Emy's おやすみ前に読む物語

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4) 「片想いの体温」






―― 前に何かで読んだ話なんだけど、

神様は、恋の温度が色で解るんだって。

サーモグラフィーみたくなってるのかな。

そしてそれは、両想いの心より片想いの心の方が

ずっと体温が高く色が濃いんだって・・・。

憧れのピンク、敬愛のローズ、情熱の赤、嫉妬の紅、狂気の深紅・・・。

その色はとても鮮やかで、美しすぎて・・・怖いんだって。

そしてそれは――、ん~ 続きは忘れちゃった。。。
















~ 渡良瀬 夏恋(わたらせ かれん)の話 ~



...神様はいつから2人が出会うように細工してたのでしょうか。

ママの夢だった自分のレストラン《 咲花 》を出店する為、
小学校卒業して仲良しの友達と別れて、二つ隣の駅に引っ越した日から。

私が高校に入学して4ヶ月目に、パパが死んでしまった日から。

高校3年の5月に、社会科の村上先生が家庭の事情で退職し、
手代木先生がこの学校に来た日から...?





今日はルミちゃんと超人気アーティストの
ライブに行ってきた。

なかなか取れないチケットをルミちゃんが
ゲットしてくれた2枚。

「けっこう簡単に取れたけど。」

ここにいつもルミちゃんの余裕を感じる。

私がいつも「大変だ!」と大騒ぎする事でも、
ルミちゃんは「大した事じゃないよ」と言う。



ルミちゃんは4人兄弟の一番上。
両親は共に超多忙 小児科医。

母親のように弟3人の面倒を見ている。

だから、大抵の事は大した事と感じないくらい冷静だ。

充分に甘やかされた一人っ子の私とは、
年齢さえも違って見える。







ママに約束した時間は21:00。
21:00には帰宅して、店を手伝う約束だった。

でもルミちゃんとアーティストの出待ちして
帰りの電車でも興奮が冷めなくて・・。

近所の本屋でアーティストの載っている雑誌を
立ち読みする。
本屋の時計を見たらもうすでに21:00になっていた。

“あっ!・・・でも、いいかっ。”

ママへの言い訳を考えながらも、このルミちゃんとの
空気を壊したくなかった。








「―― あっ。」

ルミちゃんが私の肩をたたく。
ルミちゃんは何か指している。


指の先に手代木先生がいた。



「 ・・・話しかけようよ。」

ルミちゃんはそう言うと先生に近づいていく。


「私達の事、分かるかな。」

「大丈夫だって。」



先生は私達の高校に来たばかりで、まだ数えるほどしか
授業を受けていない。

“ルミちゃんの事は分かると思うけど・・・。”


ルミちゃんは身長も高く、長い足。

黒いストレートの髪を長く伸ばし、顔も
いかにもその通りの賢さがにじみ出る、凛とした美人。

また、孤高の空気を持っていて近寄りがたい感じがする。

学校の制服は特に残酷で、私とルミちゃんでは
全く違う服を着ているように見えた・・・。






「先生っ。」

ルミちゃんが声を掛けた。私も隣に並ぶ。

「おっ、本庄。・・・っと?」

ルミちゃんの事は分かった。・・・やっぱり先生も、男。

美人の生徒はすぐに覚えてもらえる。

そして私の名前はやっぱり出てこない。




「・・・渡良瀬です。」

「夜、遅いぞ。9時過ぎて家の人、心配するぞ。」

「私達、ライブ行ってきたの。これから渡良瀬さんちで
 夕食食べるんだけど、先生も一緒にどうですか?」


「・・・うち、レストランなんです。」

これだけ言うのがやっとだった。

「そう。・・・じゃ、コーヒー飲みがてら、送ってってやるか。」






“手代木先生が、うちに来る!”

信じられなかった。





手代木先生を初めて見た時、多かれ少なかれ
女生徒達はみんな心を奪われた。

私も例外ではなかったけど、あの冷静なルミちゃんまでが

「素敵だわ。」

と、うっとり見ていた・・・。









ママのレストラン《 咲花 》についたのは
21:25だった。

今日のお店はガッカリ・・・。
思ったよりずっと繁盛していた。


私はルミちゃんと先生をテーブル席に案内し、
着替えもせずエプロンを着けた。





「こら。遅刻!」

ママが小声で言い、軽く睨む。

「初子さんは帰ったの?」

「9時に夏恋と交代って事で頼んだんだもの。
初子だって忙しいんだから。」








私はルミちゃんと先生に水を運ぶ。


ルミちゃんはママが作る内緒の
《ルミちゃんメニュー》なので聞かない。


「先生はコーヒーでよろしいですか?」

「俺、飯食ったんだけど、春野菜のスパゲッティ食べよう。」

「はい。かしこまりました。」



「―― 先生っ。」

ルミちゃんは私を紹介するように手のひらを向けた。

「彼女、バレーボール部の柏田君のガールフレンドですから。」

「・・・あぁ、そうなんだ。」

まだ日が浅くて分からないような返事を返す。




“ええっ?! 何で言うの。

 ・・・ルミちゃんのバカッ。”






