1973.01.13 仁義なき戦い 



これで腕きって血すすろうや

昭和21年呉市。敗戦からすでに1年。戦争という大きな暴力は消え去ったが、国土には新しい暴力が渦巻き、人々がその無法に立ち向かうには自らの力に頼るしかなかった。ボンクラの広能は仲間の山方と一緒にどぶろくをすすっていた。そこへ女の叫び声が。数人の米兵が女を追いかけていた。小屋の中に女を追い詰めて輪姦しようとする米兵たち。「この外道野郎が」広能はズタ袋を米兵の頭に叩きつける。

たちまち大騒ぎになり警察がやってくる。「やめとけ。相手は進駐軍じゃ」広能と山方はMPがやってきたと聞いて一目散に逃げる。闇市ではヤクザ同士の熾烈な縄張り争いが繰り広げられる。土居組のシマ荒しをしていた上田組の組長上田はその現場を土居に見つかり逃げようとするが、土居組の若頭の若杉につかまり小屋の中に引きずり込まれる。開き直った上田は怒鳴り散らす。「好きにしたらんかい」

「ああ、やったるで。」若杉は日本刀で上田の左腕を叩き斬る。調子に乗った若杉は続いて上田の子分の右腕も叩き斬る。そのころ広能は飯屋で安酒をあおっていた。そこへ女の悲鳴が。ポン友の山方が顔面血だらけにしてボンクラにかつがれてはいってくる。驚く広能。「どうしたんなら」「兄貴、焼酎くれや」「誰にやられたんなら」ボンクラが説明する。「この先のヤミ市でわしと極道もんが揉め事を起こしてのお。この人は止めにはいったんじゃが、巻き添え食ってしもうてのお」

「こんなの手当てはわしがするけえ、あんたはこの先の土建屋の山守組に行ってくれや。わしの仲間がおるけん、道具用意して行くように言ってくれや」早速広能は山守組に行く。そこには山守組のチンピラの坂井や神原や新開や槙原がいた。拳銃をふりまわして叫ぶ坂井。「おい。場所はどこなら」「この先のヤミ市じゃそうじゃ」坂井たちは現場に到着するが、誰が極道もんをやるかで話がもめる。

そこで広能がのっそり発言する。「なんよ。わしが行っちゃろうか。やられたんはわしの友達じゃし」「こんな、道具持っとるんか」「持っちょらんよ。どこぞで探してくるわ。今どこにおるんかいの」「そこの飲み屋で暴れちょるわ」坂井は広能に拳銃を差し出す。「これ持っていきや」飲み屋では極道者が日本刀を振り回して暴れていた。広能は一発で極道者を射殺する。「おい、やったど」「行け」坂井たちは一斉に逃げる。

しかし広能は捕まり刑務所に送られる。その刑務所には若杉も収監させられていた。若杉は飯を見て、「白い飯出さんかい」と大暴れをする。それに便乗した広能は結局若杉と二人で隔離房に入れられる。広能に話し掛ける若杉。「こんな、何年うたれとるんなら」「12年です」「12年か。5万いるのお」「そがいな銭出るとこありゃあせんとです」「ああ、わしゃあこれから腹切るけえのお、こんなもちょっと手伝うてくれや」

「腹切ってどうするんです」「ここいらの藪医者はよう直さんけえ、すぐに保釈で出られようが。おお」若杉は囚人服に隠し持っていたヘラを取り出す。「ええ所で、自殺じゃゆうて、騒いでくれ。もし切りそこなって苦しんでるようじゃったら、一思いに絞め殺してくれ」うなずく広能。「わかりました」「のお。これを機会にわしと兄弟分にならへんか。わしは土居組で若頭をしちょる若杉寛ちゅうもんじゃ」

「前から知っております。じゃが、わしは極道じゃないけん」「誰も初めっから極道と言うとるんじゃない。まあわしについてこいや」「わしは改めて言うのも変ですが、広能昌三ちゅうもんです」「盃はないけん、これで腕きって血すすろうや」若杉と広能はお互いの腕を傷つけあってお互いの傷をチュウチュウなめあい、義兄弟の契りを交わす。「わしが先に出たらこんなの保釈金出させるとこを、どっか探しとくけんのお。ホイじゃ頼むで」若杉はボロ布を口の中に入れ腹をかっさく。顔面血まみれになる広能。「いいですか。呼んでもいいですか。おおい。早く来いや」

