勿忘草~戯曲集~

勿忘草~戯曲集~

第6場 戦闘開始~




 桐子 居間で泣いている
 廉治 入ってくる


廉治    なんだ、まだ泣いてるのか?
桐子    だって、和人が、和人が・・・!
廉治    おまえ、あんな奴の何処が良いんだ?
桐子    そんなのお父さんに関係ないでしょ!?お父さんが・・・お父さんが、殺したのよ!
廉治    あいつが自分で刺したんだろ?俺は何もしてないじゃないか?それに、死んだかどうかだって分からないだろ?
桐子    だったらせめて救急車くらい呼んであげたっていいじゃない!?
廉治    そんなことしたら、俺が何か関わったみたいに思われるじゃねえかよ!
桐子    関わったじゃない!!
廉治    だから、それが嫌だって言ってるんだろ!!客商売なんだぞ!人が死んだ事なんかに関わったなんて噂が流れたら、商売が成り立たなくなるだろうが!!
桐子    このひとでなし!!!
廉治    ひとでなしってなんだ!親を捕まえて!
桐子    親だって言うなら親らしい事してから、そんなコト言ってよ!
廉治    何だと!
桐子    私は一度もアンタを親だなんて思ったことないわよ!!
廉治    何ぃ!!まあ、おまえが何と言おうが、結婚はしてもらうからな!!
桐子    だから、いくら言われたって嫌な物は嫌なの!いい加減分かってよ!!
廉治    おまえこそ、いい加減にわがまま言うのは止めなさい。死んだお母さんだって、きっと同じことを言ったはずだ。
桐子    お母さん?お母さんが本当にそんなコト言うと思ってるの?
廉治    当然だろ?
桐子    言うはずないでしょ?そんなコト!大体、好き好んであんなマザコン野郎と結婚しようって言う奴がいるなら見てみたいものね。
廉治    そんなコト、大した問題じゃないだろ・・・。マザコンって言ったら聞こえは悪いが、単に母親を大事に思ってるってことじゃないか。向こうだって母子家庭だったんだ、そのくらい理解してやれ!
桐子    物事には度ってものがあるの。それを超えたら、それは異常なの!
廉治    そんなコトは結婚したら変わるかも知れないだろ。それに、ココで住むんだから、向こうのお母さんとも距離が出来るわけだし。
桐子    距離?そんなものが本当に出来ると思う?1ヶ月ももたずに、お母さんとも同居よ。
廉治    そんな馬鹿な・・・。
桐子    お父さんだって見てるでしょ?一緒に食事に行ったら、魚の骨は全部取ってもらわないと食べられないし、「もう、まさちゃんったらお口の周りを汚して・・・」なんて言って拭いてもらってるのよ!?私は嫌よ、魚食べるたびに骨を外すのも、口の周りを拭いてやるのも!
廉治    おまえが結婚しなかったら、ココの改装は出来なくなるんだぞ!どうするんだ?もうお金は払ってもらったって言うのに!
桐子    え?
廉治    あ・・・
桐子    今、なんて?
廉治    何も?
桐子    払ってもらった?ココの改装費を!?いくらよ、いくらだしてもらったの!?
廉治    そんな大した額じゃないよ。
桐子    大した額じゃないなら、返しなさいよ!
廉治    いや、大した額かなあ・・・。
桐子    だから、いくらよ!?
廉治    5000万くらい・・・。
桐子    5000万!?そんな・・・まだ工事入ってないんだから、止めさせてよ!
廉治    そんな・・・折角、改装できるんだぞ?
桐子    私が結婚しなくても、そのお金を出してくれるって言うなら構わないわよ。でもそうじゃないなら、今すぐに止めさせて!
廉治    ほら、でも朝早いし・・・。
桐子    関係ないわよ、今すぐに電話して!
廉治    だから、そんなことできるわけないだろ!
桐子    いいわよ、お父さんがしないなら、私がするから!
廉治    おぅ、しろしろ!!


 桐子 勢いよく受話器を手に取る


廉治    それにな、俺に救急車呼べとか言う前に、自分で呼んだらいいじゃねえか!丁度、電話持ってるんだし。
桐子    あれから、どれだけ経ってると思ってるのよ!
廉治    ん?


