BLUE ODYSSEY

BLUE ODYSSEY

第7話 委員長の恋 act.1~10
















『スポルティーファイブ 第7話 委員長の恋』





















天気は快晴で、空はどこまでも青く澄み切っていた。
それは深い深遠のようなブルーの色合いだった。
上空には飛行雲が2つ平行して長い軌跡を残していた。
もう夏は終わり頃に近づいたが、まだまだ昼間は温かく、景色はどこも生き生きとした色使いを保っていた。



ここは[青葉ガーナ学園]。
委員長は今その正門をくぐる。
黒いペンキで塗られた正門の移動式の柵は長さ5メートルぐらい。それが門の両側に取り付けられており、スライド開閉式になっていた。

門から奥の校舎まではずっとレンガ敷きの幅1メートルほどの通路が続いていた。
委員長はここの景色や配置が好きだった。この赤茶けたレンガはレトロ調だが、今では逆にオシャレに見え、同時に心も和ませてくれるからだった。
そのレンガ敷きの通路の左右には芝生が植えられ、手入れが行き届いていた。
用務員の人が手入れをしているのか、いつもきれいに芝刈り機で切りそろえられていた。
その芝生は朝の湿気を浴びて、少しばかり葉に水滴を着け、それが昇って来た朝の太陽の光りに照らされてキラキラと輝いていた。


赤いレンガ敷きと青々とした緑の芝生。そしてその奥のグラウンドの土の色。
この見事なまでの美しい色彩のコントラストに委員長はいつものように気分が良くなっていくのを感じた。

委員長は「いいなあ。青春だなあ~~~~。」

と、テレビドラマのマネをしてセリフをはくのが委員長の密かな楽しみである。
そしてその場で背伸びをして深呼吸をした。空気も美味しかった。






青葉ガーナ学園に来るのは久しぶりである。

委員長「変わってないなーー。」

委員長はクリーム色のコンクリート製の校舎に手を触れてみる。
そしてその感触を確かめた。

広い靴箱から校舎内に入る。ここは少し肌寒くて、いつもシーンとしている。それでいて妙に清々しい。
内履きに履き替える。すのこのような板の上を歩いて、廊下に出る。廊下は磨かれていてツルツルで、ゴム底の靴でないと滑りやすい。
廊下に面した校舎の窓はどれも大きくて、そこからだと外の校庭の様子が手に取るようにわかった。
グラウンドに行くまでの道に大きな桜の木が何本も植えられてあった。その木の根元はこんもりと土が盛られ、おまけにさっきの芝生で分厚つく覆われていた。そこは昼間昼食を食べる為に腰を下ろすにはかっこうの場所だった。




ふと見ると、そこにジュースの缶が置かれているのが小さく見えた。
それにはニンジンの絵が描かれていた。おそらくニンジンジュースの缶だろう。
次にその缶に手を伸ばした男子生徒の手も見えた。制服の袖がのぞいていた。
だが、身体は桜の木の向こう側に隠れて見えなかった。
どうやら誰かが木を背もたれにして昼食を食べているようだ。

委員長「……。確か、クリス君と最初に話した時、彼はそうやって木の根元に腰かけてニンジンジュースを飲んでいたわ。すると、あれはクリス君?」

委員長はそれが絶対にクリスだと思った。
そして、校舎から外に出るための出口を探した。
すると廊下の突き当たり付近で、開き具合のあまり良くなさそうな鉄の扉が見つかった。
委員長はすぐにそれを押し開けて外に出て、さっきの男子生徒がいる場所まで走って行った。
そして木の向こう側に回りこんだ。

それは………、
やはりクリスだった。
クリスも委員長の顔を見上げた。
細身のクリスは学生服姿が決まっていた。
クリスの姿は委員長の中にある”かっこいい男性のイメージ”そのままだ。委員長は自分の頬が赤くなるのを感じた。

クリス「委員長……。」

委員長「クリス君。」

委員長はそのまましばらくクリスを見つめていた。
クリスの履いている白いスニーカーが眩しかった。

委員長「横、座ってもいいかな?」

クリス「ああ、もちろん。」

委員長はクリスの隣に静かに腰掛けた。委員長自身、男子の横に座りたいと思ったのは生まれて初めての経験である。
今の委員長は頭で考えるより、行動の方が先に出てしまう。






