「007 スペクター」21世紀のボンドにスペクター
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Emy's おやすみ前に読む物語
「片想いの体温」 現在編
~夏恋の話~
4月。高校3年生に進級した。
柏田君、そしてルミちゃんとも同じクラスになれた。
担任の先生は40代の女性、谷川先生になった。
この高校では数少ない、年配の超ベテランの先生だ。
社会科の村上先生が家庭の事情で退職した。
―― 5月。
手代木先生が着任した。
校舎の4階、理科実験準備室。
隣に理科室と、視聴覚室との間に社会科資料室がある。
誰が見るのか、使うのか、世界地図とか
歴史年表が押し込められている畳にして3畳くらいの部屋。
そして、持ち込んだのか、前からそこにあったのか
窓際に机とイスがあって、手代木先生は、いつもそこにいた・・・。
他のクラスでその事について聞いた生徒に対して
「職員室は昔から苦手。
煩わしい人間関係より、一人がいい。」
と、何気なく 職員室事情を含めた答えが返ってきたらしい。
その言葉一つも たちまち広がり、手代木先生は・・・
「でも一人って → 寂しいよね → そばに居てあげたい
→ 私がそばにいてあげたい!」
先生は一言も寂しいとは言ってない。
でも、女子高生の想像力は豊か過ぎて、
違うものを生んでしまう・・・。
不思議な深いこげ茶色の目はもちろん、
同じように 黒に近い黒とはいえないブラウンの髪も
バレー部を押し付けられた高い背も
ぎこちなく見える チョークを持つ左手も
できれば私が一人占めしたいと みんな願った。
かといって、願いが叶う自信のある生徒も
マジで告る事を考える生徒もいない。
そして、みんなが認める 先生の恋人になれるのは
女子生徒の9割が自分とは別格と思う女子、
例えば、 ルミちゃんとか ――。
************************************************
~柏田君の話~
いや、手代木先生は 女子生徒より圧倒的に
男子生徒に人気があると思う。
先生がこの学校に来て、1ヶ月くらい経った頃だったか、
部室でタバコを吸っているのが見つかり、
それが2回目という生徒が退学になるという時だった。
その時、職員室嫌いの先生が職員室の席に着いて
必死に他の先生達を説得し、ついに停学処分で済んだと聞いた。
バレー部の練習の後 その話題になり、後輩の一人が先生に問う。
「先生、どうして高校生はタバコを吸ってはいけないのですか。
今回は部室だったからだと思うけど。
そういうのって、個人の問題じゃないですか。」
「・・・俺は吸わないほうが言いと思う。
理由は、キスする時タバコ臭いと女の子が嫌がるから。
吸うのがいけないって事より、その位のルール守れよ、
・・・って事かな。」と答えた。
タバコとルール。
そして、キスが出てくるのが先生らしい。
また先生は、グラビアアイドルとか少年・青年マンガについても
話せる先生で、とことん話しに付き合ってくれる。
またまた先生は、(これはいいのか)
普通の映画からアダルトまで範囲が広く、
法を犯さない程度の映画作品を、僕らにこっそり
教えてくれたりする。
この時から、僕も含めてバレー部の仲間の5分の4が
レンタルDVDの会員になった。
社会科の授業中、何かの話の時に男子生徒が、
「先生はマジ スケベだからなぁ。」と、先生に茶々入れた。
すると――、
「男がスケベじゃなくなったら、人類は滅亡するぞ。」
と答えて、全然否定もしなかった。
やがて社会化資料室は、生徒が悩みを話したり
恋愛相談が持ち込まれるようになった。
先生は、とことん向かい合ってくれる。
ただ この資料室は女子禁制で、
女子生徒と話す時は隣の広くて明るい
理科室を借りるらしい。
噂によると、女子生徒の相談は
けっこう冷たく突き放すらしい、とも聞いた。
僕が一番驚いたのは ――。
僕と小林でバレーの練習試合の事で、
昼休み資料室で先生と話していた。
先生は椅子に座り、僕らは隣に立っていた。
すると、ノックもしないで突然、
男子生徒が入って来て、先生に抱きついた。
先生は心配そうに、
「堀切、どうした?」
と、声をかけると――。
あっという間に、先生に唇を重ねた・・・!
それは ほんの2~3秒、
いや1~2秒だったかもしれないけど・・・。
間違いなく、男同士のキスを見てしまった・・・。
「・・・先生は、女子には冷たいって聞きました!」
そういうと、資料室から走り出て行った。
一瞬の事で、先生も僕らも状況がよく分からないまま
呆然とする。
「先生、・・・誰?」
小林が口を開いた。
「・・・堀切。 2年生だよ・・・。」
さらに小林が問う。
「・・・先生、大丈夫?」
先生は ハッと我に返り、左の手の平で口を覆う。
「・・・俺、男はファーストキスだよ。」
先生が 笑い出すとも泣き出すとも言えない表情をしている。
“つまり、堀切君は男が好き・・・って事か?”
この堀切君、そのことで有名なのか・・・。
今日カミングアウトなのか ――。
その日、先生は部活に大幅に遅れてきた。
僕と小林を呼ぶ。
―― いかにも不満そうな表情だ。
「お前等、今日の事 誰かに話したの?
