勿忘草~戯曲集~

勿忘草~戯曲集~

the sight of MISAKI

シーン 出版社

後日、再び出版社に訪れている圭介。風邪をひいてるらしくマスクをしている
会議室に通されて相手を待っている
しばらく待っているが、相手が現れないので、携帯を取り出しいじりだす
ゲームをしているらしく時折、「ああ・・・」とか「お?」とか言っている
そこへ美咲が入ってくる
しかし圭介は気づかない


美咲  あの~


  しかし圭介は気づかない


美咲  すいませ~ん


  しかし圭介は気づかない
  美咲が再び声をかけようとした瞬間


圭介  ゴール!!!!!!
美咲  わぁ!


  ようやく圭介は美咲に気づく
  圭介 立ち上がり


圭介  あ、すいません!ちょっと風邪ひいて頭がぼ~っとしてたので気づきませんでした!・・・あれ?
美咲  先日はありがとうございました。


  圭介 美咲が傘を貸した相手だと気付く


圭介  ああ!いえいえ、別に。
美咲  風邪ですか?
圭介  え?ええ、ちょっと。
美咲  まさか、雨に濡れたから・・・?
圭介  違います、違います!裸で寝たんです!布団もかけずに!外で水浴びもしたし!
美咲  水浴び!?
圭介  ああ!嘘です、嘘です!水浴びはしてません!
美咲  すいません、なんか・・・。
圭介  いや、本当に大丈夫です。というか、あの日は本当に傘を持っていこうかどうか相当悩んだんです。たまたま持って行っただけで、かなりの高確率で持って行かない確率もあったんですよ。だから悪いのは天気予報ってことで・・・。
美咲  ホントですよね。私だって最初から雨降るって予報で言ってくれていれば、持っていったのに!
圭介  ですよね。
美咲  今日は打ち合わせですか?
圭介  ええ。・・・そういえばよく分かりましたね、僕がここにいるって。
美咲  偶然、見かけたので。聞いちゃいましたよ、あの人誰?あの人誰?って。
圭介  そんな大層な人じゃないですよ。
美咲  大層ですよ。私なんて毎日毎日愚痴ばっかり。でも会社辞められないの、怖くて。
圭介  普通、普通。それが普通。僕が異常なの。
美咲  凄いですよ。フリーなんて。
圭介  全然。明日の生活が怖くて毎日震えてるし・・・。


  そこへ会議室に誰かが入ってくる。


美咲  あ、それじゃまた今度。今日は傘持ってくるのを忘れちゃったので。
圭介  別にいつでもいいですよ。
美咲  はい、じゃあまた。


  美咲、会議室を出て行く。


  暗転


第5場  魅惑


  圭介 帰ってくる
  部屋の中から楽しげな声が聞こえてきて、部屋の前で立ち止まる


守   それで、みんなで大爆笑!いや~あんな圭介の顔初めて見た。
美咲  どんな顔だったんですか?
守   こんな顔!


  2人笑う
  圭介 部屋に入る


圭介  ただいま~
守   お!やっと帰ってきた。おかえり~。
圭介  あれ?
美咲  おじゃましてます。
圭介  うん、いらっしゃい。よくココが分かったね。


  美咲 楽しげに


美咲  編集の人から聞き出しちゃいました。


  守 急に怒り出す


守   いか~ん!
圭介  何が?
守   実にいか~ん!
圭介  だから何がだよ!?
守   個人情報の漏洩だ!
圭介  別にそんな大した事ないだろ。
守   確かに大した事ない。売れてないから。
圭介  じゃあ言うなよ。
守   しか~し!もし圭介がベストセラー作家だとしたら?
圭介  だから売れてないって。それに出してもいない。
守   今はな。確かに今はまだ誰も知らない、知られちゃいけないただの小説志望の男の子だ!
圭介  別に知られちゃいけなくないし、男の子でもないけども。
守   そして、ベストセラー作家になる可能性も限りなく低い。
圭介  うるさいよ。
守   しかし可能性が0な訳では無い。
圭介  はいはい。
守   仮にもしも万が一、圭介がベストセラー作家になったとして・・・
圭介  悪かったな、可能性低くて。
守   その時、同じように住所を簡単に教えてしまうような担当だったらどうなる?
圭介  どうなるんだよ?
守   ドアの前には「死ね」と書かれた貼り紙。郵便受けにはネズミの死骸。そして剃刀の入った郵便物。
圭介  なんで嫌がらせ?ファンが殺到とかじゃないの?
守   常に想像は最悪の状況をしておくものだ。
圭介  想像なら楽しいものにしてくれ。
守   現実はそんなに甘くない!!
圭介  いいよ。もう。
守   とにかく、個人情報が漏れるのは危険だ。
美咲  ・・・なんかすいません。
圭介  ほら、現実のほうが良いじゃないか!
守   ほらね、悪い想像をしておいたほうが、現実で良いことがあったときの喜びも一塩。
圭介  まあ、間違ってはいないわな。で、今日はどうしたの?
美咲  ああ、編集の人に聞いたらしばらく取材で会社には来ないって言うから早く傘、返したほうが良いかなって思って・・・。
圭介  ああ、わざわざありがとう。別にいつでも良かったのに。
美咲  うん、でもなんとなく・・・。


