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トゥパク・アマルの漆黒の長髪は、まるで闇に溶けこむかのように、アレッチェの前に妖艶な気配を湛えながら浮き上がって見える。
しかも、その薄闇の中で、インディオの全身からは青白い光のようなものが不気味に放たれているような錯覚さえ覚える。
そのようないまいましい錯覚をいなすようにして、アレッチェは氷のような声で言った。
「もし、何か事を起こせば、それは、逆賊として、インカ一族の合法的殺戮の理由を、我々スペイン側に与えることに他ならない。
それをよく覚えておくことだ。」
再び、不気味に静かな沈黙が流れる。
やがて、トゥパク・アマルがゆっくりと振り向いた。
それは、もはや感情のない、能面のような表情だった。
「我々一族は、この地の民を守るためにある。
結果、どのようなことになろうとも、それは自ずと覚悟の上。」
そして、アレッチェの言葉を待たず、トゥパク・アマルはさっさと部屋を出ていった。
アレッチェの中に不穏な感情が渦巻いた。
何よりも、あの目に浮んだ狂気にも似た色…――何か、非常にまずいことが起こるのではあるまいか?!
確かに、この日を境に、トゥパク・アマルはその動きの方向を明らかに変えていく。
これまで流血を見ぬために、極力平和的な手段によって、懸命に敵方と交渉を試みてきた。
だが、これからは違う。
部屋を立ち去るトゥパク・アマルの目は、確かにアレッチェが見抜いたがごとく、この時、狂気の色をも孕んでいたかもしれない。
もはや、立ちはだかるものは切り捨てる…――!!
まさにアレッチェの予感は、まもなく現実のものとなろうとしていたのだ。
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