本当は三人でテーブルに座るはずだったのに。


店が混んでて手伝う事になって、
しかも先生に柏田君の事言うなんて・・・。


なぜか先生に言われた事が面白くなかった。

・・・なぜか知られたくなかった。




“私・・・先生に、恋?”




オーダーを出しに行った私に、ママが小声でダメ押しする。


「あの人かっこいいわね。ルミちゃんの彼氏?」


私は振り返って2人のテーブルを見た。


二人が楽しそうに話す姿は、本当の恋人同士のようだった ・・・。 











『本庄 ルミ(ほんじょう るみ)の話』






・・・それは興奮するわよ。先生と2人で夕食なんて!



好きなタイプか?というのは別にして、
かっこいいのは誰でも認めると思う。


とにかく最初に印象的で魅せられるのは、
先生の個性的な目の色。


黒といえない深いこげ茶色の、吸い込まれそうな目・・・。



「よくカラーコンタクトレンズとかハーフとか聞かれるんだけど、
 全然視力は悪くないし、 思い切り日本人だよ。
 色素が薄いのかな。髪も真っ黒ではないし。」




耳にかぶる長さの、ほんの少しほんの少しウェーブの
くせのある髪・・・。






先生はパスタを左の手で巻いて、口へ運ぶ。


もうずっと左利きで生活してきているのに、
いわゆるサウスポーと言うのは少々ぎこちなく見えて、
手助けしたくなってしまう。

これが母性本能をもくすぐる・・・。








「―― あっ。 先生、それ 私の水。」

「ごめん、間違えた。・・・飲んじゃった。」





私が右手に置いた水を、先生が左手で取って飲んでしまった。



私はコップを持って、水をもらいにカウンターに行く。

夏恋にわざと事情を説明すると、ふくれっ面になった。






―― 席に戻る。




「先生はずっとバレーボールやってたんですか?」

「全然。ただ背が高いだけで、バレー部押し付けられた。
 来たばっかりだから文句も言えずに。

 でも、女子バレー部の伊崎先生は大きくないのに顧問だから、
 関係ないんだと思うけど。」




確かに伊崎先生は、男性にしては小柄で
女子バレー部員に囲まれると姿が見えない。




「―― 先生、ここ10時閉店だから、

そろそろ・・・。」









『手代木 尚人(てしろぎ なおと)の話』



―― 支払いを渡良瀬に頼む。


「700円でございます。」

「んっ。 安くない?」

「母が700円でって言ってましたから。」





僕は渡良瀬の母親を見た。母親が近づいて来た。



「夏恋の先生なんですってね。

 娘がいつもお世話になっております。

 先生からお金とってごめんなさい。」





大きく、くっきり二重のイキイキとした輝く目。

小さく、ほんの少し厚めでポッテリとした口唇。

挨拶もきちんとしていて、清楚な笑顔。




生徒の母親なのに、生徒の母親だからずっと年上だろうに、
可愛らしい人だと思ってしまった。






僕がお金を払うと、


「ルミちゃん、大丈夫?」

「あっ、僕が送って行きますから。」


僕は急にこの人の前で、誠実な教師を演じたくなった。











『夏恋の話』



昨日の夜はママに八つ当たりしてしまった。

閉店して片づけしているママの脇で、
片付けを手伝うこともせず文句を言っていた。



「店が忙しくて先生と食事できなかったし、
 ・・・何で先生がルミちゃん送ってくのよ!」


「9時に帰って来てお店手伝うのは約束してたでしょ。
 先生がルミちゃん送ってくれるなんて安心じゃない。

 ―― どうして? 柏田君が送ったんならともかく。」




“そうだ。 ルミちゃん、柏田君の事先生に言っちゃうし。

先生はルミちゃんの口つけたお水飲んじゃうし。

 そんなの、間接キスじゃない・・・!“



興奮のライブから一変、面白くない夜になった。












今朝、学校に行くと柏田君が先に来ていて、
着席した私に話しかけてきた。



「ライブどうだった? メールもシカトされたし。」


あっ。 携帯バックから出してないし。


「うん。ライブはすごく盛り上がって。

 メールごめん。見てないや。」



冗談にげんこつで私の頭に触るように落とす。

そして、優しく笑う。





柏田君はバレー部のエースアタッカーで、
ファンの女子生徒も多い。


二重の切れ長の目なのに、
笑うと人なつこく目がなくなっちゃう。









ルミちゃんが教室に入って来た。

私を見つけると


「―― おはよう。昨日はどうも。」


と同時に始業のベルがなった。





1時間目の休み時間にルミちゃんをつかまえる。

「ごめん。 トイレ。」


2時間目の休み時間。

「ごめん。 図書室行く。」



3時間目の休み時間。

「ルミちゃん! 昨日どうだったの?!」

「・・・どうって、何?