ま、話したくもなるけどさぁ。」
「言ってないですよぉ。」
僕らは全面否定する。
「―― なぜか、校長の耳に入ってさ。
厳重注意だぜ。 俺のせいなの?
・・・やっぱ俺が油断してたのかな。
それが女子生徒だったら自宅謹慎だって。
そのあと堀切を呼んで、『お前には応えられない』って話したら
泣き出してさ・・・。 で、・・・もう、いいや。
ごめん、俺 先に帰るから。」
先生の姿が体育館から消えた後、
僕と小林は腹を抱えて大笑いした。
もちろん僕らは誰にも言っていない。
・・・って事は、堀切君が話したって事だろう。
先生の落ち込みは 半端じゃない。
僕は改めて、先生は様々な男子生徒から
人気があるんだと認識した・・・。
*************************************************************
~夏恋の話~
先生が《咲花》に週に一度くらいのペースで
来てくれるようになった。
女性客を少し避けるように、21時過ぎに来店する。
席が空いていればテーブル席に着いて新聞を読むのに、
今日はカウンターに座った。
黒に英語のロゴが入ったTシャツとジーンズで。
お風呂に入ってきたのか、髪が濡れている様だった。
ママが話しかける。
「先生、お決まりになりましたか。」
「この・・・《月》。」
先生はコースメニュー『雪・月・花』の
『月』を指差して、ママに見せる。
ママが小声で先生に問う。
「はい。・・・先生、よろしかったら
このポテトコロッケのトコ、カニクリームにしましょうか。」
「―― えっ、いいんですか。」
「だって、先週も同じコースだったから。
それに先生若いから、少しボリュームあったほうが。
あ、でもこの時間だと・・・。」
「カニクリームコロッケ、食べたいです!」
「はい。かしこまりました。」
ママが先生に笑顔を向ける ・・・。
先生は自宅から持ってきた新聞を手元に置いて、
今日は、ママの仕事をぼんやりと見ている・・・。
私は空いたカウンター席の食器を下げながら、
先生に話しかける。
「先生、今日はお風呂に入ってから来たんですか?」
「―― 今日は、まいった。
もう、頭の中さっぱり切り替えたたくて、
家で風呂入ってから来た。」
「なになに? どうしたんですか?!
あ、ちょっと待って下さい ――。」
私は、会計のお客様の為にレジに立つ。
そのお客様が居なくなると、店内はママと私と先生の
3人だけになった。
ママは先生の前に料理を並べる。
私はカウンター内に入ると、
「でっ、 どうしたんですか?」
「―― こら、夏恋。 先生、お食事できないでしょ。」
「あっ、大丈夫です。
・・・でも、ここで話した事、学校で言うなよ。」
先生は今日の出来事を話し始めた。
私は正直おかしくて、お腹を抱えて大笑いした。
***************************************************************
~手代木先生の話~
男とキスした話を、渡良瀬の母親の前で話すのも
どうかと思ったけど・・・
正直、自分より大人の人に、
『あなたは、悪くない。」 と言って欲しかった。
校長に注意を受けた事ではない。
それはもう、どうでもいい。
それより問題は、僕の態度や行動の何が
彼にそう思わせ、結果 傷付ける事になったか・・・。
堀切の勘違いと、勇み足と泣き顔が、頭の中をぐるぐる回る。
堀切を改めて呼んで、冷たく突き放した事が正しかったのか・・・。
落ち込み 悩む僕に、
『あなたは、正しい。』と言って欲しかった。
渡良瀬の母親は答える。
「・・・どんな形であれ、堀切さんは
好きな人とキスしたんだから、満足でしょう。
そして、その日のうちに失恋もしちゃったけど、
好きな人に 思いが届くばかりじゃない事、勉強してるでしょう。
はっきり恋愛は出来ないって、伝えた事は間違ってないし、
後は、生徒として愛してあげたらいいと思います。
・・・なんて。 私、先生にえらそうな事言っちゃいましたね。」
僕は単純にホッとする。
「聞いてもらっちゃった。・・・ありがとうございました。」
「私でよかったら、いつでも。」
もちろん、もちろん、営業スマイルだと分かっている。
でも、この笑顔に 本気で甘えてしまいたいと思う ――。
・・・いやっ、この人は人妻であり、生徒の母親。
時計を見ると、21:50になろうとしていた。
“さて、そろそろ・・・。”
―― その時。
「先生っ、コーヒーおごるから、あと30分位 お店に居て!」
渡良瀬にそう言われ、またカウンター席から端のテーブル席へと
腕を引っ張られ移動させられた。
渡良瀬は一瞬消え また現れると、テーブル席に
英語の教科書とノートを広げ 僕の前に座る。
何が何だか分からないまま5分位経つと、
一人の中年男性が店内に入ってきた。
年齢は40代後半位だろうか。カウンター席に座る。
渡良瀬の母親は、その男性にコーヒーを出し、
伝票を確認すると、支払いを済ませた。
男は振り返ると、
「あ、夏恋ちゃん、こんばんは。」
と言いながら、僕を見る。
「あっ、学校の先生なの。今、補習授業。」
と 僕を紹介する。
僕は小さくお辞儀する。
男がカウンターに姿勢を戻す。
「・・・どう言う事?」
と ほんとに小声で聞くと、渡良瀬が口唇に
『シーッ!』 と指を立てる。
『~~から頼まれてる。』
『家に女二人では~~。』
『困った事が~。』
『寂しい時は~~。』
―― など、会話が切れ切れに聞こえてくる。
“ 口説いているのか?! だって、人妻だぞ!”