そして広能は釈放となる。坂井や神原たちが迎えに来る。「おめでとう」「ありがとう」「昌ちゃん。保釈金出してくれた山守の親分が来なさっとるよ」笑いながら広能に近づく山守。「おやっさん。こんなが広能です」「どうもすんませんです。あのお借りした分はすぐに返しますけん」「何を言うんなら。うちの若いものん身代わりになってくれたんじゃ。わしも土居さんから聞いて初めてしったんじゃ」

「いや寛が中で大変世話になったそうで。あいつはまだ病院からでられんけい、わしが変わりに礼をさしてもらおう」土居は広能に日本酒をプレゼントする。喜ぶ山方。「土居さんが直々に出迎えるなんてのは、昌ちゃんくらいのもんじゃろう。のお」そしてその年山守組は創設され、若者達は山守から親子の盃を受けた。呉の大物の大久保が媒酌人、後見人は土居であった。



おどれ破門じゃ

昭和24年。広能たちは賭博場を開く。ついていない上田は因縁をつける。「なんなら。この賭場は。闇屋の成金がのしあがった盆は愛想がないのお」きれかかる広能を神原が抑える。「やめえや。まあ、機嫌よう、遊んでつかあさいや」ボンクラがビールを持って、上田のところに。「まあ一息入れてつかあさい」しかしビールを一口飲んだ上田はそのビールをボンクラの顔にぶっかける。

「なんや。これは馬の小便か。ビールならもっと冷えたのを持ってこんかい。おお」堪忍袋の尾が切れた広能は上田に殴りかかる。「馬の小便、いらんのなら、ホンマもんの小便飲ましたろうか」「おお。飲ましてみいや」賭場は大乱闘になる。静止する坂井。報告を受けた山守は広能にどなり散らす。「いたあしいことしてくれたよのお。こんなが喧嘩を売った上田いうボンクラはよお、媒酌人をしてくれた大久保さんの遠縁にあたる男よ。どうするんなら」

山守の女房の利香は溜息をつく。「お金であやまるしかないじゃろうね」「調子に乗りやがって。ええ加減にせえよ。銭にもならんことしやがって」「指詰めますけん、それで話つけてつかあさい」「ああ。詰め、詰め。その方が銭使うよりましじゃ」プリプリしながら出て行く山守。広能を坂井が慰める。「オヤジのケツのこまいのはわかっとるじゃんがのお。のお、昌ちゃん。わしらはいつでも大久保やるちゅんじゃったら、いつでも喧嘩をこうたるがの」

「オヤジはいろんな事業をしとるけえ、立場が違うんじゃろう」「こんな、本気で詰めるんかい」「おお、やめとけ。やめとけ。不自由すんぞ」「いったん、口に出したんじゃけん。やらんわけにはいかんよ」小指を突き出す広能。「ところで、どうやったらええんじゃ」利香が口を出す。「詰め方がわからんかったら、うちが教えてあげる。うちの人と大阪におったとき、見たことがあるんよ」

畳を裏返しにし、その上に俎板が乗せられ、広能は自分で自分の左手の小指を包丁で切り落す。血まみれになる広能。「しびれるのお」神原が叫ぶ。「指がないぞ」「庭に落ちたんと違う」「あれがのうなったら話にならんのお」神原は鶏が食べる直前の広能の小指を見つける。その指を持って山守一行は大久保の所に侘びを入れに行く。指を見つめて笑い飛ばす大久保。「ははは。こげなことをせんでもええのに」

「のお。山守さん。たかが若いもん同士がやりおうただけで、どうちゅうこともないわい。それに今度のことはこの上田が悪いんじゃ。水に流してつかあさい。そいつは、そっちのほうで処分してつかさあい。些少じゃが、これを埋葬料の足しにしてのお」「そげなことをしてもろうても」「まあ、いいじゃないの。それよりあんたの力でこのボンクラを男にしてくれんかのお。知っての通り、わしゃ表に立たんけえ。あんたが一番頼りじゃけえ」

