囲は知れているのだ。
それをクリスは食堂でスポルティーファイブのメンバーに話した。
神田 「どういう事やねん?!最初にレイドが人類を攻撃して来たんじゃないのか?以前からそう聞かされとるで?」
クリス「記述では確かにそうなっている。だが本当に先に手を出したのはどっちだろう?」
委員長「わからないなら…、この際、矢樹博士に聞いてみたら?」
神田 「マッドサイエンティスト矢樹にか?!聞くとすごくマッドな意見を述べてくれるんじゃないの?」
クリス 「不思議だが…、僕は矢樹博士が一番正直に話してくれると思えるんだ。
この前アンナがいなくなった時、矢樹博士がトップシークレットについてすぐに話してくれたんだし…。」
アンナ 「私も彼に聞いた方がいいと思う。」
そこでクリス達はレッドノア内にある矢樹の研究室を訪ねた。
矢樹にレイドと人類の接触について聞く為だ。
その時、幽霊[ローレンス・フォスター]についても矢樹に話した。
矢樹 「さあな?どっちが先に手を出したかは知らない。
要はレイドが住む向こうの世界に”我々が先に調査に行ったかどうか”という事だろう?
そもそも、我々はまだスポルティーファイブの機体でしか向こうの世界に行けないのだ。
私の知る限りではそれ以前には行ってないと思う。」
委員長「じゃあ、”以前に侵略された”なんてやっぱり彼は嘘を言ったのかしら?」
矢樹 「それはまだわからない。詳しく調べてみないとな。
例えば、こちらの世界の誰かが向こうの世界のスキャンだけは出来たのかも知れない。
そもそも……、彼らの言っている”調査された”という事自体が具体的にはわからない。
つまり、彼らは向こうの世界にいて、”ある日突然人間から何らかの接触らしきものを受けた”と言うのだろう?
しかし、この間のアンナの失踪事件でもそうだったが、バーチャルシティーと向こうの世界はなぜか繋がっていた。
つまり、”バーチャルリアリティーシステムの何かのプログラムが知らぬ間に向こうの世界を侵害していた可能性”だってある。」
豪 「つまりそれを向こうは”調査”とか”侵略”という言葉で言っていると…。」
矢樹 「とにかくこの話はまだよくわからない。結論を出すのは早急だ。
私の所に今入っている情報は現在レッドノアのデータベースに入っている物と同じだ。
どこか外部で新たに情報を入手して来ないといけない。」
クリス「この際、[ローレンス・フォスター]に会ってみようと思うんですが。」
矢樹 「今は会わない方がいい。」
クリス「なぜです?」
矢樹 「彼が君に会う目的がはっきりしない。向こうがアンナを誘い出したいだけかも知れない。
あの男が言った”月の都市”については実在したという証拠は何も無い。
それについては1900年代にはいろいろなSF小説が書かれ、いつくかの映画も撮られた。
だが、実際の我々が建設した月の都市はアクエリアス基地やオリハルコン採掘基地に付属した居住区だけだ。月に都市が建てられる有益性はあまり無いのだ。
ゆえに過去に月に都市が存在していた可能性は低い。」
クリス「そうですか。彼は嘘をついたのですね?都市など存在しなかったのに彼は”存在する”等と。」
矢樹 「その事もまた断言できない。
”都市”という名称はあやふやだ。
人がそこに住んで生活し、ある程度の生活が行われていれば”都市”と言えるが、カプセルホテルのように小さな寝室が集まったものでも”都市”と呼べなくは無い。”都市”という定義はあまりにもあいまいだ。」
豪 「”都市”と一口に言ってもいろんな形態があるのですね。」
矢樹 「いいか、クリス。絶対にあの男の挑発に乗るな。
ネットにつながれたバーチャルリアリティーシステムにも入るなよ。
以前、[ローレンス・フォスター]が現れたのはいずれもネットワークにつながれたマシンだった。
今回の”幽霊”として現れた件は別にしても。」
スポルティーファイブ 第4話 月の都市 [act.16]
