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【テルマエ・ロマエ】「ローマ帝国のためだと思って、テルマエを作ってもらいたい」「私にお任せ下さい!」《笑う門には福来る》とは言ったものだ。年明け早々、辛気臭い顔をしていたらせっかくの福徳も逃げてしまうに違いない。何か愉快な作品でも見て、笑顔で新春を迎えたい。とはいえ、なかなかゲラゲラ笑える作品というものはありそうでないものだ。そんな中、少し前の作品だが『テルマエ・ロマエ』を見た。すでに6年も前に公開されたものだが、当時はコメディというジャンルにあまり触手が動かずスルーしてしまった。今さらという気がしないでもないが、今の私は笑いに渇望しているので、背に腹は代えられない。事前の予習としてウィキペディアをのぞいてみると、ローマ人よりローマ人らしい「日本人屈指の濃い顔」として、キャスティングを評してあった。その顔ぶれたるや、阿部寛を筆頭に市村正親、北村一輝、宍戸開、それに竹内力、うん納得だ。『テルマエ・ロマエ』のストーリーはこうだ。舞台は西暦130年代の古代ローマ。浴場設計技師のルシウスは、自分の型にはまった設計案が採用されず、苦悩していた。気を紛らわそうと公衆浴場へ出向いたところ、そこはバカ騒ぎの場となっていて、心を落ち着かせるどころではなかった。思わず、その喧噪から逃れるように湯舟に身を沈めると、浴槽の壁の一角に穴が開いているのを見つけ、近づいたところ、足を取られて吸い込まれてしまう。やっとの思いで水面に顔を出すと、そこには「平たい顔」の民族がくつろぐ、見たこともない様式の公衆浴場にタイムスリップしていた。ルシウスは「平たい顔族」(現代の日本人)の文明の高さに驚き、目を見張った。壁面に描かれた見事なイタリア・ベスビオ山らしき絵(実際には富士山の絵)。脱衣場に設置された扇風機、衣類を入れておくカゴ、それにくつろぐための椅子。すべてがすべて、ローマ帝国より勝る文明だった。さらには、のぼせて気を失ったルシウスに平たい顔族の一人が親切にもフルーツ牛乳をふるまってくれたのだが、その美味なる喉越しの良さに感動を覚えるのだった。ルシウスはこれを機に、古代ローマと現代日本を行き来し、平たい顔族の銭湯で得たアイディアをローマでの浴場設計に活かすのであった。『テルマエ・ロマエ』はもともと「コミック・ビーム」というマンガ雑誌に連載された作品が原作となっており、作者はヤマザキマリで、その夫はなんとイタリア人とのこと。当初は単行本が5000部ぐらい売れたら御の字だと思っていたところ、50万部も売れる大ヒット作となり、戸惑いを隠せなかったらしい。(ウィキペディア参照)監督は武内英樹で、テレビ・ドラマの演出などを数多く手がけ、高視聴率をたたき出した人物である。代表作に『のだめカンタービレ』などがある。 『テルマエ・ロマエ』のおもしろいのは、「平たい顔族」と呼ばれている我々日本人の、日常に紛れた何気ない道具や行為を、高度な文明と文化として紹介している点であろう。主人公ルシウスに扮する阿部寛が、その一つ一つに驚きを隠せず、ショックと感動の連続で物語は展開してゆく。ケガや病気の治療として温泉に浸かる湯治の効果や、地熱を利用した腰痛緩和や疲労回復は、海外向けの観光PRにもなっており、旅行会社や温泉組合から絶大な支持を受けたという理由がよくわかる。内容は至ってバカバカしいのに、それがちゃんとコメディとして耐えられるおもしろさなのだから、そうとうな完成度の高さである。ロケ先は伊豆の熱川バナナワニ園だったり、河津温泉郷だったり、伊豆箱根国立公園だったりで、私にとっては懐かしい故郷が映し出されていて、それだけで大満足だった。笑うことは体にも良いことなので、この作品を見て皆さんにもゲラゲラと笑ってもらいたい。体内に溜まった邪気を、笑いで吹き飛ばし、今年一年も明るく楽しく過ごしましょう! ※テルマエ・ロマエ=ローマの公衆浴場の意。 2012年公開 【監督】武内英樹【出演】阿部寛、上戸彩、市村正親
2018.01.20
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【僕達急行~A列車で行こう~】高校生の息子が嬉々としてTSUTAYAでレンタルして来た。言うまでもなく息子は鉄道ファンである。私が仕事に出かけている日中、春休みであることを良いことに、じっくり鑑賞したようだ。「オレはどっちかって言うと、小町派だな」などと言うので、よくよく聞いてみると、小町というのはこの作品の主人公で、松山ケンイチ扮する鉄道オタク。列車に乗って車窓を眺め、一人の世界に耽って音楽を楽しむというタイプ。一方、もう一人のオタクは小玉で、車両に使われている鉄をこよなく愛するというタイプ。同じ鉄道オタクでも、息子は前者のタイプというわけだ。ふだん邦画はそれほど見る方ではないが、息子が借りて来たついでに、私も鑑賞させてもらうことにした。撮影秘話によれば、鉄道会社の全面協力を得て、なんと通常運行のダイヤを一切乱すことのない撮影だったとな!やっぱり日本の鉄道会社はスゴイ!!関東での主なロケである北千住、尾久、西日暮里の車内シーンは、どんなワザを使って通常運行に影響を与えることなく撮影したのだろうか?