スポルティーファイブ 第7話 委員長の恋. [act.2] 225


クリスは青い空を見上げた。
その空は木の根元から見上げると、頭上を覆う木の枝と対比して余計に高く見えた。上空にはまださっきの飛行機雲が残っていたが、それがまた空の高さを強調していた。
今日は普段の何倍も空が高く見える。それは細かい模様の雲があちこちに浮かんでいるせいもあるかも知れない。

委員長はクリスとこうして2人きりでゆったりと空を見上げているこの瞬間がとても貴重なものに思えた。いつまでもこうしていたいと思った。

それで委員長としては大胆な行動に出た。クリスの方へもっと寄り添ってみたのだ。
その時、地面に着いていたクリスの手に自分の手の指先がふれてしまう。

委員長「あっ……。」

でも、クリスはそれに気付かず、相変わらず高い空を見上げていた。

委員長「ふう………。」








青い空。

委員長「(いつまでもこのままでいたい。いつまでも………。)」

良いムードである。
委員長は幸せを感じた。

委員長「(こんな良いムードは1年のうちに何度もやって来るものじゃないわ。
ようし、ここはひとつクリス君とデートに行く約束なんざ取り付けてみますか……。)」

しかしその時、空の彼方に巨大な物体が浮かんでいるのが見えた。
それは雲の切れ目から顔を出し、今はまだ小さく見えている。その色は空の青さにまったく溶け込まない赤だった。

委員長「UFO?」

よく見るとそれは[レッドノア]だった。あまりにも遠くに浮かんでいるので最初何かわからなかった。異形の形のそれは、日常の空間から大きく逸脱した存在のように思えた。

レッドノアは委員長とクリスのいる方角に船首を向けて近づいて来た。
そして不意に委員長の背中の方向から巨大なロボットが現れた。

委員長「はっ?いつの間に?!」

そのロボットはザークに似てヒューマノイド形態だったが、見た事もないデザインだった。

委員長「ザークじゃないわ!」

ロボットは学園内の敷地に侵入して来た。そしてその位置からレッドノアに向かってミサイルを放った。レッドノアからもミサイルが発射されたのが見えた。
それは細い糸のような噴射煙を引いてロボットのいる位置まで飛んで来た。

それは地面に着弾し、ロボットの近くに爆風を巻き起こした。爆風は委員長とクリスを襲った。

委員長「きゃーーーーー!!」

クリス「委員長!」

委員長はクリスに抱き起こされた。
委員長はそれはそれでラッキーと思ったが、いきなり戦闘を始めたロボットには「せっかくの良いムードをだいなしにされた」と怒りを向けざるを得なかった。
委員長はロボットをにらんだ。
クリスもそのロボットを見つめた。

クリス「危険だ!逃げよう!」

真剣なクリスの眼差し。
委員長はクリスの顔を見上げた。そしてその目を見つめた。






委員長「……………………。」






委員長は頬が赤くなるのを感じた。






しかし不意にクリスの顔は消滅した。
かわりに見慣れた天上が見えた。そこは電気の消えた薄暗い部屋の中だった。

委員長「………夢?」





委員長は夢を見ていたのだ。ここは自分の部屋だった。
気落ちする委員長。

委員長「はああ~、夢だったのかあ~~~。もうちょっとだったのにぃ~~~~~。」

委員長は背伸びをして深呼吸をしてからベッドから抜け出た。

委員長「私って運が悪い!」

委員長は最近1人になるといつもこうこぼすのだった。







スポルティーファイブ 第7話 委員長の恋. [act.3] 226


ノアボックスが誇る空母レッドノア。 
それは時として異星人の作ったUFOのように見える時がある。
特に空に浮いている姿を見かける時、その非日常的な形状はどうしても映画の中の1シーンを観ているようにしか思えない。委員長はレッドノアの外観を見ると、それらがいつも自分とは関係ない世界のように思えてくる。

ノアボックスは地球を侵略する者達と戦う。その戦いは避けては通れないものだ。
それでも委員長にはノアボックスでのこれまでの戦いが、何か絵空事にように思えてしかたなくなる時があった。本当は一女子学生に過ぎない自分に当てはまらない世界ではないかと………。

委員長「私は普通の女の子の筈なんだけどなあ…。」

だが現実の戦いは容赦なく襲って来る。侵略者達がやって来る以上、必ず誰かが戦わなくてはならない。






ここは地球。
レッドノアはあの長い”月”での任務を終えて地球に帰還していた。
今はノアボックス地上基地にあるドッグに入り、整備点検をしていた。乗員は全て”陸”に上がり、[休暇扱い]となった。緊急時以外は召集されない。これは月での精神的負担や、月の重力に慣れた身体を元に戻す為のもの。
矢樹と郷田指令も仕事を部下に引き継いで珍しく休暇に入っていた。