もう限界といわんばかりに、渡良瀬が立ち上がろうとしたのを
僕が腕を掴んで阻止する。
代わりに僕が立ち上がる ――。
カウンターに行きながら、
「渡良瀬、今日の補習は終わりにしよう。
お母さん、僕もコーヒーもらっていいですか。」
と言いながら、中年男性の隣に座る。
「はい、先生。 気がつかなくてすみませんでした。
あ、では、板倉さん。明日からもお願いします。」
そう言われ、男性は店から出て行った。
「―― 先生、ありがとう!」
渡良瀬は、まるで敵を倒したように喜んでいる。
母親もホッとしたような顔で、僕にコーヒーを渡してくれた。
「あいつ、八百屋のエロおやじでさ。
野菜の集金の度に閉店間際に来て、
ママに親切そうな事言って。下心、見え見えでさ。」
「・・・主人が頼んでくれた人で、八百屋さんの仕入れの時に、
この店の分も、野菜を仕入れてくれるんです。
本来なら私が市場に行くか、板倉さんの八百屋さんから買う、
ってなるんですけど・・・。
板倉さん、ついでだからって市場価格で野菜を。
今も変わらず面倒見てくれるんです。
野菜を見抜く目も、信頼しているので・・・。」
「・・・いい人だったんだよ。
パパが 『死んだら、ママと娘の事は頼む。』 って
言ってたらしくてさ。
でも、パパがなに頼んでったか知らないけどさ。
パパが死んだら、人が変わっちゃったの。
野菜の事もあるから、強くいえないママに付け込んでさ・・・。」
“―― えっ。 旦那さん、亡くなったの。“
「・・・しかも、やっぱりパパの友達。
モテなさそうでしょ。」
渡良瀬は喜びで興奮し、コーヒーを飲む僕にぶちまける。
僕は 《咲花》 を後にした。
時計は22:40だった。
僕は部屋に戻ると、ベッドを背もたれにし
座り込んだ。
“―― 人妻から、未亡人か。”
って事は・・・、独身て事になる。
僕は、“八百屋さんのエロおやじ”の想いを
急に身近に感じる。
《未亡人》に敏感に反応する僕も
“高校教師のエロ兄ちゃん”だ。
“未亡人か・・・。”
八百屋さんと高校教師の、男の下心がイコールでつながった。
**************************************************************
~夏恋の話~
相変わらず閉店の手伝いもせず、二階の自宅に上がり
お風呂に入る。
“今夜は、いい・・・。”
先生はいつも男っぽくて、自分の意見や考えをはっきり言う人で
男子生徒とふざけあったり、ちょっとエッチな話をしたり・・・。
落ち込み、悩む先生を初めて見た・・・。
きっと、《咲花》でなければ見られない、先生の一面。
“先生に、あんなに小心で可愛いところがあるなんて。”
また、板倉さんが来た時もママを助けてくれた。
ママが我慢しているから私も黙っているけど、
本当なら、この上なく板倉さんの傷つく言葉を並べて
怒鳴りつけてやりたい。
ママが市場に行ったらとも考えたけど、現状では無理。
ママが《咲花》を閉店して全て片付けて、お掃除までしたら
24:00頃になる。
その後 お店の帳簿をつけてから2:00頃までが、ママの時間。
お風呂に入ったり、お茶を飲んだりのわずかな時間。
それでも6:30には起きて私のお弁当を作り、2人で朝食を取る。
ここから登校までが、ママと私の時間。
ママに言わせれば、
「市場でも、板倉さんの長年の信用や人間関係などもあって
質の良い野菜が安く手に入るのよ。
パパがいるならまだしも、ママだけじゃ・・・。
だからどうしても、板倉さんに頼るしかないの。
もともと板倉さんはいい人なんだもの。・・・じきに戻るわ。」
そう話すママの目は大きく輝いて、小さい口なのにほんの少し厚めの
口唇が微笑むと、年齢よりずっと若く美しい――。
・・・先生は、板倉さんからママを助けてくれた。
私が腹が立って立ち上がろうとした時、
先生の左手が私の腕を掴んだ。
先生の大きな手のひらが、力強く私の右腕を掴んだ。
そしてあのこげ茶色の目が私をじっと見た・・・。
たぶん30センチ離れていなかったと思う。
“はぁ~・・・”
これだけで、お風呂でのぼせそうになる。
先生と私の距離が、グッと縮まるのを期待してしまう・・・。
お風呂から出て携帯をチェックすると、柏田君からメールが届いていた。
件名 : 絶対秘密の話
本文 : 今日の手代木先生のキスの話が書かれていた。
返信 : うん、聞いた。 先生今日《咲花》に来て・・・
と打ち始めて、消した。
なぜか先生が《咲花》に来てくれた事を話したくなかった。
正直、柏田君へのメールの返信も今日は面倒だった。