上田は丁寧に挨拶する。「伯父貴さん。ご一党さん。ひとつよろしく頼みます」渋々頭を下げる広能。「そちらとこの上田と組んだら怖いものなしじゃ。そうじゃろうが。ははははは」上機嫌の大久保は山守にお願いをする。「ところで、あんたに会わせたい人がいるんじゃ。市会議員の中原先生じゃ」山守は中原のもとに行く。「あんたも知ってのとおり、この街には海軍県警の隠匿物資がまだ500億円程度眠っとるんじゃ。それをわしらは市の復興計画にと思っとるんじゃが、金丸派の奴らが妨害しおってのお」

「あいつらは口では綺麗事を言っとるが、黒幕の池嶋代議士の選挙費用が目的じゃけん。明日の議長選挙で事は決するんじゃが、形勢はまったく五分五分でのお。そこであんたに頼みがあるんじゃ」帰ってきた山守に聞く坂井。「で、どうせえ言いよるんですか」「金丸派の票をひとつ減らしてくれ、と言いよるんよ」広能も聞く。「で、どがいに返事されたんですか」「どがい言うても大久保に口利きじゃけん、やらんわけにはいかんじゃろうが。上田も手伝うって言いよるしよ」

「おやっさん。金丸には同じ町内出身の土居がついとるんですよ。それに上田は昔から土居ににらまれとるし、そがいなもんに肩入れして、土居と張り合おうちゅうんですか」頭を抱える山守。呟く坂井。「おやっさん。これは初めっから大久保が絵描いたんじゃないですか。上田が盆でアヤつけたのも、わしらのケツ借りようちゅう魂胆で」「大久保さんはそんな悪い人じゃないよ。それに今度金丸派が勝ってみい。土居の力はよいよ強うなって手に負えんようになるぞ」

「上田みたいなボンクラじゃあ、土居に太刀打ちできませんわい。みすみす罠に落ちるようなことは、わしらごめんです」坂井の冷淡な態度に激怒する山守。「だったら大久保やれ言うんか」怒鳴り返す坂井。「ほいじゃけえ、わしは初めっから大久保に弱味見せたらいかん、って言うとったでしょう」おろおろする山守は坂井と広能に頭を下げる。「のお。わしの立場ちゅうもんもわかろうが。それによ、中原さんとの約束で、銀行から無担保で無利子無期限で事業資金をなんぼでも引き出せるようになったんよ」

「これからの極道は銭が勝負よ。こげいな機会、滅多にないで。土居にはわからんようにやればええんよ。のお。わしを助ける思うて頼まれてくれ」広能は坂井に話し掛ける。「のお、鉄ちゃんよ。オヤジさんがこがいにおっしゃるんじゃけえ、わしゃやってもええよ」「でも、こんなは土居の若杉と盃しとろうが。わしにまかせとけ。おやっさん、誰にもしゃべらんと約束してつかあさいや」

坂井は金丸の愛人の家に乗り込み、金丸を拉致する。そして議長選挙は終わり中原派の勝ちになる。山守は坂井に電話する。「みんな、うまくいったよ。荷物は追い返せ」「あい。わかりました」坂井は金丸を開放し、神原に告げる。「わしゃこれから旅打つけえのお。土居にカマかけられても知らんふりしとくんじゃぞ。のお」

しかし調子に乗った神原はキャバレーでベラベラとしゃべりまくる。「500億よ。わしらが段取りしてやったんじゃけん。ほいで市会議員のやつらはペコペコしよるのよ」土居組のボンクラが神原を取り囲む。「のお。500億円の話、もうちょっと詳しう聞かしてくれや」神原は凄絶なリンチを受ける。若杉は自分の女の鈴江の経営するバーに山守と広能を呼ぶ。「何の話ですか」「えらいことになったど。神原が全部歌うてしもうた」

蒼ざめる山守。「わしの立場じゃこがいなことは言えんのですが、兄弟分の昌三もおることですし」「すいません。兄貴」「よお、教えてくれた。あんたの力でひとつよろしく土居さに言うとってください。わしも大久保の頼むでやったことなんじゃけえ」「わしが言うてもオヤジの怒りはおさまりませんです。山守さん、わしはこれから広島の海渡親方に会うでてすね、訳を話して仲裁を頼もう思うとるんです」