  守 神妙な面持ちで


守   気持ち悪かったんだよ。圭介の傘には盗聴器とか小型カメラがついてるから監視されてるみたいで。
美咲  付いてるんですか!?
圭介  付いてないよ!何を言うんだよ!!
守   じゃあ、あの貧しいフリーのライターさんはこの傘がなかったら雨の日はいつも濡れてしまう!って。
圭介  何で?他にも傘は持ってるよ。
守   だから・・・貧しいって・・・。
圭介  何だ!?俺は貧しく見えるのか!?
美咲  そんなんじゃないです!
守   うん、だからね、想像は常に悪いほうを・・・・。
圭介  もう、悪ノリするから・・・。俺だけならいいけど今日は違うんだから。
守   すまん・・・。
美咲  あ、もうこんな時間。帰らなくっちゃ。圭介さん、風邪早く治してくださいね。
圭介  あ、うん、ありがとう。
美咲  じゃあ、今日はこれで。
圭介  あ、うん。
守   送ってけよ!
美咲  大丈夫です、大丈夫です。風邪引いてるんだから、寝てください。
圭介  あ、うん。
守   じゃあ、俺が!
美咲  結構です!
守   嫌われている・・・。ただの冗談好きな男の子なのに・・・。
美咲  じゃあーまた。
圭介  あ、うん。


  美咲、出て行く


守   いか~ん!嫌われた!
圭介  ・・・・
守   ・・・圭介?どうした、ぼーっとして。
圭介  ・・・圭介さん・・・。
守   なんだ、それ?
圭介  圭介さんって言われた・・・。
守   言ったか?そんなこと。
圭介  言った・・・。
守   ・・・だから??
圭介  ・・・魅惑の響き・・・。
守   ・・・もしかして、さっきから止まってたのか??
圭介  ・・・・
守   帰ったぞ!もう。
圭介  ・・・え!?いつ!?
守   いつって今さっき。
圭介  教えろよ!
守   いや、お前の目の前を通り抜けて行ったんだぞ!
圭介  だとしても!
守   俺だって、そんな遠い世界に意識が行ってるなんて知らなかったしさあ・・・。
圭介  全く、使えない。
守   ああ、ああ、すいませんでしたねえ!
圭介  いいよ、もう。


  守 ちょっとすねた感じの圭介を横目に見て


守   ・・・で、名前は聞けたのか?
圭介  は!?
守   何だよ!
圭介  聞いてない!
守   またかよ・・・。
圭介  話の流れで聞けてないってのは分かるんだから、促せよ!
守   それもかよ!
圭介  当然だろ!
守   ああ、何か馬鹿らしくなってきた。
圭介  何だよ!馬鹿らしいって!
守   だってそうだろ?たかが名前呼ばれたくらいで舞い上がって彼女が帰ったことも気づかないのも俺のせいなら、たかが名前呼ばれたくらいで呆けて彼女の名前を聞けなかったのも俺のせいだって言うんだろ!?
圭介  たかがって言うな!俺にとっては一大事だ!
守   あ~嫌だ嫌だ。女に免疫がない奴は!
圭介  何だ!免疫って!じゃあ女はウィルスですか?ワクチンがないと感染するんですか?そういうお前はアナフィラキシーショックで死んでしまえ!
守   もういいよ、分かったよ。
圭介  何が分かったんだよ!


  守、黙って名刺を圭介に渡す


圭介  何だよ、これ。
守   名刺だよ。
圭介  名刺は分かるよ。誰の名刺で、何で今渡す必要があるかって聞いてるんだよ!
守   あの娘の名刺で、お前が名前を知りたがってたから渡したんだよ!
圭介  聞いてたのかよ・・・。
守   ああ。
圭介  先に言えよ。
守   圭介が聞くのが一番良いと思ったからさ。
圭介  そりゃそうだけど・・・。
守   すいませんねえ、俺はアナフィラキシーショックになるほど女に抵抗がなくて!
圭介  女でアナフィラキシーショックになる奴はいない。
守   まあ安心してくれ。遠くない将来、死ぬから。
圭介  死ぬ訳ないだろ。そんなんで。
守   圭介が死ぬって言ったんだろ?
圭介  冗談だよ冗談。冗談に決まってるじゃんかよ。


  守 しみじみと


守   ・・・でも死因としては最高だよなあ・・・。
圭介  何が?
守   女アナフィラキシーショック。
圭介  そうか?
守   そうだろ。天国だよ。
圭介  よーく考えてみろよ。スズメバチのアナフィラキシーショックだって死因は心臓麻痺とかでその原因がスズメバチの毒なんだぞ。
守   だから?
圭介  二股をかけられて恨みからの刺殺。原因は女アナフィラキシーショック。慰謝料を払ってたら自分が食べるものがなくて餓死。原因、女アナフィラキシーショック。どうだ?
守   嫌だ~!!
圭介  だろ?
守   女怖い・女怖い・・・・


  圭介名刺を改めて見る


圭介  北澤美咲・・・か。
守   良い娘そうじゃん。
圭介  あまりしゃべってないから分からん。
守   じゃあ良い娘そうだったぞ。
圭介  本当かっ!?
守   まあ、俺もそんなにしゃべってないから分からないが・・。
圭介  結構楽しげに喋ってたじゃないかよ。
守   え?そうか?
圭介  ああ、笑い声が外まで聞こえてたし。
守   あ、そうだった?
圭介  うん。ところで守は彼女いないの?
守   別れちった・・・。
圭介  ふったのか!?ふられたのか!