レイチェルはスポルティーファイブのメンバーが”幽霊”を調査し始めてから少し回復していた。ノイローゼが少しずつ治り始めていた。
それに周りにはアンナと委員長がいたので会話には困らなかったのだ。女性は女性どうしだけで会話してると気分がほぐれるようだ。この3人が会話を始めると男性はなかなかその中に入って行きづらい雰囲気があった。
一方クリス達はアイクからオリハルコン採掘基地に[バーチャル作業プログラム]というバーチャルリアリティーシステムがある事を聞かされていた。
これはこの基地専用の訓練シミュレーションに使われるシミュレーターだ。プログラムも専用の物を使っている。
訓練用の為、普段はネットにつながれていない。あえてネットにつなげない限りこれはオンラインにならなかった。
オンラインにしてレクリエーションを楽しんだりする事ももちろん出来るが…、アイクとレイチェルはそれはしていなかった。あまり興味が無いようである。
クリスは”幽霊”の事を知るため、このマシンからシミュレーションプログラムの中に入る事を考えた。
ここには基地内の全ての場所がデータ化されて入っているため、擬似だが基地内を瞬時に移動できるのだ。中では常に基地内のカメラのライブ映像をそのまま取り込んで3DCG化してこの中で再生していた。いわばこの中にいながらにして”基地の警備”も出来るのだ。
クリスはマシンがネットにつながれていない事を確かめると、この中に入った。
これもバーチャルリアリティーシステムと同じようなカプセル型の筐体だった。その中に入ってベッドの上に横になった。
基地内のカメラとつながっていても、ネットにはつながれていないので”あの男”が来る心配は無いとクリスは考えた。
中に入ると、クリスは高速モードを使って基地内のさまざまな場所を瞬時に移動した。
警備ははかどった。
だがしばらくして…、クリスは何か異様な雰囲気を感じ取った。
それはあのレイドと戦闘する際に感じる感覚だ。そして、”あの男”に遭遇する前に感じる感覚でもある…。
やがて[ローレンス・フォスター]がバーチャル作業プログラムの中に現れた。
信じられないが、通路の先の方に白い服装をした男性が立っているのが見えた。
確かに”あの男”だった。
「(彼は神出鬼没なのか?)」
と、クリスは思った。
ローレンス「どうしたクリス?アンナを連れて来ないのか?」
彼は平然と話しかけて来た。
クリス「あの”戦争”の事については現在調査中です。
地球人が先に侵害したという事実はみつかりませんでした。」
ローレンス「まあ、それはゆくっり調べるがいいさ。
どうせお前達の方が先に手を出したのだからな。調べて行くといずれその事実に突き当たるだろう。
それはさて置き……、
”月の都市”には行きたくないのかね?その都市の繁栄を見たくないのか?」
クリス 「繁栄?」
ローレンス「ああ、そうだ。繁栄だよ。月にはかつて栄華の時代があったのだ。
それはきっと君が見たら驚くようなものだ。」
クリス 「なぜ、僕にそんな物を見せようとするんです?その意図はなんですか?」
ローレンス「それは自分で考えろ。どうする?アンナを連れて来るのか?来ないのか?」
クリス 「アンナは連れて行かない。危険だ。」
ローレンス「アンナを連れて来ないなら………、この話は無かった事にする。」
クリス 「…………。」
ローレンスはつまらなさそうにさっさとその場を後にした。
やはりアンナ以外には興味が無いようだ。
彼と別れて、クリスは無事にプログラムから離脱した。
クリスはスポルティーファイブのメンバーと共にまた矢樹の元へ向かった。
そして、[ローレンス・フォスター]の言葉をそのまま矢樹に伝えた。
矢樹 「ヤツが”アンナを連れて来い”と言ったのか?」
クリス 「はい。」
矢樹 「行かない方がいい。アンナを連れて行くとまた向こうの世界へ持って行かれるぞ。」
クリス 「ええ、わかってます。」
矢樹 「今回は無事に帰れたからいいものの…、2度とバーチャルリアリティーシステムに入るなよ。たとえネットにつながれてないとしてもだ。」