「あんたはその間、どこかに姿を隠してつかあさい。わしら何としても喧嘩したらいけんのです」そこでバーのドアをノックする音が。「誰ね」「神原です。えろお遅うてすいませんですけど電話貸してつかあさいや」しかし神原の後ろには土居たちがいた。「若杉。何でお前がここにおるんや」「オヤジさん。まあ」「どいたらんかい。山守。わりゃようもわしの裏をかいてくれたのお」山守をぶっ殺そうとする土居を制止する若杉。

「お前はどっちの味方なんや」「おやっさん。盆茣蓙の上でのイザコザはともかく、議員連中に尻貸してんのは、そこいらの犬と一緒じゃないですか」「なに。おどれ破門じゃ」しかし土居たちは若杉の気迫に押されて出て行く。一緒に出て行く神原をぶん殴ろうとする広能を制止する若杉。若杉の男気に惚れて泣きすがる山守。「すまん。わしゃあんたという人間を初めて知った。今後ともわしの力になってくれよ。のお」この事件をきっかけに若杉は山守組の客分となる。



ワレがおらんようになったらどうなるかのお

しかし土居組と山守組の抗争はどんどんエスカレートするばかりだった。広島の海渡親分のところに身を寄せた広能のところに若杉がやってくる。「何かあったんですか」「土居がの、ここで興業を打つことになった。ほいで海渡親分のところに挨拶に来るんじゃ」「土居が何かやったんですか」「ああ。あの神原のバカタレを子分にしてのお。山守のシマ荒らしにかかっとるんじゃ」「ほうですか」

「ほいじぇけえ、ここらではっきり片つけにゃならんけん、こんなは、ここにおらんほうがええ」「兄貴。ほいじゃ、あんた土居殺るいうの」「わしが殺らにゃ、格好つかんじゃろう」「あんたじゃ、なんぼでもいけんよ。盃返したいうても親は親じゃ。それに手を出したら兄貴がみんなに笑われるじゃないですか」「……」「とにかく兄貴は手が出さんほうがいいです。とにかくみんなで話してみましょう」

呉に戻り山守にグチをこぼす広能。「おやっさん。何でこんなになる前にわしに知らせてくれんかったんですか」「みんなに知らせて騒ぎになると土居も気づくけえのお。ほいでわしは若杉だけに知らせたんじゃ」「兄貴だけに知らせたら、わしら格好すかんじゃないですか」「出入りになったらわしの商売にも響くしのお」「おやっさん。ここまで来たら商売の話はないじゃないですか。ひとおもいにやらんと」

若杉も広能に同意する。「昌三。こんなの言うとおりじゃ、ここにいる6人で土居組に殴りこみをかけたろかいい」しかし坂井のいない山守組の幹部は新開、槙原、矢野、山方でみんなボンクラだった。お茶をむせる新開。「おお。わしゃそれでもええんじゃがのお。ただここんところ体の調子が悪うて、言っても働けるかどうか」言い訳をする矢野。「わしゃ、ほかに手がある思うんじゃがのお」「どんな手や。言うてみい」「そげなことを言われても。あんたはどうなんや。槙原」

突如号泣する槙原。「わしゃ死ぬいうても問題ないが、女房の腹に子供がおっての、これのことを考えると可哀想で可哀想で」あきれた若杉は槙原に家に帰ってもらう。苦りきる山守。「くそお。外道がひょっとこ面しおって。頼りないいうたら。ええわい、ええわい。わしが土居と刺し違えればええんじゃろう。おお」あきれる広能。「土居一人殺るっちゅうのに何でこんな大騒ぎせにゃならんのですか」

「ええです。海渡さんには悪いが、わし広島でやりますけん」「昌三」「兄貴には組同士の喧嘩が終ったら残ってもらわなきゃならんですけえ」心配する山方。「こんなは、前があるけえ、今度は死刑になるかもしれんぞ」「今は坂井の鉄ちゃんもおらんし、一人で土居殺る言うたらあんたしかおらんよ」「まかしてつかあさい。死刑になったとしても極道ですけえ、それが当たり前のことですけん」