(無論、深夜の撮影ではなく、日中の撮影シーンである) 『僕達急行』のストーリーはこうだ。のぞみ地所に勤務する小町は鉄道ファンなので、車窓を眺めながら音楽を聴くスタイルを好しとし、せっかくのデートなのに彼女を飽きさせてしまう。結果、フラれてしまった。一方、コダマ鉄工所の二代目・小玉健太は、社長でもある父から憂さ晴らしにキャバレーまで誘われるものの、無類の鉄道オタクなのでホステスらと話がかみ合わない。そんな小町と小玉はひょんなことから出会い、意気投合する。そんな折、小町は東京本社から九州支社への転勤辞令が下る。周囲は左遷だと思って気の毒がるものの、当事者の小町は九州の鉄道を楽しみたい一心で、二つ返事で了承した転勤だった。不景気のせいでろくに仕事の依頼も少なく、しかも女の子にフラれてしまって意気消沈の小玉は、小町の転勤先である福岡まで青春18きっぷで出かけることにした。福岡で再会を果たした二人は、九州のローカル線の旅を満喫。その旅先で鉄道ファンの男性と出会い、これまた意気投合するのだった。 この作品を見てつくづく思ったのは、邦画の良さはこういうほのぼの感にあるのだということだ。ハリウッドに見られるようなCGを駆使した特撮などではなく、雄大な自然美をそのまま映像化した風景描写とか、多くをセリフとして喋らなくても、視線の動きとかさりげないしぐさで分かる心理描写などである。「狭い日本、そんなに急いでどこへ行く?」という標語が使われなくなって久しいが、たまにはのんびりと何からも煩わされず、各駅停車の列車に揺られて旅してみたくなる。この映画のメガホンを取った森田芳光監督は、2011年に他界され、この『僕達急行』が遺作となってしまった。代表作に『失楽園』や『武士の家計簿』などがあり、幅広いテーマで視聴者を楽しませてくれる映画監督だった。61歳という若さでこの世を去ったことが残念でならない。ご冥福をお祈り申し上げます。 2012年公開【監督】森田芳光【出演】松山ケンイチ、瑛太
2014.04.13
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【オー・ブラザー!】「悪魔に魂を売った代償は何だい?」「ギターの名人になれました」「そのために不滅の魂を売っちまったのか」「魂なんて使わないから」ジョエル&イーサン・コーエン監督作品ということで、期待してご覧になった方々は多いはずだ。前作の『ファーゴ』では、新しい感覚のサスペンスに度肝を抜き、映画界に新たな天才の誕生を予感させた。それを裏付けるかのように、『ファーゴ』ではアカデミー賞主演女優賞を獲得しているし、『オー・ブラザー!』では主演のジョージ・クルーニーがゴールデン・グローブ賞を受賞している。映画というものは不思議なもので、どれほど玄人筋から絶賛され、評価されようとも、世間一般からはイマイチの感想を聞くことは少なくない。要するに、映画は大衆の娯楽でなければいけないのだ。その点、『オー・ブラザー!』は、賛否両論クッキリハッキリ分かれるところだろう。 カテゴリとしてはコメディに区分されるものの、おおよそ日本人の求めるお笑いからは逸れているような気がする。そんな中、やはりコーエン兄弟はスゴイと思われるのが、カントリー調の音楽、そしてノスタルジックな感覚を呼び覚ますセピア色の映像美だ。脚本に関しては、アメリカ南部を舞台にしているせいか、陽気でファンキーな土地柄と、アメリカン・カラーの濃い音楽に圧倒され、内容がすんなりと入って来なかった。残念。1930年代のアメリカ南部、ミシシッピ州の片田舎が舞台。服役中の3人の囚人、エヴェレットとピートとデルマーは、脱獄を図る。なぜなら、エヴェレットが窃盗で手に入れた120万ドルの隠し場所が、近いうちに人造湖建設のため水没する予定地だったのだ。3人は、なんとかその前に120万ドルを手に入れようと、必死で現金の隠し場所へと向かう。そんな中、3人は、悪魔に魂を売ったというギタリストの黒人青年トミーと出会う。その後、4人で一仕事当てようということで、ずぶ濡れボーイズというグループ名で歌をレコーディングすることになった。ところがそんなずぶ濡れボーイズの歌がラジオから流れることで、思わぬ人気を呼び、大ヒットするのだった。正直なところ、個人的には『ファーゴ』や『ノーカントリー』のような、乾いたサスペンス作品の方が好きだ。もともとミュージカルには抵抗があるので、歌って踊れるような内容は苦手かもしれない。笑いを求めて鑑賞するには少し難があり、コーエン兄弟監督作品を、あれこれ研究したい方に向いている。必見というほどではないにしても、そこそこ楽しめる作品といったところだ。2000年(米)、2001年(日)公開【監督】ジョエル・コーエン【出演】ジョージ・クルーニー
2014.03.23