クリス 「わかりました。」
スポルティーファイブ 第4話 月の都市 [act.17]
矢樹は簡単にクリスに注意した。だがそれ以上はクドクドと言わなかった。
「帰って来たからいい」とでも思っているようだった。
矢樹 「よし、その[バーチャル作業プログラム]の中身そのものを見てみよう。」
クリス 「え?プログラムのデータを見るんですか?」
矢樹 「そうだ。もしかすると……、このプログラムの中にもあるのかも知れない。その”月の都市”とやらがな。」
クリス 「え?」
矢樹 「バーチャルシティーと向こうの世界は繋がっている。
だとすれば、この[バーチャル作業プログラム]の中からたどれば…、その男の言う”月の都市”のデータにたどり着けるのかも知れない。」
豪 「なるほど!」
矢樹 「だが、潜るのは危険だ。アンナの時と同じく”向こうの世界”に引きずり込まれるからな。」
神田 「”潜らないで済む”なにか良い方法は無いのかいな?」
矢樹 「つまりそれが、”データを見る”という事なのだ。」
その後、矢樹はオリハルコン採掘基地に直につないで[バーチャル作業プログラム]のデーターをレッドノアの自分の研究室内のパソコンにコピーした。普段は使っていない専用のコンピューターだ。その中に入れ、デスク上にあるキーボードを叩いた。
そしてプログラムの中を開いた。
ここには基地の外の月面の地形データも入っていた。それはかなり詳しく、再現率も高かった。
今まで地球で公開されて来た月のデータとは比べ物にならない程精密な物だ。
それを調べていく内に、地形データの中にプログラムが破壊された部分が見つかった。
矢樹 「壊されているプログラムが存在するのは、アンナが消えた時の[タイムトリップ2100]の時と同じだ。その上に凡庸の修復プログラムが乗って壊された部分をスキップさせている。
壊されたデータの中に”月の都市”に関する何かがあったのかも知れない。」
一方、矢樹はクリス達にバーチャルシティーには潜るなと伝えたが、それはレイチェルまで伝わっていなかった。
レイチェル「……。」
ノイローゼ気味になっていたレイチェルは、幽霊の正体がわからず、それを捕まえる事も出来ない今の状態にごうを煮やしていた。そして、[バーチャル作業プログラム]の監視システムを使って幽霊を見つけようと思い付いた。
レイチェルは疲れてベッドの上で寝ていたが、無理に身を起こした。
そして寝巻き姿のまま、さながら幽霊のようにオリハルコン採掘基地内に置かれているバーチャルリアリティーシステムのマシンに向かった。そこは基地の生活エリアの中にあるので、宇宙服を着ていかなくてもよかった。
アイクの方は現在基地のいろいろな部分の監視のため巡回に出かけている。
それが終わったら、普段は交替のために起きて来るレイチェルと代わるのが常だった。
だが今レイチェルは………、
レイチェルは専用のスーツに着替え、バーチャルリアリティーシステムのマシンのベッドに身を横たえた。それから、ゆっくりとコネクター類をスーツに接続していった。
それが終わるとプログラムを起動させた。
レイチェルはバーチャル世界に潜ってしまう。
そして………彼女は消えた。
この連絡はアイクを通して矢樹やスポルティーファイブのメンバーに伝わった。
クリス「なんだって?!」
しかし、もう手遅れだった。
アイクが駆けつけた時は彼女の姿は基地のどこにも無かったからである。
クリス達がオリハルコン採掘基地のアイクの元を訪れた時、彼は気落ちしてした。
レイチェルが死んだと思っているようだった。
それをみかねたクリスは「自分がプログラムの中に潜ってレイチェルを探す」と言い出した。
アンナ「危険だわ!」
アンナは強く止めた。いつになく真剣なアンナ。
クリスの性格から言えば、「止めても自ら責任を感じてシステムに潜りかねない」事はよく知っていた。
アンナ「まず矢樹博士に相談して!」
アンナが何度も止めたおかげで、やっとクリスは思い止まった。
クリス「………わかった。」