シチュエーションはどうあれ、事実 先生は私の腕を力強く掴んだ――。
朝起きると、甘くてうっとりするような香りがした。
リビングに行くとテーブルに朝食の用意と
バナナケーキが2つ焼いてあった。
そしてママは今、お弁当を作っている。
「バナナケーキ、1つは先生に持って行ってあげて。
もう1つは朝、夏恋が食べて行ったら・・・。」
“ え~、先生に? お礼のつもりだろうけど、
先生に個人的に貢物なんかしたら
他の女子生徒に何言われるか・・・。
そうだ! もう1つルミちゃんと柏田君にも渡して、
少しボカそう・・・。”
私は25センチ弱のパウンドケーキを1.5センチ位に
切り分けて、2本のうち1本を先生に、
もう1本をルミちゃんと柏田君に半分ずつ包む。
学校に着いて、柏田君にケーキを渡す。
「昨日のメール・・・。」
って小声で話し始めると、柏田君が「シーッ。」と指を立てる。
「俺、小林と大笑いしちゃったよ。」
始業ベルギリギリで、ルミちゃんが滑り込む。
1時間目の休み時間、私はルミちゃんにケーキを渡す。
「昼休み、付き合って。手代木先生にケーキ渡すから。」
「えーっ。 どうしてこう、危険な行動に私を巻き込むかな。
・・・誰にも見つからずに行くよ。」
頼りになるのはやっぱりルミちゃん。
昼休み、社会科資料室をノックする。
手代木先生いわく、資料室は女子禁制。
「理科室に入って。」
陽当たりの良い、明るい理科室に入る ――。
******************************************************************
~手代木先生の話~
・・・昨日は一晩中、”未亡人”という
未知の言葉の呪縛に苦しめられた。
実は僕はこの年まで、未亡人に会った事が無いと
気がついた。
もちろん離婚した女の人は、たくさんではないが
知っている。
でも、未亡人は・・・。
”―― 未亡人か。
未亡人て、エロビデオでしか聞いた事無いなあ。。。”
でも実際は、昨日の事といい世間が厳しそうだと感じた。
資料室に顔を出した渡良瀬が、母親そっくりで
ドキッとした。
「バナナのケーキ、ママから。昨日のお礼です。」
「昨日?」
本庄は「?」の顔をする。
「昨日 先生、迫り来る魔の手からママを救ってくれたの。
―― ほら、前に話した八百屋のエロおやじ。」
本庄が納得した顔をする。
”渡良瀬、俺、エロおやじ2号になりそう――。”
「ありがとう。お母さんにお礼言っといて。
・・・ところで、お母さんて何歳?」
「どうしてですか?」
”どうしてって・・・。”
「―― 先生は何歳ですか?」
本庄が非常に答えやすい質問を僕に投げかける。
「27歳。」
なぜか2人が大喜びする。
・・・27歳の何が嬉しいのか分からない。
「―― 先生、私たち教室に戻ります。」
********************************************************
~柏田君の話~
もう少しで期末テストで、終わったらすぐ
バレー部の引退が待っている。
手代木先生も、バレー部の事 全然知らなくて
どうなるのかとも思ったけど、取りあえず毎日出て来て
1年生と一緒に基本メニューをこなす。
最初は走るのもついて行けなくて、タバコやめたと聞いた。
腹筋が割れたのも高校生以来だと感激する。
女子バレーの伊崎先生に付いて指導の勉強をし、
先生自身のレシーブもトスもアタックも大分マシになってきた。
前の顧問の先生はバレー部を面倒がり、ほとんど顔も見せなかったし
手代木先生に押し付けて、自分は逃げた。
また先生になって圧倒的に他校との練習試合が増えた。
月に2回は、週末が試合になった。
「試合こそ上達の早道だ。恥をかけば強くなるよう努力する。」
今までも週末は練習していた。
でも今のほうが有意義で楽しい。
この練習試合のお陰で大きい対抗試合でもあまり緊張しなくなった。
「今の2年は分からないけど、1年は絶対強くなるな。」
と、小林も話していた。
手代木先生は、根の部分はまじめな人だというのを
少なくともバレー部員は知っている。
―― もうすぐ、3年生は引退する。
*******************************************************************
~手代木先生の話~
今日も続けて《咲花》に来てしまった。
“バナナケーキのお礼を言う為だから。”
「いらっしゃいませ。」
入り口の扉を開けると、渡良瀬の母親の笑顔が飛び込んでくる。
僕は昨日と同様、なんとなく母親の立ち位置に合わせて
カウンターに座る。
「先生、昨日はありがとうございました。」