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【南極料理人】「エビが何だって?」「いや、でっかい伊勢エビがあるんだってよ」「ああそう。じゃああれだな、エビフライだな」「他にあるんじゃないですかね」「あ?」「ゆでたり、すりつぶしたり」「西村君」「はい」「俺達、気持ちはもう完全にエビフライだからね」久しぶりにおもしろい作品に出会った。なんと表現したら良いだろうか。静かな笑いが込み上げて来るとでも言おうか。内容そのものは淡々としているのだが、登場人物の個性たっぷりのキャラが、そこに存在するだけで愉快なのだ。さらには、発している一言一言がシリアスでさらりと言いのけているだけに、かえっておもしろさが倍増される。主役の西村を演じたのは、最近注目の俳優である堺雅人である。この役者さんの特徴である、いつも笑っているような顔つきは、若干、竹中直人の演技にも通じるものがある。それは例えば、笑いながら泣いたり、笑いながら怒ってみたり、感情表現を複雑に演出してみせるのだ。ある意味、天才肌である。吟遊映人が「あれ?」と目を見張ったのは、忘れもしない「壬生義士伝」の沖田総司役として出演した際の、堺雅人である。とにかくこの役者さんの存在感は、凄いと思った。海上保安庁から南極ドームふじ基地に派遣された西村は、料理担当。同僚たち観測隊員のために、三度の食事を来る日も来る日も作り続ける。限られた食材で、腕によりをかけて調理するのだ。だが、極寒の地、南極は日本から1000キロも離れた場所である。日本に残して来た妻子を想わない日はない。平均気温マイナス54度の地には、ペンギンやアザラシはおろか、ウィルスさえ生存できないという過酷な場所なのであった。この作品を観終わると、不思議にも軽い時差ボケ状態になるのはなぜだろう?まるで自分が南極にいるような感覚に陥ってしまうのだろうか?(笑)これほど楽しく愉快な作品は、四の五の言わずにとにかく観ていただきたい!ほのぼのとした優しさと、明るい気持ちに包まれる作品であった。2009年公開【監督】沖田修一【出演】堺雅人、生瀬勝久、きたろうまた見つかった、何が、映画が、誰かと分かち合う感動が。See you next time !(^^)~追記~msnニュースで南極の話題を報じておりました!タイトルは「南極の難局!」なんてね♪それにしてもご苦労なことです。悪戦苦闘で任務を全うされる関係各位に謹んで敬意を表し、遠地から祈念を申し上げます(^人^)以下、記事(含画像)を記します、ご参考まで。しらせ、また接岸断念 昭和基地沖18キロから進めず 南極観測に影響必至2013.1.11※昭和基地へ向かう南極観測船「しらせ」9日午後、昭和基地沖(南極観測隊同行記者撮影) 第54次南極観測隊の必要物資を運ぶ観測船しらせ(1万2650トン)は厚い氷と雪に阻まれ、昭和基地の北西約18キロの海域で基地への接岸を断念した。文部科学省が11日発表した。前回も基地の約21キロ沖で接岸を断念。2年続けて接岸できないのは初代しらせ(昭和58年~平成20年)を含め初めてで、観測活動への影響は避けられない。昨年と同様、大陸から続く「定着氷」の海域で厚さ最大約6メートルの氷に阻まれた。氷へ乗り上げるように前進し船の重さで氷を割り進む「ラミング」を繰り返したが、1日の前進距離が1キロに満たない海域もあった。観測隊と海上自衛隊が周囲の氷の厚さをドリルで直接調べ、氷が薄いルートを開拓しながら接岸を目指したが、帰還のための燃料と日程を考慮し断念した。
2013.01.18
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「君のボスは大したプレーヤーだな」「ズルをやったのさ」「では金は払わん。もう一度やって決着をつける」「あなたは金を持っていない。(これは)あなたの財布だ。ショウが女にスラせたんだ」 コメディ映画と言うと、ややもすればチャップリンやキートンを連想しがちだが、モダニズム時代までさかのぼらず、70年代のニュー・ハリウッド時代におけるコメディ映画のことである。本作「スティング」の見どころは、小気味良いセリフの掛け合いや、体を張ってぶつかり合うことから生まれるお笑いとは違い、そのストーリー性にある。「スティング」のストーリー構成は実にはっきりとしたもので、“プレーヤーたち”“段取り”“引っ掛け”“作り話”“電信屋”“締め出し”“とどめの一撃”と言った具合に起承転結が見事に区分されている。この仕掛けられたお笑いは、コメディ映画に抵抗のあるインテリな視聴者にも充分満足感を与えてくれる内容に仕上がっている。舞台は1930年代のシカゴ。違法賭博の売上金を持ったモットーラは、路上で強盗の現場を目撃。黒人男性から巻き上げた財布を持って逃げて行く男、そしてその場を偶然通りかかった男性、さらにナイフで足を刺されて身動きの取れない黒人男性が視界に入る。通りすがりの男性が機転を利かして犯人めがけてバッグを投げつけ、慌てた犯人が財布を落として退散。その財布は無事に黒人男性のもとに返されるはずだった。しかし彼が言うには、約束の4時までにその財布の金を顧客に渡さなければ流用したと思われ、殺されてしまうとのこと。だが彼は足を刺されて立ち上がれない、そこで・・・。ロバート・レッドフォードとポール・ニューマンの二大スターの共演というのは見逃せない。特に本作ではアカデミー作品賞他6部門を総なめにし、ハリウッド・スターとしての立ち位置を不動のものにした作品でもあるのだ。甘く切ないマスクで売り出された二枚目スター、ロバート・レッドフォードが、若い詐欺師の役というのも実にユニーク。女性ファンのみならず、幅広い層の支持を集めることにも成功した。完成度の高い、優れたコメディ映画なのだ。1973年(米)、1974年(日)公開【監督】ジョージ・ロイ・ヒル【出演】ポール・ニューマン、ロバート・レッドフォードまた見つかった、何が、映画が、誰かと分かち合う感動が。See you next time !(^^)