矢樹はもちろん潜る事には反対した。
クリスはここで始めて矢樹にあの”謎の採掘場”の事を話した。
いままではアイクが止めているので話せなかったのだ。しかし手詰まり状態になった今、何かの参考になるかも知れないと思ったので話した。
あるいは矢樹なら違った見方ができるかも知れないだろうから。
矢樹 「最終的には、スポルティーファイブを使って救出に行くしかない。
しかしその前にまず、クレバスの採掘場へ案内してくれ。何かわかるかも知れない。」
スポルティーファイブは矢樹を乗せて採掘場へ向かった。
こうしてその採掘場の存在はノアボックスの知る所となった。
郷田指令とナターシャもモニターでスポルティーファイブからの映像を見る事にした。
スポルティーファイブ 第4話 月の都市 [act.18]
機体はやがてクレバスに接近し、目の前に異界の物のように見えるクレバスと採掘場が現れた。
矢樹 「面白い。施設を隠すには絶好の場所だ。地表には露出していないからな。」
口調から察するに矢樹は科学者としての興奮状態に入ったようだ。
また、レッドノアのブリッジに採掘場の細部を映した映像が流されると…、郷田指令とナターシャもモニターからその採掘場全景を凝視した。
郷田指令「こんな物があったのか?かなり古い建造物のようだが…。」
ナターシャ「……………。」
ナターシャの方はその異形の建築物を見て明らかにカルチャーショックを受けていた。
機体が着陸すると、スポルティーファイブのメンバーと矢樹は宇宙服を着込んで地表に降り立った。
矢樹も護身用の銃を持ったが、腰に下げただけで手に持たなかった。
矢樹は降り立ってすぐにその施設を精力的に調べ始めた。
例の小型の墜落UFOも見た。
矢樹 「おもしろい。これは小型の移動用の飛行体というだけだ。
構造はシンプルで興味深い。推進装置には謎が多いが。」
次に矢樹はコンピューターが置きっぱなしの[コントロールルーム]の内部を見た。
そして、適当にキーボードのキーを叩いて、モニターに表示された簡単な図面などを見た。
いろいろな物をいじりたおす矢樹。
スポルティーファイブのメンバーが気付かなかった事も次々と発見して行った。
クリス「……………………。」
矢樹はそこに存在している”物”に触る時、遠慮がないように見えた。まるで触り慣れた物を扱うように何にでも触れた。地球のオフィスにでもいる時と同じ様子だった。
クリスらといえば、やはり異星の物に触れているかも知れないという事でかなりの緊張を伴いながら扱ったものだが。
そして、一通り調べた後、矢樹はこう言った。
矢樹 「くくくく……。これはいわば地球製だな。」
クリス「地球製?」
郷田指令「?」
ナターシャ「?」
矢樹の言葉は意外だった。
豪 「どういうことです?これらは異星人が作った物では無いのですか?」
矢樹 「確かに異星人の物かも知れん。
だが、どこで造られたかなど、しょせん問題ではない。
以前、”地球人とまったく同じ外観を持つ生物がいて、ここを造ったという事実が存在する”だけだ。」
クリス「どういう意味です?」
矢樹 「クリス。君もここに入って気付いた事と思うが、ここはかつて人間と同じタイプのヒューマノイドが生活し、作業をしていた。
そして我々人類と同じような”道具”を使っていた。それは本、コーヒーカップ、タブレットからキーボード、コンピューターからディスクにいたるまで我々と何も変わらない。」
委員長「でもあそこに入っているプログラムは判別できませんでした。」
矢樹 「おそらくあれは我々に扱えるプログラムと語源に変換すれば使える。
基本的には同じ用途のものだ。共通点は多い。
彼らはまったく我々と同じ知的レベルだったのだ。
たとえば…、
”朝、居住区の自分のベッドから起き、ここに出勤して来て作業をし、それが済んだら夜また居住区へ帰る。”
我々の一日と何ら変わらない。」
クリス「……。」
矢樹はテーブルの上に置かれた丸いカップを何気なく手に取った。それは丸いボールの上下の部分を切り取ってから、中をくり抜いた形をしていた。