 普通の話しながら、普通に送ってもらったけど・・・。

 もしかして、内容まで聞くの?」


「・・・・・。」






ルミちゃんは机をはさんで身を乗り出し、

内緒話のように私に顔を近づけ、話し始めた。




「・・・いいよ。

 昨日先生、あれから電車無くなっちゃって。


 急患で両親家にいなかったから、先生家に泊めたんだ。

 弟達は寝てたから、先生と・・・。

 先生と・・・しちゃった!」






ここまで聞いたら始業のベルが鳴った。


と同時に、四時間目・社会科。


手代木先生が教室に入る ――。





先生は号令と共に授業を始める。

“ルミちゃんと先生が・・・・

 ルミちゃんとせんせいが・・・。“

私は黒板前に立つ先生を相手に、
ぼんやり空間を見つめながら想像と戦い始める。




“先生はルミちゃんを今は見ないけど、
 意識して見ないようにしてるのかな。

 ・・・って事は、ルミちゃんロストヴァージンしたって事?

 初めての先生は手代木先生って事??

 ・・・マジうらやましい!

 手代木先生もてるだろうから、いっぱい経験ありそうだなあ。

 私も先生がいいなあ・・・。

 イヤッ、待てよ。そうしたら柏田君はどうなるの? 

 ところで柏田君は経験あるのかな ・・・“



私は柏田君に視線を向ける。




“私達が高2のバレンタインから付き合い始めてるから、
 その前に!・・・ん~っ、ないな。

 先生と生徒なんて劇的よね。

 ルミちゃん、先生に腕枕とかしてもらったのかな。

 って事は、キスもしたんだよね。

 先生とのキスって、きっと映画みたいなんだろうなあ・・・。“



と、うっとりしながら前を見ると、先生と目が合った。



“吸い込まれそう。不思議な目の色・・・。
大丈夫。 先生、このことは誰にも言わないよ。”


心の中で秘密を誓う。





終業のベルが鳴る。号令と共に授業が終わる。



「―― 渡良瀬、ちょっと。」

「はい。」

廊下に呼び出される。



“えっ、先生自ら告って口止め??”




昨日まで名前も覚えてもらえなかったのに、
今日は呼び出されるなんて。






「渡良瀬んちの店って、男性客来る?」


「はい。いらっしゃいますよ。 
でもうちは野菜中心の料理でヘルシー志向だから、
圧倒的に女性が多いですけど・・・。」



「ふ~ん。 ありがとう。」



“・・・あれっ?” 











「え~~~っ?! 嘘っ?」



昼休み、その話が聞きたくてルミちゃんと
教室の隅の机に2人でお弁当を広げる。

「ちょっと、声大きいよ! 

 ・・・当たり前じゃない。よく冷静に考えてよ。
 高校教師が生徒に手を出すと思う? 

 まっ、そういうエロ教師もいるって聞くけどさ。

 手代木先生には普通に送ってもらっただけ。
 第一先生 自転車通勤じゃない。」


「えっ?手代木先生がどうしたの??」



“手代木先生” の名前に、女子生徒は地獄耳だ。



「ルミっ、何かあったの? まさか告られた?」



女子生徒はちょっとした冗談だけで充分盛り上がれる。


何人かが机と椅子を持って私とルミちゃんのグループになり、
再び昼食会議が始まる。




「でも夏恋、さっき先生に呼ばれてなかった?」

「え~っ、何話してたの?? 夏恋は柏田でも充分過ぎるよ。」

「手代木は絶対、夏恋よりルミの方がタイプだよ。」

「ところで、柏田君と付き合って何ヶ月?」

「4組の望月君て彼女いるの?」






・・・もう先生の話はどこへやら。


毎日のように昼食会議は昼休み時間ぎりぎりまで続く。








“そっか・・・嘘か。”


確かに冷静に考えれば。

でも私は、大人っぽいルミちゃんと大人の先生は
違和感がなかった。



“ルミちゃん、今 好きな人いるの?

 いても教えてくれないの・・・?”






私がこう思うのには理由があった。

話は高校1年生にさかのぼる。






☆高1編へつづく☆



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