乗組員達全員は久しぶりに地球での休みを味わっていた。
スポルティーファイブのメンバーにも休暇が出された。それはひさしぶりに許された長期休暇だった。
そしてメンバーは自分達の母校である[青葉ガーナ学園]に登校する。
卒業に必要な単位の方はこれまでノアボックス内の「教室」で行われていた授業で足りていたが、ひさしぶりに長期休暇をもらったので、今日からは本物の学校に登校するのだ。







郷田指令「スポルティーファイブの諸君。
君達の”月”での働きには感謝している。
今から長期休暇を与えるので、充分休養を取って欲しい。
月では知らない内に神経を蝕まれる。それを地球で癒してくれ。
非常の際は緊急招集があるが、事件が無いならずっと休暇のままだ。
とりあえず2週間休暇を与えるから自由に過ごしてくれ。」

ナターシャ「皆、ごくろうさま。
学校の方はもとの青葉ガーナ学園で受けてくれてかまわないわ。
そうした方が気分が晴れると思うの。学校にはこちらから連絡しておくから、手続きの事は心配しないでいいわ。」

郷田指令「では休暇を思いっきり楽しんできてくれたまえ。」











こうしてまったくもって今だけ普通の女の子に戻ろうとしている委員長だった。
しかし、いざ元の女子学生の日常に戻り、自分の家に帰って両親と再会すると、ノアボックスでの事が全て非現実の事ように思えてきた。自分の部屋に入り、勉強机に座るとなおさらそうだった。







スポルティーファイブ 第7話 委員長の恋. [act.4] 227


委員長「でも今ごろクリス君は……………。」

クリスとアンナは自分の家を持っていなかった。
それには両親がいないからという理由もあった。ただ、アンナの方は今回の事件で進展があったが。
もともと2人はそれぞれ青葉ガーナ学園の学生寮に住んでいたが、最初のレイドの攻撃で学生寮が破壊されてからは、レッドノア艦内に設けられた自室で暮らしていた。以来、ずっとそこに住んでいる。

委員長はそこにいるクリスの事を想った。委員長や神田、豪は自宅に帰ったが、2人はまだそこにとどまっているのだ。
しかしその一方、レッドノア艦内の自室にクリスがいるという事は、アンナの部屋にも近いという事だ。それで委員長はアンナとクリスが今ごろ会っているのではないかと思った。レッドノアの居住区に残っているのはメンバーの内でアンナとクリスだけなのだ。

しかし…、
よく考えて見ると、現在アンナはそこにいなかった。
アンナはレイチェルとアイクの家に居候していたからである。
アイクとレイチェルはレッドノアが帰還したこの日本で自分達の家を探す事にした。アンナがここにいるので、レイチェルはこの近くに住む事に決めたのだ。
レイチェルはやはりアンナの母”アンナ・エリス”とは対になった存在の人間のようである。
アンナが「これまで学生寮やノアボックスの部屋を借りて生活してきた」と言うので、すぐに手元にアンナを呼び寄せた。
もしアンナさえその気になればこれから先ずっといっしょに暮していくつもりのようだった。
しかし、アンナはまだそこに馴染めないでいた。
アンナは15歳。レイチェルは26歳である。母とは呼べない年齢である。
それにレイチェルは今、新婚夫婦である。相手のアイクは若いし、彼もまたこの事に戸惑っていた。これまで事情をレイチェルから聞いており、アンナがレイチェルの子供に当る事を知っていた。しかし、新婚早々突然こんな大きな子供がいると聞かされてもただ驚くだけである。
アイクがこの事実に慣れるまで、まだ相当時間がかかりそうであった。
それでアンナはまだそこにいづらいのである。
しかし、当のレイチェルの方はだんだんアンナが自分の子供であると認識し始めていた。
アンナが遠慮がちにしていると決まって「私が赤ちゃんを産んでそれが大きくなったら、それが”貴方”になるのよ。」と言った。
これは殺し文句のようなもので、これを言われるとアンナはぐうの音も出なくなるのだった。




