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「村で待て、と。
王陛下の御言葉は、それだけだ。」
冷たい声でアレッチェが言う。
アレッチェは、じっとトゥパク・アマルの上に視線を向け、その反応を観察する。
トゥパク・アマルは微動だにせず、変わらぬ姿勢のままだった。
その気配も変わらない。
暫し、沈黙が流れる。
微動だにせぬまま、しかし、実際には、真紅の絨毯に視線を落とすトゥパク・アマルのその目は、引き裂かれぬばかりに険しく見開かれていた。
鼓動が速くなり、己の手足が微かに震えてくるのが分かる。
突き上げてくる憤怒、失望、悲愴、そして、最後の箍がはずれる感覚…――。
様々な感情が混沌と渦巻きながら、トゥパク・アマルの心を掻き乱した。
しかし、アレッチェに、それを悟られてはならぬ。
トゥパク・アマルは、激情に翻弄されるもう一人の自分を押さえ込みながら、己の気を、呼吸を、声音を統制した。
「王陛下へのお目通りは、叶わぬでしょうか。」
トゥパク・アマルの声は、不自然なほど静かだった。
だが、それ故、かえってその中に滲んでいる感情の色味を、アレッチェは決して見逃さない。
さすがのトゥパク・アマルも、動揺しているのだ。
アレッチェは、いっそうの冷ややかさで、「そのようなことが、一介のカシーケに叶うはずがあるまい。」と答え、トゥパク・アマルを睥睨したまま冷笑した。
その瞬間を見逃さぬとばかり、トゥパク・アマルが顔を上げる。
トゥパク・アマルの目の中に、冷たく笑う制圧者の表情がはっきりと映った。
トゥパク・アマルもまた、冷徹に目を細めた。
そして、すっと立ち上がった。
すぐ直近の距離で、いきなり自分と同じ目線に立たれ、一瞬、アレッチェは身をひるませた。
トゥパク・アマルは無言で、アレッチェの目を、あの射抜くような鋭い眼差しで睨み返す。
その瞬間、アレッチェは、不覚にも固唾を呑んだ。
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