「こちらこそ、ご馳走様でした。・・・えっと、野菜カレーを。」
「はい、かしこまりました。」
今日の《咲花》は、21:00過ぎても賑わっていた。
その割りにそんなに忙しそうでもない母親に、話しかけてみた。
「ケーキ、旨かったです。
―― しかし昨日みたいなのは、困っちゃいますよね。」
「・・・女が一人でお店をやっていくんですよ。
あれぐらいは覚悟しなきゃ。」
“へぇー。”
「いい距離を保つ為に・・・。
―― はい、野菜カレー。」
僕にカレーを運び、再びカウンターに戻る。
「板倉さんが気持ちよく仕事してくれるよう。
より良い質の野菜を安い値段でお店に入れてもらえるよう。
私も多少のリップサービスはしますから・・・。」
“案外、したたか・・・。”
「―― 嘘も方便ですか。」
「ううん、嘘はダメ。
例えば・・・板倉さんを好きだと言ったら嘘。
板倉さんを頼りにしてるし、いなくなったら困るは本当。」
「男、勘違いしますね。」
「ほんの少し、勘違いしてくれないと。」
“男の下心も、ソロバンづくか ――。”
「引いた?・・・私、ズルイわね。」
「いえっ、全然。」
―― 引いたどころか、逆に掻き立てられてしまった。
僕と話していた表情から一変、接客スマイルに戻る。
そして僕の背後から、食べ終わった食器を下げに来た。
「先生、お皿下げてよろしいですか。」
そして、僕の耳元でささやく。
「今の話、夏恋には言わないで下さいね。」
背筋がゾクゾクする。
「・・・大人の話ですから。」
僕は振り返って母親を見る。
いたずらっ子のような、お願いするような笑顔があった。
僕は食べ終わると、逃げるように会計を済ませた。
体が熱くて、赤くなっているのが分かる。
会計している渡良瀬にも
「先生、カレー辛かったですか?」
と、聞かれる始末。
自転車をとばして帰宅する。
風が涼しい ――。
玄関を開けると、すぐ服を脱いで
頭からシャワーを浴びる。
“女が耳元でささやくなんて、別に始めての事じゃない。”
浴室から出て、Tシャツとスウェットパンツをはく。
『夏恋には言わないで下さいね。大人の話ですから。』
全然たいした話じゃない。
でも、僕には話してくれた大人の話。
喉が渇く。
冷蔵庫開けてビールに手を掛けた。350の缶。
そして、週末だけと決めている楽しみの方に持ち替える。500缶。
今日は週末ではないけど、500缶を飲まなきゃおさまらない。
ゴクゴクと喉が鳴る ――。
*********************************************************************
~夏恋の話~
商店街のアーケードの中の広い空き店舗に全然似合わない、
外国輸入雑貨と手作りホビーの店がオープンした。
ルミちゃんと一度、学校帰りに寄ってみた。
私は特に、キッチン用品が気に入った。
赤とピンクで数字が書かれた軽量カップとか、
ユニークな柄のペーパーナプキンとか。
「新婚だったら、揃えてみたいね。でも弟達に
この道具でご飯作って、どうなるっての。」
―― って笑いながら言ってたルミちゃん、
文房具のほうに移動してすぐ、マーガレットの絵と、
チュ-リップの絵の小さいメモ帳を買った。
「ルミちゃん、2つも買って何書くの?」
「足りなくなってる物書いて、冷蔵庫に貼る。・・・マヨネーズとか。」
「キャー!贅沢すぎるぅ。」
「これ家計費から買ったから、この分 弟達の3日間のおかずはモヤシ。」
なんて冗談に笑いながら、はしゃぎながら2人で帰宅する。
―― 日曜日、《咲花》はお休み。
ママをこの雑貨屋さんに誘った。
今日は珍しく初子さんも一緒に来る。
初子さんはランチタイムだけ《咲花》を手伝ってくれている。
偶然だけど、ママと同じ調理学校だったらしく、
パパの事も知っていた。
「渡良瀬先生と結婚とはねぇ・・・。」
その意見に、私も十分うなずける。
この初子さん、ママより5歳年上だけど、
ハツラツとして、年齢よりずっと若く見える。
その辺の男性よりずっと男前の女性で、ママの良き相談相手、
そして頼りになる用心棒のような人。
ところがこの世の七不思議。
ひとつ目はママとパパの結婚だけど、
ふたつ目は初子さんが男の人と暮らしてるという事。
初子さんは《咲花》の近くの居酒屋さん、
《雪丸》の店主と暮らしている。
その事について聞くと、
「それは昼間の私でしょ。夜の私は、男の前では可愛い女だよ。」
と言って笑わせる。
「もう10年以上、一緒にいるねぇ。正確には曖昧だけどね。」
“こういうの、ワイドショーで言う《内縁の妻》って呼ぶのかな?”
