「007 スペクター」21世紀のボンドにスペクター
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Emy's おやすみ前に読む物語
3) 「束縛」
【4月】
彼女が今年度の人事異動でこの支社に来た。
そして僕の席の隣に。
あの《川村多恵子》が。
多恵子は本社で男勝りの営業をこなすスーパーウーマン。
大きな契約をいくつも成功させたという彼女を知らない者は
この会社にはいないだろう。
しかし、この支社への移動は多恵子の強い希望らしい。
本社の営業課は、泣く泣く彼女を手放したらしいと聞いた。
なぜだろう。
この支社は本社と違って、営業も内勤も自分でこなす。
相手先の約束、資料データ作成・整理、その他の雑用すべて。
そして僕は知った。多恵子はパソコンが全くできないことを!
パソコンは2人で1台。左の席に僕、右の席に多恵子、
そして真ん中にパソコンが置いてある。
支社長の「篠原君、川村君の面倒見てあげてね。」の言葉に、
パソコン指導から入った。
正直そんな時間の余裕など無いところに余計な仕事も増えて、
僕は毎日帰宅が深夜になった。もちろん多恵子も深夜になる。
僕の根気はいつまで持つか。
あの、うわさに高い営業のスーパーウーマン多恵子のパソコンに
今夜も付き合う・・・。
【5月】
多恵子のパソコンの作業は慣れないせいか亀の歩みのようにのろく、
資料データ作成は普通なら20分位のところを一時間位かかっている。
その間にも、
「あの、篠原さん・・・。」
と声を掛けられ、僕の仕事もよく中断させられる。
しかし僕の根気は思ったよりも続き、今のところ僕なりに優しく
指導している。
ある日の残業の夜、多恵子が
「篠原さん、帰宅したら電話してもよいですか。」
と聞いてきた。
「いいけど。でも、話したい事なら今話してもいいよ。」
・・・どうせ2人で残業しているんだし。
「あの、電話したいんですけど。家族や彼女に気を使いますか?」
僕は1人暮らしだし、恋人とも7ヶ月前に別れていた。
僕たちは電話番号を交換した。
僕が帰宅して30分後、携帯が鳴った。多恵子からだった。
「川村です。」
「篠原です。どうした?」
「私、篠原さんの声が聞きたくて・・・。篠原さんの声が好きなんです。
パソコン教えていただいてて、隣で響く声がすきなんです。
電話の声も素敵でした。思い切って電話番号聞いてよかったです。
ありがとうございました。おやすみなさい。」
「・・・せっかくだから、五分くらい話そうよ。」
その後30分くらいは話して電話を切った。
多恵子がなぜこの支社を希望したのか。
本社の営業体制に疲れたらしい。
周りはほとんどが男性。しかもプライドが高く、仲間というより
ライバルという意識。女だから~、女のくせに~と言われ続け、
ま、心が病気になりそうだったという事だった。
だから僕のように時間をかけてパソコンを教えてくれる人は
驚いたし嬉しいと。
もっとも、本社では資料データは自分で作成しなくても、
それ専門の女性に頼むらしいが、男性社員には親切で
彼女には意地悪する人もいたらしい。
また、彼女が今年の3月で28歳になった事も知った。
僕が今年31歳になると言ったら、もっと年上かと思い
驚いたと言った。
「老けてる?」って聞いたら、大人の男の色気を感じると、
嬉しい事を言ってくれた・・・。
【6月】
僕たちの支社の服装はカジュアルだ。何かあってすぐ営業に行けるよう
スーツ等はロッカーに置いてあるが、基本的に内勤の服装には
こだわっていない。
彼女はいつもブラウスやカットソー、下はチノパンやロングスカートで
化粧も薄く、髪は黒に近い茶色のショートヘアー。
いわゆる地味な容姿だった。
ある時、本社の部長より連絡があり多恵子が急に営業に行くことになった。
「取引先が川村君でないと話しにならないって、本社の新営業マンに
クレームが。大手なのでこの場をうまくまとめて欲しい。」との事。
支社長も本社の部長命令にかなり緊張している。
多恵子は「はい。」と答え席から立ち上がる。
他の社員もこの事態の多恵子に視線が集まる。
「篠原さん、お願いがあります。大森興産の最新の資料データ・社長個人の データ・それと奥様のデータ、例えば最近の趣味とか習い事とか、
用意してもらえますか。私は15分後に出かけます。」
「OK。」
僕はまるで本社にいるような気分になる。
15分後、更衣室から多恵子が着替えて入ってきた。
僕を含め支社の人間が唖然とする。
髪は額を出すように分け形よくまとめている。顔はアイライン1本で
こんなにも変わるのかと思うほど目を引き立たせ、口紅もローズの濃い色。
服も胸元の開いた黒のスーツにダイヤモンドのネックレス。