カップの底には黒い不着物が残っていた。
さらに別のテーブルにも同じようなカップが置いてあり、さっきのと色違いだった。そこには煙草のカスのような物が残っていた。
矢樹 「彼らは仕事中にコーヒーのような物を飲み、休憩時間には煙草のような刺激物を吸っていた。
頭脳労働者にありがちな習慣だ。」
クリス「でも、ここの採掘施設のデザインは地球の物とまったく違います。それは…?」
矢樹 「いや、実は、採掘場のデザインなど、その時その時でまったく違うものだ。国によっても違う。日本とアメリカでもその様相は違う。向こうは巨大な採掘機械とダンプを使う。日本の物とは規模もやり方も異なる。月のオリハルコン採掘基地も採掘施設は地球上の物とまったく違う外観をしていただろう?ここもそうさ。ここにはここのやり方があるというだけさ。
大きな違いは何も無い。」
クリス 「……………。」
スポルティーファイブ 第4話 月の都市 [act.19]
その時、郷田指令が矢樹に通信機を通して質問して来た。
郷田指令「矢樹博士。ではそこにいた人物の居住区はどこにある?」
矢樹 「今から探してみる。私もそれに興味がある。」
そう言って矢樹はこの部屋を後にした。
矢樹が探してもここ[コントロールルーム]には異星人の姿を映したと思われる画像が無かったからである。
それから矢樹はクリスに案内されて、居住区と思しき空間へ通じるパイプラインに向かった。
クリスがその先には絶対に居住区があると思っているパイプラインだった。
そこに行く途中、例の”あの男”と接触した場所を通る事になった。
パイプ状の通路はまもなく傾斜になり地下へと下り始めた。クリスらはなおもそこを降りて行く。かなりの距離を歩いたが、それでもまだ居住区には着かなかった。
ここで郷田指令が注意を促した。
郷田指令「これ以上先へ進むのは危険だ!もういい、帰って来たまえ。あまり地下に潜ると通信が途切れる危険がある。
矢樹 「わかっているさ。だが進まなくてはどうにもならん。
もし私が帰らなかったら、私のデスクにこれまでの研究を記録したパソコンが置いてある。それを後に続く者に渡してくれ。」
郷田指令「待て、矢樹博士!」
矢樹は一度そこで通信を切った。
郷田指令「矢樹博士!」
矢樹 「行ってみなくては始まらない。」
委員長「でも、もし私達の身に何か起こったら?
例えば[ローレンス・フォスター]に出会って、”向こうの世界”に引き込まれたら?」
矢樹 「私はそのローレンスという男と会って話をしてみたいのだ。
彼がたぶんアンナを”向こうの世界”へ引き込ませた張本人だろう。彼に会って、直にその理由を問いただしてみる。」
その後も郷田指令はインカムで呼び続けた。
郷田指令「矢樹博士!矢樹博士!」
しかし通信は”切られたまま”で、再開されなかった。
矢樹とクリスはさらに地下へ向かって降りて行った。
オレンジ色のプラスチック製のようなパイプラインが延々と続く。
色が本当に鮮やかだ。
伸縮が効くようにパイプ表面は波板状になっていた。
クリスらはそこを奥へ奥へと進んだ。
目の前に扉が現れた。横に付いているボタンを押すと扉は開いた。
そこをくぐると、急に目の前に開けた広い空間が現れた。
そこはやはり居住区のようだった。
ひとつの平たい広大な空間で、その広いスペースの中に”家”の形をした建造物がいくつも存在していた。
中には大きな”家”もあり、それは大家族でも住めると思われた。
ここは地下の筈だが、ちゃんと光も作られており、内部は自然光のようなライトで満たされていた。宇宙服のヘルメットを通してもその温かな光は肌で感じられた。人工の光だが少しも窮屈さは感じられない。地球上で日光を浴びているのとなんら変わらなかった。
ここのはスペース的には地上の採掘場等と比べると狭い。
それでも家の数はざっと見た所100戸以上あった。
矢樹 「彼らはここで暮らしていたんだ。