 廉治 時計を見て


廉治    5時間くらいか?
桐子    なんで、今頃電話してきたんだってコトになって、下手したら私たちが殺したことになっちゃうかもしれないでしょ!?
廉治    さっきは、「お父さんが殺したー」って息巻いてたじゃないか?
桐子    それは・・・
廉治    ほら、おまえだって面倒な事には関わりあいたくないって思ってるんだろ?
桐子    そんなコト・・・!
廉治    なんだよ、無いって言えるのか?大体、人間なんて自分が一番なんだよ。誰かの為に・・・なんて言ったって、それは自分に最低限の保障があるから言えるんだ。ジャムおじさんがいなければ、アンパンマンだってああも、ほいほい自分の顔を食わせたりしないんだよ!
桐子    最低限の保障でいいなら、このままでいいでしょ?なんで改装する必要があるのよ!
廉治    嫌だね、俺は最低限なんかじゃ。こっちは1円も出さなくてもココが新しくなるんだぞ?こんな良い話逃す手はないだろ?大体、子供じゃねえんだから、いつまでもぐだぐだ文句言ってるんじゃない!!


 桐子 勢いよく受話器を叩きつけ


桐子    大人だから結婚できるんでしょ!?
廉治    おまえ、あれだけ金持ってるんだぞ!贅沢し放題じゃないか!ちょっとくらいうるさいお母さんがいることくらい許してやれ!それ以外に不満な事はあるのか!?
桐子    ・・・和人・・・。
廉治    もう、あきらめろ。あいつはどうせ助からない。
桐子    そんなコト言わないでよ!
廉治    金の無い奴のトコ行ったって苦労するだけだったんだから、良かったんだよ。おまえだって今は、そんなコト言って嫌がってるけど1年も経ったらきっと良かったって思ってるはずだよ。海外旅行にだって行きたい放題だぞ?
桐子    行きたい放題?
廉治    ああ、ちょこっとマザコンを我慢すれば、旅館だって新しくなって・・・おまえも食べたいもの食べてやりたいことやって・・・何か不満な事あるのか?
桐子    でも、好きでもない男とずっと一緒にいなくちゃならないのよ!キスだってセックスだってしなくちゃならないのよ!
廉治    そんなの目をつぶっちゃえば、誰だって一緒だよ!
桐子    そんなコトないわよ!
廉治    じゃあ何が違う?
桐子    触った時に和人は筋肉でがしっとしてるけど・・・あの人は・・・なんかブヨッとしてそうじゃん!?触ったこと無いから分からないけど・・・。
廉治    そんなのある程度、年取ったら変わらんぞ。
桐子    ある程度、年取るまでが嫌なんじゃないの!
廉治    ブヨッとって思うから駄目なんだ。ふわふわーとかマシュマロみた-いとか考えようによっては色々あるだろ?おまえは最初から悪いイメージを持ちすぎだ!
桐子    でも・・・
廉治    でも・・・じゃない!それがもし、今まで出会ったことも無いくらいに良かったらどうするんだ!?
桐子    そんなこと・・・
廉治    無いって言えるか?
桐子    うーん・・・。


 桐子 考え込む


廉治    だろ?物事、頭で考えてるだけじゃ駄目な時ってのもあるんだ。とりあえず飛び込んでみないと分からないことがな。
桐子    そうなの?
廉治    ああ。だからな・・・


 そこへ和人の声が飛び込んでくる


和人    桐子、桐子―!!!


 桐子 声の方向を向く


桐子    和人?和人―!!
廉治    あーくそ!あとちょっとだったのに!!


 和人 入ってくる


和人    桐子!大丈夫か?何もされてないか?


 桐子 深く頷いて


桐子    うん!
廉治    俺が娘に何かするわけないだろ!?
和人    強引に連れてったじゃないか!?
廉治    我が家の門限は10時なんだ!それを過ぎたから、引っ張って帰るのの何処が悪い!!
和人    門限!?・・・そうなの?
桐子    う・・・うん。


 桐子 決まり悪そうに頷く


和人    と、とにかく、俺が気絶してるのを良い事に無理やり連れ帰りやがって!
桐子    そうだ、和人大丈夫だったの?怪我は?
和人    ああ、大丈夫だ。
廉治    そいつに自殺する勇気なんてねえよ。ましてや、自分で自分の腹を切る勇気なんてな。
和人    なんだと!
廉治    ま、あそこで自分の腹を切れるようなら、俺も少しは見直してやったんだけどな。
和人    あ、言ったな?ちゃんと刺しました!ホラ!ホラ!!