委員長はこの事を思い出していた。
今レッドノア艦内にはアンナはいない。
すると、クリス1人の筈だ。
委員長はなぜかホッとしている自分に気が付いた。






朝、そんな事を考えながら委員長はリニヤモーターカーの駅を目指して歩いた。

今日からまたしばらく青葉ガーナ学園に登校する。
他のメンバーも登校したがっていた。
今日は皆そろって学校で顔を会わせる事になるだろう。

委員長は久しぶりに学校の制服に袖を通した。
昔ながらのセーラー服に似たデザイン。生地はやや薄手。まだ夏用の制服だった。そして生地の色は眩しいくらいに純白だった。

肩にかかったおさげが揺れていた。
委員長はリニアモーターカーの駅構内に入った。
ホームで待っているとトレインがまったく音も無く滑り込んで来た。
ホーム側は全てガラスに覆われているので騒音はまったく聞こえない。アナウンスがないとトレインが近づいた事さえわからなかった。

委員長「(もうすぐ、学校でクリス君に会える。)」

委員長は胸が高鳴った。
トレインに乗ると列車のウインドウに自分の顔が映る。
整った少女らしい美しい顔立ちだが、当の委員長にはもう見慣れていてそれがわからない。
そればかりか「テレビに映るアイドルのようにもっとかわいくならないものか」といつも思っていた。
ためしに映画に登場するアイドルみたいに顔の向きを変えてニッコリ笑ってみた。アングルを変えると自分も良く映るのでは無いかと思った。
が、結果は委員長の思うようには見えなかったらしい。

委員長「はあ~~~~~~~。辛!」



そう言えば神田がアンナの事を『絶世の美人』『究極の美少女』などとよく言っていた事を思い出した。










神田 「アンナちゃん、今日はいちだんとお肌が輝いてますね!」

アンナ「……………………。」









委員長「ぞぉ~~~~~~~~!!!」





スポルティーファイブ 第7話 委員長の恋. [act.5] 228



神田の態度は目に余る物があるが………。アンナが美少女という事は間違いなかった。
女性でも嫉妬するぐらいの美しさ。その整った顔立ちにはため息がもれた。
肌の色から頬の丸みまで全て絵画の中の女性のように均整が取れていた。
目も濃いまつげに囲まれていて、印象深く、神秘的に見えた。

委員長「はあ~~~~~~~~。」

委員長はまたため息を付いた。
アンナは小柄だが、どんな服を着てもよく似合いそうだった。
笑顔はあまり見せないが、ポーカーフェイスでも魅力があった。
それがやはりアンナの事を”テレビに出てくるアイドル”のように見せてしまっていた。






今まではレッドノア艦内の自室から出て[教室]まで行きさえすればそれで良かった。
でも今日の登校はスポルティーファイブのメンバー全員がバラバラ。
委員長、豪、神田はそれぞれの実家から。アンナはレイチェルの所から。クリスはレッドノアの自室からだった。

委員長「(クリス君もホント大変よね。)」

委員長は今までの日常を振り返る。
ノアボックスはブラックガバメントからの依頼で動いている機関だとは言え、表立って怪しいところは無いように思えた。
それは郷田指令の真面目さに起因していた。郷田指令はノアボックスの中でも特に[クソ真面目]な人物として有名だった。
そしてレッドノア艦内では委員長達のいるエリアと一般の兵士がいるエリアは分けられているので過ごしやすかった。
全体的に見て今のところノアボックスに対して批判を言うべきところは無い。
とはいえ今は委員長は自宅で眠れている。
クリスがあの自室でずっと過ごすのは大変だろうと思えた。

近くレッドノアのクリスの自室は広い部屋に移されるらしい。普通の家の中と同じような配置の部屋が与えられる。しかしそれでも地上と飛行中のレッドノアの間を行き来するのは大変だと思われた。いちいち小型シャトルに乗らなくてはならないのだ。

委員長「(でもクリス君、他に行く所ないのよね。青葉ガーナ学園の建て直しされた学生寮には戻らないのかしら?)」

委員長はクリスの事をいつも気にかけてた。時々心配でたまらなくなる時があった。

委員長「(クリス君、行くとこないなら私の家で暮せばいいのな。きゃーーーー!!)」

委員長は自分で言った言葉に赤くなった。








委員長は1人で校門をくぐった。
夢に出て来た懐かしい青葉ガーナ学園の校門がそこにあった。
黒いペンキで塗られたがっちりとした移動式の柵。
そしてそこから校舎まで委員長お気に入りのレンガ敷きの通路を通る。
朝なので辺りの芝生から多量の酸素が発生して、それが湿っぽくていい感じだった。
このヒヤッとした感じは一度味わうと忘れられない。
その先のグラウンドでは野球部・サッカー部・陸上部の部員が練習していた。