雑貨屋さんではママの大好きな犬のイラストの入った
色違いの3色のカップを買った。
雑貨屋さんを出て、ママが言った。
「このカップ、3人でお茶飲む時使いましょうね。」
オレンジ、黄緑、群青の3色。
「私、オレンジがいい。」と、初子さん。
「私もオレンジがいい。」と私が言っても、
こういう時の初子さんは絶対に譲ってくれない。
「やだ。早い者勝ち。」
「ダメッ、じゃんけんで決めよう。3回勝負!」
私たちがもめている時、ママは笑いながら薬屋さんに入った。
初子さんはじゃんけん勝負に乗らず、
「―― ねえ、夏恋。 揚げたてコロッケ食べない?」
商店街の肉屋さんでコロッケを買って、
歩きながら食べようと言う事。
「おっ、賛成です!」
薬屋さんの入り口からママが見えた。
「ママ、初子さんとコロッケ買っていくから、先に帰ってて。」
ママが私を見てうなずく。
初子さんとコロッケを買って歩き始めると、
50m先にママが見えた。
一人じゃなかった。
「―― あれ? あのノッポ君は誰?」
初子さんがママを見て聞く。
「・・・A高校の、手代木先生。」
「夏恋の担任の先生なの?」
「ううん・・・。でもよく《咲花》に来てくれるの。」
私はママを呼ぼうとした。
そして追いつこうとした時、初子さんが割り込むように話しかける。
「何で夏恋の担任でもない先生が、わざわざ自転車転がして隣り歩くの。」
「。。。」
「―― あの先生若いね。いくつだろ。」
「27歳だって言ってた。」
「へぇー。まだボクちゃんじゃない。
・・・あの先生、ちょっと気があると見た。」
私は一瞬にして面白くなくなった。
「まさか!・・・だってママ、37歳よ。」
「バカだねぇー。37歳だって女だよ。
アレだけきれいなら男もほっとかないよ。
現に八百屋の板倉さんの例だってあるわけだし・・。
あのボクちゃんも ――。」
「だってママ、先生より10も年上よ。」
「ずいぶん古い事言うわね。だったらどうして
ボクちゃん、自転車乗ってかないの。」
「。。。」
「・・・あれっ。夏恋、ヤキモチ?
夏恋だって、コロちゃんと付き合ってんじゃないの。」
初子さんは、身長180センチの柏田君を“コロちゃん”と呼ぶ。
17歳の男は可愛くて、ペットみたいだからだという。
そして新たに手代木先生の事は、ボクちゃんと呼び始めている。
先生が《咲花》に来てくれてるのは、料理が美味しいから。
今、私はA高校の女子生徒の中で一番、手代木先生と親しく話せる。
そして先生は少なくとも私を嫌っていなくて、
普通よりは私を好きで・・・。
普通よりは私の事を好きだけれど、私は生徒で柏田君の彼女だから、
この微妙な距離を保つようにしている。
・・・な~んて。
“私って、《超》の付く勘違い女・・・。
先生とママ ――。”
自転車を転がし、180センチ弱の高さからママを見下ろし、
笑顔で話す手代木先生の背中が、50m先にある ――。
*****************************************************************
~手代木先生の話~
「―― 先生、どこかお出かけになるんじゃないですか。
自転車乗って下さい。」
急ぐ程じゃない。 まだ時間に余裕がある。
それに、急ぎたくない。
「久しぶりに都内まで行きます。」
「―― デートですか?」
渡良瀬の母親が笑顔で僕を見上げる。
「ええ、まぁ・・・。」
僕は母親を見ないように答える。
「それなら、なおさら急がないと。」
僕には都内に勤務する彼女がいる。
・・・ただ、うまくいかなくなっていた。
お互いに嫌いになったわけでもない。
2人で会って、なんとなく話して、なんとなく食事して、
なんとなく抱き合う。
僕の仕事で、これまでも少し遠距離恋愛だと感じていたけど、
それでも、なんとなくでも、お互いメールしたり
週末には行き来していた。
ところがこっちへ来てからは、彼女の方はもう来たがらなくなった。
僕もバレーボールの方が面白くなってしまって、
週末もなにも無くなった。
せめて電話やメールをと思っても、特に彼女に
話したい、聞いてもらいたい、分かってもらいたい日常も無かった。
元気?―→ ←― 元気よ。
のメールにも飽きた。
その彼女から久し振りにメールが来て、
休日に会いたいと言ってきた・・・。
「フラれに行く――、のかな。・・・ ショックは無いんです。」
「――まだ、決め付けないで。
彼女はただ先生に会いたいって思ったのかも。
それに、今日会えば歯車がかみ合って、うまくいくかもしれないし。」
「ありがとうございます。―― 渡良瀬さん。」
「・・・もしも振られちゃうとしても、彼女もそれなりに悩んで悩んで
別れの結論を出したんじゃないかしら。
先生、男でしょ。彼女の言葉に胸貸して・・・
―― あっ、私また、余計な事言っちゃいましたね。」
はっとして、口を手で隠すしぐさが可愛い。
「よく知りもしないのに、年上ぶって・・。ごめんなさいね。」
「全然、そんな事無いですよ。」
少し話題を切り替えたい。
「―― ところで、渡良瀬さん。
渡良瀬さんの名前はなんて言うんですか。」
「私の・・? 私は喜春です。」
「キハル?」
「はい。喜ぶ春です。 ―― あっ先生、私こっちですから。」
ここで別れて、僕は自転車で駅に向かう事にする。
・・・気が重い。
「・・・先生。その――、本当にお別れすることになったら
やっぱり覚悟していても悲しいですよね。
もし誰かに話したくて、聞くのが私でよかったら
《咲花》に寄って下さい・・・。
心が元気になるジュース、作りますから。」
僕に軽くうなずき、送り出してくれた。
その中に 「大丈夫よ。」とも待ってるから。」とも
僕に都合のいい心地よい意味がいっぱい入っているように思った・・・。
電車の中で、喜春さんが“おふくろみたいだな。”
って思い考えていた。
“おふくろは失礼か。・・・お姉ちゃん?”