スカートはひざ上10cm位のミニスカートに5cm位の黒のヒール。
多恵子は机から社章を取り出すと胸元につけた。
多恵子に見とれている僕に、
「篠原さん、資料見せてもらえますか。それと、ここからの大森興産までの
電車と道路、打ち出して下さい。」
僕がパソコンで新たに打ち出している隣で、彼女が資料を読んでいる。
少し机にかがんでいるので多恵子の胸の谷間が僕の目に入ってきた。
多恵子は全ての資料を受け取ると「サンキュー。」と言いながら僕に
ウィンクした。
多恵子が支社のドアから出て行くとどよめきが起こった。
「かっこいい!」と若い女性職員が黄色い声を出す。
支社長が僕の席に来て耳打ちする。
「流石だね。川村君もだけど、篠原君の情報データ処理も。」
そして「はい、全員仕事に戻って!」と大きな声で指示する。
しばらくすると僕の同期の池本が多恵子の席に座った。
「篠原君、知ってるかな?川村ってスーツの下はガーターストッキング
らしいよ。」
「えっ。」
「その様子じゃ知らないよね。今日の川村、いい女だったなあ。」
僕らは顔を見合わせてうなずいた。
池本が席に戻った後も僕の頭と耳に「ガーターストッキング」の響きが
離れなくなってしまった・・・。
パソコンが一人で使えたこともあって、多恵子の分も含めて
今日の仕事は終了した。時計を見たら19:00だった。
帰宅の用意をしていると携帯が鳴った。多恵子だ。
「今から戻ります。」
「もう終了した。帰っていいよ。」
「篠原さん、食事しましたか?夕食一緒に食べませんか。」
僕たちは某駅で待ち合わせした。
今日の川村多恵子と待ち合わせと思うと心が躍る。
駅に着くと多恵子が先に待っていた。
周囲の目を引く凛とした美しさだった。
「篠原さん。」
そう言うと右腕を僕の左腕に絡ませてきた。悪い気はしない。
「この近くに美味しいカレー屋さんがあるんですよ。そこはどうですか。」
返答する前に連れて行かれた。
店内はカウンターとテーブルが選べるようになっている。
「カウンターで。」
彼女が答えると店員が案内する。着席するとさっそく水が運ばれ
注文が取られる。
「私、チーズカレーの辛口。」
「ビーフカレーの・・・甘口。」
不思議そうな顔で多恵子が、そして店員までもが僕を見る。
ここが大人として、男としての欠点。僕は辛いものが苦手なのだ。
「篠原さん、かわいいですね。」
「ほっとけ。ところでなんでカウンター席を選んだの?」
「私、篠原さんの右側の顔が好きなんです。さっき腕組んで
左側の顔を見たけど、右側の方が素敵ですね。」
“はぁ?”
褒められているのか、からかわれているのか。
声が好きで、右側の顔が好きって。・・・なんじゃ、そりゃ。
【7月】
僕はサッカーチームに入っていて毎週日曜日に練習、
時々試合をしている。
・・・と多恵子に話したら
「私も何か運動したいな。今、ヨガも流行ってますよね。」
の話から、今週の土曜日2人で公園でデートすることになった。
デートといえるのか運動目的なのか、
彼女がバトミントンを持ってくると話した。
僕は運動神経は悪くないほうだ。
あまりバトミントンの経験はないが遊び程度なら。
土曜日多恵子は大きな手さげかばんに
ラケット2本を入れて現れた。
ラケットには有名スポーツメーカーのカバーが掛けてある。
「私、高校のときバトミントン部だったんですよ。」
ほとんど草、時々坊主、申し訳程度の芝生の上に
レジャーシートを敷き、僕たちはバトミントンを始めた。
多恵子の打ち返しのシャトルのスピードは流石に速く
僕もかなり真剣に取り組まなければ拾えなかった。
ほんの遊びのつもりが試合のようにラリーが続く。
「ひと休みしましょう。お弁当作ってきたんですよ。」
7月にしては少し曇っていて涼しいのが助かった。
もっとも、まさに試合後の僕たちは暑くて
500mlのペットボトルのお茶を一気飲みする。
冷たい。冷えている。
「朝、1時間くらい凍らせて、大体このくらいの時間で溶けるんですよ。
まだあと2本あるから。」
彼女は素早くお弁当を広げ、割り箸、ウェットティッシュなどを用意する。
おにぎりが7個とおかずが4品。その中に男心をくすぐる
里芋と人参とシメジの煮物が入っていた。
早速口に運ぶ。美味い。
「今冷凍食品で材料がカットしてあるものが打ってるんですよ。
だから味付けだけすればOKなんです。
私も一人暮らしだからよく利用しますよ。
何しろ煮物って煮とけばいいから、そばについてなくてもいいでしょ。
要は楽なんですよ。」
話から普段の料理の様子が伺える。
営業の多恵子と家庭の多恵子のギャップが想像を楽しませる。
「ロシアンおにぎり、作ってきたんです。
7個全部具が違います。
一つだけキムチの刻んだものが入ってるんですよ。
さぁ選んでください。」
一つ目は昆布だった。セーフ!