委員長は「いいな、青春だなあ~~~~。」

と委員長はいつものテレビドラマのマネをして背伸びをした。

委員長「変わってないな。」

そして靴箱から校舎内に入った。





自分の教室の扉の前に着くとさすがの委員長もドキドキした。
クラスの皆に会うのも久しぶりなのだ。皆は何と言うだろうか?自分の事を覚えてくれているだろうか?
心臓が高鳴った。

委員長「でも私はこのクラスの”委員長”だもの。しっかりしなきゃ。」

委員長は思い切って教室の扉を開けた。

「きゃあーーーーー!!」






スポルティーファイブ 第7話 委員長の恋. [act.6] 229


クラスメートの女子がさっそく委員長を発見した。
そして委員長の周りに集まって来た。
移動も出来ないぐらい多くの女子生徒に取り囲まれる委員長。そこには懐かしい顔がたくさんあった。

「死んだのかと思った。」

委員長「死んでない。死んでない。」

委員長は苦笑いをしながら軽く手を振った。

「どうしてたのよ、いったい?」

「心配したのよ!」

「いままでどこに行ってたの?」

次々と息つく暇も無く矢継ぎ早に質問が飛んで来た。

「あたしマジで”死んだ”って聞いてたよ~~~。」

委員長「勝手に殺すなあ~~!」

「けど初めてあのロボットが現れた時、かなりの被害が街に出たのよ。それで亡くなった人も……。」

委員長はそれを聞いて急に現実に戻る。
あれから時間が経っていたので、その時被害に遭った事実は修復された街や校舎からは感じ取れなかった。すでに街は復興していた。

委員長「このクラスで亡くなった人はいるの?」

「このクラスではいないわ。」

「でも別のクラスじゃ、亡くなった人がいたみたいよ。」

委員長は気が重くなった。矢樹との会話が頭の中にフィードバックされた。











委員長「あれでザークはもう襲って来ないのでしょうか?」

矢樹 「レイドとブラックガバメントとの間で終戦協定が結ばれた。
長きにわたった冷戦とも言える戦いが今終ったのだ。
もともと、ローレンスだけが単独でこちらの現実世界に侵入していたという事もあるがね。
ともかくブラックガバメントも以後はレイドの世界にむやみに足を踏み入れたりするのは止めるそうだ。」

クリス「やはり、侵入はあったのですか?」

矢樹 「ああ、レイドの記録に残っている通り、古い世代のブラックガバメントの頃は頻繁にあったようだ。でももう心配無い。お互いの政府がこれからは和平の道を歩むそうだ。」










委員長は矢樹の話を思い出した。

委員長「大丈夫!皆、あのロボットはもう来ないわ!戦争は終結したのよ!」

「へーーーーーー!!!」

皆は委員長の言葉を素直に信じた。
委員長の人柄のせいか、この話は全て事実としてとらえられた。
ノアボックスの一連の事はトップシークレット扱いで細かい事は話せないというのに。
戦争終結の話には皆が喜んでいた。






教師が教室に入って来るまで委員長はずっと女子に取り囲まれたままだった。
だが教師が近づく足音を聞いただけで、生徒達はいっせいに席に着いた。
教師が教室の扉を開けると、委員長は反射的に「起立!礼!」と言った。
皆はそれに従った。
委員長のいない間は誰かが代わりを勤めていたのかも知れないが、委員長がそう言うと全員が整然と起立・礼をした。

先生 「ああ、小川君。久しぶり。元気だったかね?心配したよ。」

こうして委員長は久しぶりに懐かしい教室で授業を受けた。
席は少し離れているが、クリスも同じクラスだった。そして豪、神田、アンナもこのクラスにいた。
委員長の席はかなり前の方だった。
クリスらも後ろの方の席にいるはずだったが、確認する前に女子にもみくちゃにされたのと、授業が始まってしまい、委員長という手前後を振り向けなかったという事があった。それで委員長は教室に入ってからまだ他のメンバーの姿を見れないでいた。







スポルティーファイブ 第7話 委員長の恋. [act.7] 230



休憩時間になった。
後ろを振り向くとクリスがいる事はわかったが、委員長は再びクラスメートによってもみくちゃにされた。
また女子達がひっきりなしに話しかけて来た。
女同士の話は取り止めが無い。質問が来てその質問に答える前に次の質問が来たりする。
それでも会話は成り立っていて女の子達は「きゃーーきゃーー」言いながら会話を楽しんでいた。