 和人 洋服をまくりお腹を見せる


廉治    何処?
和人    ほら、ココ!赤くなってるだろ!?
廉治    なんで、刺したトコが赤くなったくらいで済むんだ?
和人    それは、刺そうと思ったけどナイフが横にそれたからだ!
廉治    ど真ん中を刺せば、それないだろ?それるってのは、元々おまえが刺す気が無かったっていう証拠なんだよ!
和人    それは・・・
廉治    そんな根性無にウチの娘はやれん!
桐子    私を物みたいに言わないでよ!私は私なんだから!
廉治    何言ってやがんだ。ここまで、俺が育てたんだぞ!俺のモンだって言って何が悪い!産まれてからずっとだぞ!おまえはあるのか?20年以上も続けてる事!
桐子    25年しか生きてないのに、20年以上も続けてることなんかあるわけ無いでしょ!?
廉治    とにかく、こんな奴のトコに嫁に行くことなんかは絶対に許さん!


 雅史 入ってくる


雅史    おはようございますー。すいません、夕べは母が帰ってしまって……
廉治    おお、雅史君おはよう。いや、こっちこそ、すまなかったね。この馬鹿娘が約束を忘れるモンだから。
雅史    いえいえ、ボクが確認しなかったのもいけなかったんですよ。
廉治    やさしいねえ、雅史君は。


 雅史 和人に気付く


雅史    あれ?君は・・・夕べの・・・誘拐犯!!
和人    誰が誘拐犯だよ!
雅史    生きてたんだ、良かったねえ・・・てっきり死んだものだとばかり・・・。
和人    あのくらいじゃ死なねえよ!
廉治    そりゃそうだろうな、ナイフがかすって死ぬ奴はいないわな。
雅史    え?かすった?
廉治    そうだよ。刺してなかったんだよ。
雅史    あ、そうだったんだ・・・道理で。そうだよねえ、そうじゃなかったら今ココにいるはずないもんねえ。
廉治    そうそう。


 和人 何も言えず立ち尽くす
 桐子 黙って和人を見ている


雅史    で、なんでここにいるの?
和人    それは、桐子を助けるためだ!
雅史    助けるって、何から?
和人    おまえたちからに決まってるだろ!?無理矢理結婚させようとしやがって!
雅史    無理矢理?ボクがいつ無理矢理結婚しようとした?
和人    現に桐子は嫌がってるじゃないか?
雅史    でも僕たちはお見合いもしたし、お父さんだって認めて下さっている。
和人    ・・・お見合い?
雅史    ああ。お見合いっていうのは、普通結婚をするためにするものじゃないのか?
和人    桐子、おまえお見合いなんかしたのか?
桐子    あれは・・・うん・・・。


 桐子 頷く


和人    何で・・・俺は聞いてないぞ!
桐子    私も知らなかったのよ!行ってみたら、みんないて・・・でも、ちゃんと断ったわよ!
廉治    ちゃんとお受けしたぞ。
桐子    ここからおかしくなったのよ!
雅史    なんにせよ、ボクは正当な手順を踏んで結婚にまで漕ぎつけたんだ。非難される言われは無いと思うけどな。
和人    でも、桐子は断ったっていうし、嫌がってるんだぞ!
雅史    いい?結婚って言うのは当人同士だけが良くても駄目なんだ。2つの家族が1つになるんだから。つまり、結婚する二人とお互いの家族の問題って事さ。ボクの家族はこの結婚を賛成してくれているし、桐子さんのお父さんも賛成してくれている。もちろんボクも結婚したいと思ってる。反対しているのは桐子さんだけだ。
和人    大問題だろ!
雅史    いいか?もし君が桐子さんと結婚しようとしたとする。するとお父さんは?
廉治    反対だ!認めん!!
雅史    ほら、状況は一緒だろ?
和人    結婚する当人が嫌だって言ってるんだぞ!大違いじゃないか!
雅史    分かんない奴だなあ。だから言っただろ?当人同士だけの問題じゃないって!大体、こっちはもう結婚に向けて式場も借りたし結婚後の新居になる、この旅館の改装の資金も援助してるんだ!君は何をした?何もしてないだろ?
和人    どうせ、親の金だろ?偉そうに語るなよ!・・・式場を借りた?
雅史    ああ。
和人    もう、そんなに話が進んでるのか!?


