私の沼

私の沼

ムカシ話


目がひとつだけだった頃、家というのは全部が布と革で出来ていました。
壁は革張りで、屋根は布を何重にも重ねて、一番上にはオーガンジーやサテンなどで美しく飾るのが一般的でした。
雨?
そんなものは降りません。
川も湖もありますが、雨なんて降りません。
不思議ですか?そうでもないでしょう?簡単なことです。とても簡単な。
これは目がひとつだけだった頃のお話です。

あるきょうだいが、家の前で遊んでいました。すると、弟が変な歌を歌いだしました。

「骨
 骨
 骨
 踏み潰せ
 肉
 肉
 肉
 踏み潰せ
 僕は死んだら家になる
 僕は死んだら家になる」

そばで聞いていた姉はびっくりして、
「そんな歌はやめなさい」
と注意しました。
けれど、弟は歌をやめませんでした。

「骨
 骨
 骨
 踏み潰せ
 肉
 肉
 肉
 踏み潰せ
 僕は死んだら家になる
 僕は死んだら家になる」

姉は不安になって辺りを見回しました。すると、さっと何人かの人影が姿を隠すのが見えました。
「本当にやめなさい。もう遊ばないわよ」
姉が脅すと、弟はようやく歌をやめました。
しかし、もう、手遅れでした。

その日の夜、お父さんとお母さんが言いました。
「あなたたちには壁になってもらうことになりました」
姉はびっくりして泣きましたが、弟は平気な顔をしていました。

次の日、姉と弟は、集まってきた村の人に殺されました。
お父さんとお母さんは、たくさんのお酒を飲んで、にこにこ笑っていました。
姉と弟は、目をくりぬかれ、体の皮を丁寧にはがされ、中の肉と骨と内臓は棍棒で砕かれ、ビニールシートの上で丁寧にぐちょぐちょに踏み潰されて骨交じりのミンチになりました。
村の人たちは皆お酒を飲みながら楽しそうに、交代でがんばりました。
そしていよいよ、それらのミンチ肉を、特別な壁材と混ぜ、少し古くなってきていた壁に塗りこめました。
そして最後に、姉と弟の皮を伸ばして貼り付け、家は見違えるほどきれいになりました。
「これでこの家は安泰だ」
お父さんもお母さんも大喜び。
そして二人の目玉は、最後に家の前で焼かれました。

目がひとつだけだった頃のお話です。ムカシ、ムカシ、の。




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