2009.11.02
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「人を楽しませるのに高尚もへったくれもありゃしねーや」「でも・・・もし師匠が・・・」「こんなバカ師匠でも失うには惜しいってか?」役者一家に生まれ育ったとは言っても、これほどまでに実力派俳優は他にいないのではなかろうか。もちろん、津川雅彦のことである。先日亡くなった緒形拳とは盟友であったらしいが、彼もまた素晴らしい役者さんだった。 演技派の緒形拳亡き後は、もう津川雅彦が名俳優として1人背負って立たなくてはいけない“座”かもしれない。本作「落語娘」における津川雅彦の役どころだが、とにかく破天荒で自由奔放な噺家という設定。のらりくらりとしているようで、実は落語家のあり方を誰よりもわきまえた、優れた噺家なのである。この粋な役どころを津川雅彦が実にさばさばと、豪快に演じてくれた。また、今回主人公の香須美役をミムラが演じているが、津川雅彦に呑まれることなく堂々と、個性豊かに演じていた。余命いくばくもない叔父が無類の落語好きということもあり、病床で落語を披露したのがきっかけで、12歳より噺家を目指す香須美。大学では落研に入り、その後プロの門を叩く。三松家柿紅にあこがれて弟子入りを懇願するも、「女には無理だ」と断わられる。そこに助け舟を出したのが三々亭平佐で、香須美はたった一人きりの弟子として入門。 そんな中、三々亭平佐はテレビ局から呪われた演目「緋扇長屋」に挑む話を持ち掛けられるのだった。ここ数年前から落語ブームが再燃しているらしい。落語と言うと、同じお笑いでも漫才やコントなどより一段上にあるような気がして、どうも敷居が高く感じられる。だが、作中の津川演じる三々亭平佐のセリフにもあるように、「人を楽しませるのに高尚もへったくれもない」とすれば、落語を構えることなくもっと自然体で受け入れられそうな気がする。落語に興味のある人、これから落語を聞いてみようと思っている人、もちろん、この作品における出演者のファンの人など様々な人に「落語娘」をおすすめしたい。すっきりとした後味の、コメディタッチの作品なのだ。2008年公開【監督】中原俊【出演】ミムラ、津川雅彦また見つかった、何が、映画が、誰かと分かち合う感動が。See you next time !(^^)
2009.10.20
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「(おっと)失礼」「彼は(何者かね)?」「VIPです」「じゃわたしは? “ベリー・ウザイ・人(VUP)”?」永遠の映画人・淀川長治氏の著書を愛読する吟遊映人は、改めて「ああ、単なる一視聴者で良かった」とつくづく思った。趣味として映画を楽しめることほどステキなことはないからだ。氏の著書によると、「映画評論家というものはいいなあ、ただで映画を見て、それの批評を書けばいいのだからなぁと思う。(中略)実は素人考えで、試写を見る役目を持った人たちは映画館で金を払ってのん気に見るような見方では困るのである」とのこと。その試写室での白熱したムードと言ったらスゴイらしい。メモを取る人、あるいは一番前の席でスクリーンを食い入るように見る人、画面のワン・カットも見落としてはならないという心構えで見るのが仕事で、本気で見たら楽しむはずの映画でもくたくたになってしまうと言うのだ。映画を愛すれば愛するほど、つまらない映画を見なければならぬ時の苦しみは素人の想像以上なのだとか。思わず、席を立ってしまうのも理解できるとのこと。しかし、映画評論家らはどれほどバカげた愚作であっても、どこかにいいところがないであろうかと気を配り、そのための気疲れは並大抵のものではないと。このくだりを読んだ時、つくづく金を払って楽しめる一視聴者であることの幸せを噛みしめたわけなのだ。さて、「オーシャンズ13」。言わずと知れたソダーバーグ監督作品であるが、吟遊映人オススメの一作である。難しいことは分からないが、映画本来の役割でもある娯楽性、つまりエンターテインメントの世界を突き詰めた作品であると感じられるからだ。細かく分析すれば、もっと奥行のあることが語れるかもしれないが、あえて端的に言ってしまうと、このソダーバーグ作品では“独特のテンポ”を楽しんでもらいたい。ウィットに富んだ会話や出演者たちのオシャレな服装はもちろんだが、この監督の持ち味はズバリ“テンポ”だと思う。ある人物の時間と他の人物の時間軸の解体、そこから生み出されるテンポ。これは、ソダーバーグ的特質として受け留めて良いのではなかろうか。我々はお金を払って映画を観ることのできる立場にある。つまらない映画に出会ってしまったら、その作品をこき下ろすこともできる客の立場なのだ。だがもしも「ああ、この作品はスゴイ!」と思うような映画にめぐり逢えたら、とことん突き詰めて、一体何が、どうしてこれほどまでに心を揺さぶられたのかを自分なりに吟味してみるのも一興かもしれない。それにはまずたくさんの映画を観て、自分の好きな映画の傾向を知ることが先決だ。そんな中、これから何を観ようかと迷っている映画好きの方々に、ソダーバーグ作品はオススメである。言うまでもなく、現代映画に革新をもたらした才能溢れる監督なのだ。2007年公開【監督】スティーブン・ソダーバーグ【出演】ジョージ・クルーニー、ブラッド・ピットまた見つかった、何が、映画が、誰かと分かち合う感動が。See you next time !(^^)
