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アパサは腕を組みながら、椅子に反り返った。
「仮に、逆にスペイン側が高地に陣を張り、我々インカ軍が低地を占拠したとしよう。
恐らく、敵も同じように機先を返して下山を試みるだろう。
だが、それと共に、奴らは背後の高地に砲兵隊を配置し、低地に結集したインカ軍を砲撃してくるだろう。
火器の威力は凄まじい。
恐らく、少数の砲兵隊に我々は蹴散らされ、たちまち戦況は奴らに有利になるかもしれん。」
そして、アパサは考え込むように押し黙ってしまった。
蝋の残りが少なくなった蝋燭の炎はひどく不安定に揺れながら、険しい表情で宙を見つめるアパサの横顔に深い影を落としている。
アンドレスとて、火器がない状態でいかに戦って勝利に導くのか、そのことを考えない日はなかった。
彼は、いっそう揺れの激しくなった蝋燭の炎を見つめた。
「銃を手に入れればよいのではないですか。」
不意に沈黙を破ったのは、アンドレスの方だった。
「銃そのものは、この国にあるのです。
スペイン人が持っているだけであって、それをうまく手に入れればよいのではないですか。」
アンドレスは、思っていたままを、思い切って話した。
「方法を考えればいいのです。
手に入れるための方法を。」
アパサに何を言われても構わない。
アンドレスの眼差しには、覚悟の色が見える。
だが、意外にもアパサの罵声は飛んではこなかった。
「それはその通りだな。
だが、実際には、かなり難しいだろうよ。
それに、たとえ手に入っても、そう大量には無理だろう。
だが、確かに、手に入れる方法を考える価値はある。」
アパサは、いつものようにチチャ酒の樽の方に酒をつぎに立った。
そして、二人分の酒をついできて、アンドレスの前に差し出した。
「おまえも、たまには飲め。」
アンドレスは、軽く礼を払って、波々と酒がつがれたカップを受け取った。
チチャ酒とは、古来からアンデス地帯で愛飲されている、伝統的なトウモロコシを原料とする酒である。
アパサはチチャ酒を一気に飲み干して、さっさと二杯目をつぎに立つ。
アンドレスもカップを傾けて、まだあまり飲みつけぬ酒を喉に注ぎこんだ。
口いっぱいに、酸味のある葡萄のような味が広がっていく。
「いずれにしても、火器がない状態でいかに戦うかを考えておく方が先決だ。」
二杯目をあおりながら、アパサは話の続きをはじめた。
「地勢や気象条件をうまく使うこと。
これは、当然のようだが、意外と侮れん。
それから、接近戦に持ち込むとうい方法もある。
他は?
おまえなら、どうする?」
再び、アパサが問う。
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