Comments
Freepage List
『 百発百中だった大本の予言
艮(うしとら)の金神が憑かった出口ナオは、とんでもないことをしゃべり出した。
「来年春から、唐(から)と日本の戦いがあるぞよ。この戦は勝ち戦。
神が陰から経綸いたしてあるぞよ。神が表にあらわれて手柄いたさすぞよ。
露国からはじまりて、もうひと戦あるぞよ。あとは世界のおお戦で、これからだんだんわかりてくるぞよ」
なぜ文字も読めず、ましてや政治・世界情勢のことなどとは全く無縁の彼女が、どうしてこんなことを言うのか、だれにも理解できなかった。
予言どおり、日清戦争が日本の勝利に終ると、神はナオに次のように告げた。
「この戦いがおさまりたのではない。この戦いをひきつづけにいたしたら、日本の国はつぶれてしまうから、ちょっと休みにいたしたのでありたぞよ。
こんどは露国からはじまりて、おお戦があると申してありたが、出口の口と手で知らしてあること、みな出てくるぞよ」
実際、軍事的にはさらに兵を進め、北京を攻略することも出来たかも知れない。
しかし、そうなると講和の相手をなくして、戦争は無制限デスマッチの泥沼になる。
さらに、中国に様々な利権をもつ列強が乗り出してきて、収拾のつかない事態になり、まだ産業基盤も固まらない日本は、早くも亡国の危機に立たされたであろう。
そのような事情をよく弁えていた伊藤博文らの政府首脳は、講和条約締結を急いだのである。
しかし、民間では、福沢諭吉のような人物でさえ、「まだ講和の時期ではない。北京を占領して城下の誓いをさせるまで戦いをやめるな」と無責任なことを言っていた。
これに比べて、丹波の文盲の老婆に憑かった〈神〉は、正しく情勢を把握していたし、さらに日清戦争の始まる前から、それが終ると、いずれロシアと一戦を交えねばならないことを予言し、また警告を繰り返すのであった。
事実、日本は折角血を流して獲得した遼東半島を、ロシアの圧力で返還することを余儀なくされる。
いわゆる三国干渉であり、以後、日本では「臥薪嘗胆」を合言葉に、ロシアへの敵愾心が高まって行く。
丁度この日清戦争と日露戦争の狭間で、出口王仁三郎はナオに出会うのである。
PR
Keyword Search