confuoco Dalnara

子猫をお願い



高校生のときは月曜から土曜まで朝から夕方までいつもいっしょで、5人仲
良く水平な関係を築いていた。卒業して1年、水平でわけ隔てなかった関係が
少しずつ変化している。

一緒に写真を撮る時のように横に並んだ、水平だった友情が、社会に出てか
らは立場や環境の違いに足を引っ張られて上下しているのを肌で感じざるを得
ない。映画は子猫のように安住する場所を探して、彷徨し漂泊する若者のみず
みずしい瞬間を仁川(インチョン)の港町の風景で透視するように描いている。

テヒ(ペ・ドゥナ)は家業を手伝っている。その父親はかなりの男尊女卑で
家では居心地の悪さを感じている。口述筆記のボランティアを続けていたり、
友情の変化に敏感でどうにか5人仲良くしていこうと奮闘する。ヘジュ(イ・
ヨウォン)は5人の中で唯一就職しているが、学歴による待遇の差を感じはじ
めている。一方ジヨン(オク・チヨン)はなかなか定職が見つからない。高校
時代はヘジュと一番仲良しだったが、ヘジュとの距離を感じはじめている。ピ
リュ(イ・ウンシル)とオンジョ(イ・ウンジュ)は中国系の双子で、手作り
のアクセサリーを露天で売っている。

ヘジュの誕生日を5人で祝うことになった時、求職中のジヨンは、お誕生日
プレゼントも買えず子猫にリボンをつけてみる。子猫はその後5人の間を行っ
たり来たりするのだが、定職がなかったり進路が定まらなかったり、まだどこ
かふわふわと浮遊しているような5人と子猫が重なるようにも思える。

学生のときは意識していなかった、社会で生きていく、ということを、正面
から受け止めようとする現代韓国女性が等身大に描かれている。モラトリアム
というほど甘くない、辛口のリアリティが淡々と綴られる。仁川の港町に吹く
風を受けるように社会の冷たさを頬で感じながら歩いていこうとする5人の姿。
揺れる心や想いは頭の中と胸のうちをぐるぐる駆け巡っているのだろうが、映
画ではすべてがストレートに言葉として発せられないかわりに行間を読むよう
に風景を読み、映像を読むことを促される。街を少女たちの淡い心象風景とし
ても受けとめられるような表現の繊細さが感じられた。女性監督チョン・ジェ
ウンのデビュー作。

携帯電話をつかう場面が印象的な作品でもある。ハッピー・バースデーの演
奏は5人そろって携帯で奏で、孤独もわびしさもないけれど、子猫に聞かせて
いるのか、ジヨンが携帯電話の着信メロディーを屋根裏の部屋でつぎつぎに変
えて鳴らす場面は切ない。家で音楽を鳴らす手段、聞く方法はそれしかないの
かもと想像させる。ジヨンは仲間に「電話あんまりかけてこないね」と言われ
ていたりもする。仕事中であろうと退屈な時は友人たちに次々と電話をかける
ヘジュと対照的だ。携帯電話やタイプライターで打った文字が、風景の中に溶
け込んで浮遊感と孤独感をうっすら感じさせる映像が心に残る。映像全体が、
多くを語らない主人公たちの心象風景の一部になっているからだ。
携帯メールの文字の浮遊感から
"Seven Memories of Media Technologies" というメディア・アートの
「No.6コンピュータ」をなつかしく思い出す。
標本箱の中のキーボードを打つと
淡い青色のアルファベットが宙を浮遊して消えていく、という作品だった。
一瞬の幸福感と儚さが好きな作品だった。

ほかにも、まだまだ女性が生き難い韓国社会、中華街がある仁川、東南アジ
アから来た労働者、市民の訴えをなかなか聞き入れない役所、商業高校卒の学
歴など、社会問題が遠景として静かに提起されてもいるが、主題はあくまで今
の韓国の少女たちの心理的葛藤と自立を淡彩で描くことのようだ。観客が映画
の行間を読むことができる抑えた表現が、かえって鋭敏に現代女性の心理を映
し出している。

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