  守 複雑な表情を浮かべ、話題を変えるように


守   どっちでもいいじゃねえかよ!そんなこと!
圭介  良くない!
守   何で!?
圭介  ふったんだとすれば、お前なんて事をしたんだ!って事だし、ふられたんだとしたら、お前なんて事をされたんだ!って事だし・・・。
守   別れられねえじゃん、それじゃ。
圭介  いいんだよ、別れなくて!大体悩めるときも健やかなるときも一緒にいるもんなんだぞ!
守   別に結婚してるわけじゃないんだし・・・。
圭介  一緒だよ、付き合ってるなら!
守   圭介さん、重い・・・。
圭介  え!?
守   って言われちゃうぞ。
圭介  嘘!?
守   マジで。
圭介  そっか・・・重いのか・・・。じゃあ守いいぞ。
守   何が?
圭介  美咲ちゃんと付き合って。
守   何だそれ。
圭介  だって良い娘そうだったんだろ?
守   いや・・・そうだけど・・・。
圭介  じゃあ良いじゃねえかよ。
守   圭介のしずかちゃんだろ?
圭介  なんだ、じゃあ俺は、のび太君だって言うのか?


  大きくうなずく守


圭介  そっか、俺、のび太君なんだ・・・。そんなにドラえもんにおんぶに抱っこなんだ・・・。


  大きくうなずく守


守   とりあえずデートに誘え!話はそこからだ!
圭介  どうやってだよ、ドラえもーん。
守   誰がドラえもんだよ!
圭介  だって・・じゃーんけーん、ぽん。ほら。
守   うわっ、グーしか出せない。手が開かない。仕方ないデレレレレッテレ~!メールアドレス!!
圭介  え?まじ?
守   名刺の裏をみてごらん、のび太君。
圭介  うわっ!本当だ!ありがとうドラえも~ん!!!
守   何か嫌だ・・・。


  暗転


  第2幕  哀しみに包まれて
  第6場  過去


  シーン 会社前

  圭介が正面入り口に立っている、そこへ美咲が出てくる


美咲  あちゃー降ってるし・・・。どうしよっかなあ・・・一番近いコンビニまでは走って2分。駅までダッシュでやっぱり2分・・・。駅に行けば傘は売ってると思う・・・けども売り切れてる可能性も大。でもコンビニなら、まあ売り切れている可能性は低い。あ~どうしよっかなあ・・・。あ、あの人も傘忘れたのかなあ・・・。そうそう、うんうん、悩むよねえ、この降り方。待ってれば止むような気もするし、強くなっていく気もする・・・。ん?どぅわ!強くなってきた!無理。ダッシュ無理。どうしよ~・・・えっ?あの人傘持ってるんじゃん!一瞬でも同士と思った私が馬鹿だった・・・。所詮人生なんてそんなものよね。知ってる、知ってる・・・はぁ~(ため息)
圭介  どうぞ。
美咲  え?
圭介  どうぞ。
美咲  でも・・・。
圭介  あ、いいの、いいの。俺ん家近いし。気象予報士に勝ったという優越感に浸るためだけに傘持ってきただけだから。
美咲  ・・・でも。
圭介  はい、どうぞ。


  圭介、走り去る
  そこへ同僚が出てくる


美咲  あ、おつかれ。ねえあの人って誰だか分かる?・・・あの走ってる人。・・・うん・・・・フリーライターの吉岡圭介・・・。


  シーン  圭介の部屋

  圭介の部屋の前でネームプレートを見ている美咲


美咲  ここだ・・・。


  ドアベルを鳴らす美咲


守   はーい。

美咲  え?えっと吉岡さんの・・・。
守   あ、圭介?圭介は病院ですけど・・・。
美咲  病院?
守   はい、なんかこの前、雨に打たれて風邪ひいたみたいで。
美咲  雨に・・・?
守   そう、傘持っていったのに何だか貸しただか無くしただかで、ずぶぬれ。
美咲  そうだったんですか・・・。
守   えっと・・・どのようなご用件ですか?
美咲  多分・・・その時、傘を貸してもらった者なんですけど・・・。
守   ええ!!しずかちゃん!?
美咲  いえ、違いますけど・・・
守   じゃあ何!?
美咲  美咲ですけど・・・。
守   美咲ちゃんね、美咲ちゃん・・・しずかちゃん、みさきちゃん。同じ同じ。
美咲  はあ。
守   何だ、そうだったんだ、早く言ってよ。まあ、どうぞどうぞ。


  美咲 玄関で立ち止まっている


美咲  いえ、とりあえず傘を返しにきただけなので、今日はこれで・・・。
守   それはまずい。
美咲  え?
守   それは非常にまずい。
美咲  なんでですか?
守   まあまあ、とりあえず上がって。圭介もすぐ戻ってくるから。出掛けたのも3時間くらい前だし、もしかすると5分くらいで戻ってくるかもしれない。
美咲  はあ、それじゃあ・・・。


  部屋へと入ってくる美咲


守   あ、その辺に適当に座ってて。
美咲  はい・・・。


  美咲が座った向かい側に守 座る
  守 はちらちらと美咲を見ている
  美咲 その様子が気になってはいるがあえて向かないでいるが、そのうち耐えられなくなる


2人  あの~!
美咲  え?
守   あ、どうぞ。
美咲  いえ、特に私は・・・何ですか?
守   いや、多分気のせいだと思うんだけど・・・
美咲  何ですか?
守   ・・・何処かであったことありませんでしたっけ?
美咲  いえ。
守   ですよねえ・・・。
美咲  はい。
守   待てよ?仕事であったのかも・・・ちょっと待って。