2009.07.09
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「仕事に飢えた顔するな。お互い時間のムダになる」「彼の時間もな」「ベネディクトの話はよせ。聞かれたらすべて話せ。話は聞き逃すな。それに忘れるな」 「何を?」「聞くことを」うん、やっぱり「オーシャンズ」シリーズは傑作だ。誰が何と言おうとこの作品からかもし出す登場人物のエキサイティングな行動は、もはや痛快としか表現しようがない。「オーシャンズ12」は前回と比べると、ストーリーにかなり気を使った作品に仕上げられているような気がする。単純な泥棒稼業のプロセスを披露したものではなく、登場人物も入り組んでいるし、今回の窃盗では否が応でもやらなければならない理由などもあるし、ラスティと女性捜査官との色恋沙汰、親子の対面シーンなど、相当な背景が隠されている。まず、舞台からしてこだわりを感じたのは吟遊映人だけだろうか。設定としては、前回のカジノ強盗によりアメリカ国内では仕事がしにくいことからヨーロッパを舞台に繰り広げられるというわけだ。今回のターゲットは、ローマの美術館で展示される「ファベルジェの卵」を盗むというものだ。(泥棒のプロとしてのプライドをかけ、様々な監視カメラや警備の網の目を掻い潜り成し遂げる。)そんな中、作品では2世泥棒という泥棒のサラブレット(?)役として登場するマット・デイモン(38歳)が、実にユニークなのだ。何と言うか、仲間内では専ら三枚目で、いつも親の七光り(?)に苦悩する青年という役柄なのだが、この天然ぶりがおかしいのなんのって。だがこのマット・デイモンという人、実は秀才でハーバード大学を中退している。下積み時代はずい分と苦労も多かったようだが、2007年にはフォーブス誌によると、映画出演料においてトム・ハンクス、トム・クルーズを抑えてトップに輝いた。また、人権問題にも詳しい人で、慈善活動家としても名高いのだ。そんなマット・デイモンだからこそ、どんな端役でも体当たりの演技で視聴者を釘付けにする魅力を持ち合わせているに違いない。2004年(米)、2005年(日)公開【監督】スティーブン・ソダーバーグ【出演】ジョージ・クルーニー、ブラッド・ピットまた見つかった、何が、映画が、誰かと分かち合う感動が。See you next time !(^^)
2009.06.10
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「前代未聞の大仕事だ。綿密なプランと人手が要る」「銃は?」「必要ない。警備は堅いが報酬は・・・」「狙いは?」「1人8ケタ」「(狙いは)どこだ?」「・・・ラスベガス」息切れしてしまうほどに四六時中DVD鑑賞に明け暮れた昨年を反省し、今年はじっくりと腰を据えて、一つ一つの作品と向き合っていきたいと思う。更新が滞りがちのように感じられる読者もおられるだろうが、そんなわけで、吟遊映人のDVD鑑賞をする心構えが若干変わったことをお知らせしておきたい。あしからず。新作を次から次へと観ていくことだけが映画人としてのあり方ではないはずだ。過去観た作品でお気に入りのものを繰り返し観ては、どこがどんなふうに自分の心のひだに触れたのかを咀嚼してみるのも楽しいかもしれない。吟遊映人は、ソダーバーグ作品が大好きだ。特に、「オーシャンズ」シリーズはことのほか良い。「オーシャンズ」については、すでに過去記事を書いているため今さらのような気もするが、改めてご紹介したい。しかし今回は内容についてではなく、出演者について少しだけ記述しておく。「オーシャンズ」という作品は、端的に言ってしまえば天下の大泥棒たちがいかにして盗みを働くかという物語であるが、“人を殺めず、女を犯さず、貧しき者からは盗らず”の、ねずみ小僧みたいな盗人集団なのだ。(ねずみ小僧よりはもっとスケールが大きいけど)「オーシャンズ11」では、刑務所に4年間服役していた窃盗犯ダニエル・オーシャンが仮釈放されるところからストーリーは展開する。標的はラスベガス。カジノの地下にあるぶ厚い壁に覆われた巨大金庫室から巨額の金を盗み出すまでの物語なのだ。主人公オーシャン役はジョージ・クルーニー(48歳)が、非常に洗練されたイケてるプロの泥棒として好演。2006年にはPeople誌で“最もセクシーな男性”に選ばれている役者なのだ。犯罪者の風貌はたいてい極悪非道な顔立ちか、あるいは逆に貧相でずる賢くいかにも一癖ありそうな、と言うのがごくごく一般的なパターン。それがどうよ、ジョージ・クルーニーが演じてしまうのだから単なる犯罪者集団の物語では終わりますまい。また、オーシャンの右腕であるラスティ役で、ブラッド・ピット(45歳)を起用していることもニクイではないか。「オーシャンズ」は娯楽映画の王道をゆく作品で、いつ観ても色褪せることのない鮮やかな役者の色彩と、機微な個性に溢れているのだ。2001年(米)、2002年(日)公開【監督】スティーブン・ソダーバーグ【出演】ジョージ・クルーニー、ブラッド・ピットまた見つかった、何が、映画が、誰かと分かち合う感動が。See you next time !(^^)
