四、出撃前夜の宴



 四月六日、最後の「酒保開け」がでた。今生最後の酒宴とあって、飲めや
歌えの大騒ぎ。明日特攻に行く者であるが、微塵も死の恐怖はない。

 雪風艦長寺内正道中佐、この人は全く西郷隆盛の胆を二乗したような典型
的武人で、実戦の名人。しかも酒、ビールにも物凄く強かった。

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 先任将校斎藤大尉は兵学校を優等で卒業した秀才、名女房役で艦の切り盛
り及び名水雷長として敏腕を充分に発揮。砲術長田口康生大尉はいつも温顔
をたたえ、部下の信望を一身に集めた好男児。航海長中垣義幸中尉、機関長
竹内孝弟大尉、予備学生出身の松岡航海士兼砲術士、大学出身の小早川真行
水測士、快男子中川隆義電測士、兵学校出身の愉快な尾上通信士。百戦練磨
の将兵は酒にも引けはとらない。気勢のよい歌声が艦内に漲る。

   男なら男なら
   御国守りよ太平洋に
   嵐吹く吹くびよう々千里
   立つ白波が花柱
   トコソーダよやって来な

   男なら男なら
   御国想いの男と共に
   花を待たずにいざ散りゆかん
   桜男子の名を残し
   トコソーダよやって来な

   男なら男なら
   散れよにっこり最後の時は
   艦は傾き照りは消える
   陛下万才あちこちに
   トコソーダよやって来な 


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