虹の空

虹の空

笑顔の行方【2】



「……ん、海ね……」
 って……
 今、海って言った?

「海ぃ?」

わたしは竜也に向かって叫んだ。
海って……。
竜也はわたしを見てニカっと笑った。
「そっ、海。行くよ」
「なっ、何考えてんの? 海って……。今、冬よ? おかしいんじゃない? それに、今行っても誰もいないよ!」
「冬の海はいいよ~。それに、誰もいなくてもいいじゃん。オレとふたりで行けるんだから、もっと喜べよ~」
 ふたりで……。
 この言葉がやけに心に響く。
 本当はすごくうれしいのに、恥ずかしくって竜也に突っ掛かっちゃう。

「なっ、何言ってるのよ! な~にがふたりで行けるんだから、よ」
「おっ、いつもの花澄ちゃんになった? 授業終わったらすぐ行くからなっ!」
 竜也はそう言ってわたしの肩をポンッとたたいて、笑顔になった。

 トクン……。
 竜也……。
 もしかして、わたしのこと元気づけるために……?
 なーんていう解釈は考えすぎかな……?
 でも、いいよね?

 午後からの授業はほとんどといっていいほど耳に入らなかった。
 頭の中は竜也とふたりで海に行くことでいっぱいだった。
 だって、ふたりで行くんだよ!
 今までも、竜也といろんなところに行ったけど、今日はわけが違う。
 だって……海に行けるんだもん。

 いつも、夏にはみんなで海に行ってた。
 だけど、みんなで行く海と、竜也とふたりで行く海は違う。
 それに、竜也と一番行きたかった所だもん。
 一番のあこがれてたところ。

 そして、心臓は……。
 ドキドキが鳴りっぱなし。


~6~

 隣の竜也はというと……。
 やっぱり寝てる……。
 いつも、5,6限は竜也にとって睡眠タイム。
 竜也は、何も気にしてないんだもんね。
 わたしだけこんなにドキドキしちゃって……。
 心臓が治まらないよ~。
 鼓動が大きくなるにつれて、時間も過ぎていく。
 あっ、あと1分で授業が終わる。
 自然とカウントしちゃう。
 5・4・3・2・1……。
 キーンコーンカーンコーン……。

「授業、終わりっ!」

 チャイムと同時に竜也は起き上がった。
 び、びっくりしたー。
 心臓壊れるかと思った……。
 なんちゅう奴だ!
 いつものことだから慣れてるはずなんだけど……。
 なんて思いながらわたしは、カバンを片付け始めた。
「花澄ちゃん~。遅いって! 授業終わったら行くって言ったでしょ? 早く行くよ」
 竜也はそう言うともう、準備万端、整っている。
 早いよぉ~。
「ちょ、ちょっと待ってよ~」
 こういうことだけは早いんだから……。
 さっきまで、ぐっすり寝てたくせに……。
 でも、竜也はそういう奴なんだよねっ。


~7~

「ねぇ、海って、どこ行くの?」
「まぁ、行けば分かるさっ」
 わたしと竜也はすぐ学校を出て、電車に乗り込んだ。
 いつもと同じ電車で、いつもと同じ席。
 それなのに、何だか全然違う気がしてたまらない。
 電車の中で、竜也は一言もしゃべらないし……。
 わたしのドキドキは高鳴っていくばかり。

 電車は、いつも、わたしが降りる駅を通り越して、どんどん進んでいく。
 そして、車内の人もどんどん減っていく。
 外は知らない景色。
 住宅街ばかりだったのが、緑に変わっていく。
 こんなところまで来ないから、分かんないや……。
 わたしは初めて見る景色に目移りしていた。

 えっ?
 海……?

 ちょうど、電車は、海岸線に走り始めていた。
「降りるぞ」
 竜也はそう一言言うと、立ち上がった。

 電車から降りると、目の前には海が広がっていたんだ。
「こんなところに海があるなんて知らなかった……」
「お前、何年ここに住んでるんだよ! 信じらんねー」
「だって、こんなところまで来ないもん」
「まっ、今日はひとついい勉強になったな!」
 竜也はまるでちっちゃい子をあやすようにわたしの頭をポンポンっとたたいたんだ。

 わたしと竜也は海に向かって歩き出す。
 知らなかった……。
 こんな場所があるなんて……。
 あっ、海の香りがする……。
 でも……。
 さすがに冬の海だけあって寒い~。
 寒すぎる!
 冬の海がこんなに寒いなんて知らなかった。


~8~

「竜也……寒い!」
「あったり前だろ? 今冬だぜ? ふ・ゆ! 暖かいわけがない!」
「そんなこと、分かってるわよ! 風邪ひいちゃう~」
「お前は、大丈夫だ! そんなにやわじゃない」
「あー、ひっどーい。明日、風邪ひいて、竜也のせいだ! って訴えてやるんだから!」

 そうなの!
 寒すぎるの!
 実は、わたし、すっごく寒がりなんだよね~。
 身体中が冷えちゃうんだもん。

「しょうがねぇな~」

 あまりにも寒いーって文句を言うわたしを見て、竜也は自分のカバンの中からマフラーを出した。
 すると、わたしにかけてくれたんだ。
 すごく自然に……。
 わたしはびっくりして目が点!

 うそ……。
 た、竜也……?

 ぶわーっと。
 身体が熱くなる。
 何だか顔も赤くなってる気がして、わたしはうつむいた。

「これでいいだろ? でも、花澄は絶対風邪なんかひかないと思うけどな……。ほら、バカは風邪をひかないって言うじゃん」
 そう言った竜也は砂浜に座った。
「うわー、ひっどーい」

 竜也がそんなこと言うから……。
「ありがとう」
って言うタイミング、逃しちゃったじゃない。
 でも、うれしかった。
 まさかマフラー掛けてくれるなんて思ってもいなかったから……。
 何だかすごく暖かい。


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