僕の母親は僕だけにこんな笑顔を向けてくれる事は無い。
姉もいない。いるのは兄貴が2人。
4歳上の兄と、1つ上の兄。
“お姉ちゃんて、こんな感じなのかな・・・。”
喜春さんの笑顔も、《咲花》の顔と さっき会った顔は全然違う。
僕はこの状況で、細い絆の恋人を思う事も無く、
生徒の母親の喜春さんの事ばかり考えていた・・・。
*******************************************************************
~八木沢初子の話~
・・・確かに、夏恋をからかったのは私がいけなかった。
この位の歳の娘は、いろんなことに敏感で難しいのを忘れていた。
自宅に着いてからの夏恋は機嫌が悪く、喜春に対して
「ママ、先生とあんなに仲良さそうに歩いて・・・、
世間の人が見たらどう思うの。」
「先生はママより10歳も年下なのよ。」
「死んだパパが見たら、どう思うの。」
「ママは私より先生といる時のほうが楽しそうで・・・。」
昼食の間中、ずっとクドクド言っている。
喜春はずっと素直に聞いている。
“私なら、「うるせーっ!」ってキレるな。”
存分に文句を言って、昼食を食べ終えた夏恋が席を立った。
「・・・喜春、ごめんね。私が無神経だった。」
私は正直、喜春が心配だったし不憫にも思っていた。
渡良瀬先生・・・いや秋彦さんが亡くなってから、一度も泣いていない。
突然の状況に、夏恋と《咲花》をかかえて必死になって
感傷に浸る余裕も無くて、今では泣くタイミングさえも
失ってしまったように思える。
また男性に対しても、気さくに話しかけたり
冗談行ったり出来るほうじゃない。
だから、買い物に出た時の2人の様子が嬉しくて
しかも板倉のオヤジじゃなくて、イケメンのボクちゃんが
喜春を気にかけてくれたのが嬉しくて・・・。
でも夏恋はそうじゃない。
「夏恋はコロちゃんと付き合ってるから、ヤキモチ焼かないと思ったよ。
本当に余計な事言っちゃった。・・・悪かったよ。」
「初子さん、気にしないで。子供って、母親は女じゃないから、
初子さんに母親も女だって言われて嫌だったのよ。
でも母親だって女よ。
また、あの年頃は大人の男性に憧れるものよ。
柏田君は好きだけど、先生にも別のものを感じてる。
・・・夏恋は面食いみたいだから。」
「へぇー、そこは母親には似なかったのね。
面食いは、父親に似たんだ。」
夏恋がTシャツとジーパンから白のポロシャツのような
ワンピースに着替えて、部屋から出てきた。
襟と胸元にネイビーの糸で英語の刺繍のしてある、
清潔で好感の持てる服。
“その服装は、コロちゃんとデート?”
「ママ、柏田君と出かけてくる。」
「柏田君、今日は部活休みなの。」
「・・・手代木先生に会ったんだから、ママだって分かるでしょ。」
私はなるべく親子の会話には入らないようにしている。
・・・でも、今日の夏恋はしつこい。
「ちょっと夏恋。アンタ、いい加減にしなさいよ。」
何か言いかけた夏恋の前に、喜春が割り込む。
「夏恋。ママ、夏恋の話を聞いてよく分かった。
先生、さっきの話だとほんの少し心が疲れているようだったの。
だから、よかったらお出かけの後《咲花》に寄ったらって
お誘いしたの。 元気になるジュース作ってあげようと思って。
でも、それも先生の為じゃない、夏恋が好きな先生だから。
夏恋のために、元気になってもらいたかったの。
でも、夏恋はそう思ってないようだから・・・お断りするわね。」
「えっ、今日先生《咲花》に来るの? 何時ごろ?」
「もうお断りするから、気にする必要ないわ。」
「ママ、先生に電話するの?」
「先生が、寄る前に電話するって言ったの。その時断っておくから。」
「いいじゃない、来てもらったら。」
「でもその事で夏恋が嫌な思いするほうが、ママ辛いもの。
先生より夏恋の心のほうがずっと大事だもの。
安心して。断っておくから。」
「ママ、先生に来てもらって!
で、私が帰るまで、《咲花》に引き留めておいてね。」
「うん・・ じゃ そうしましょう。あんまり遅くなっちゃダメよ。」
「・・・ママ、さっきはゴメンなさい。
初子さんもゴメンなさい。 行ってきます。」
そう言って、夏恋が階段を駆け降りていった。
下の音を聞くと、自宅の玄関からではなく
《咲花》の出入り口から出て行ったらしい。
「・・・喜春、やっぱり母親だね。感情的にならず上手だね。
もし夏恋がボクちゃんの事断ってて言ったら・・・断ったの?」
「治めるには否定しない事よ。それに、夏恋が断るって言うと思う?」
「否定しない事か。 難しいね。
・・・喜春、今日暑いね。 ビールでも飲もうよ。」
喜春がテーブルの昼食の食器を片付け、手早く洗う。
私がテーブルを拭く。
「喜春、冷蔵庫開けるよ。」
私がビールを取り出し、今度はリビングのテーブルにもって行く。
喜春が冷えたきゅうりを縦に裂くようにして切って皿に盛り付け、
味噌と練り梅を添える。
2人で座椅子のような高さのソファーに、足を投げて昼間から飲む。
夏恋は、喜春が昼間からビールを飲むことを好まない。
だから、夏恋の前では飲まない。
「ねえ、喜春。 ボクちゃんの事、どう思ってるの?
