PR
Free Space
Comments
Category
Freepage List
Keyword Search
Calendar
火器が無い状態で、火器を大量に保持する敵といかに戦うのか…――そのアパサの問いに、アンドレスは、やはり普段から考えていたことをそのまま答えた。
「奇襲です。」
「奇襲?」
アパサが、色の見えない声で応じる。
「はい。」
能面のような表情でアパサはアンドレスの目を覗く。
しかし、すぐに、にんまりと、アンドレスには意味を解(げ)しかねる笑みを浮かべた。
「おまえは真正面から行くタイプだと思っていたがね。」
「ずるくなれと言ったのは、アパサ殿ではないですか。」
思わず、アパサは苦笑した。
が、すぐに冷ややかな眼差しに戻った。
ふいに蝋の無くなった蝋燭が消え、真っ暗闇に包まれる。
蝋の臭いが部屋の中に立ち込めた。
「残念ながら、奇襲も、そう簡単ではないな。
恐らく、火器を手に入れるよりも難しいかもしれん。」
アパサが闇の中で話すのを聞きながら、アンドレスは席を立った。
そして、既に我が家のように把握しているその部屋の棚の一角から、真新しい蝋燭を取り出し、火をつけた。
再び、部屋の中が蝋燭の炎で照らし出される。
「戦場で最も敵が弱点とするポイントを見抜いて奇襲をかけるには、天才的戦術を必要とするものなのだ。
そして、かなりの強運もなければ駄目だ。
わかっているのか、おまえは。」
アパサは、溜息とも取れる息を吐いた。
「奇襲を成功に導ける天才的な戦術家など、実際、何百年に一人出るか出ないかだ。
残念ながら、トゥパク・アマルも、俺が見る限り、そこまでの戦術的天才ではない。」
その声には嫌味な感じが全くなく、非常に冷静であっただけに、アンドレスの中にいっそう不穏な気持ちを掻き立てた。
「トゥパク・アマル様では、駄目だと?」
冷静を装うアンドレスの声が、しかし、微かに揺れている。
「トゥパク・アマルが駄目というのではない。
ただ、奇襲を成功させられるほどの天才は、極めて稀だと言っているのだ。
だが…。」
それから、酒を置いてアパサは真正面からアンドレスに向き直った。
アンドレスも、つられるように姿勢を正す。
「武器で著しく劣るインカ軍が勝つためには、奇襲が必要な時がくるだろう。
残念ながら、我々は天才ではないかもしれん。
しかし、的確な情報収集と正確な分析、時機の把握と正確で果断な行動、押さえるべき要点を押さえさえすれば、少なくとも奇襲の成功率を高めることはできる。」
アパサのまるで未来を予見するかのごとく厳しくも真剣な眼差しに、アンドレスはその教えを深く我が身に落とし込むように、力強く頷いた。
コンドルの系譜 第三話(90) 反乱前夜 2006.05.04 コメント(10)
コンドルの系譜 第三話(89) 反乱前夜 2006.05.03 コメント(10)
コンドルの系譜 第三話(88) 反乱前夜 2006.05.02 コメント(10)