広能に泣きつく山守夫婦。「昌三。わしは生涯忘れん。わしを男にしてくれ。それでお前が無期が20年で帰ってきたら、わしの全財産をお前にくれちゃる。わしは商売に才覚があるけえ、お前のために金もうけしちゃるけん」「本当よ。昌ちゃん。うちらには子供がないけえ、うちらはいつも昌ちゃんの噂話ばかりしよるんよ」「昌三。今ある金は全部でこれだけじゃ。これを全部使って思い切り遊んでこい」

広能にわびる若杉。「すまん。わしも後で行くけえの。昌三。こんないい親父さんとおかみさんを持ってお前は幸せもんじゃのお」貰った金で早速女を買う広能。「ああ、痛い。もっと静かにしてよ」「あとがないんじゃ。あとが」そして海渡のところに土居がやってくる。土居の身体に銃弾を叩き込んだ広能は、若杉が用意した隠れ家に逃げ込む。「兄貴。どうですか。土居の様子は」「ああ。広島の病院でまだ息をしとるらしい。わしもそっちに行きたいんじゃがサツが張っててのお。もうちょっと辛抱してくれや」

そして広能の隠れ家に神原が現れる。「さっき、山守のオヤジから電話があってのお。こんなを逃がしてやれちゅうことで一人で迎えにきたんじゃ。わしじゃったら土居組の目をくらませるけえのお」疑惑の視線を神原に向ける広能。「なんなら。わしを疑ごうとるんか。山守に頼まれなきゃ、わしがこの隠れ家を知っとるわけなかろうが。まあええよ。わしゃもう行くで」「ちょっと待っとれや。すぐ支度するけん」

神原の運転するジープに広能は乗る。トンネルにはいり神原は車を止める。「つまらんところでエンストじゃ。ちょっと待ってくれや」そして神原はそのまま姿をくらまし、結局広能は刑務所送りになる。面会に来る若杉。「土居は死んだど。これから山守組の天下じゃ。坂井の鉄ちゃんも帰ってきたし、わしの役目は終った。こんなには悪いがわしは山守組を離れて旅に出るけん」「兄貴。山守組を守ったんはあんたじゃけん、坂井が帰ったいうtも関係ないじゃないの」

「わしゃのう、山守ちゅう人がわからんのや。こんなのところに神原を迎えにやらしたんも、何やのう本心のわからん恐ろしい人や。のお」「兄貴。わしゃ今度出たらあんたのところに行くけん、待っとってや。のお」鈴江は神原を呼び出す。「ママ。わしに用ってなんや」「あんたに相談があるんや」公園では若杉が待ち構えていた。「実はな、わしは旅に出るつもりじゃが、土居組がどうなったか気になってのお」「土居の若い者はしっかりしちょるけえ、あんたが心配することはないよ」「そうか。それを聞いて安心した。ところでワレがおらんようになったら、どうなるかのお」

若杉は神原の脳天に銃弾をぶち込む。殺人事件の捜査を始める警察に投書が。「なんや。市内の地図じゃないか」「この一丁目26番地とはなんのことや」「調べたところ山守組のヤクザの若杉の情婦の実家であります」「するとこれはヤクザ仲間のチンコロかのお」その実家で若杉は学生服に着替える。「ああ丁度ね。こうして見ると戦死したお兄さんにそっくり」「おい。天ぷらはばりゃあせんかのお」「ポリ公なんかにゃわかりゃせんよ」しかし刑事たちが実家の家宅捜索をし、見つかった若杉は学生服のまま射殺される。



神輿が勝手に歩けるいうなら、歩いてみいや

昭和25年。朝鮮戦争勃発。山守組は米軍の弾薬荷役の仕事を請け負いこの世の春を迎える。しかし一方で組員の統制は乱れ始める。そのきっかけは当時満盈していた覚醒剤やヒロポンの密売であった。山守組の若頭となった坂井は、覚醒剤を製造する新開の舎弟の有田のアジトへ歩を進める。