  守 そういうと眼鏡を取り出し、かける


守   俺ねえ、仕事のときは眼鏡かけてるの。伊達なんだけどね。
美咲  そうなんですか・・・。
守   どうだろうか?基本的に一度会ったことがある人は忘れないから何処かであったことがあると思うんだけど・・・。


美咲 じっと守を見つめる


守   ちょっと待って!左向いて、左。なんかその顔の向きでさあ・・・

  シーン インタビュー
  2人の回想
  守 取材に来ている
  美咲 今とは雰囲気が違い、反抗的な態度をとっている


守   会話というのはね、目と目を合わせてかわすものなんですよ~。
美咲  うるせえなあ。
守   うるさくない。静かに話してるでしょ?
美咲  はぁ~


  美咲 溜息をつく


守   ため息をつくと幸せが逃げるよ。
美咲  誰がつかせてるんだよ!
守   俺は頼んでないぞ。
美咲  頼んで無くても、お前と話してると出ちゃうんだよ。
守   そんな悲しいこと言うな!俺と話してるとため息が出るなんて・・・。
美咲  出ちゃうんだからしょうがないだろ。
守   出ちゃうんなら飲め。我慢してくれ。大好きな彼氏の前でも構わず屁をこくのか?君は。
美咲  はあ?
守   こくのか!?
美咲  ・・・
守   こかないのか!?
美咲  こかねえよ!
守   だろ?だったら我慢してくれ。頼む!
美咲  何で?
守   何で?って別にいいじゃないかよ!トイレ我慢してくれとか言ってるわけじゃないんだから。
美咲  嫌だよ。
守   何で?
美咲  何でお前のために我慢しなくちゃならないんだよ!
守   俺の為じゃない!世界の為だ。
美咲  世界?
守   そう!ため息がどれほど地球温暖化に繋がってるか知らないだろ!?
美咲  牛のげっぷじゃないんだから。
守   お?よく知ってるね。
美咲  常識だよ、そんなの。
守   でもあんまり学校行ってなかったんだろ?
美咲  学校なんて行かなくたって常識は身につくの!
守   偉い!その通りだよ。常識なんて誰も教えちゃくれないんだから自分で身につけないと。
美咲  そうそう。
守   でも、惜しいよなあ・・・。
美咲  何が?
守   学校に行ってれば、さぞや良い成績だったろうに・・・。
美咲  いいよ、勉強嫌いだし。
守   それは学校行かなかったから、嫌いだと思ってるだけじゃない?
美咲  だって、学校行っても、ちんぷんかんぷんだもん。
守   それはたまに行くからだよ。
美咲  しょうがないだろ!?行けなかったんだから!
守   何で?
美咲  顔にでっかいあざがあって学校に行けると思うか!?
守   殴られてたのか?
美咲  ・・・・


  美咲 うつむく
  守 それを見て


守   でも偉いよ。
美咲  何が?
守   俺なら、絶対やり返すね。百倍返し。そんで親父も仕事行けないの、そうすると会社クビになって・・・
美咲  駄目じゃねえかよ!
守   本当だ、駄目だな・・・。
美咲  無理だよ、それに私が悪いんだし・・・。
守   そんなこと無い!お前は悪くない!!確かに見ず知らずの中年の親父をよってたかってボコボコにしたのは悪い。でもそれはちゃんと少年院に行って罪を償ったんだ。だから、今は悪くない。・・・いや?悪いかも知れないけど悪くない。でも、お前の親父はお前をボコっても別にいつもと変わらずだろ?それは間違ってる。
美咲  親だもん、当たり前だろ。
守   あのな?この世に生を受けた瞬間から全ての人間は平等なの。福沢諭吉も言ってるだろ・・・・え~と・・・
美咲  天は人の上に人をつくらず、人の下に人をつくらず。だろ?
守   そうそう、よく知ってるな。俺は駄目だ~無駄に大学まで行って、知識ったってそんなくらいなもんだよ・・・。
美咲  だから、親だって・・・。
守   親だって関係あるかぁ、そんなの。俺だったらぶん殴って・・・。
美咲  だから、養ってもらってるんだよ、私は!
守   そうだよな、そう思っちゃうよな。・・・・・ペットとか飼ったことある?
美咲  ああ。昔、犬飼ってた。
守   名前は?
美咲  シオン。
守   じゃあ、シオンが夜中吠えるからって、殴ったりするか?
美咲  そんなのするわけないじゃん!
守   だろ?誰に強制されたわけでも無く、シオンを飼おうって決めたんだろ?一度決めたことは、何があっても最後までやり遂げなければならないんだ。途中であきらめたり、投げ出したり、そんな中途半端な奴は最初から飼わなければいいんだ。いいか?美咲ちゃん。君は望まれて生まれてきたんだ。お父さんも君を育てるって決意をしたんだ。でも、君のお父さんは自分の思い通りにならないからと、君の事を殴った。これはどう考えたって、君は悪くない。悪いのはお父さんだ。だから自分を責めてはいけない。かといって、その憂さを他人にぶつけてもいけない。・・・もの凄く辛いことを俺は言ってるのかもしれない。俺は親に意味も無く殴られたことなんて無いし、何も考えずに大学まで行ったし・・・。でも君は少なくとも自分の気持ちは分かるだろ?


