坂田甚内先生


○o。6月のエロス、トラン・アン・ユン監督作品『夏至』。o○

「夏の秘めごと 私の恋が熟れていく」

陽光に映える色鮮やかな草木、鳥の囀り、瞳を射るような午後の光、よく雨が降って、はじけるような夕立の音が心地よい・・・。目を疑うほどの緑の深さ。濃さ。艶。水の透明感。浸透。まるでかわいた土ににようやく恵みの雨が染み渡ったような感覚。水の音がとても良く聴こえてくる。水道からひねれば水は出ると思っているような私たちには聞こえない、大切に、大切にされているがゆえに聞こえる水の音。ひそやかで、まろやかで、美しい。壁の色、服の色、水の色、草花の緑、木の葉、森、室内のインテリア、すべてに緑があり、どのコマにも緑が入っていて、とてもみずみずしい。グリーンに統一することで、映画全体の統一感を作り出している。アジア女性特有のしみ一つないきめ細かな肌や、真っ黒な髪を無造作に伸ばした美しさ・・・。扇情的なシーンは皆無なのに全編官能的な情感がせせらぎのように流れ涼を感じさせ、日本の鬱陶しい梅雨の季節にはぴったりの作品ですね。心から癒される感じがします。



『 夏 至 』(2000年フランス/ベトナム)

監督・脚本・台詞:トラン・アン・ユン(「シクロ」「青いパパイヤの香り」)
音楽:トン・タ・ティエ(「シクロ」「青いパパイヤの香り」)
撮影:マーク・リー(「花様年華」「戯夢人生」)
美術:ブノワ・バルー(「シクロ」「ふたりのべロニカ」)
出演:トラン・ヌー・イエン・ケー/グエン・ニュー・クイン/レ・カイン/ゴーク・クアン・ハイ/アンクル・フン



『シクロ』の撮影の合間に訪れたハノイにインスパイアされて出来たという本作は、落着いた古都ハノイの風情そのままに、優美な官能をたたえている。映像はひたすら湿りを追求し原色基調でシャープ、これは気持ちいい。それは雨とか髪を洗うとかタライで野菜を洗うといったシーンだけでなく、感性というのか感覚というのかそういったものが湿っぽい。アジア的なたおやかな時間の流れと少ない言葉(セリフ)、それと長回しの緑と青を基調とする映像美が素晴らしい。アジアの女の黒髪の美しさを再認識!かつて、日本もそうでしたなあ!



ベトナムが舞台であるけど、アオザイ着てないし、美男美女ばかりが出てくるし、小説家、写真家、俳優の卵、学生、カフェの経営者といった登場人物の職業は皆、いかにも額に汗して働いたりはしない「知的労働者」であり、ルー・リードの曲を聴く兄妹のシーンなどはCMFのよう。街に溢れるエキストラのベトナム人とはやはり違和感がある。決してリアルなベトナムとは思えない。どこかベトナムの風土を借りた無国籍映画的雰囲気があり、そのままそれはフランス在住のトラン・アン・ユン独自のスタイリッシュな映像美学。しかしながら母国ベトナムに対する温かな眼差しと優しい語り口、そして静かな官能に、トラン・アン・ユンの新しい側面が発見できる。ヴェトナムのインテリアがすてきな映画。アジアン家具の火付け役ともなった映画ですね。また、先ごろ惜しまれながら亡くなったヴェトナムの国民的音楽家チン・コン・ソンのヒット曲やルー・リード率いる ヴェルヴェット・アンダーグラウンドの名曲「ペイル・ブルー・アイズ」 が効果的に挿入されているよん。



ヴェトナム、ハノイ。主人公は年代の違う3人の女たち。母親の命日に集まったスオン、カイン、リエンの3姉妹。そして、その兄弟ハイ。母が最後に口にしたのは、父とは違う初恋の人の名だった。母の命日に亡き母親の秘めたる初恋の話が明かされ、それぞれに誰にもいえない秘密を抱える3姉妹は、母の秘密に自分たちの心の秘密を重ねてゆく・・・。両親を理想の夫婦としていた姉妹の心は揺らぐ。



母の命日から父の命日までの数日間を3姉妹を中心に淡々と描いてるんですが、それぞれの3人の姉妹はとても仲が良く、何でも語り合い、分かち合っていた。しかし彼女たちは各々に、誰にも言えない心の秘密を抱えていた。長女スオンはカフェの女主人。幼い息子がいるが夫には愛人と子供がおり、自分も行きずりの青年と逢瀬を重ねていた。次女カインは新婚で、ライターの夫は処女小説に行き詰まっている。妊娠が判ったが、今は夫と二人の秘密にしておきたい・・・。



三女リエンはまだ学生で、役者の卵の兄とアパート暮らし。恋人とは最近うまくいっていない。この三女(トラン・ヌー・イェン・ケー)がどうみたって兄と妖しい関係にしか見えない。兄妹それぞれ別の部屋で一応寝ているんだが、壁は真ん中が大きく開いていて、そこをカーテンで仕切ってベットを隣合わせにして寝てまして、そのカーテンを開けるところから映画はスタートします。やがて三女は兄のベットに潜り込み果ては兄を追い出していってしまう...まさに、同衾って感じ。



二人のお目覚めの音楽はルー・リード率いるヴェルヴェット・アンダーグラウンドの名曲「ペイル・ブルー・アイズ」!なんともクールでけだるくエロチックな雰囲気を醸し出している。



THE VELVET UNDERGROUND



そんな姉妹達に酒宴の席でカインの夫、キエンが彼女たちに母が本当に愛したのは父ではなく初恋の人、トアンだったと大胆な仮説を唱える。両親を理想の夫婦とし、最後まで深く愛しあっていたと信じて止まない彼女達はその発言に自らを投影して心を揺るがして行くのだった。



母の命日から父の命日までの数日間を3姉妹を中心に淡々と描いてるんですが、それぞれ40代、30代、20代の三姉妹の微妙な心情を、セリフを抑え、漂う雰囲気で語る手腕は見事。今回はひとつの家族に焦点を当て、家族の夫婦の静かな調和を繊細なタッチで描きだし、監督のトラン・アン・ユンは小津安二郎を敬愛しているそうで、なるほど通ずるものがあるな、と思った。



アジアの黒髪!アジアン・コケティッシュな魅力!
私生活でもパートナーのトラン・ヌー・イエン・ケー

ベトナムで生まれる。「青いパパイヤの香り」の完成後に同作品の監督トラン・アン・ユンと結婚。99年1月、ジェラール・フィリップ劇場で舞台デビュー。子供は長男がトラン・ヌー・ラン・ケー、2001年4月に第2子カオ・フィーが生まれる。主な出演作に、「青いパパイヤの香り」(93)、「シクロ」(95)、「夏至」(00)などがある。



トラン アン ユン監督(Tran Anh Hung 1962年 12月 23日~)

監督のトラン・アン・ユンはフランス在住のベトナム系フランス人。といっても生れは'62年ベトナムで、かのベトナム戦争で一家でフランスに亡命したという。
1993年、長編デビュー作の『青いパパイヤの香り』でカンヌ国際映画祭に新風を巻き起こしカメラドールに輝いたトラン・アン・ユン。2作目の『シクロ』では95年ヴェネチア国際映画祭グランプリを獲得。独特の美学で常に我々を魅了してきた彼の5年ぶりになる新作『夏至』は、再び2000年のカンヌ国際映画祭"ある視点"部門に正式出品を果たした。トラン・アン・ユンの映画はしばしばパリ発ベトナム映画と称される。フランスの映画学校で習い才能が開化しただけあって、確かにトラン・アン・ユンの表現はフランス映画の影響が色濃く残っている。「恋する惑星」の王家衛(ウォン・カーウァイ)とトラン・アン・ユンは一躍アジアン・ヌーボーの双壁をなす存在となった。



「これは私にとっては初めてのセリフがある映画。先の2作品は無声映画だと思っています。なぜ今回そのようになったかと言うと、この映画を撮る前に長女が生まれ、彼女との会話の中で言葉の重要性を知ったんです。この映画で沈黙の後に発する言葉の重要性を感じて欲しいと思ってます。日常生活で使っているシンプルなセリフを使い、リズミカルなセリフよりメロディカルというのを重視しました。浮いているような雰囲気をかもし出せるようなセリフにしたかったんです。」



『青いパパイヤの香り』 (1993年 仏・ベトナム)
監督・脚本: トラン・アン・ユン
主演: トラン・ヌー・イエン・ケー、ルー・マン・サン、グエン・アン・ホア、他



※カンヌ映画祭カメラドール賞・セザール新人監督賞受賞のフランス在住ベトナム系フランス人、トラン・アン・ユン監督のデビュー作。この「青いパパイアの香り」はなんとフランス国内のスタジオで全編セット撮影されたベトナム(が舞台の)映画です。



舞台は1951年ベトナム、サイゴン。10歳くらいの少女(ヌイ)が奉公先を訪れる。奉公先は布や糸を商い、家族構成は放浪癖があり趣味人の父、健気に家族に尽くし実際に店を切盛りする母、息子3人と父方祖母。家族は数年前、ヌイと同じ年代の娘を亡くし、落胆していた。そのため奉公先の母はヌイを自分の娘のように愛しむ。末っ子の少々?のイタズラはあるが基本的に悪意のない家族のなかで、ヌイは奉公を淡々とこなしていく。そんな中、ヌイは家族の長男の友人クエンに、ほのかな憧れを抱く。主人の死などを経て、経済的に窮し、家族構成も変わっていくなかで、ヌイの奉公先は、かつて憧れていたクエン宅に変わる。クエンは資産家の家に生まれ、パリ帰りの新進の作曲家というヌイとは違う世界に属し、美人の恋人がいた。しかし、ヌイが鏡に向かい口紅をさす仕草でクエンはヌイの存在に気づき、その後二人は結ばれる。

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映画と対話するために.....。!U^ェ^U




『愛のお話』 (A Tale of Love1995年/108分)
 監督、脚本、編集:トリン・T・ミンハ
 共同監督:ジャン=ポール・ブールディエ
 音楽:ザ・コンストラクション・オブ・ルインズ
 出演:マイ・フィン、ジュリエット・チェン、ドミニク・オーヴァーストリート
 キュウ・ロアン、マイ・レ・ホー

女性誌の編集のかたわら写真のモデルをして、ヴェトナムにいる家族に仕送りをつづけるフリーランス・ライター、キュウを通じて、アメリカに移住したヴェトナム移民(ディアスポラ)の体験を描く初の長編劇映画。19世紀初頭に書かれたヴェトナムの国民的な愛の詩歌『キュウのお話』を基に、家族のために娼婦となっておのれの“性"を犠牲にした女の物語を現代アメリカに置き換えて映画化。

■トリン・T・ミンハ
*トラン・アン・ユンと同じく戦争で祖国から逃れてきたベトナム系アメリカ人の映画作家。
1952年ヴェトナム生まれ。サイゴンで育ち17歳でアメリカに移住。映画制作者、作家、作曲家、哲学者。アフリカのセネガルで音楽を教えた後、現在はカリフォルニア大学バークレー校教授。多彩な領域をフィールドとした著書は多く、芸術論『作品なき芸術』(1981)、建築空間論『アフリカの空間』(1985、共著)、詩集『小文字で』(1987)、シナリオ及びインタビュー集『枠づけるもの、枠づけられるもの』(1992)以上未訳、邦訳に『女性・ネイティヴ・他者』(竹村和子訳、岩波書店、1995)、『月が赤く満ちる時』(小林富久子訳、みすず書房、1996)がある。米国内のほか、欧州、アフリカ、アジアで積極的な講演活動を続け、ポストコロニアリズムの尖鋭な思想家として、学生、知識人の間で熱烈な支持を得ている。現在までに7本の長編映画を制作し、それらは世界各地の芸術祭などを通じて広く紹介されてきた。「京都ビエンナーレ2003」では、新作「The Fourth Dimension」と過去の5作品が上映されたほか、京都芸術センター内にジャン=ポール・ブールディエとの共同製作によるメディア・インスタレーション作品を発表した。

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