「ポンはやめえちゅうのが、わからんのか」「やれんのお。いちいちわしらのやってることにケチつけるんじゃあ」「わしらまだサツのガサ入れくろうじゃないか」「わしらはそんなヘマをせんで」「このボンクラ。いっぺん組の行儀ちゅうもんを教えてやる。来いや」有田を連れて行こうとする坂井の前に新開が現れる。「よお。兄貴。有田はわしの舎弟じゃけん。話があるなら、わしを通してからにしてくれや」

「お前ら、どう立場をつけるんじゃ」「あんたのような立場の人がポンくらいにケチつけなくてもええじゃないの。ポンなんか当たり前よ。とにかくここはわしの城じゃけんね。帰ってもらいましょうか」「親父の前で決着つけようやないか」と捨てゼリフを残して立ち去る坂井。苦りきった表情で楊枝を捨てる新開。「なんなら。オヤジオヤジ言いやがって。あの馬鹿たれ、跡目でももろうた気でおるんかのお。おお」

そして山守組幹部会が開かれる。早速発言する坂井。「わしゃ新開の言う事も一理ある思うとるんです。若いもんが増えちょるのにカスリの上納金があんなじゃ、尻に火がつくのが目に見えとります。上田とも相談したんじゃが、バーやパチンコのカスリは上納金から外してもらえんでしょうか」「ほいで、組がやっていける思うんか」「その代わり、わしらもめいめいが自立して組を運営するんです。大きい組はみんなそうしてるんですよ」

いきり立つ山守。「わしの恩を忘れてやりたいやつは勝手にするがええ」坂井を後押しする上田。「金きらの外車を乗り回すより、その分若いもんに回してやったほうが親分らしいと思いますがのお」新開は当然坂井に反発する。「兄貴の言うとおりにしたらオヤジはおらんでもええ。ええ目を見るのは一部のもんだけちゅうことになりゃしませんですかのお」「わしのことを言うとるんか」「オヤジはオヤジにしとかにゃいけんよ」

矢野も新開に同意する。「一家を中心に考えにゃいかんよ」席を立つ山守。「まあ、お前らええように決めえよ。ただ言うとくがのお、子ガ親に金を出し渋る極道がどこにおるんなら」山守がいなくなって多数決で決めようとする坂井。坂井に賛成は上田、槙原、山方。反対は新開、矢野であった。頭に来て席を立つ新開に坂井は追い討ちをかける。「有田はおったら目障りじゃ。半年ところ払いにせえや」

新開は有田にそのことを話す。苦笑する有田。「坂井の取上げたうちのポン、あれどうなってると思います。山守のオヤジが広島で売りさばいているんですわ。兄貴も安う買われてますよ。ところで兄貴を男にしたいちゅう人がいるんですけど、会われませんか」その男はかつて坂井に苦渋を飲まされた司会議員の金丸であった。とくとくと新開を説得する金丸。「わしはのう、常々この有田にも言うとるんじゃが、男が世に立つ以上、人の風下に立ったらいかん。一度なめられたら終生なめられっぱなしじゃ」

「のお、新開さん。あんたも男になってみい。わしゃなんぼでも応援するぞ。山守なんか相手にせんでええ。問題は坂井じゃ。あの男を早いうちにたたいとかんと、男にゃなりゃせんぞ」「それはわかってはいるんですが」「あんたがその気ならいいプレゼントを贈っちゃるよ」そこには土居組のボンクラがいた。「ははは。ちょっと酔狂が過ぎたかのお。じゃが、あんたの力で土居組を再興できたら、あんたは押しも押されぬ大親分じゃ」

そして山方が射殺される。有田に詰め寄る坂井。「山方やったのはお前の所に出入りしていたペイの売人じゃ。知らんとは言わせんぞ」ふてくされる有田。「わりゃ、わしの伝達聞いとるんか」「所払いか。聞いよるよ」「じゃったら、はよいねや」「それより若頭さんよ。山のオヤジさんが流しとるポン、あれどっから出とるんなら」「オヤジがポンを」「何にも知らないで。若頭ともあろうお方がよ」