  頷く美咲


守   で、俺みたいな、ふつ~な奴の気持ちも想像できるだろ?
美咲  なんとなく。
守   それって凄くないか?理解できる人間が普通に生きてきた人よりちょっと多いんだ。
美咲  ・・・
守   ま、そういうことだ。
美咲  ・・・うん・・・・よく分からないけど・・・ありがとう。
守   いや、別に・・・・・・っていかーん!!
美咲  何だよ、急に!!
守   いかーん!!これインタビューじゃねえかよ!「連続サラリーマン暴行事件の主犯格Aの今」
美咲  私、主犯じゃないよ。
守   知ってる。全然足取りが掴めないから何か知ってるかなと思ってきたんだけど・・。もし知らなかったら当時の面白エピソードを聞きたいなあと思ってみたり・・・。
美咲  知らねえよ!


  シーン終了

  お互い 指を指す


2人  あっ!!
守   あのときの少年院あがり!
美咲  あのときの変な記者!
守   変はないだろ変は!
美咲  だって変じゃん。
守   まあ、その件に関しては否定できないが・・・。
美咲  ・・・・なんでここに?
守   ああ、俺と圭介はできてるから。
美咲  え!?
守   嘘だよ。幼馴染。
美咲  ああ、そうだったんですか・・・。
守   いや~しかし奇遇だねえ。あのときの少女とこんなトコで再会を果たすとは・・・。運命だね。
美咲  ・・・・・
守   冗談だよ、本気で困るなよ。
美咲  別に困ってるわけじゃ・・・。
守   え!?じゃあなんだよ、その沈黙は。
美咲  びっくりしただけです。
守   何だよ、驚かすなよ。・・・ん?今は出版社で働いてるってコト?
美咲  うん。
守   凄いな。あれからずいぶん頑張ったんじゃないの?
美咲  まあね。えらい?
守   別に偉くは無い。
美咲  何でよ!
守   頑張るのは普通だから。頑張らない人生とは蝉の抜け殻のようなものだ。
美咲  それは誰の言葉?
守   俺の。
美咲  どうりで詰めが甘いと思った。
守   そう言うな。・・・ま、でも確かに凄い。
美咲  でしょ?
守   じゃあ、あれから学校にも通ったの?
美咲  うん。夜学で高校行って、短大行って・・・。
守   おお、よく学費出してもらえたね。
美咲  出してもらえないよ。
守   じゃあ、どうやって?
美咲  自分で働いて出したに決まってるじゃん!
守   偉い!
美咲  やった!
守   それはさすがに偉い!!
美咲  でしょ?


  守 ちょっと考えて


守   ・・・・ん~
美咲  何?
守   今、ふと思った。今日は圭介の傘を返しにきたんだよねえ・・・。
美咲  うん。
守   わざわざ?
美咲  うん。
守   会社で渡せばいいのに?
美咲  だって毎日会社に来るわけじゃないんでしょ?
守   まあ、フリーって話だからね。
美咲  でしょ?だから。
守   まあ、何にせよ、少なからず好意はあるってことだな。
美咲  何、勝手に決めてるのよ。
守   ないの?
美咲  無くはないけど・・・。
守   だろ?・・・


  守 更に考えて

守   ん~だよな・・・。
美咲  何が?
守   いやいや、こっちのこと。それより、名刺ある?
美咲  名刺?あるけど・・・・。


  美咲 名刺を取り出す


守   更に裏にメアドを書いて。
美咲  なんで?
守   何でもだよ!
美咲  何で怒るの?
守   うだうだうるさい!
美咲  なによ・・・。


  メアドを書き込む美咲


美咲  はい。
守   よーし。それで、ここから俺とお前は赤の他人だ。
美咲  うん、もともとそうじゃない?
守   そういう意味じゃなくて、今まであったことも見たこともないってこと。
美咲  なんで?
守   あのな、こと女性との交友関係に関してあいつは俺のことを全く信用していない。
美咲  全く自慢にならない。
守   うん。自慢にならない。
美咲  だから?
守   これから歩き始めるであろう二人の邪魔にしかならないのだよ、この事実は。それにお前も嫌だろ?いきなり最初から圭介に元ヤンでしたってばれるの。
美咲  ・・・うん、確かに。
守   よし、相互理解が得られたところで協約は成立した。ふぅ~よかった・・・・ん?


  守 耳をすませる


美咲  今度は何?
守   圭介が帰ってきた。
美咲  え?
守   ほら、あのトントントントンって右足重心の・・・間違いない。いか~ん!!
美咲  何が!?
守   いか~ん!!装え!
美咲  何を!?
守   決して仲良くなく、どこかぎこちなく。
美咲  無理。
守   無理とか言うな!
美咲  だって・・・。
守   何か話題を、話題を・・・・・あ~それで、みんなで大爆笑!いや~あんな圭介の顔初めて見た。
美咲  ・・・?


  ここから(・・・)は圭介に聞こえないような小声での意


守   (話をあわせろ!)
美咲  (え~!)・・・ど、どんな顔だったんですか?
守   こんな顔!(笑え!どこかぎこちなく!)


  2人笑う


圭介  ただいま~
守   お!やっと帰ってきた。おかえり~。
圭介  あれ?
美咲  おじゃましてます。
圭介  うん、いらっしゃい。よくココが分かったね。
美咲  編集の人から聞き出しちゃいました。
守   いか~ん!


  圭介 さっきの回想シーンで使った美咲のかつらが出しっぱなしになっていることに気づく


圭介  何が?
守   実にいか~ん!(隠せ!ヅラをしまえ!)