2009.06.07
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「(そんな物ばかり食べてると)動脈硬化になるぞ。コレステロール(たっぷりだ)。献立を作ってやろう。」「ムショでな。」「なぜそんな物・・・。」「うまいから(食べるの)さ。」傑作と言われ世間の評価も高く、見よう見ようと思って今日まで見逃していた「ミッドナイト・ラン」。待ち焦がれていた人とやっとの思いで対面した気分だ。まずこれだけゲラゲラ笑ったのは「オーシャンズ」シリーズを観て以来だ。声を出して笑うことがこれほど気持ちの良いこととは!この作品は今年のベスト3に入りそうな勢いだ。(←吟遊映人独断の勝手なベスト3のこと)飄々としたデ・ニーロの演技がまたイイ!ここでは警官くずれの賞金稼ぎという設定だが、マフィアのドンをやらせても一流だし、逆に刑事をやらせても一流だし、とにかくオールマイティな演技を披露してくれる役者さんなのだ。シリアスとコミカルを見事に使い分け、セリフの間の取り方、視線の投げ方、立ち居振る舞いが実に洗練されているではないか!こういう作品は安心して観ていられるから時間が過ぎるのが早い。あっと言う間に終演というのが実感だ。一匹狼で警官くずれのジャック・ウォツッシュは、保釈金融会社と契約を結んで賞金稼ぎをしていた。今回の依頼は、シカゴの麻薬王セラノのもとで会計士をしていたジョナサン・マデューカス(デューク)を捕まえることであった。デュークはセラノの金を横領し、あろうことか慈善事業に寄付してセラノに追われる身。 そんなデュークをウォルッシュはロサンゼルスへ連れ戻す仕事を引き受けたのだった。 おもしろいのはFBI捜査官のモーズリーがぬっと現れるシーン。本来なら颯爽とカッコ良くのはずが、ジャックに裏をかかれているせいか、今一つFBIとしての威厳が見られない・・・そんなコミカルな演出がとても効果的だ。また、ジャックが途中シカゴで9年ぶりに別れた妻子のもとへお金を借りに立ち寄るシーンがあるのだが、この時の娘との対面は正に名演技。父に会えた喜びをかみしめる娘に対し、成長した娘に何と声をかけて良いのか戸惑う父。 こういう細部に渡る役者の演技力に脱帽だ。やっぱりどうせ観るならこういう映画をたくさん観たい。決して視聴者を裏切らない、ほのぼのアクション・コメディ・・・世知辛い現実を生きる我々に“笑い”という福を与えてくれる、正真正銘の娯楽映画なのだ。1988年公開【監督】マーティン・ブレスト【出演】ロバート・デ・ニーロ、チャールズ・グローディンまた見つかった、何が、映画が、誰かと分かち合う感動が。See you next time !(^^)
2009.01.11
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「(メタンを吸って)気分が悪いのか?」「何だかクラクラする。」「(ところで・・・)どこで育った?」「悪いけどオレは腹を割って仲良くなろうなんて男じゃねぇ。」(この後、そのセリフを言った舌の根も乾かぬうちに、自分のことをつらつらと語りだすのだった・・・。)久しぶりに笑えた。ゲラゲラ笑ってしまった。「007」シリーズや「ボーン・アイデンティティー」のようなシリアス系も良いが、こういう何の脈絡もないコメディタッチの作品も最高におもしろい。年の瀬に福を呼びそうな笑いを与えてくれたこの「アイ・スパイ」は、気が滅入っている時、ストレスではけ口が欲しい時に、一人こっそり観て楽しむ映画かもしれない。もちろん、家族で楽しむのも良いが。米国空軍の最新秘密戦闘機が某国の手に渡ろうとしていた。CIAでは、それがどこにあるか捜査し、誰が誰に売ろうとしているのかを突き止めるミッションをアレックスに命令する。パートナーは、一般人であるボクサーのケリーと組むことを要請。ケリーは、不敗を誇るボクサーの世界チャンピオンであった。アレックスとケリーは、互いにイニシアチブを牽制し合いながら、ケリーの専用機を使ってブタペストへと旅立った。エディ・マーフィーという役者さんは、おそらく自分の立ち位置を知っているキレモノである。それはいわば、自分のキャラがどういうカラーで視聴者に映っているか、映らなくてはいけないかを心得ているということだ。なので、このエディ・マーフィーの登場とともに、わけもわからず「なんだか笑えるヤツだなぁ」と惹き込まれていく効果を発揮するのだからスゴイ!このエディ・マーフィーと軽いノリでストーリーを盛り上げていくのがもう一人の主役、オーウェン・ウィルソンだ。二人のコラボはリズムがあって、心地良いテンポで進行し、観客を笑いの渦に巻き込んでくれる。9割コメディタッチのスパイ映画なのだ。2002年(米)、2003年(日)公開【監督】ベティ・トーマス【出演】エディ・マーフィー、オーウェン・ウィルソンまた見つかった、何が、映画が、誰かと分かち合う感動が。See you next time !(^^)