おにぎりもおかずも美味しい。
二つ目にビンゴだった。
僕はお茶をがぶ飲みする。
彼女は僕の食べかけのおにぎりを手から取ると食べ始めた。
三つ目もビンゴだった。
「あっそうか。明太子もだめですよね。」
何の抵抗もなく僕の食べかけのおにぎりを食べる彼女が可愛く
頼もしく感じた。
しかしあまりにも楽しそうに笑う彼女に
“お前、Sだろ。 ”と思った。
またこのシチュエーションが結構楽しく笑える僕は
“M”かもしれない。
【8月】
夏休みに入る前に会社全員参加で毎年恒例の決起大会が行われた。
毎年店を貸しきり、要はビールの飲み会だ。
その日は池本の隣の席に着いた。池本の右隣の席に高久彩子が座り、
僕や池本に料理を取ってくれたりビールを注いでくれたり、
かいがいしく面倒を見てくれている。
「池本さんから聞いたんですけど、篠原さんは社内恋愛しないって
決めてるって本当ですか?」
確かに今まで会社の女性と付き合ったことはない。
でも決めてると言った事もない。
高久彩子の問いに僕は池本を見た。
「高久ちゃん、篠原君のこと憧れてるらしいよ。ねぇ~。」
と池本と彩子が顔を見合わせる。
“篠原君とお前が呼ぶな。”
「・・・だって、大人っぽくて素敵だなって。」
「そうだ。高久ちゃん、篠原君の隣に座るといいよ。」
高久彩子は25歳で顔も可愛い。背が低くて守ってあげたくなるような
女性で、彼女と恋愛したい男性社員も少なくない。
僕も好かれれば悪い気はしない。話をしながら、いい子だなとも思った。
そういえば池本は?と思い探すと川村多恵子の隣に座って話している。
多恵子の楽しく笑う顔に、僕はなぜかシットする。
【9月】
「川村、今度のサッカーの試合見に来ない?
弁当も作ってきて欲しいんだけど。」
今年は残暑が厳しく、しかも彼女は一度もサッカーに興味を持つような
話はした事がない。ダメで元々。だって恋人って訳じゃないし。
ところが意外にあっさり
「いいですよ。何日ですか?」
話をしながらパソコンを打っている彼女を見て、成長したなぁと
感心しながら
「19日の日曜日に。」
「はい。詳細は後でにしてください。」
パソコンを打ちながらではこれが限界らしい。
もしかしたらサッカーの事もよく考えないうちに引き受けたのかも。
「ありがとう。」
19日の朝、9:00に待ち合わせてチームの先輩の自動車に乗って
グランドに集合した。
話題はこの試合と多恵子の話に集中する。
サッカーの試合には幸運の女神・多恵子のお陰なのか
勝利し、弁当も多恵子と勝利でとても美味しい。
14:30頃、先輩の自動車でグランドを後にした。
途中大粒の雨が降ってきた。夕立の激しさで
フロントガラスは滝のようになっていた。
僕のマンションの前に着くと他の自動車が横付けされていて
入り口まで寄せられない。
「僕たち、ここで降りて走ります。」
「彼女はどこかの駅まで連れて行こうか?」
なんて気の聞かない先輩の言葉。
僕たちは先輩の言葉に感謝の振りをしながら2人で降り、走った。
たった30m位だったがずぶぬれになってしまった。
エレベーターに乗ると冷房が入っているのか異常に寒かった。
「もう少しだから。」
彼女は声は出さず、うなずいて腕を擦って震えていた。
Tシャツが雨に透けて薄い水色のブラジャーが見えた。
“この風邪をひきそうな事態に何を考えているんだ、僕は。”
部屋に入るとすぐシャワーを浴びられるよう準備をした。
「シャワー浴びれば暖かくなるよ。」
彼女も素直にそれに従った。
僕はバスタオルと着替えを用意した。
彼女がシャワーから出てきた。
僕のTシャツとジャージの裾を捲って履く彼女にドキッとする。
続けて僕が入った。
熱い湯にホッとさせられ、彼女の水色のブラの事を思い出した。
僕の大きいTシャツをぶかぶかに着ている多恵子はセクシーだ。
2人ともシャワーを浴びたこのシチュエーションに、
次の展開を色々想像する。
“まずはコーヒーを入れて、
暑いのに試合に来てくれた事に感謝しなきゃ。
そして風邪の心配をしよう。
もしかしたらキスくらいはするかも。
・・・つーか、中学生か僕は。”
シャワーから出た僕に意外な展開が待っていた。
彼女はいなくなっていて、メモが残してあった。
《雨がやんだので帰ります。
サッカーの試合も勝ててよかったですね。
着替えありがとうございます。貸してもらいます。
では明日会社で。》
僕はすぐに玄関を開けた。太陽が顔を出していた。
【10月】
今日は朝から彼女と2人で営業だった。
午前中に2社、午後に1社。全て大成功だった。
やはり、彼女の営業手腕は素晴らしいものだった。
取引先の社長は彼女の話に耳を傾け、契約書に印を押す。
中には彼女のミニスカートからすらりと伸びた足を見て
セクハラな事を言うオヤジもいたが、さらりとかわして
難なく契約に持ち込んだ。
僕は彼女にあっぱれと感じながらも、営業手腕にはシットする。
これなら本社が手放したくない理由が分かる。