 和人 桐子の方を睨む


桐子    私もさっき聞いて知ったの!・・・え!?式場!?それは聞いてない!
和人    もういい!桐子行こう!こんな奴らと話しても時間の無駄だ!
雅史    だから言ってるだろ?君がどんなに喚いたところで話は、もう動き始めてるんだ。止まらないよ。
和人    動き始めてるだと!?勝手に押して動かしてるだけじゃないか!手を離したらまた止まっちまうから2人して必死に押してるだけだろ!?


 雅史、廉治 動揺して


雅史    そ、それは・・・
和人    大体、なんだって?結婚は当人同士が良くても駄目だって?当たり前だろ?そんなこと!!でもなあ、当人同士が良くなければ、話が始まりもしないのが普通なんだ!どうせ、あれだろ?金持ってるだけじゃ、誰も結婚してくれないから、親を抱きこんで結婚せざるをえないようにしようって魂胆だろ?そんなに結婚したけりゃな、まず親離れしろ!!
雅史    何だと!お母さまの悪口を言うな!
和人    誰も、おまえのお母様の悪口なんて言ってねえよ!おまえが親離れしろって言ってるの!
雅史    ボクの何が悪いって言うんだ!!
和人    何が悪い?桐子、言ってやれ!


 和人 桐子にあごで合図を送る


桐子    え?言っちゃっていいの?
和人    本人が知りたいって言ってるんだから。
桐子    えっと・・・デートにお母さんを連れてくるトコロ。


 雅史 激しく動揺して


雅史    あれは、たまたま偶然、いつもデート中にお母様に会うだけで・・・
和人    あり得ない!
桐子    あとは・・・魚の骨をお母さんに外してもらわないと食べられないところ。
雅史    小骨が喉に刺さったら痛いだろ!
和人    大人の喉は、多少の小骨は素通りするよ!って言うか、自分で外せ!日本人として当然の技術だ!
廉治    それはそうだな・・・
雅史    お父さん!
桐子    あと・・・
雅史    まだ、あるのかよ!
桐子    あと、自分で靴下が履けなくて、いつも履かせてもらってるところ。
雅史    体が固くて、足まで手が届かないんだよ!
和人    酢を飲め!酢を!!原液のまま!!
桐子    あと・・・
雅史    もういい!やめてくれ・・・
和人    と、言うわけだ。だから、あきらめろ。


 廉治 勢いよく立ち上がり


廉治    分かった!こうしよう!
桐子    何よ!急に!
廉治    やっぱり、男は強くないといかん!
桐子    は?
廉治    だから、戦って勝ったほうに桐子をやろう!
桐子    何、勝手に決めてるのよ!?
廉治    何だ?じゃあおまえの見初めた男は、こんなマザコン野郎にも勝てないようなひ弱な奴なのか?
桐子    そんなコトないと思うけど・・・
和人    いいよ、やってやろうじゃないか!もし俺が勝ったら、俺のこと認めてくれるってことですよね?
廉治    ああ、勝ったら認めてやるよ。
和人    絶対ですからね!
廉治    雅史君もそれでいいな?
雅史    そういうコトなら構いませんよ。


 和人 構えて雅史に向かう


雅史    先に言っとくけど、ボクは強いよ。ボクシングでプロのライセンス持ってますからね。


 和人 たじろぐ


和人    え?
雅史    さあ、何処からでもどうぞ。


 雅史 軽くフットワークを始める


和人    ちょっと待て、聞いてないぞ。そんなコト!
桐子    お父さん、卑怯よ!
廉治    あれ?そうだったの?知らなかったなあ。ま、でも腕っぷしくらいは雅史君より強いってところ見せてくれないと、俺も認められないなあ。
桐子    お父さん!
雅史    さ、どうしたの?そっちから来ないなら、ボクから行くよ!


 和人 遮二無二、雅史へ突っ込んでいく


和人    くそ!うおぉー


 雅史 それを交わし立て続けにジャブを和人の顔面に叩きつける
 和人 倒れこむ


雅史    何か、嫌だなあ。弱いものいじめしてるみたいで。
おっさん  ちょっと待ったー!!