2008.12.15
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「芸術の世界では奇妙なことが起こります。なかなか揃わなかった要素が突然集まり始め、有機的で不思議な何かが起きる。誰もが失敗を予想しても結果はこのとおりでした。今後も挑戦を続けます。ビデオとフィルムの融合は珍しいものではありませんが、本作は斬新です。皆さんにご理解いただけて幸せです。(カンヌに)来てよかった。“フランス万歳”ありがとう。」お笑いの芸風には様々なタイプがある。Mr.ビーンのお笑いをどのようなジャンルに区分するかは視聴者各人にもよるだろうが、あえて表現するなら“一人芝居”というスタイルかもしれない。日本のコメディアンに例えると、イッセー尾形あたりがこのMr.ビーンに匹敵するのではなかろうか。本作ではビーンらしく、ナンセンスなユーモアで徹底した笑われ役を演じている。前半でストレッチ的にやんわりとした顔の筋肉をゆるませるお笑いを提供し、後半でにわかに畳み掛けるようにお笑いの渦に巻き込んでいくしかけになっている。Mr.ビーンはくじ引きでカンヌのビーチ1週間の旅行とハンディカメラを当てた。天にも昇る気持ちでパリへと向かうビーンだが、リヨン駅からカンヌ行きの列車に乗るところを偶然通りかかった男性に頼み、ハンディカメラで自分を撮影してもらう。例によって、ビーンは自己満足の注文をあれこれつけているうちに列車が出発してしまう。そのせいで、男性はホームに置き去りにされ、車内にははぐれてしまった男性の息子が心細そうに座っていた。ビーンは罪悪感から男の子が気になって仕方がない。おもしろい顔を作っては必死で慰めようとするのだった。久しぶりにウィレム・デフォーを見たが、やっぱりいい。「プラトーン」や「最後の誘惑」とは明らかに毛並みが違う作品だけれど、キャスティングとしてものすごくハマっていた(笑)。カンヌでグランプリを目指す映画監督クレイの役だったが、このキャラがおかしいのなんの!上映された作品冒頭では、クレイ本人が監督・脚本・主演というテロップが流れ、そのナルシストぶりを発揮していた。大半の観客が退屈のあまり居眠りを始める中、クレイが一人悦に入ってニンマリと作品を鑑賞する姿に大爆笑してしまった。お笑いに国境はないのだと、Mr.ビーンは体を張って教えてくれる。英国コメディアンとしての風格さえ感じさせるローワン・アトキンソンの芸風を、心ゆくまで楽しんでもらいたい。2007年(英)、2008年(日)公開【監督】スティーヴ・ベンデラック【出演】ローワン・アトキンソン、ウィレム・デフォーまた見つかった、何が、映画が、誰かと分かち合う感動が。See you next time !(^^)
2008.08.06
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「文句言ってるとすぐクビにされちまうぞ。」「“条件が悪すぎる”と言ってるだけだ。そう思うだろ? 給料は安い、時間は長すぎる。」「メキシコだ。」「革命家サパタを忘れたか? 土地を盗られると、貧乏人は永遠に盗られたと思う。だがサパタは言った。“ひざまづいて生きるより、立って死ぬ方がマシだ”と。そして戦った・・・戦った。」おもしろい! 実におもしろい!これは、アメリカ版「必殺仕事人」とでも表現しようか。シリーズ3作目でも、オーシャンズは大活躍してくれた。壮大な犯罪計画を成功させるために、カジノで使用するダイスを製造するメキシコの工場に潜入。しかし、あまりの待遇の悪さに自らの本来の目的も忘れて、労働者たちを先導してストライキを起こす。そのため、工場は一時閉鎖状態。オーシャンズの計画が破綻しかねなくなるのだ。この成り行き上の愉快なハプニング、ドタバタ劇を笑わずにはいられない。「オーシャンズ13」では、仲間の一人ルーベンが、ホテル王であるウィリー・バンクの裏切りに遭い、失意のうちに心筋梗塞で倒れるところからストーリーは展開する。オーシャンズは、ルーベンの敵を討つために復讐を計る。それは、“バンク”の名を付けたホテルを潰すこと。すなわち、ホテルの格付けにおいて、“5つダイヤ賞”の評判を完全に落としてしまうことだった。今回、バンク役で登場したアル・パチーノは、そこにいるだけで何か犯罪のニオイがしてくるような圧倒的な存在感があった。この名優が悪役として登場したことにより、今回はベネディクト役のアンディ・ガルシアがかえって「正義の味方」に転向してしまったかに思えたほどだ。また、本作品でもソダーバーグ監督の得意技、「時間軸の解体」は健在で、心地良いテンポとともに場面は始終変化を遂げていく。サイケデリックな音楽が、アナログ人間の心意気を示すように挑戦的に流れ、観客を乾いた気持ちにさせない心配りはお見事。ラストは、散々なとばっちりを受けた、本物の“5つダイヤ賞”の審査員をきちんとフォローすることで、この作品は登場人物の誰をも幸せにしている。愉快な「仕事人」たちに、心から拍手を送りたい気分にさせられるのは、一体なぜだろう?2007年公開 【監督】スティーヴン・ソダーバーグ【出演】ジョージ・クルーニー、ブラッド・ピットまた見つかった、何が、映画が、誰かと分かち合う感動が。See you next time !(^^)
