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2013.06.23
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【バルカン超特急】
20130623

「シャトルーズをもらおう。君たちも飲みたまえ」
「じゃあブランデーを」
「私は結構です」
「疲れが取れるから一杯だけでも」
「じゃあ少しだけ・・・」


ヒッチコック作品の凄いのは、暗く陰気でミステリー色の強いスリラー映画を、コメディタッチのやんわりとした明るさを取り入れたところにある。
また、ストーリーが単調になってしまうことを避けるため、居合わせた人物それぞれに背景を持たせている。
例えば、脇役であるにもかかわらず、二人の英国紳士は共にクリケットに熱心な人物として登場し、食堂車でお茶を飲んでいる時にも熱く試合について話していたりする。
あるいは、不倫をしている男女が、お互いの立場を棚に上げあれこれ揉めていたり、とにかく登場人物にハッキリとした印象付けをしているのだ。
ヒロインとなるアイリスに至っては、結婚を間近に控え、独身最後の旅行を楽しむつもりでやって来たところトラブルに巻き込まれるという設定なので、現代ドラマにも通じるようなストーリー展開となっている。
スリラー映画にはおなじみのスパイが絡んでいて、誘拐があって、銃撃戦で人が死んでという話の流れは、確かにワンパターンには違いない。ところがヒッチコックの演出によって、こうも技術的に優れた娯楽映画に生まれ変わるものなのかと、驚きを隠せないのも事実だ。
この作品がイギリスで公開されたのは1938年。
このころ世界は正に暗黒の時代で、ヒトラー率いるナチス・ドイツが席捲した時期である。その一方で、イギリスではヒッチコックがこのような鉄道スリラーを手掛けていたのかと思うと、やっぱり“強烈な緊張と暴力”というテーマを感じないではいられない。

ストーリーはこうだ。

翌朝、やっと列車が出発することになったのだが、ある老婦人がメガネを落としたことに気づいたヒロインのアイリスが、老婦人に近付いたところ、ちょうどそこへ駅舎の上から植木が落ちて来た。
アイリスは思わず脳震盪を起こしたのだが、老婦人が手厚く介抱し、いっしょに列車に乗り込むのだった。
食堂車で老婦人とお茶を飲み、再び座席に戻ると、アイリスはうつらうつらと眠ってしまった。
暫くして目を覚ますと、いるはずの老婦人がいない。あちこち列車内を探し回ってみるものの、誰もその老婦人を知らないと首を振る。
アイリスは自分が脳震盪を起こしたことで、記憶喪失になってしまったのかと不安になるのだった。

見どころは盛りだくさんだが、食堂車でアイリスとギルバートが睡眠薬の入ったお酒を出されるシーンがあり、ちょっとドキドキする。
犯人は、早くその飲み物を口にさせたいのだが、アイリスとギルバートは話に夢中でなかなか飲もうとしない。
スクリーンでは前景に2つのグラスが映っていて、いつ主役の二人があのグラスに手を伸ばすかが気になって仕方がない演出となっている。
あるいは、列車内で消えたはずの老婦人が、思いがけず食堂車に現れたシーンでは、それまで知らぬ存ぜぬを決め込んでいたイギリス人が、いとも気軽に「おや、老婦人再登場だな」などと呟くのだ。こういう反応はちょっと邦画には見られない独特のものを感じるので、おもしろい。

それにつけても戦時下の厳しい検閲のもとで、ヒッチコックが表現しようとしていた“強烈な緊張と暴力”を作品にするために、舞台を実在する国にせず、“バンドリカ”という架空の国にしてしまうという設定もお見事。
“決して○○○国の出来事ではない”というふうにして、やんわりと検閲をかわす。そういう意味でもヒッチコックは、プロとして一流の仕事を全うしている。

本来の直訳は『淑女失踪』=The Lady Vanishes なので、どれほど邦題のセンスが良いか、計り知れない。
列車内で起きる謎の事件を予告するかのような『バルカン超特急』という邦題を、大いに評価したい。
サスペンスを愛する皆さんにおすすめしたい名作だ。

1938年(英)、1976年(日)公開
【監督】アルフレッド・ヒッチコック


ヒッチコックの『サイコ』
20130407
コチラ


ヒッチコックの『白い恐怖』
20130421
コチラ


ヒッチコックの『レベッカ』
20130505
コチラ


ヒッチコックの『裏窓』
20130519
コチラ


ヒッチコックの『ダイヤルMを廻せ』
20130602
コチラ


ヒッチコックの『北北西に進路を取れ』
20130609
コチラ


20130124aisatsu





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最終更新日  2013.06.23 06:32:16
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