Leica MP LHSA






Leica MP LHSA


    (Leica MP LHSA + color-skopar35mmF2.5(P2))

勝手にインプレッション

ライカ熱は日本にはびこる恐ろしい風土病で、潜伏期間は長くしつこく、一度発症しようものなら猛威を振るい、患者をダメ人間へと変革する。様々な症状を呈するが、共通するのは金銭感覚が麻痺してしまうという点で、それまで吉野家の牛丼特盛りでも躊躇していたような人間が、あっという間に「支払いはカードで」などと言ったりするようになるのだから始末に悪い。
何が言いたいのかと言うと、エンゾーがライカを何台も買ってしまったのはウイルスのせいであって、決してエンゾーの意思ではないということ。

見苦しい言い訳が長くなったが、要するにM6Jを買った直後にもかかわらず立て続けに買ってしまったのが、このMP LHSA・・・通称「ハンマートーン」である。

このモデルは、アメリカのライカファンクラブ「ライカ・ヒストリカル・ソサイアティ・オブ・アメリカ(LHSA)」がライカ社に発注をかけて作らせた、ハンマートーンという特殊な表面加工を施したMPで、新型MPの限定版としては、「MP6」「MPエルメスエディション」に次いで3番目に登場したモデルにあたる。LHSAの会員向けと言いつつも、いつもの事で少数が一般市場にも出回り、そのうちの一台がエンゾーの手元にやってきた。

M6J という、8年越しの恋を実らせた良家の彼女がいながら、なにをトチ狂ってネズミ色のヤンキー娘などに目移りしたのか?これにはいろいろ訳があるのだが、やはりヒンヤリと冷たくツヤツヤした肌に触れてしまったのが一番いけなかったと、 今でも反芻 、いや反省している。
M6Jのファインダーは、お世辞にもクリアとはいえない代物で、二重像がハレーションで飛んでしまうというM6系に共通する持病があった上に、どうもエレメントに曇りが出ていたようで、一枚ベールが掛かったように霞んでおり、見え味が良くなかった。
また、ファインダーが0.85と高倍率であることから、メガネ使用者のエンゾーには特に広角レンズが使いにくく、大好きな28mmに至っては外付けファインダーに頼らざるを得ないのも、ちょっとした不満だった。

そんなある日、某ライカコレクターM氏(ご本人は「コレクターではない!」と言い張っているが、素晴らしいコレクションをお持ちだ)から、買ったばかりのMPハンマートーンを見せて頂く機会に恵まれた。
「MP6は手元に届いてみたら、あまりにもテカテカしすぎてて嫌になったから、買ってすぐに売っちゃった。おまけにMC工作機の切削のせいか、エッジが尖りすぎていてペイントがすぐに剥がれてしまうし。でも、このハンマートーンは違う。 これは一生モノだね
恐る恐るいじらせてもらうと、まずファインダーの見えの良さに驚いた。M6Jとはまったく別物である。なんてこった!おまけに、グレーハンマートーンに仕上げられた軍艦部は、いかにも職人の手仕事で二つと同じ模様がなく、もはや工芸品然とした佇まいを醸し出している。
MPには以前から心惹かれていたのに、どうして買わなかったかと言うと、やはりM氏と同様、傷つきやすい塗装とのっぺりしたグッタペルカが好きになれなかったのだ。しかし、ハンマートーンなら・・・
なにより『 一生モノ 』という言葉に弱いエンゾーは、あっという間に感化されてしまった。

さて、とはいえ相手はライカの限定モデル、そうおいそれと手を出せるお値段ではない。いろいろ考えた末、本来は「ボディ+ビット」とセットで売られているズミクロン35mmASPHをキャンセルして、ボディとビットだけを買うことにした。これなら、だいぶ予算を節約できる。

(35mmだったら、すでにカラースコパーを持っているしね。ズミクロン?そんなのいらないもんね。よしよし、我ながら冷静で賢い選択)

この時、エンゾーは大きな勘違いをしていた。ハンマートーンとセット販売のズミクロンは、付属のフードが同じハンマートーン仕上げにしてあるだけで、レンズそのものは量産品と同じものだと思い込んでいたのだ。
ところが、ハンマートーン用のズミクロン35mmは、最新のアスフェリカルレンズの光学系はそのままに、外観を あの8枚玉風 にデザインしなおした、クラシカルな限定モデルだった!(このレンズは、続くアンスラサイトモデルや、韓国で販売された「 ライカの良識を疑う空前の駄作 安重根(アン・ジュングン)ライカ でも採用されている)

フルセットで買わなかったことを痛く後悔したエンゾー、後日わざわざズミクロンだけ買ってしまった。と言っても、その時点ですでにハンマートーン版は入手不可能だったので、泣く泣く後発のアンスラサイト仕様を買う羽目になったのであるが、ボディに取り付けてみると、やはりハンマートーンとはデザインが微妙に合わない…。
まあ経済的な事情で、どのみち同時購入は到底無理だったのであるが。