そして本社の営業課の男性社員の気持ちも分かる。
僕たちはカフェで一息ついてから支社に戻る事にした。
「ミニスカートもきれいな足も、武器なのか。」
僕のこの言葉は、敏腕へのシットより、
僕ですら直視できない彼女の足を
スケベなオヤジたちに見られるのが嫌だった。
「篠原さんも、本社の男性と同じ事言いますね。」
彼女はほんの少し不機嫌に答える。
「私は落とすと決まったら、どんな武器だって使いますよ。
出し惜しみしないんです。取引先の社長にも、篠原さんにも。」
篠原さんにも、と聞いて思い出した。
思い切って聞いてみる。
「営業に出るとき、ガーターストッキングって本当?」
「はぁ?誰から聞いたんですか。
・・・まだ営業に出たばかりの頃の話です。
ガーターストッキングだと契約が取れたんです、私。
だからジンクスのようになってたかな。
でも今なかなか売ってなくて。
ちなみに冬は普通のパンツスーツですけど
契約取れました。」
「そうなんだ。」
「あ、でも今日は朝から営業って分かっていたので・・・」
彼女は腰を椅子からずらし、太腿とその半分くらいが隠れる
ミニスカートの裾を手に持とうとし、小指と薬指がスカートに入った。
不覚にも僕はその様子をじっと見てしまった。
“めくるのかな。”
「篠原さん。」
はっと我に返った。
「篠原さん、エッチですね。」
もう、開き直るしかなかった。
《男はみんな》と言おうとしたが
世界の男のせいにしてはならない。
「僕は・・・エッチだよ。」
「・・・よかった、気が合って。」
彼女は内緒話のように僕の耳を覆った。
「・・・実は私もエッチなんです。」
離れた多恵子の目を、僕はじっと見た。
多恵子はニコッと笑うと
「さて、会社に帰りましょうか。」
と元気良く立ち上がった。
そうだ、まだ仕事中だった!
・・・ところで、今日のストッキングは?
【11月】
「篠原さん、今日できれば定時で上がりたいのですが・・・。」
先月の契約で一段と忙しくなり、ずっと残業が続いている。
そして多恵子のパソコンの亀の歩みのようなスピードは
相変わらずだった。
でも1日くらい帰してあげたい。
「ちょっと、今の仕事の進み具合見せてくれる?」
彼女の手持ちの仕事を確認する。
「上がっていいよ。待ち合わせ?」
・・・さりげなくデートか確認する。
「いいえ。一人です。」
“はい、デートです。”とは言わないか・・・。
正直気になる。
終業1時間前、彼女が時計を横目で見ながら
パソコンを打っている。
さりげなく画面を確認すると、データの単位が間違っていた。
「川村、データの単位間違ってないか?」
「あっ。」
彼女が泣きそうな顔になる。
やり直したら定時には帰れないだろう。
僕は彼女のパソコンがどんなに遅くても手伝ったことはない。
「頑張ってやり直せ。その仕事は今日上がらないとまずい。」
「はい。」
ここからが、さすが彼女と思った。
一瞬にして立ち直れるのか、彼女の表情が変わる。
そして僕に手伝ってくれなどと、すがっても来ない。
定時になった。彼女はもくもくと続ける。
「代わるよ。上がっていいよ。」
「いえ、大丈夫です。遊びの予定なので、あきらめます。
こんなに仕事いっぱいの日に映画見ようなんて、
無理したから失敗するんです。すみません。」
「なんて映画?レイトショウがあるか検索してみるよ。」
彼女は恋愛映画の題名を言った。
恋愛映画、僕の絶対見ないジャンルの一つだ。
「21:30からレイトショウがあるよ。
ここを20:50に出れば充分間に合う。」
「はい!この映画、今日までなんです。」
まだ時間があるので、彼女一人でもできるかもしれないが
パソコン以外のこの企業へのサポートを僕は作成する。
20:30完了し、僕が確認する。
「OK。帰っていいぞ。まだ間に合うから。」
「・・・篠原さん、せっかく調べてもらったのですが、
レイトショウはあきらめます。痴漢とか、いたら怖いので。」
―― 僕は気づかなかった。間に合えばいいと思うだけで。
女性が映画の上映中に痴漢に会うなんて、
確かに怖くて行けないし、行かせたくない。
「レポート、ありがとうございました。
篠原さん、今日私がずっとパソコンに座っちゃったから
仕事遅れてますよね。何か手伝います。」
「・・・よし、行こう! 映画、付き合うよ。」
僕たちは会社を出て、途中のマックで
ハンバーガーを買い、映画館に入った。
彼女はハリウッド女優のメグ・ライアンが大好きらしい。
この女優の出演作品を見ていくうちに、
恋愛映画が好きになったと聞いた。
“先日テレビで放送してた、トップガンに出ていたような?”
席について見回すと、10人いるのかと思う人数だった。
映画が始まって主人公の男女が出会った位から、寝てしまった・・・。
再び起きて映画を見ると、全て解決して
“晴れて恋人同士に”のようなラストシーンだった。
ふっと隣の彼女を見ると、大きめのタオルハンカチが目に入った。
“泣いてる?”