山守に詰め寄る坂井。「わしゃあんたがポンやめえ言うけえ、それを抑えとったんです。それを影で横流ししとったはどういうことです」「まあ聞け。ポンを積んでおいてもしょうがないじゃろう。ほいじゃけえ、わしは広島でサツの目につかんようにさばいとるんよ」「それは屁理屈です。わしの立場はどうなるんですか」「親のわしのやることにイチイチ口を出すな。前に上納金のことで渋ったのもワレじゃろうが。じゃけえわしはわしの才覚でしのいでポン売っちょるのよ。親のわしのやることが気にいらんなら盃返して出て行け」

「オヤジさん。言うといたるがの。あんたはわしらが担いどる神輿じゃないの。組がここまでになるのに誰が血流しとるの。神輿が勝手に歩けるいうなら、歩いてみいや。おお。わしの言うとおりにしとりゃ、わしらも黙って担ぐわ。のお、おやっさん。喧嘩はなんぼ銭があっても勝てんので。新開と有田には破門状を出しますがいいですね。山方の女から聞いたんじゃが、あいつら 市会議員の金丸担ぎ上げて土居の残党と手を組んでやがる。とにかく黙ってすべてをわしにまかせんさい」

坂井は出て行き山守は上田に電話する。「話がある?」「うん。新開の破門状のことでのお。いっぺんこんなと腹を割って話そう思うてのお。おうてくえんかのお」「ええ。明日の朝、散髪して、そっちに回りますけえ」そして山守は誰かに電話をする。そして上田は散髪屋で有田に射殺される。坂井は新開と徹底抗戦する腹を固める。新開の子分や土居組の残党が次々と凶弾に倒れる。有田は逃走中に逮捕。新開は駅のプラットフォームで駅員に変装して坂井の子分に刺殺。こうして抗争は一方的な坂井の勝利に終る。



弾はまだ残っとるがよ

そのころ広能は講和条約の恩恵を受けて岐阜刑務所から仮釈放となる。出迎える山守夫妻。「今じゃ坂井の一人天下じゃ。あの外道、わしを追い払う腹積もりじゃ。これが仁義に生きる極道のやることか。わしゃ情けのうて」「あんたも気つけたほうがええよ。うちのが昌三さえ出てくれば、言ってるのを耳にして、坂井は広能を消しちゃる、って触れ回っとるそうよ」「昌三。わしの力になって坂井をやってくれ」

「よう、わかりました。じゃけん、わしは出たばっかりじぇけえ、西も東もわからんので、しばらく時間を下さい。オヤジの悪いようにはせんですけえ」山守たちは12000円を広能に渡して立ち去る。その額を見て苦りきる広能の子分。「そんなもん、なんの足しにもなりゃせんですよ」「そげに組の景気は悪いんかい」「いやあ。最近出きた競艇会社の重役のなってです。いまや県下でも指折りの実業家ですけん。現に夕べも芸者遊びしとられます。兄貴、兄貴の出所祝いに全財産くれるいう話は、いったいどうなったんですかいの」

広能は山方の家にお見舞に行く。「わしは山方君の友人だった広能というものです」「どうぞ」仏壇に線香を立てる広能。そこへ坂井が。「誰か来とるんか」「鉄ちゃん」「広能」坂井は死んだ山方の女を自分の女にしていた。「あれが抱いとるのはわしの子じゃ」重い沈黙が流れる。そして広能が口を開く。「山守のオヤジが出迎えに来てくれての。ほかは誰も来なかったがのお。のお。狭い街で何で揉め事起こさにゃならんの

「あんなの相手にしとらんわい。わしゃつくづく愛想が尽きたんじゃ。山守さえしっかりしとれば、新開も上田も山方も死なずにすんだんじゃ」「まあ、オヤジはオヤジじゃないの」「わしらの親を見る目がなかったちゅうことよのう。今度わしは港湾会社を作るんじゃ。これを契機に山守とは手を切るつもりよ。こんなも手を貸さんか。わしらが昔言うとった自由にやりたいことができる組を作り直すんよ」