  美咲 かつらに気づいて慌てふためく


圭介  だから何がだよ!?
守   え?こ、個人情報の漏洩だ!(早くしろって!)
美咲  (何処に?)
圭介  別にそんな大した事ないだろ。
守   は?ああ、確かに大した事ない。売れてないから。(出したトコにしまえばいいだろ?)
美咲  (どこから出したっけ?)
圭介  じゃあ言うなよ。
守   しか~し!もし圭介がベストセラー作家だとしたら?(知るかよ!どこに仕込んであったんだよ!)


  美咲 困ってかつらをかぶる


圭介  だから売れてないって。それに出してもいない。


  守 美咲の様子に気付く


守   今はな。確かに今はまだ誰も知らない、知られちゃいけないただの小説家志望の男の子だ!(かぶるな!)
美咲  (だって・・・)
圭介  別に知られちゃいけなくないし、男の子でもないけども。


  美咲 色々かつらをしまえる場所を探している
  守 その様子を見ながらやきもきしている


守   そして、ベストセラー作家になる可能性も限りなく低い。
圭介  うるさいよ。
守   しかし可能性が0な訳では無い。
圭介  はいはい。
守   仮にもしも万が一、圭介がベストセラー作家になったとして・・・
圭介  悪かったな、可能性低くて。
守   その時、同じように住所を簡単に教えてしまうような担当だったらどうなる?
圭介  どうなるんだよ?
守   ドアの前には「死ね」と書かれた貼り紙。郵便受けにはネズミの死骸。そして剃刀の入った郵便物。
圭介  なんで嫌がらせ?ファンが殺到とかじゃないの?
守   常に想像は最悪の状況をしておくものだ。
圭介  想像なら楽しいものにしてくれ。


  美咲 強引にポケットにかつらを押し込む・・・がポケットに入りきらずにはみ出している


守   現実はそんなに甘くない。(見えてる!)
美咲  (え?)
圭介  いいよ。もう。
守   とにかく、個人情報が漏れるのは危険だ。(出てるって!!)


  美咲 ようやくポケットに気付く


美咲  (は!)・・な、なんかすいません。


  美咲 再びしまう場所を探し出す


圭介  ほ、ほら、現実のほうが良いじゃないか!
守   ほらね、悪い想像をしておいたほうが、現実で良いことがあったときの喜びも一塩。
圭介  まあ、間違ってはいないわな。で、今日はどうしたの?
美咲  え?ああ、編集の人に聞いたらしばらく取材で会社には来ないって言うから早く傘、返したほうが良いかなって思って・・・。
圭介  ああ、わざわざありがとう。別にいつでも良かったのに。
美咲  うん、でもなんとなく・・・。
守   気持ち悪かったんだよ。圭介の傘には盗聴器とか小型カメラがついてるから監視されてるみたいで。


  美咲 今までの行動が見られていたと誤解する


美咲  え!?付いてるんですか!?
圭介  付いてないよ!何を言うんだよ!!
守   じゃあ、あの貧しいフリーのライターさんはこの傘がなかったら雨の日はいつも濡れてしまう!って。
圭介  何で?他にも傘は持ってるよ。


  美咲 ほっとしたものの、困り果てて圭介にかつらをかぶせようとする


守   だから・・・貧しいって・・・。
圭介  何だ!?俺は貧しく見えるのか!?


  美咲 圭介の髪のコトを言われたと誤解する


美咲  そ、そんなんじゃないです!
守   うん、だからね、想像は常に悪いほうを・・・・。


  美咲 ようやく自分のバックに気付き、そこへかつらをしまう
  守 それを見てようやく安心する


圭介  もう、悪ノリするから・・・。俺だけならいいけど今日は違うんだから。
守   すまん・・・。(取り合えず今日は撤退しろ!)
美咲  (ええ!?)
守   (何だよ!)
美咲  (まだ来たばっかりなのに?)
守   (うるさい!帰れ!)


  美咲 感情のこもらない声で


美咲  あ、もうこんな時間。帰らなくっちゃ。圭介さん、風邪早く治してくださいね。
圭介  あ、うん、ありがとう。
美咲  じゃあ、今日はこれで。
圭介  あ、うん。
守   送ってけよ!
美咲  大丈夫です、大丈夫です。風邪引いてるんだから、寝てください。
圭介  あ、うん。
守   じゃあ、俺が!
美咲  結構です!
守   嫌われている・・・。ただの冗談好きな男の子なのに・・・。
美咲  じゃあーまた。
圭介  あ、うん。


  美咲 出て行く

  廊下で座り込む美咲


美咲  どうしよう・・・。


  美咲 とぼとぼと帰る

  守 圭介に渡した名刺を取り上げる


守   それじゃあ、早速メールを送ろう!
圭介  え?もう?
守   こういうことは早い方がいいんだよ!
圭介  そう?
守   遅くなればなるほどタイミングが難しくなるんだから。
圭介  別に夜だっていいじゃん。
守   なんで夜がいいんだよ。
圭介  夜なら落ち着いてメール読んで、返事出して・・・。
守   落ち着いてメール読む奴なんていない!
圭介  そうなの?
守   ぱっと見てぱっと返す。これが鉄則。
圭介  まじで?
守   試しに送ってみ?速攻で返ってくるから。
圭介  なんて送ればいいんだよ・・・。
守   お前は中坊か?わざわざ傘を届けてくれてありがとうとか色々あるだろうがよ。


  圭介 おおげさな感嘆の声をあげる


圭介  おぉ~。
守   感心してないで早く送れ。
圭介  えっと、じゃあ・・・題名は何が?
守   何でもいいよ!
圭介  悪かったよ・・・じゃあ・・題名、傘。
守   なんか古めかしい感じだな・・まいっか。
圭介  何でもいいならいいじゃんか。先ほどはわざわざ傘を届けてくれてありがとうございました。・・・・折角来てくれたというのに何のおもてなしも出来なくて申し訳ありません・・・・と。あとは?
守   とりあえずそれで送れ。
圭介  ちょっと中途半端じゃない?
守   手紙じゃないんだからいいんだよ!
圭介  分かったよ・・・送信!飛んでけ!!


