吟遊映人 【創作室 Y】

吟遊映人 【創作室 Y】

決断の瞬間

 
【書評】
★決断の瞬間
明確な目標を持つ

「今、自分は何をするべきなのか、何をしたら最善なのか?」

人は様々な場面において、状況を的確に判断する必要性に迫られる。その能力が鈍い人を若者たちの間では「KY」(空気の読めない人)と呼ぶらしい。
本書に寄れば、空気を読む、すなわちその場の状況を把握し、明確な指針を打ち出すというのは、リーダーとして必須条件の一つであることが理解できる。

本書は、十六人の著名人に対して行われたインタビューであり、各自に「決断の瞬間」を振り返ってもらいながら、読者にリーダーとしての条件とは何かを考えるきっかけを与えてくれる。

取り上げられているのは、蜷川幸雄、柳本晶一、鈴木亜久里、仲代達矢、佐渡裕、春風亭小朝、山下泰裕、市川團十郎など、長年に渡り各界の第一人者として活躍している人ばかりである。
そんな彼らが、自らの出発点を見つめ直し、これまでの過程を振り返りながら、現在の仕事で最も大切にしていることを語っている。

インタビュアは、読者が欲する情報を丁寧に掘り下げ、うまく引き出すことに成功している。そしてさらに、要所要所で光るのが掲載されている写真だ。プロフェッショナルとしての熱く厳しい眼差し、対照的に緊張から解き放たれた屈託のない笑顔。リーダーたちそれぞれの真の姿を正面から、あるいは側面から捉えたアングルは正に芸術で、思わず息を呑む「美しさ」なのだ。

本書は正に、読んで激励され、見て感動を覚える珠玉の一冊である。

伝統芸能を引き継いでいる人の場合は、歴史と伝統のバランスを保ちながらも、新たなものを創造していく独自性が求められる。役者や演出家の場合には、オリジナリティあふれる世界を表現し、それを次世代に伝えていく役割を担っている。スポーツの世界では、勝敗が決する以上、結果がすべてという見方をされがちだが、個人なら自己管理、チームを率いるなら人心の掌握力が必要となる。客商売の場合には、いかにして客に幸せを届けるかが重要なポイントになってくるのだ。

十六人それぞれに活躍する世界は違うのだが、彼らプロフェッショナルに共通性があるとすれば、それは何なのか?  ここでは春風亭小朝師匠のインタビューより、次の言葉を引用させて頂く。 「やりたいことを明確にすることがだいじですね。あとはハートだと思います。(中略)なんでかというとね、テクニックじゃないと思っているから」

現在に至るまでの過程で挫折があろうとなかろうと、そのつど目標を明確にかかげることが大切なのだ。そしてそれを達成しようとする揺るぎない熱い気持ちが、いかに必要なことであるかがわかるはずだ。

流行や体裁に捉われて難解な文学に踊らされるより、試練や挫折から学んだプロフェッショナルの人生の機微を肌で感じて欲しい。結果を出すために必要なことは、「仕事への真摯な取り組み方と情熱」「たゆまぬ努力」以外の何ものでもないことがわかる。 「今、自分は何をするべきなのか、何をしたら最善なのか?」  そこに迷いを感じている人には、必読の書である。
 


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