その姿を見ていいものか分からないが、どうも号泣らしい。
映画が終わりテロップが流れ、僕が大きく伸びようとした時
彼女が号泣のあまりしゃくりながら僕に話しかけてきた。
よくは聞き取れないのだが、
「篠原さん、映画見に来られてよかった。」
と言ってるところは分かった。
僕は彼女を覗き込んだ。
「大丈夫です。大丈夫です。」
と繰り返す彼女が本当に意外で、いとおしかった。
“もっとクールかと思った。”
僕は多恵子に軽くキスした。
僕の目をじっと多恵子が見ていた。
「篠原さん。」
と少しだけ甘えるような口調で呼ばれ、
僕は再びキスをした。
多恵子の口に舌を入れると、僕の腕を強く握った。
“誰かに見られてるかも。”
でもそんな事は、もうどうでもよかった。
テロップが終わるまで、僕は多恵子を離さなかった ――。
【12月】
仕事の後二人で夕食をとって帰った時、映画の話になり、
僕はメグ・ライアンがいかに魅力的な女性であるかを
多恵子に聞かされた。
中でも“恋人達の予感”は傑作で大好きらしい。
「古い映画かもしれないけど、本当に素敵なんです。」
そんなに勧める映画ならと、今週の土曜日多恵子と
僕の部屋でDVD鑑賞会となった。
多恵子は16:30頃、僕の部屋に来た。
買い物してきたのか、スーパーのバッグを提げていた。
部屋に入るなり料理を始める。
「何作るの?」
「夕食はクリームシチューです。18:30頃完成予定です。
この鍋借りますね。」
僕は料理はしない。
土曜日なんて、ビールと買ってきた惣菜ですませることも多い。
多恵子が使っている鍋も、レトルトカレーを温める位しか出番がない。
「手伝おうか?」
「手伝えるんですか?」
人参の皮を剥きながら答える。
「大丈夫ですよ。お待ちくださいませ。」
料理の手際が良い。僕は椅子に座り、ぼんやりと多恵子を見ていた。
“どうしてパソコンは遅いのだろう・・・。”
「甘い玉子焼き作りますね。篠原さん、お口がお子ちゃまですから。」
振り返って笑う。・・・言い返せない。
18:30、予定通りの完成。
シチューと玉子焼き、サラダまでが並んだ。
「パンと迷ったんですけど、やっぱりご飯ですよね。
ご飯は買って来ちゃいました。」
「俺、ご飯食べないでビール飲んでもいい?」
久しぶりに手作りの食事をする。やっぱり美味い。
「そんなに喜んで食べてくれるなら、次はキムチ鍋にしましょうか。」
多恵子らしい。少々ブラックなところが。
食事が済むとDVDを見ることにした。
僕のはハードディスクから切り替えてDVDにする。
多恵子に任せたら壊されそうだった。
上映中は部屋の明かりを落とし、タオルハンカチを用意するのが
多恵子流らしい。
・・・タオルハンカチは僕にも配られた。
ベッドを背もたれにし、2人で並んで座った。
内容はと言うと、友達だった男女が8年間かけて
本当に愛するのは、そばにいて欲しいのはお互いだと気づき、
結婚する、と言うもの。
多恵子はウルウル泣きと言ったところだろうか。
「もう何回も見てるのに、パーティーでのプロポーズのシーンは
泣けちゃうの。」
DVDを止めると、明かりの落とした空間が残った。
「メグ・ライアンがレストランで料理を注文するところ。
男性俳優とセックスのことで口論になるところ。どれも好きです。」
僕はそんなことはどうでもいい。
多恵子にキスをする ――。
キスをしながらベッドに引き上げると、
当然戦闘体制に入った。
薄手のセーターとキャミソールをスカートから引き出し、
下着のホックをはずした。
胸に触ってみたが、何の反応もなかった。
スカートに手を入れ、太ももや下着の上から触っても
時々顔を歪ませるだけで、何の反応もなかった。
それでも僕なりに努力したが、全く反応がない。
僕の頭の中に“?”が走り回った。
・・・いわゆる未遂に終わり、体を離した。
「・・・篠原さん。私帰ります。」
そう言うとベッドからスクッと立ち上がり、
服装を整え始めた。
「え、泊まって行ってもいいのに。」
「まだ電車ありますから。じゃ、月曜日に。」
「ちょっと待って。川村、お前初めて・・・。」
靴を履きかけた多恵子に、何て質問。
「違いますよ。他の男性との経験ありますよ。
がっかりしました?」
シラッとした顔で答えると、部屋を出て行った。
何が何だか分からない・・・。
自分で言うのもだが、僕はモテない方ではない。
女の経験もそれなりにある。
他の女と比べるわけではないが、
こんなに無反応だった事はない。
多恵子はどうしたのか・・・。
映画のシーンを思い出した。
メグ・ライアンのセリフに、
「女性はセックスの時、男性に感じている演技ができる。」と。
“だったら今までの女は全員演技で、
多恵子が素なの?まさか・・・。”
考えれば考えるだけマイナスになっていく――。