  携帯を握り締めたまま固まっている圭介


守   何してんだ?
圭介  いや、すぐに返ってくるって言うから・・・。
守   合格発表を待つ受験生じゃないんだから。
圭介  俺にとっては同じ・・・いや、それ以上だ!


  守 あきれて


守   あ~そんななの~じゃあ仕方ないね・・・。


  携帯が鳴る


圭介  おぉ!!
守   来たー!!読め!
圭介  ・・・・明日の天気・・・晴れ時々曇り・・・。
守   何してるの?
圭介  いや、この前から天気予報はちゃんと見ておこうと思って、登録を・・・。
守   紛らわしい!
圭介  俺のせいじゃないだろ!?
守   そんなサイトに登録している君が、紛らわしい。
圭介  普通じゃねえかよ、天気予報くらい。
守   このタイミングでメールが来るのがウザイ、昼だぞ!!朝来い!朝!!
圭介  だから、俺のせいじゃないだろ・・・。


  再び携帯が鳴る


守   おぉ!
圭介  人妻があなたを求めています。登録無料・・・。
守   圭介君?
圭介  ち、違うよ。迷惑メールだよ!
守   じゃあ、今すぐドメイン拒否しろ!2度とこないようにしてしまえ!
圭介  後でな。
守   圭介君?
圭介  何だよ。
守   寂しいからってそんなトコに無駄金遣うなよ。
圭介  やってないって。
守   あんなの8割くらいサクラなんだから。
圭介  えぇ~まじ!
守   圭介!?
圭介  冗談だよ、冗談。もう・・・嫌だなあ、疑い深くって。

  圭介 そういいながら携帯を操作。

圭介  よし、これでもう迷惑メールはこないぞ!


  さらに携帯が鳴る


圭介  お!
守   もう期待しない!だいたいあの手のメールは最初の1件来たらあとはとめどなく来るもんなんだから・・・。
圭介  来た・・・。
守   だろ?性質悪いんだよ、あの手のメールって。1カ所にアドレスばれたら100カ所にばれたと思えって・・・。
圭介  違う、本物。
守   本物ってなんだ?
圭介  いや、言い方が悪かった、本命。
守   何!?
圭介  えっと・・・こちらこそ、突然家まで行ってしまって申し訳ありません。また改めてお礼しますね・・・だそうだ。
守   おお、そう来たか・・・。チャンス到来!
圭介  そうなのか?
守   そりゃそうだろ?また、会うチャンスができた。
圭介  なるほど、そういう取り方ができるのか・・・それは、それは・・・。


  圭介 携帯をパタンと閉じる


守   ・・・なんで携帯閉じてるんだ?
圭介  え?だって終わったじゃん。
守   何が?
圭介  やりとりが。
守   まだ全然終わってねえじゃんよ。いつとか何処でとか全く決まってないのに!
圭介  そこまでかよ~。


   暗転


  第7場  来訪

  ドアベルが鳴る
  守 玄関を開ける


守    はーい。


  美咲 立っている


美咲  こんにちは。
守   お?圭介いないよ。今日は取材だって。
美咲  知ってます。
守   あ、まあ、そうだよね。じゃあ何しに?ま、どうぞ、入って。
美咲  料理の腕を見せびらかしに!
守   料理の腕?誰の?
美咲  私の。
守   またまた~。
美咲  何がよ。
守   料理なんて出来るの?
美咲  1人暮らしだっての。
守   1人暮らしだって、料理できるってコトにはならないだろうがよ。コンビニだってあるし。
美咲  してるっての。毎日。
守   へ~意外。
美咲  何が意外なのよ。
守   いや、とても自分で料理を作るようには思えなかったもので・・・。いや、でも味は分からないな。
美咲  だから、作りにきたんでしょ!?
守   だから圭介はいないって。
美咲  だから知ってるって。美味しくなかったらやばいでしょ?
守   なんか嫌な予感がしてきた・・・。
美咲  鋭い!
守   やっぱり?
美咲  当たり。
守   毒見~!?
美咲  味見よ!!
守   美味しくないものは毒だよ~。
美咲  あんたの舌の感覚が正常だって保障もないでしょ?
守   じゃあ、させるなよ!
美咲  他に誰にさせられるのよ!こんな役割。
守   知らないよ!自分で探せ!