 おっさんとこぞう 勢いよく登場


おっさん  話は聞かせてもらった!
和人    あんた達・・・。
廉治    おまえ等、なにしに来た!
おっさん  強い奴が、桐子さんと結婚できるんだろ?来てみて本当に良かった・・・。期せずしてチャンス到来!!
廉治    何言ってるんだ?
おっさん  俺もこの戦いに参加させてもらうよ!桐子さんを愛する1人として!
桐子    は?ちょっと待ってよ!ていうか、あんた達、誰よ!
おっさん  夢では何度かお会いしておりますが、おっさんこと高橋健之助と・・・
ぼうず   ぼうずこと岸田亮です。
おっさん  2人揃って通りがかりの正義のヒーローです!
ぼうず   戦うのはおっさん1人だけどね。
廉治    通りがかりの変な奴らじゃねえか!
おっさん  ちゃんと聞け!正義のヒーローだ!!
和人    どういうことだよ!俺の味方だったんじゃないのかよ!
おっさん  何?甘えた事言ってるの?状況は大きく変化したの。そんな甘えたちゃんじゃ、そこのマザコン野郎と変わらないよ?
雅史    マザコン野郎って言うな!良いですよ、やってやろうじゃないですか!素人が何人増えようとボクは一向に構いませんよ。
廉治    え?そう?雅史君が良いなら・・・良いか。
桐子    私が構うわよ!
おっさん  大丈夫だ。
桐子    何がよ!
おっさん  これから愛は育めば。
桐子    嫌よ!
おっさん  嫌よ嫌よも好きの内ってな。
桐子    嫌よ嫌よは、嫌なのよ!!


 雅史 桐子の方を向いて話しているおっさんに殴りかかる


雅史    もう試合は始まってるんだよ!!


 おっさん 振り向きざまの裏拳が雅史のあごに当たり、雅史 吹き飛ぶ


おっさん  あ、ごめん。痛かった?


 雅史 起き上がれない


おっさん  さて、もう決勝戦か。早いな。
和人    おい、ちょっと待ってくれよ!
おっさん  待つ?何を?
和人    だって、あんたは俺を応援してくれたじゃないかよ!
おっさん  そりゃ、ちょっと前までの話だ。やっぱりそう簡単に運命の人をあきらめきれない。
和人    何だよ、それ。俺はあんたが行けって言うから、ここにこうして・・・。
おっさん  は?じゃあ俺が行けって言わなかったら、ココにはいないって言うのか?
和人    それは・・・でも、あんたが言ったんだろ?桐子もきっと俺のことが好きだって!
おっさん  会ったばかりの俺に何が分かる?ちゃんと話したこともないのに。
和人    ちゃんと話したこともないのに、運命の人!とか言って桐子のこと追っかけてるのは誰だよ!
おっさん  馬鹿だなあ。運命の人は分かるんだよ、会ったその時に電気が走って。
和人    ・・・電気が走ったのか?
おっさん  ああ、走ったね。そりゃあもうビリビリと痺れるくらいに。


 ぼうず 脇で見ていて声をかける


ぼうず   静電気だろ?
おっさん  おまえは黙ってろ!
ぼうず   はいはい・・・。いや、俺はやめろって言ったんだよ?自分で言った事は守れって。でもおっさん、この性格だからさ、きかなくて。
おっさん  いいから、やろうぜ?勝った方が桐子さんと結婚出来るんだから。
和人    ・・・
おっさん  なんだよ、怖気づいたのか?
和人    ・・・
おっさん  なんとか言えよ、腰抜け!
和人    ・・・


 和人 おっさんに突っ込んでいく


和人    ふざけんなー!!


 おっさん ふいに突っ込まれ倒れこみ


おっさん  ずるっ!みぞおちに入った!頭がみぞおちにぃ!


 おっさん もんどり打っている


おっさん  ナイスタックル・・・やりゃ出来るじゃねえか・・・


 おっさん 大の字に寝転がる


おっさん  俺の負け。おまえの勝ちだ。


 そこへ雅史の母親 やってくる 以降:雅母


雅母    まさちゃん!どうしたの!?
雅史    あごが、あごがー!


 雅史 雅母に泣きつく


廉治    駄目だな、ありゃ。
桐子    ・・・でしょ?
廉治    ああ・・・。


 和人 立ち上がり


和人    桐子、俺と結婚してくれ!
桐子    和人・・・。
和人    確かに、俺は金ないし、頭も悪いし・・・ん?俺のいいトコって何だ?何処だ?
桐子    和人。
和人    ん?
桐子    私のこと好き?
和人    ああ、大好きだ。
桐子    そこが、あなたの良いトコよ。


 桐子 和人に抱きつく


廉治    しゃあねえなあ・・・。


 おっさん 立ち上がり


おっさん  じゃあ、行くか。
ぼうず   ああ。
おっさん  じゃあ、邪魔者は退散しますわ。
和人    あの・・・!