僕の落ち込みは半端ではない。
日曜日のサッカーの練習も休んで、見ないテレビをつけて
一日中ぼんやりしてしまった。
月曜日、仕方なく出勤する。
多恵子の顔を見るのが辛い。
多恵子は何もなかったかのように僕に接する。
僕も普通にしなければと心掛けるが、なかなかできない。
業務終了の定時後、
「今日は残業で、ここまでやりますね。篠原さん。」
「はい。」
と言いながら一刻も早く会社を出たかった。
家に帰ってどうなるものでもないが、多恵子といるのが惨めだった。
20:30、僕と多恵子だけになった。
多恵子は周囲を確認すると、座っている僕におぶさってきた。
「篠原さん、大丈夫?」
僕は何も答えられない。
「種明かしします。実験したくなっちゃった。
メグ・ライアンのせりふに
『女性はセックスのとき、感じてる演技ができる』
って言ってたでしょ。
私、あの逆はできるのかなって。
どんなに良くっても、何の反応もしないって
できるのかなって思ったの。」
僕は振り返って肩越しの多恵子を見た。
多恵子は僕の前に立ち膝に座り、
肘掛に置いた僕の手を軽く握った。
「私が篠原さんに何も感じない訳ないじゃないですか・・・。
何度も負けそうになって、声を上げそうになりました。」
僕は深く息を吐き、いすの背もたれに仰け反った。
“もう一生女は抱けないかも・・・って思った。”
僕は彼女を軽く睨んだ。
「でも、篠原さんがここまで悩むのなら、
私の演技はアカデミー賞クラスですね。」
相変わらず面白い事を考える奴だと思った。
そしてホッとした気持ちが怒りに変わる。
このモヤモヤを一秒でも早く消したかった。
「多恵子、帰るぞ。」
“多恵子”と呼んだのは初めてだった。
「でも仕事が・・・。」
「いいっ。早く片付けろ。」
「でも明日の・・・。」
「二度言わせるな。片付けろ。」
僕は強引に仕事を片付けさせた。
そして支社を出ると多恵子の手を引き歩き出した。
駅とは違う方向。ラブホテルの前。
止まる多恵子の背中を抱くように押した ――。
【1月】
久しぶりに池本と、会社帰りに近くの居酒屋で
飲むことにした。
前はよく飲みに行っていたが、
多恵子の営業契約による仕事の量とパソコンの遅さは、
僕のプライベートの時間を失くしてくれた。
池本の身長は177cmの僕より5cm位大きい。
顔も整っていて男の僕から見てもかっこいい。
こんな男にも、女の悩みはあるらしい。
「篠原君、今付き合ってる人はいるの。」
普段は“篠原”と呼び捨てなのに、
頼み事の時などに“君”をつける。
答えを待たずに質問を続ける。
「高久ちゃんの事は、どう思う?」
池本は高久彩子が入社した時からずっと仕事のパートナーだ。
話によると、彩子は僕が多恵子との残業で
2人きりになる事が多い事にシットしているらしい。
その事で池本に相談しているらしく、
「高久ちゃんは入社した時から面倒見てるから、
妹みたいな存在でさ。で、篠原の事が好きなんだな。
俺も、ヘタな男と付き合うより篠原ならって思うんだけど・・・。
本人に告ればって言ったんだけど、お前は川村が好きなんだろうって。」
「・・・兄貴役も大変だね。でも池本、本音は違うだろ。
お前、高久さんを好きなんだろ。」
「ははは。当たりだな。
・・・でも高久ちゃんは、爽やかな池本お兄ちゃんより
男の色気の篠原君が好きって事だ。
でも、篠原君は川村が好き、なんてな。」
僕は多恵子が好きだと思う。
事実、僕は多恵子と関係を持った。
確かにホテルは僕の怒り任せのところはあった。
が、多恵子もその時は僕に応えてくれた・・・。
ところが翌日には、2人の空気は
普通の会社の同僚になってしまった。
多恵子には馴れ馴れしく近寄れないようなものを感じてしまう。
「・・・ま、川村の事はいいとして。
来週の土曜日とか、一度高久ちゃんとデートしてやってよ。
映画でも見るとかさ。そうすればお互い納得でしょ。」
「つーか、お前が納得したいんでしょ。」
「ただし篠原、手は出すなよ。
間違ってもキスなんかしたら、殺すぞ。」
「だったら池本君がデートしたらどうでしょうか。」
「とにかく可愛い妹なんだ。頼むぞ。」
“要はデートして、僕が彩子に興味を持ってない振りをしろって事か。”
僕はこの話を多恵子に話すべきか、秘密にすべきか考えた。
頼まれたからデートするってのも、どうだろう。
秘密にして、後から誤解を招くのも嫌だったし、
多恵子の心の反応も知りたくなった。
―― 僕は多恵子の許容範囲を試す事にする。
今日の残業を含む業務が終わり、帰り支度をしている時。
「来週の土曜日、高久と映画見に行く事にした。」
一瞬多恵子の動きが止まり、僕を見た。
・・・が、すぐに視線をはずし
「そうですか。」
と答え、片付け始める。
“そうですか、って何?”
もっと動揺すると思っていたのに、こっちが動揺してしまった。
「池本に頼まれて、あんまり気が進まないんだけど――。」
多恵子は何も答えず、パソコンの電源を落とす。
「多恵子が行かないでって言うなら、断ろうかなって。」
「いいえ、どうぞ行ってきてください。」
“・・・僕が他の女とデートしてもいいのか。”
「じゃ、そうしよう。
多恵子は僕の事を気に入ってるのかと思って、
気を使ったつもりだったんだけど、そうでもないんだ。
・・・だよなっ。
好きだったらその男、 少しは束縛したくなるもんな。
多恵子は僕のこと、気にならないよな。」
なんだか逆ギレしてしまった。
「・・・何トンチンカンな事言ってるんですか。
デートを頼む池本さんもだけど、
頼まれたからデートするって何?
高久さんの想いはどうなるの。
私が行かないでって言うならって、
私のせいにしないでよ!
気が進まないなら断ったらいいじゃないですか。
断らなかったのは篠原さんも高久さんとのデート
してもいいなって思ってるからじゃないの?
大体そろいもそろって30過ぎた男が
本気で話してるとは思えない。
それに自分の気持ち見せないのは私じゃなくて
篠原さんの方じゃないですか!」
・・多恵子の言う通りだった。さらに続ける。
「色々気を遣ってくださってありがとうございました。
私たち付き合ってるわけでもないし、
篠原さんも勘違いしないでくださいね!」
―― そう言い残すと、多恵子は走り出て帰っていった。
“・・・僕はガキだ。”
いつも多恵子は、どんな状況の僕にも応えてくれていた。
僕は調子に乗りすぎた。
もう多恵子との時計は元に戻らないかもしれない。
翌日、僕は池本にデートの約束を断った――。
【2月】
会社での僕たちは、少し無理して相手を気遣うような
ぎこちない関係になった。
一緒に営業し残業することもあったが、いわゆる普通で
多恵子の面白いドキドキする部分だけが抜けた感じになった。
僕は相変わらず自分の気持ちを伝えてはいない。
プラス先日の傷付けた発言を謝ってもいない。
今からでは何もかも遅いような気がして・・・。
ところがある残業の日、多恵子が
「篠原さん。今週の土曜日自宅に伺ってもいいですか。」
「いいよ。」
僕はクールに答えたが、内心は大喜びだった。
相変わらず反省の甲斐なく、素直に表せない。
「篠原さん。私・・・。」
僕は“どうした?“という目を多恵子に向けたが
「いいえ、週末に・・・。」
と答えた。
土曜日の18:00、僕たちは待ち合わせて、早めの夕食をとった。
19:20僕たちは部屋に戻った。
「手を洗ってうがいをしましょう。
風邪の防止になりますよ。」
あの日から続いたぎこちない多恵子ではなく、
僕の好きな多恵子がいた。
僕は幼稚園児のように多恵子に従う。
「・・・篠原さん。」
振り返ると、多恵子がベッドの端に座っていた。
「篠原さん、明かりを落として隣に座ってください。」
言われたとおりに明かりを落として隣に座る。
「左手を出して下さい。」
・・・左手を出す。
多恵子は大きめのハンカチをヒモのようにたたみ、
僕の左手と多恵子の右手を恋人つなぎにして
手首を結ぼうとした。
「・・・左手ではうまくできないので、
篠原さん、結ぶの手伝ってください。」
僕は多恵子に協力した。
「なにこれ?」
「束縛です。」
「・・・意味違うんだけど。」
「私の思う、束縛です。」
そう言うと、僕にキスしてきた。
僕も右手で多恵子を支え、舌を絡めた。
「・・・どうして、こんなこと?」
多恵子は僕の耳元に口を近づけ、吐息のように話す。
「だって、篠原さん、縛られたいって言ってたから・・・。」
―― 僕は多恵子をベッドに倒した。
頼りなのは、僕の右手と多恵子の表情。
服を脱がせにかかり、多恵子も体を浮かせたりして協力してくれるが、
変に引っ張ると多恵子が結んだ手の方を痛がった。
上半身の薄手のセーターは多恵子が袖を抜くのを嫌がり、
下半身はスカートをはかせたまま下着だけ脱がせた。
乱れた服に体が全然見えないので、視覚は全部想像になる。
僕は多恵子を思いやる余裕が全く無くなるほど興奮し、
・・・身勝手に想いを遂げてしまった。
多恵子は表情から苦痛そうだった。
「・・・篠原さん。ハンカチほどいてもらえますか。」
僕はハンカチを解き衣服を整えると、
コーヒーを沸かしに台所に立った。
左の手首が赤く、少し擦れたようになっていた。
多恵子もベッドの背もたれに座り、手首を見ていた。
「・・・手首、どうなった?」
僕は台所から話しかける。答えは無い。
僕はコーヒーを運び、多恵子の左隣に座った。
僕たちは手首を見せ合った。同じ傷。
「多恵子、さっき・・・ごめんね。
ちょっと・・・余裕無くなっちゃった。」
僕は目を合わさず、手首を見ながら話す。
「篠原さん。」