だがその人だかりのせいで委員長はクリス達の様子はわからなかった。だが自分と同じように教室内に人だかりの山が2つほど出来ているのが見えた。







こうして午前中の授業はあっと言う間に終わり、お昼休みになった。
委員長はさすがに疲れたし、お昼ぐらいは自分をもみくちゃにする集団から離れてクリスと一緒にゆっくり過ごそうと勝手に決めていた。だが、教室を見回してみたがクリスの姿はなかった。

委員長「がっかり…。」

クラスの女子がお昼をいっしょにと誘いに来たが、なんとかそれを断ってクリスを探す事にした。
気が付くと神田や豪、アンナの姿もなかった。
そこで廊下に出て、例の桜の木がたくさん生い茂っている芝生の辺りを見てみた。夢で見たあの場所である。
人影は見えなかったが、よく見ると木の根元の影になった部分にジュースの缶が置かれているのに気付いた。

委員長「クリス君?!」

クリスに間違いないと委員長は確信した。
そしてすぐに外に出ようとした。夢の通り、廊下の突き当たりには外へ出られる扉があり、緑色のペンキで塗られた鉄製の重いドアがあった。そこから外に出た。
そしてさっきの桜の木に向かって一目散に走って行った。そして木の幹の向こう側に回りこんだ。

委員長「クリス君!!」




しかし……………、




そこにいたのは………、




神田だった。












委員長「 かっ、かっ、神田君?!!!!











大きな声を出す委員長。これには神田の方が驚いていた。

神田 「あわわ!なんや委員長?!急にデカい声出しおってからに!!びっくりするやないか?!」

委員長は気落ちした。
そしていささか怒り気味になった。

委員長「こっちこそびっくりしたわよ!なんで神田君がここにいるの?!」

神田 「”なんで神田君が”?何やその言い方は!!
がっかりさせて悪かったな。俺がここにいちゃ悪いみたいやないか!」

委員長「もうーーーー!てっきりクリス君かと思ったじゃない!」

神田は怒っていた。

神田 「勝手に勘違いして、勝手に大声で叫んどいてこれか?!
逆ギレしとるんやないで!これやから、きょうびのオナゴはようわからんのや!
まったくもうーーーー!!!」