 和人 おっさんの後姿に声をかける


おっさん   おっさんでいいよ!
和人     おっさん・・・ありがとう・・・。
おっさん   俺?ありがとうって、おまえに真面目に戦って負けたんだけど?
ぼうず    ああ、見事にな。
おっさん   じゃあな!


 おっさんとぼうず 立ち去る


雅母     ちょっと、これはどういうコトなんですの!?
廉治     いや、これには深―い事情がありまして・・・。
雅母     この責任はきっちり取って頂きますからね!?
廉治     責任と仰いますと?
雅母     この旅館の改装費用と、結婚式場のキャンセル代ですよ!
桐子     あちゃー最大とも言える難関が残ってたわね。
和人     ああ・・・。
雅史     そうだ!全額返してもらうからな!!


 廉治 ちょっと考えて


廉治     いや、式場はキャンセルしなくて結構です。
桐子     ちょっと、どういうコトよ!私は結婚しないわよ!!
和人     そうですよ!お父さんだって認めてくれたじゃないですか!!


 廉治 雅母に近寄り


廉治     非常に残念です・・・こんな・・・出会いになってしまって・・・。
雅母     は?
廉治     私と結婚してくださいませんか?
全員     ええー!?
桐子     また、物凄いウルトラCを出したものね・・・。
雅史     はあ?何言ってるの?お母様が結婚なんて・・・
雅母     はい・・・。
全員     ええー!?
雅史     ちょっと、どういうコトだよ!
雅母     私、結婚するわ!


 廉治 雅母と抱き合う


桐子     一件落着ってことでいいのかしら?
和人     ああ、多分ね。


 桐子 和人と抱き合う



第7場 エピローグ


 おっさんと和人 電車を待っている


おっさん    駅弁買ったか!
ぼうず     OK!
おっさん    お茶は?
ぼうず     OK!
おっさん    酒は?
ぼうず     OK!
おっさん    よし、準備万端だ!
ぼうず     ・・・本当はさ・・・夢の中の人だったんだろ?桐子さん。
おっさん    ん?・・・さあな?
ぼうず     これからどうするんだよ。
おっさん    え?探すよ。当たり前だろ?
ぼうず     ええ?帰るんじゃないの!?
おっさん    だって、まだ運命の人、見つけてないのに、どの面下げて帰れるって言うんだよ!
ぼうず     きっとヒカルちゃんも寂しがってると思うなあ・・・。
おっさん    キャバクラの女の子が、1人の客にそんなに入れ込むわけ無いだろ?
ぼうず     いや、ヒカルちゃんの、おっさんを見るときの目。あれは特別だね。
おっさん    それ、マジ?
ぼうず     ああ、大マジ。
おっさん    俺も、そう思ってたんだよ!でも絶対に勘違いだろうなあ・・・って思ってたんだけど、ぼうずからもそう見えるって事は・・・間違いないな。
ぼうず     だろ?
おっさん    でも、あの子、ケンちゃんの為に生きるって言ってたぞ?
ぼうず     それは、おっさんにヤキモチ妬かせる為だよ、きっと。
おっさん    ええ!マジ!?
ぼうず     絶対、そうだって。だっておっさん、名前何だっけ?
おっさん    健之助。
ぼうず     ほら、けんちゃん。
おっさん    俺だけは、違うって除外してたよ!!
ぼうず     もう、間違いないって!これはもう絶対だよ!
おっさん    そう?そう?
ぼうず     ああ。それにヒカルちゃんに初めて会った時の事、思い出して。
おっさん    初めて・・・
ぼうず     電気は?
おっさん    あ!走った走った!真冬の寒―い日だったんだよ!ヒカルちゃんが初めて隣に座った瞬間にバチッ!って!!
ぼうず     だろ!?
おっさん    そう言えば、あの時、ヒカルちゃんも「痛っ!」って言ってた!!
ぼうず     な?
おっさん    彼女にも走ったんだ。電気!
ぼうず     こうなったら!
おっさん    帰るか!
ぼうず     そうしよう!!
おっさん    そうと決まったら、切符を買い換えないと・・・急げー!!


 おっさん 走り去る
 ぼうず 荷物を持って追いかける



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