(【2006.7.31追記】なんと「某カメラ店からハンマートーンのフードだけが売りに出されている」との情報を、当HPの常連さんから入手。矢も盾もたまらず速攻でお手付きしてしまった。こんな僥倖は、もう二度とないだろう。お陰で、一本のズミクロン35mmクラシカルモデルに、アンスラサイト・ハンマートーン・ノーマルという三つのフード(12504)をとっかえひっかえ楽しむことが可能になった。ちなみに、アンスラサイトのフードが通常のアルミ製12504をベースに塗装してあるのに対し、ハンマートーンのフードはなんと 真鍮削り出し である。スカスカと軽く変形しやすいノーマルベースのアンスラサイトと比べ、強度・塗装ともに数段出来が良い。この削り出しフードを採用しているのは、ハンマートーン以外では、MPエルメスバージョンでセット販売されたズミクロン35mmのみである。

なお余談だが、このフード獲得話にはちょっとした偶然が味方している。情報を教えてくれた 銀治さん が、日ごろ滅多に読まないアサヒカメラを広げ、たまたま巻末の通販ページを流し読みした時に、フードの情報が載っていたのだ。しかも、本人が最新号のつもりで読んでいたのは、実は先月号だった。この勘違いがなければ、エンゾーはフードを入手できてはいなかっただろう。銀治さん、多謝!)




      これが本来の鎚目。上の画像と比べてもらうと、印象がまるで違うのが分かるはず。

MPハンマートーンのファインダー倍率は、0.72倍である。一番潰しが利くファインダーで、見難くはあるがとりあえず28mm枠も出るので、それ以上の広角レンズを使用しない限り、外付けファインダーを載せる必要がない。35mmをメインで使うエンゾーにとって、これは0.85倍のM6J以上に使いやすいモデルと言う事になる。
M4-2以来の懸案事項であったハレーションを(ようやく)克服した距離計の見やすさは、もちろん言うまでもない。

MPの外観上で最も大きな特徴である巻き戻しノブは、クランクのように迅速な巻上げは出来ないが、その代わり巻き戻し動作の途中でうっかり手を放しても、一瞬で元に戻ってしまう事がない。これはこれで便利である。

また歴代のグレー系ライカの中で、例えばMPアンスラサイトなどと並べてみても、MPハンマートーンは特に色が濃く、装着するレンズの色を選ばない。シルバークロームでもブラックでも、どちらも良く似合う。これは、同じレンズで2色そろえるというありがちな散財をしなくて済むので助かる(^_^;。


ただ、実際に使ってみるといくつか欠点も見つかった。
まず、シャッターをレリーズした感触が良くない。これはM6Jよりも悪い。こじるような感じがあって、全押しするまでに違和感を覚える。よほど慎重に、真上から、もしくは被写体方向にテンションが掛かるようにボタンを押さない限り、この引っかかるような感触は回避できない。これはシャッターのストロークを調整する部品の構造が変わったためで、今までのように調整で解消することは難しいと思われる。

それから、セットで買ったライカビットの動きが渋かった。操作するごとに「キュキュッ!」と嫌な鳴き方をする。M6J用にと思って買ったシルバークロームのビットは極めてスムーズなので、これは個体差なのだろうが、限定モデルのハンマートーンビットでこんな音がするとは・・・と、ちょっとがっかりしたのは確かだ。 

そして・・・
これを言ってしまうと悲しくなるのだが、肝心のハンマートーンの出来にムラがある。これは相当ショックだった。職人が一つ一つ手作業で塗装していくので仕方のない話ではあるのだが、エンゾーの手元に届いた個体は、よりによって一番目立つ正面測距窓のまわりに、ネズミ色の塗料が「ボテッ」と厚塗りされたような状態になっていた。そういうわけで、すぐ後にMPアンスラサイトが(より安価で!)発売になった時には、さすがに凹んだ。

まあいろいろ細かいことを言い始めたらキリがないが、買った直後より最近の方が、じわじわと満足感が増してきている。やはり、道具は使っているうちに情が移るもので、アバタもえくぼと思えてきたのだろう。今のところ、50mmならM6J、35mmや28mmならMPという風に使い分けている。 


長所

○ブラックペイントよりもはるかに強靭で安心感のある塗装。職人の手による鎚目が美しい。
○付属のライカビットには、前面に「Leicavit」の筆記体が白く彫り込まれていて、デザイン的なポイントに
 なっている。
○長年ライカファンを悩ませてきた距離計の乱反射は、MPでようやく克服された。
○張り革(バルカナイト)は、見た目・ホールド感ともに歴代ライカの中でもトップクラス。

短所

●人によっては、クランクではなくノブによる巻き戻しはもどかしく感じるかも。
●高すぎる…。
●M6Jと同様、ついつい過保護になる( ̄▽ ̄;)。
●レリーズする瞬間の感触が悪い。こじるような感じがある。ゆえに、ガク押しになりがち。

超個人的オススメ度 (10点満点)
☆☆☆☆☆ ☆

偏愛度 (10点満点)
☆☆☆☆☆ ☆☆☆☆

Yahooオークション出現率 (10点満点)

最近は持つべき人の手に渡ったのか、ハンマートーンの出品はまったく見なくなった。 




© Rakuten Group, Inc.
X

Design a Mobile Website
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: