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2014.09.06
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カテゴリ: 読書案内
【勝海舟/第六巻・明治新政】
20140906

◆激動に揺れる近代日本のあり方を考察する
『勝海舟』は、昭和16年から6年に渡り中外商業系(現・日本経済新聞)の新聞に連載された小説とのこと。
官能小説として名高い『失楽園』を連載していた新聞と同一と考えると、何とも不思議な気がする。
硬派な『勝海舟』を、毎朝一読し、男一匹孤高に生きようと、勇気づけられ励まされた男性が、当時、数多くいたに違いない。
敗戦の痛手も癒えぬ戦後の変革期に、『勝海舟』は江戸政府の終結と明治維新という、世の中がガラリと変容したその時期と概ねマッチしていたのかもしれない。

文庫本にして全6冊ともなる長編小説だが、最終巻である第六巻を読了後は、一抹の寂しさを感じる。
たとえそれが再読であったとしても、この第六巻にさしかかると、まるで一つの歴史が閉じられてゆくのを傍らで見守る立会人のような感覚になってしまうのだ。
そんな『勝海舟』の第六巻のラストは、正直なところ、尻切れトンボのようにプツリと終わっていて、何となく落ち着かない。
もう少しこの後まで書いて欲しかったという気持ちは否めない。
巻末の解説にもあるように、「この長編は勝海舟の一代記という面からいえば未完である」とのことなので、ラストに対する多少の不満は、だれもが抱く感想の一部なのであろう。


第六巻では、世の中の大変革事業に応じて、新しい分子が次々と登場する。
その筆頭に、大村益次郎がいる。
筆者は、勝海舟の口を通じて、このように大村を評している。

「国を治めるのも、万国と交際を結ぶも強い武力が無くてはいかんというところに、あ奴(大村益次郎)の大そうな間違いがあるんだ」

あるいはこうも言っている。

「永ぇ間、武家のおもちゃにされて来た日本国が、今度ぁ姿形は変っても、只々武力を奉ずる奴らにおもちゃにされるようになったんじゃあ、とんと、うだつが上がるめぇじゃあねぇか」

一方、江戸城を開け渡してしまった徳川幕府は、今やわずか70万石となって駿府(現・静岡)へ下って行く。
時を同じくして、勝もまたそれに準ずる。
他方で、旧海軍を率いて脱走した榎本武揚は蝦夷へと落ちてゆく。

作品はここへ来て、たたみかけるように激動に揺れる近代日本の考察に取り掛かっている。
こんなことがあった、あんなことがあった、しかしあれはまずかった、こうするしかなかった等々、、、様々な思惑を登場人物のセリフを借りて語りかけて来る。

しかし、『勝海舟』を読了することで、そのような無責任極まりない感想は消え去るに違いない。
もっと痛々しく残酷で、しかも陰惨なものである。(それを著者はサラリと書いているため、通常は見逃してしまいがちだ。)
とはいえ、勝麟太郎とその父・小吉の、物質的には貧しいながらも、精神的には豊かだった時代などを噛んで味わうようにして熟読した時、いかに心の豊かさが大切であるか、伺い知れる。
現代人の欠落した気力や感動の源も、この大河小説の中には溢れる清水のように湧き出している。
なにぶん長編小説なので、短時間で読了できるものではないが、時間を作り出してでも読む価値のある全六巻なのだ。




☆次回(読書案内No.142)は海音寺潮五郎の「天と地と(上巻)」を予定しています。


『勝海舟』~第一巻・黒船渡来~は
20140802
コチラ


『勝海舟』~第二巻・咸臨丸渡米~は
20140809
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『勝海舟』~第三巻・長州征伐~は
20140816
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『勝海舟』~第四巻・大政奉還~は
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『勝海舟』~第五巻・江戸開城~は
20140830
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コチラ から
★吟遊映人『読書案内』 第2弾は コチラ から



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最終更新日  2014.09.06 06:03:52
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