  美咲 きょろきょろした後、守を指差す


守   何だよ。
美咲  探した。
守   あ~探されて俺なんだ・・・。
美咲  そうなのです!宜しくお願いします!
守   分かった、分かった。で?何を作るつもりなんだ?
美咲  えっとね・・・・これ。


  美咲 そう言いながら料理本を取り出し指差す
  守 それを見て不安そうに


守   え~と・・・つかぬ事をお伺いしますが・・・これを作ったことは?
美咲  初挑戦!
守   なんで挑戦するの!?いつも作ってるもんでいいじゃん!
美咲  そんなの面白くないじゃん。
守   誰を面白がらせたいんだ?
美咲  ・・・・・自分?
守   やっぱり毒見じゃないか!?
美咲  だって・・・いつも気取った料理なんて作らないもん・・・。
守   別に気取る必要ないじゃんよ・・・。
美咲  最初くらい気取りたいじゃいのよ、見栄よ見栄!
守   威張るなよ。いいか?最初に背伸びした料理を作ったとするだろ?そうするとだ、現時点ではお世辞か本音かは分からないが、圭介は言うのさ、美味しかったよ!って。
美咲  やった!
守   喜ぶな。仮想なんだから。そうなると君も頑張ろうってなるだろ?
美咲  まあ、そうね。
守   しばらくは、その料理本に載っているものを作っていればいいんだが、だんだんとそれでは物足りなくなってくる。すると君は料理学校に通いだすんだ。
美咲  はあ・・・。
守   普通に夕方とか休みの日とかにやってる料理スクールに通えば良いものを君の選んだところは料理専門学校。和食洋食中華なんでも作れるようになった君はいつの日か自分の料理の腕をより多くの人に奮いたくなってくる。最初は物珍しさから集まってきたお客さんもいつの日か足遠くなり、ふと思うのさ。あれ?私はなんで料理を作っていたのだろう・・・って。


  美咲 いつのまにか横になって料理本を読んでいる


守   聞けーい!!
美咲  あ、終わった?
守   まあ、いいけど、とにかくそんなこんなで気取った料理なんて作らないほうがいいの!
美咲  て言うかさあ、なんだかんだ言って、私の料理を食べたくないんでしょ?


  守 頷く


守   はい。
美咲  なんで?別にいいじゃない。そうそう食べられるものじゃないよ~。
守   ・・・だから。
美咲  え?
守   圭介より先に君の料理を食べるってのがまずい。非常にまずい。
美咲  なんで?
守   だから言っただろ?こと女性関係に関して俺は圭介からの信用は全くない!これっぽっちも無い!
美咲  何やったの?
守   それは語るも涙なことが・・・。
美咲  だから何?
守   聞きたいの?
美咲  うん。
守   嫌だ。
美咲  なんで?
守   えぇ?・・・ただ来るものは拒まず去るものを追っていた頃の話だよ。
美咲  意味分からない。
守   いいじゃんかよ、俺のことは別に・・・。
美咲  いいじゃんかよ、教えてくれたって・・・。
守   あのな、俺に対する情報は出来るだけ少ないほうがいいだろ?ついぽろっともらさないとも限らないんだから。
美咲  なるほど・・・。
守   だから、俺の話はいいの!分かったらお帰り!
美咲  ええ~!!
守   何だよ!
美咲  お腹空いた。
守   帰って作って食べろ!
美咲  ・・・ひとりで?
守   君の家に誰かがいるなら別だが、そうじゃないんだとしたら1人だろうな。
美咲  嫌だ。
守   嫌だって言ったって仕方ないだろ?いないんだから、いないのが悪い。
美咲  いれば良かったってこと?
守   そういうわけではないけど・・・。
美咲  誰かいるのに圭介さんと付き合えば良かったってこと?
守   そうじゃないけど。
美咲  だってそう言ったじゃん。


  守 仕方なく


守   ああ、言った、確かに言った。分かったよ!作れ!食う。食ったる!
美咲  え~!もうそんな気分じゃな~い!
守   どうしたいんだよ、一体。
美咲  ご飯食べに行こ?
守   脈略が分からない。
美咲  なんでよ、だってもともとココで私と2人でご飯食べる筈だった訳でしょ?
守   まあ・・・でも、作りたくないんだろ?
美咲  でもお腹は空いたよ。
守   知らねえよ、そんなの。
美咲  ココで食べても何処かで食べても一緒じゃん。
守   ま、まあ確かに・・・。待て?ココで食べれば誰にも見られないけど、何処か行ったら誰かに見られるじゃないか!?
美咲  誰も見てないわよ。
守   可能性の話をしてるの、俺は。
美咲  自意識過剰・・・。
守   そんなんじゃないだろ?分かったよ!行けばいいんだろ?行けば!
美咲  図星突かれたからってむきになって・・・可愛い。
守   可愛いとか言うな!あ~行くぞ!何が食いたいんだ!?肉か?魚か?野菜か?
美咲  あ・な・た!
守   コロス!絶対コロス!!
美咲  別にいいじゃんよ、ちょっとくらいつまみ食いしてみようかなぁとかないの?
守   お前、圭介と付き合ってるんだろ?
美咲  ・・・いや、どうなんだろ?
守   何だよ、それ。
美咲  どっから付き合ったって言うの?
守   そりゃ付き合ってください!・・・はい・・・からだろ!?
美咲  ん~じゃあ付き合ってない。
守   え!?そうなの?
美咲  だって好きだとも、付き合ってくださいとも何も言われてないもん。
守   何だと!・・・っじゃじゃあ、気持ちだ!お互いがお互いを好きなんだろうなあっていう漠然な思いがあれば付き合ってる。
美咲  それでいいの?だったらまもるっちは私のこと好き?
守   まもるっちって誰だ?
美咲  あ・な・た。
守   勝手にあだ名をつけるな!
美咲  じゃあ、あだ名つけたから。
守   あぁもう何でも良いよ・・・。
美咲  好き?
守   嫌い。
美咲  え・・・・・・!?


  泣き出す美咲


つづく



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