「わしゃ、山守にこんなを殺れ、と言われとるんじゃ」ふところに手を伸ばす広能。パニックになる坂井。「待て。わしはそんなつもりじゃない。撃たんでくれ。うわー」「座ってくれや」煙草を取り出す広能。「わしまで信用できんようになっとるんかい。のお。鉄ちゃん。わしは若杉の兄貴が生きとったら山守組に戻らんつもるじゃったんよ。とにかく生き残っているもの同士で組をもう一回立て直してみようや。そうせんと死んだ者が浮かばれやせん。もう1度オヤジと会って話してみいや」「わかったよ。よくわかったよ」

しかし坂井には話し合う気は毛頭なかった。真夜中に山守の自宅に押しかける坂井。「あんたは昌三にわしを殺れ、言うたそうなの。やれるもんならやってみいや。なんならわしが先にあんたをやっちゃろうか。おお」「何が欲しい。欲しいものはくれてやる。助けてくれ」坂井の造反は成功し、山守は引退する。そして坂井は新会社を発足させ、そのパーティで槙原から矢野の造反を知る。

そして矢野は虫けらのように殺される。松山の賭場で遊んでいた広能は槙原からの電話でそのことを知る。「大至急相談したいことがあるんよ」「わかった。すぐ帰るけん」競艇場で槙原と会う広能。「まあこっちへ来てくれや」「ほかに誰かおるんか」「え。まあな」重役室には山守がどっかと座っていた。「槙原、こんなは坂井についとったんと違うんかい」「わしのことはオヤジが一番よう知っとる」

「お前ちゅう男はよいよ頼りないクズじゃのお。折角わしが言ったことを全部坂井の外道にしゃべりおって。わしゃよっぽどお前をやっちゃろう思うちょったが、こんながこらえちゅうけえ、こらえとったんじゃ。坂井の舌に乗せられやがってお前はどこまで馬鹿かい」「オヤジはもう黙っておられんと坂井をやるおつもりなんじゃ。わしらの代わりに立ってくれや」「のお。押し付けやせんよ。わしがここに座っちょるのを見てもどれほどの男かわかろうが。後で泣きっ面かかんようにせえよ」

「おやっさん。はっきり言わしてもらいますがのお。坂井も悪いが、あんたも悪い。わしゃ本当に愛想がつきた。あんたの手にはのらん。盃返しますけえ、わしを山守組と思わんでつかあさい。じゃけん、わしを騙した坂井はわしがとったる。あんたら手出しせんといてくれい」槙原は坂井が潜んでいるホテルを地図で丸して教える。それを見て思い出す広能。「おい。若杉の兄貴の隠れ家に印をつけてポリ公にたれこんだのはおどれらかい」「そがな昔のこと誰が知るかい」広能が出て行くと槙原は電話する。

坂井のいるホテルに行く広能だが、待ち構えていた坂井の子分に拳銃を突きつけられる。「わしを殺しにきたんか。ああ」「そうじゃ」「山守に頼まれてか」「山守に盃は返した。わしの一存よ」「どげんしたんじゃ」「おどれの胸に聞いてみんかい。はよう殺れや。わしは何べんでも狙うで」「こんなの考えとるのは理想よ。夢よ。山守の下で仁義も糞もあるかい。現実というのはおどれが支配しなくてはどうにもならんのよ。目開いてわしに力貸せや」

「それで新開や矢野が戻ってくる言うの。おお。おのれの手は汚れとるんじゃ。はようやれや」しかし坂井は広能を殺せなかった。「のお。昌三。我らはどこで道を間違えたんかのお。夜酒飲んでつくづく極道がイヤになって足を洗おう思うても、朝になって代紋に囲まれるとコロッと忘れてしまうんよ」「最後に言うといちゃるがのお、狙われる者より、狙う者のほうが強いんじゃ。そげなこと考えると隙ができるど」

そして広能の予告どおり、坂井は子供のおもちゃを抱えたまま射殺される。そして坂井の葬儀が行なわれる。主賓に名を連ねる山守に槙原。そこに広能がやってくる。坂井の位牌に語りかける広能。「鉄ちゃん。こげなことをしてもろうても嬉しうないじゃろう。わしも同じじゃ」あたりに拳銃をうちまくる広能。「広能。おどれは腹くくってやっちょるんか」「山守さん。弾はまだ残っとるがよ」




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