僕はベッドにもたれながら多恵子の方を見た。
「篠原さん、謝らないで・・・。 私、篠原さんが好きです。
最初は声、次は右側の顔。 少しずつ少しずつ好きになりました。
篠原さんも少しずつ私を好きになってくれたって思います・・・。」
「僕は・・・。」
多恵子が指で軽く僕の口に触れた。
「今すぐは答えないで下さい。う~んとじらしてから答えを下さいね。
そしたら私、篠原さんを落とすために色々仕掛けてきますから。
でも時々は倒されて下さいね。その時は・・・。」
多恵子が耳元でささやく。
「その時は、またエッチなことしましょうね。」
「・・・仕掛けられたら、すぐ倒されちゃうかも。」
2人で大笑いしてしまった。
「・・・さて、私帰ります。コーヒー美味しい。」
―― 僕は多恵子を駅まで送る。
手をつなぐことも、腕を組むこともない。
僕たちはなぜか会社の同僚の空気に戻ってしまう。
“ま、会社の同僚のままなんだけど。”
「ところで、篠原さんは31歳になったんですか?」
「なったよ。」
「知らなかった。」
「言わなかった。」
他愛ない話をしながら駅に向かう――。
【3月】
僕は支社長に呼ばれた。
支社長と小会議室に入る。
「篠原君、川村君は4月の人事異動で本社に戻ると思う。
正直、今のデータ処理の量なら、
川村君にパソコン任せてやらせるより、
篠原君1人で2人分こなした方が早いでしょ。
しかも本社、特に課長は川村君を信頼してるし、
部長はもう依存してるね、話を聞いてると。
実際、川村君の営業手腕はすばらしいし。
・・・う~ん、私の本音としては、本社の営業は
夜遅くまで接待もあったりして激務だから、
戻るのはかわいそうだな・・・。
ま、99%戻ると思っていて下さい。
篠原君も毎日残業ご苦労様でした。
私は篠原君を信頼し、依存してますよ。
いなくなったら困ります。」
僕は自分の席に戻り、隣の多恵子を見た。
・・・確かに多恵子のパソコンの扱いは
これ以上になるのは難しいと思うし、
何より多恵子の営業活動が制限される。
会社の損失は大きい。
―― 多恵子がいなくなる。――
もちろん人事のことなので、今の時点で誰にも話す事はできない。
支社長は信頼の元に、僕に話してくれたのだから・・・。
僕は家に帰り、多恵子の事から気持ちを切り替えるため、
サッカーチームの後輩が撮ってくれた、先日の試合の
ビデオを見る事にした。
―― ところが映っていたのは多恵子と、
割と早く結婚した後輩の娘とのベンチの風景だった。
“アイツのカミさんが撮ったのか?”
見ると、多恵子と4歳の娘がカラーゴムで
色々な髪形にして遊んでいるのだ。
一つ髪形ができると、ポーズをとってみたりしている。
終わってもう一度巻き戻して見る事にする。
僕は多恵子との平凡で、なのに面白い日常を思い出していた。
残業の後、酒を飲みに行った事があった。
多恵子は酒が強くて、
「本社の営業接待で、鍛え方が違いますよ。
本当はお酒すごく弱くなって、篠原さんに
テイクアウトされた~い。」
と言っていた。
“営業して接待して、に戻すのか・・・。”
――あの“束縛”の日以降にも関係を持った。
あれから手を結ぶことはしていない。
またあの日のように、恋愛映画のタブーに例えるなら、
“クライマックスに男が女を置いてけぼりにする”事はもうない。
なぜなら、多恵子は僕を面白おかしく誘惑してくれるから。
僕は後輩に電話した。
「―― 長時間の試合に娘が飽きてぐずった時、
篠原さんの彼女が遊んでくれたのを、
うちのカミさんが撮ったんです。
カミさん感謝してましたよ。
子供のおもちゃも本も持ってこなかったから。
篠原さんの彼女のアイデアに助けられたって。
また会いたいって ――」
電話を切った。
“篠原さんの彼女、か・・・。”
僕は急に多恵子の声が聞きたくなった。
・・・留守電になっている。
声がすぐ聞けないだけで寂しくなる。
支社長の内示から、僕は日にちと時間をかけて考えた。
僕と多恵子と束縛と。
僕は多恵子に縛られたいと思った。
だから縛ってもらう事にした。
結婚と言う形で。
そして多恵子の事も縛りたいと思った。
篠原多恵子と言う名前に変えて。
明日の土曜日、デートに誘うことにした。
「明日、一緒に出かけようよ。行きたい所ある?」
「私、水族館に行きたいな。
あっ私、明日誕生日なんですよ。
ケーキ食べなきゃ。」
「・・・多恵子。
僕の下の名前、知ってる?」
「はい、知ってますよ。恭一さんでしょ。」
不思議そうに僕を見た・・・。
―― 土曜日。
僕は今日、多恵子にプロポーズする。
―Fin―
お読みいただきましてありがとうございました。
「猫」、「ビロードの背中」も、
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