今日初めて見たけど、なかなかカッコイイんじゃないの。
遠かったからかな。」
「初子さんの呼ぶ通り。 まだボクちゃんよ。」
“先生は夏恋の担任でもないのに、店の客ってだけで
自転車転がして喜春の隣、歩くのかな。
喜春だって、《咲花》の休みの日に他人を店に通すなんて
今まで一度もした事ない。
喜春の本音は、どこにある・・・?“
********************************************************************
~夏恋の話~
柏田君と、暑い日差しを避けるようにプラネタリウムに入る。
小学校の遠足依頼だと二人で話した。
照明が落ちて、星の世界が始まる。
“あっ・・・、真っ暗になる訳じゃないんだっけ。”
少し倒れたシート。
薄暗い紺と紫の中に、柏田君の横顔が見える。
二重の切れ長の目が、まっすぐ星を見つめる。
“どうして、ルミちゃんじゃなくて私なんだろう。
柏田君は、私のどこが好きなんだろう・・・。”
私も星を見る。
星とは全然違う事を考える。
私は柏田君のどこが好きなんだろう。
柏田君は優しい。
高校1年生のあの日から今までも、テスト前になると
部活が終わってから《咲花》の閉店後、一緒に勉強してくれる。
問題に対し私が解答できないとよく教えてくれるし、
そんな私にイライラした様子を見せた事も無い。
でもそれって、優しいって事なの?
柏田君は頼りになる。
地図を見ると、目的地まですぐ理解できる。
でもそれって、頼りになるって事なの?
柏田君は背も高くて見映えもいい。
だから、柏田君が彼氏なのは鼻が高い。
うらやましがる人も多い。
私は、うらやましがられたいの・・・?
柏田君の顔も好き。
特に、切れ長の目と笑顔は本当にいい。
でも、先生の目も好き。
黒に近いこげ茶色の、深い目の色。
先生も背が高くて、・・・大人の男性で。
柏田君とのデートは楽しい。
でも先生が《咲花》に来ることも、すごく楽しみにしている。
私はキスした事がない。
柏田君からも、まだ・・・。
ファーストキスは、柏田君としたい。
エッチも、ちょっと怖いけどしてみたいとも思う。
クラスの女子の知ってるだけでも、3分の1は経験してるし。
当然柏田君と、と思っていた。
―― でも、今は違う。
柏田君に聞いた事ないけど、たぶん未経験の柏田君より
慣れてる(?)先生がいい。
“・・・ん? ファーストキスは柏田君で、
ロスト-ヴァージンは先生?
そういう事って、好きな人とするんでしょう。
だったら・・・私はいったい、どっちが好きなんだろう。”
私は今まで、柏田君との事に疑問を持った事はない。
やっぱり柏田君はかっこいいし優しいし、話も楽しいし。
バレーボールでアタックが決まると、
「あの人、私の彼氏なの。」って、大声で自慢したくなる。
でも、先生も・・・。
もう一度薄暗い紺と紫の中に、柏田君を見る。
うたた寝していた。
“寝顔、初めて見た・・・。 無防備、可愛い。”
『夏の星座、いかがでしたでしょうか。 また秋の~~ 』
と 場内アナウンスが流れ、少しずつ明るくなる。
柏田君が目を覚ます。
「ラストのほう、寝ちゃった。・・・ずっと起きてた?」
失敗したような、照れ笑いを私に向ける。
「うん、起きてたよ。 でもこのシートは眠くなる。」
“・・・起きてたけど、星はひとつも覚えていない 。”
街に出る――。
日差しは弱まったが、今日はまだ暑い。
「柏田君、CDショップ行かない?」
私は柏田君の左手に、軽くぶつかるように触る。
すぐに私の右手を握り返してくる。
手をつなぐのは初めてじゃないのに、
柏田君は耳までピンクに染まる。
モスバーガーに寄って、私はデザート、
柏田君はホットドックにコーラを注文する。
「柏田君、夕食?」
「おやつだよ。 これくらい普通でしょ。」
席に着いてから運ばれてきたホットドック、
ほとんど姿を見ないままに、柏田君の口に吸い込まれていった。
「期末テストが終わってすぐ、バレーの引退試合があって。
・・・そしたら受験だな。」
憂鬱そうに話す。
「バレーの引退試合って?」
「3年生 対 1・2年生。
まっ、だいたい2年生中心だけど。
手代木がコートに入るんじゃないかな。」
「その試合、見に行ってもいいの?」
「いいよ。 あっ、そしたら女子が集まるな。
手代木見たさに。 せめて夏恋は、3年生応援してな。
手代木に行くなよ。」
「当ったり前じゃないの。 柏田君応援する。」
――ドキッとした。
見透かされたような気がして。
“手代木先生が、コートに入る。”
モスを出て、柏田君が家の前まで送ってくれた。
18:00 帰宅した。
―つづく―
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