しかし委員長は神田を無視してクルッと方向を変えて、その場を去ろうとした。

神田 「なんや委員長?!俺に会いに来たんやないのか?冷たいな!」

委員長「貴方じゃない。クリス君、クリス君」

神田 「クリス以外には用はない言うんか?!」

神田は強気の発言。
しかし………、
委員長は振り返りもせずにその場を去って行く。
急にさびしそうな態度になる神田。

神田 「委員長でもええわ!いっしょに飯でも食おうや!」

神田は委員長を呼び止めようとした。

委員長「”でも”?」

神田 「ああ、アンナちゃんの代わり。」

委員長「くーーーーーー!!!」

委員長、激しく怒る。

委員長「やっぱりクリス君を探しに行きます。」

そう言ってその場を去ろうとした。

神田 「あ~~~~~あ。」







スポルティーファイブ 第7話 委員長の恋. [act.8] 231



すると、そこに豪がやって来た。
両手には白い薄手の紙袋を抱えていた。そこには購買部で買って来た物が入っている。

委員長「あっ、豪君!」

豪 「委員長、こんにちは。これからいっしょに昼食でも食べませんか?」

委員長「ええ、そうね。でも…、クリス君知らない?いっしょに食べようと思って探しに行く所だったんだけど。」

豪 「後から来ますよ。さっきクリス君と会って、いっしょに桜の木の根元で食べようと喋ってきたところです。」

委員長「そう!じゃあ、皆でいっしょに食べましょう!」







そして、委員長は桜の木の元に戻った。そして神田の座っている所からホンの少し離れた所に腰を下ろした。

神田 「あ、あ、あ、委員長!」

その声を聞いて、豪が神田の存在に気が付く。

豪 「あれ?神田さん、いらしたんですか?」

神田 「あったり前じゃい!!さっき委員長と顔会わせたばっかりなんやで!」

豪 「え?さっき?」

委員長はそれをまったく無視して、自分のお弁当箱を取り出して、そのヒモを解き始めた。

神田 「くわああああ!!無視してる!委員長って意外と冷たいんやなあ。初めて知ったわ。」

神田は一度立ち上がって、委員長のすぐ隣に腰を下ろそうとした。委員長の左側にはすでに豪が腰を下ろしていた。委員長は神田に言った。

委員長「ちょっと!そこはクリス君の席よ!」

神田 「ぐわああ!なんでや?!なんちゅう冷たい言い方や!見損なったで!」

神田はこぶしを握り締めた。委員長はなおもまったく無視。どうやら委員長の方が”上位”らしい。委員長は豪に話しかけた。

委員長「そういえばアンナは?」

豪 「アンナさんですか……?今ごろはたぶん男子にもみくっちゃにされているんじゃないですか?」

委員長「え?男子に?」

豪 「知らないんですか?アンナさんはもともと密かに人気があるんですよ。
だから男子から声をかけられる事が多いんです。
でも、アンナさんは普段はああいった方ですので、男子とは付き合いません。
それでも今日は久しぶりにアンナさんが登校したので、うちのクラスの男子は大騒ぎになったんですよ。教室に出来たあの人だかり、見ませんでしたか?」

確かに教室には人だかりが2つほどできていた。もっとも委員長の周りも人だかりだったが。

神田 「ああ、久しぶりに登校したというのに、なんで俺に周りには女子の人だかりができへんのや?」

委員長、神田のこの言葉も無視。

委員長「そういえば、他にも人だかりがあったわね?」

豪 「クリス君ですよ」

委員長「えーーーーーーーーーーー?!!!」

豪 「何人かの女子が集まって来てましたが。」

委員長の頭の中で鐘の音がゴウンゴウンと鳴り響いたような気がした。

豪 「クリス君モテるんでしょうか?話しかけたかったけど、周りに女子が輪を作っていて、入れなかった。やはりあれは……。」

委員長「……。」

神田 「いいや。クリスがモテるなんて事あらへんで!あれは貸した金を返せと集まって来た集団や!」






スポルティーファイブ 第7話 委員長の恋. [act.9] 232


その時、校舎の方からクリスが歩いて来るのが見えた。

委員長「ああ、クリス君ーーー!」

委員長は立ち上がって大きく手を振った。

神田 「なんや委員長。普段出す声と全然違うやんか!
いつものドスの効いた声はどうした?クリスを呼ぶ時だけ女っぽい声や!」

普段と違って何も考えてないような委員長のこの行動に神田はさげすむような目付きをした。
委員長のこんな様子は他では見られない。クリスと会う時だけである。
それに委員長の目付きは明らかに変わっており、恋する乙女のそれのように見えた。

神田 「クリス、クリスって………、クリスがいったいなんぼのもんや?
他にも男はおるちゅうのに!!」

豪 「…………。」

神田は大いにボヤいた。
その時、クリスの横を女子が1名歩いてくるのが見えた。いままではクリスの背に隠れて見えなかったのだ。

委員長「あ。」

それは…………、アンナだった。
今日のアンナは少しだけ笑顔だった。普段はポーカーフェイスのアンナが笑っていた。アンナが笑う所はめったに見られない。アンナの笑っていない時の顔の造形は実に神秘的だったが、笑うとまた違った魅力を発した。

委員長「はあ……。」

制服姿のアンナは純真で綺麗な女の子に見えた。

突然、神田が豹変した。急に元気になった。

神田 「アンナちゃん!!!」

もう神田の頭の中ではさっきまで重要なウエイトを占めていた委員長の存在は…………、無くなったようである。

神田 「アンナちゃんの学生服姿はひさしぶりや!!!」

学生服姿のアンナはましく”美少女”と言ったいでたちだった。
クリスとアンナは委員長達の所まで来て立ち止った。

クリス「やあ。」

委員長「クリス君。」

委員長は思わずクリスの目を見つめてしまう。
そこへ神田がオーバーアクションで割って入った。

神田 「ア・ア・ア・ア…アンナちゃん、こちらへどうぞ!」

神田はアンナに自分の隣に座るようにすすめた。

委員長「………………。」






それから芝生の上に座って皆で少しだけ遅くなった昼食を食べる事になった。
青い空の下で食べる昼食はまた格別だった。
クリスとアンナは隣同士に座った。
委員長もその反対側を陣取った。
でも委員長にはクリスとアンナがどんどん親しくなって行くように思えてしかたなかった。

委員長は自分で作って来たお弁当をクリスに差し出そうとした。実は早起きしてクリスの分も作って来ていたのだ。かわいい絵柄の布に包まれたお弁当は誰が見ても女の子が作ってきた物と一目でわかった。