2008.02.06
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「(突然ブルース・ウィリスが入室して来て)赤ちゃんはまだ? ローマに? 休暇中だ。」「(ジュリア・ロバーツになりきって)うれしいわ!」「そのおなかで飛行機はよくない。ダニーは?」「いるわ。」「ダニー! 仕事か?」「まぁ仕事ってことで。」前作にも出演していたジュリア・ロバーツ。「オーシャンズ12」では、彼女の本来の姿が冴え渡る。「ああ、これこそがジュリアだよなぁ」と、つくづく納得。そして、彼女の帰還を心から喜ぶ自分がいた。「プリティ・ウーマン」の娼婦役で不動の人気を得たジュリアの特徴と言えば、とにかく声を上げて「ガハハ」と笑う屈託のなさと、多少抜けたところが垣間見える滑稽さであろう。「ロマンティック・コメディにこの人あり」それこそがジュリア・ロバーツの代名詞たる所以なのだ。前作では、オーシャンズがベネディクトの経営するカジノからまんまと大金を盗み出すことに成功したところで終わっている。「オーシャンズ12」では、その後、各人が手に入れた金で自由気ままな生活を送っているもとに、ベネディクトが突如として現れ、1億6千万ドルの返却とその利子分を要求してくるところからストーリーは展開する。ベネディクトは、要求に応じなければ命の保障はないと断言する。オーシャンズは、ベネディクトの冷酷非情さを知っているため、その要求を呑むために再結成してオランダのアムステルダムを目指す。この作品は前作を上回るおもしろさで、ドタバタ劇にアゴのはずれそうなほど笑える楽しさが満載である。これほどエンターテインメントを追求した作品は、なかなかお目にかかれない。ソダーバーグの世界観を肯定するも、否定するも、全ては感性の違いとしか言いようがない。シュールレアリズムの大家、サルバドール・ダリも、ルネ・マグリットも、その難解で抽象的な世界観に顧客は完全に置き去りにされた。だが時代は逆転し、デジタルの世界がそれを可能に変換させた。そんなソダーバーグの作中に、時折見られる知性と憧憬の念。ローマでは、グランドホテルプラザがロケ現場に。名匠フェリーニ監督の「甘い生活」(ラ・ドルチェ・ヴィータ)を意識したに違いない。 2004年(米)、2005年(日)公開【監督】ステーヴィン・ソダーバーグ【出演】ジョージ・クルーニー、ブラッド・ピットまた見つかった、何が、映画が、誰かと分かち合う感動が。See you next time !(^^)
2008.02.05
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「いい絵を集めたな。特にフェルメール。シンプルで力強い。晩年は冴えないがね。」 「誰かと同じ。」「モネとマネの区別がつかん。愛人と結婚したのは?」「モネ。」「マネは梅毒のほうか。」「絵描きでもあったわ。」天下の印象派の画家たちも、ダニー・オーシャンの小粋な会話とジョークの前では形無しだ。この作品の冒頭場面、肩を落として途方に暮れた人物が出所するシーンを見た時、すでに成功したと思った。それまでくすぶり続けていた不完全燃焼を一気に解消するべく、エネルギーの放出先をシャバに見出したような、不敵な明るさが感じられるからだ。ある映画評論家の言葉を引用させていただくと、ソダーバーグが得意とする「時間軸の解体」がここでは完全な形で成功していると言えるかもしれない。その証拠に、「独特の心地良いテンポを生み出すことに利用しきった傑作である」という好評を、そこかしこで受けている。「オーシャンズ11」は、仮釈放中の窃盗犯、ダニー・オーシャンが他10名の仲間を集めてラスベガスを舞台に壮大な犯罪計画を立てるところからストーリーは展開する。しかしダニーの目的は、地下金庫に眠る莫大な金を盗むことだけではなかった。カジノ・オーナーであるベネディクトの恋人、テスも合わせて奪うつもりだったのだ。 テスは、離婚寸前のダニーの妻でもあったからだ。オーシャンズ11は、無数のセキュリティに囲まれ分厚い壁に覆われた金庫室を目指し、活動を開始する。作中、ごきげんなリズムで流れているBGMに呼応するように、登場人物があらゆる場面でリズミカルなテンポを生み、体内を満々と充たすエネルギーを発散させてゆく。そして途中、列車がすれ違うさまは、いきなりストップモーションがかかる。このテンポの強弱に果たしてどんな意味合いが含まれているのか?そんなことをあれこれ考えながら、ソダーバーグの演出したテンポを追っていくと、また一段と楽しめる大衆娯楽映画の最高峰なのだ。2001年(米)、2002年(日)公開【監督】スティーヴン・ソダーバーグ【出演】ジョージ・クルーニー、ブラッド・ピットまた見つかった、何が、映画が、誰かと分かち合う感動が。See you next time !(^^)
2008.02.05
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