これらの”家”の外観を見ると…、簡単な作りで、例えれば”ユニットバス”のようなものだ。
たぶん他の場所で造られて、ここに運び込まれてから組み立てられたんだ。まるでキットのような物だ。簡素だが、月ではこれで充分な強度なんだ。」
その”家”には窓も存在した。1つの家の中をのぞいてみたが…、子供部屋あり、2段ベッドあり、居間ありと、まったく人間の住むと家と違わなかった。
クリス「でも、ここに住んでいた人達は今どこに?」
矢樹 「わからん。とにかくここは放棄されたんだ。引越しでもするようにここの住人は全部どこかへ移動した。」
委員長 「なぜここを捨てなくてはならなかったのでしょう?」
矢樹「さあな。資源が枯渇したのかも知れない。掘っても掘っても必要とした物が出て来なかったからかも知れない。」
アンナ「……。」
スポルティーファイブ 第4話 月の都市 [act.20]
一通り見終わった後、矢樹とスポルティーファイブのメンバーは採掘場の入り口から外に出た。
矢樹と[ローレンス・フォスター]はついに出会えなかった。
「一人きりの時彼が現れた」と聞いていたので、矢樹はあえて一人きりにもなってみたが、やはり彼は現れなかった。
矢樹 「ローレンスは私と会うのを避けているようだ。」
矢樹がポツリとそんな事をささやいた。
その後、矢樹とクリス達はレッドノアに戻った。
着くと郷田指令が心配して待っていた。
郷田指令「よく戻った!」
矢樹 「例の男とは会えなかった。
向こうは怖気づいて逃げ出したのかも知れない。
しかし、本当の理由はわからないがね。」
郷田指令「あの男は君と会うのを避けたのか?」
矢樹 「そう確信する要素は何も無い。」
アイク 「レイチェルを救出してください。」
クリス達はアイクを見舞った。
アイクは心労で目に見えてやつれて来ていた。自分の仕事も地球本部へ”休み”を申請しており、今は就労していなかった。それでオリハルコン採掘基地ではロボット達がひたすら作業を繰り返していた。
クリスはスポルティーファイブの出動を郷田指令に願い出た。
それに乗って向こうの世界へ行き、レイチェルを救い出そうと言うのである。
だが”向こうの世界”はトップシークレット扱いになる為、郷田指令はスポルティーファイブの発進を許可しなかった。
郷田指令「アンナの時はしかたなかった。だがレイチェルは民間人だ。現時点ではスポルティーファイブで救出に行く許可は出せない。」
クリス 「そんな……。」
郷田指令「少し待て。他の方法を矢樹博士が見つけてくれるかも知れない……。」
再びアイクの元を訪れたクリスは「救出手段の一つが断られた」とだけ伝えた。
アイク「なぜ断るんだ?!」
委員長「落ち着いてください。」
アイク「私が潜る。バーチャルリアリティーシステムから。
レイチェルが消えたのはとにかくあのカプセルに入ったからだ。なら私が潜る。」
クリス「待ってください。今行くのは危険です。」
アイク「危険でもかまわん!レイチェルのためだ。」
アイクはオリハルコン採掘基地にあるバーチャルリアリティーシステムから潜る気だった。
クリスはついに矢樹に黙って潜る決心をし、それをアイクに伝えた。
クリス「では、僕が代わりに潜ります。」
これにはアンナが驚いた。
アンナ「やめて!危険だわ!」
クリス「でも、それしかレイチェルさんを救う方法は無い…。」
アンナ「それなら私が行くわ。あの男が”来い”と言っているなら、私が行く。
そうすればレイチェルさんを返してくれるかも知れない。」
しかし、クリスは自分自身で潜る事を主張した。
クリス 「アンナに危ない思いはさせられない…。」
委員長「でもクリス君、”行く”って言っても、”帰り”はどうするの?」
クリス 「それはわからない。だが……、」
クリスは「自分自身が行方不明になった場合はスポルティーファイブが出動できる」と言った。
委員長「……。」
アンナ「……。」
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