クリス 「あっ、ごめん。僕、もう昼食を買って来たし………………。」

委員長「そう………。
(クリス君には迷惑そう。でも、ここは強引にすすめなくっちゃ!)」

すると横から神田が、

神田 「委員長!クリスは迷惑そうにしとるで。やめときいや。」

委員長「(カチン!)」

神田 「しかたないわ。資源は捨てちゃいかん。再利用できるものは再利用しなくっちゃな。
俺が……、その弁当を”リサイクル”してやろう。」

神田は委員長の手の中に握られたお弁当箱に手を伸ばした。
委員長は怒って、お弁当箱をサッと退ける。

委員長「いーーです!!無理に神田君に食べてもらわなくとも!!
豪君に食べてもらいます。
豪君ーーー!いかがですか?」

豪も最初から自分のために用意された物でないので、箸をつけづらかった。






スポルティーファイブ 第7話 委員長の恋. [act.10] 233


神田 「なんや委員長?!そんな冷たい女やったんかいな?!顔に似合わんことしいなや!」

と神田はのたまわった。

その後、クリスは無理して委員長のお弁当に少し箸をつけた。
委員長は喜ぶ。
でも、なんだかその後、お弁当のおかずは神田・豪にまで行き渡っていた。






こうして楽しいお昼休みはあっと言う間に過ぎた。
それでも委員長はけっこう楽しんだ。
しかし、やはりアンナとクリスが仲が良い事実は否定しきれなくなってきた。

その日、皆は一緒に校門から下校した。






次の日は土曜日だった。
その午後の事。
委員長はクラスメートの女の子達に午後から街に出かけないかと誘われた。久しぶりなので皆でショッピングにでも行こうと言うのである。
委員長はその誘いに乗ることにした。
下校後、委員長は近所のリニヤモーターカーの駅に行き、その駅前のロータリーで他の人を待っていた。他のクラスメートは別のルートから来る事になっていたからだ。

辺りにはカップルが行きかう。

委員長「はあ~~。」

それを目にした委員長はいやがおうにもクリスとアンナの事を思い出してしまう。

委員長「(アンナさえ私たちのグループに来なければ………。
いえ、アンナが来る前にもっと私がクリス君と親しくなっていれば、今頃………。)」

委員長はその事をすごく後悔し始めた。

委員長「あの日、あの時、あの瞬間………。
はあ~~~~~。後悔しても元には戻らないのよね~~~~。」

委員長はため息をついた。

委員長「(他の人を探した方がいいのかな……?)」

そう考えた時……、





「何を悩んでいるの?」





委員長「え?」

誰かに声をかけられた。男性の声だ。知った声ではない。

「顔にそう書いてある。悩みを抱えているってね。」

委員長が振り返ると、一人の男性が立っていた。
歳は18から20歳ぐらいに見えた。同じ年ぐらいにも見える。
髪は染めているような感じのやわらいブラウン。
顔立ちは欧米人系。ブルーの瞳。でも見る角度によっては日本人の若者にも見える。
服装は薄手の軽いジャンパーのような物を着ていた。
季節はもう秋に向かう頃で、まだジャンパーは少し早いように思えた。
そのジャンパーには派手な模様が入っていたが、そこに書かれたロゴは何語で書かれたものか見当もつかなかった。そのファションセンスはミュージシャン系といった方がよさそうだ。

それにしてもなぜ声をかけて来たのだろうか?
委員長は警戒する。

「君の言う通り、その女の子と彼が知りあう前に、君が彼ともっと親しくなっていれば良かったのにね。」

委員長「………………。」

さっき委員長が頭の中で考えていたクリスとアンナの事を言っているのだろうか?当っているだけに気味が悪い。
それにしても馴れ馴れしく遠慮なく話しかけて来るこの男はいったい何者だろうか?

委員長「(どうして私が頭の中で考えた事がわかるの?)」

そう考えると、彼が答えた。

「わかるんだよ。君の考えている事がね。種明かしをしてあげようか?だが、それにはちょっと”お茶”に付き合ってもらう必要があるけどね。」

委員長「お茶に?」

どうして、わざわざお茶に誘う必要があるのだろうか?

委員長「いいえ、だめです。私には今から予定がありますから。」

「ああ、そうだね。君には予定があったんだ。でもその予定はどうせダメになるよ。」

男性は自身に満ち溢れた感じでそう言った。

委員長「……………………。(どうして私の予定なのに、そんな風に言い切れるの?)」

「電話をかけてみるといいよ。そのクラスメートに。」








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