山口小夜の不思議遊戯

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2006年04月04日
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 一日に二往復しかないバスの停留所への、茜色に染まる坂道を降りていく小夜と豊。

 ──ったく・・・・兄さがそれなりの教養を発揮してくれたからよかったものの、心臓止まりそうだった。
 ──だって『太平記』のあそこは、後醍醐天皇も命が尽きるクライマックスのシーンだが。お宝発見のヒントになりそうやって、さんざん読み込んだもん。前向きな姿勢には運が付きまとうってホントだなぁ。他の節だったらアウチ!だったね。
 ──・・・・・・。

 寄り道をして、豊が昨日掘っていた場所をチェックする。

 あれから夜半の襲来まで豊が姿を消してしまったので、夕方のうちに小夜がひとりで直したものだ。ほぼ完璧に穴をふさがれ、倒れた石灯籠や地面の苔のつき具合まで、見た目にはわからない程度に修復されていた。
 ──けど、去年もそうだったが。単純におれのこと友だちだって説明じゃ、ダメなんか?
 意外に鋭く豊が尋ねる。


 豊は石段をひょい、ひょい、と三段飛ばしで先に降り、トトロに出てくるようなバス停から小夜を見上げてくる。
 ──ただ、実際に途絶えるまでは、多少は時間があるけどね。
述懐する小夜がバス停にたどり着き、つむじ風に目をつぶってしまった一瞬後。

 ──・・・・・・っ!
 豊がいない。
 あわてて小夜は見回した。
 雨よけのトタン屋根にからまる蔦の新芽を揺らし、風がさやさやと吹いているだけ。

 (まさか、またそのへんから転落したんじゃないだろうな!?)
 壊れたガードレールから谷底を覗いても誰もいない。

 (・・・・・同じ匂い・・・・・する・・・・・・)
 去年の秋と。
 走馬灯みたいに、過去の瞬間がフラッシュバックする。

 『南楠郷・黄金伝説』
 『十四世紀、南北朝時代。南楠郷周辺は、南朝の後醍醐帝に仕える楠木一族の隠れ里といわれた』

 『村の中央に位置する南楠山は、金塊を基盤に巨大な自然石を積み上げた人工の山という説もあり』
 『江戸に山口姓に改姓したのも、なんらかの暗号を含ませた可能性が否めない・・・・・』
 ポケットに入れておいた『太平記』の文庫本をそっとなぞってみる。

 ──知ってるか? この南楠山が人工の山、つまりピラミッドかもしれないってこと。
 耳にエコーする、遼の言葉。
 ──伊勢、熊野、ほーら・・・・地図見な。このへんの重要スポットと同じライン上に、ここも乗ってるだろう? ここって、ぜってーワケありなんだよ!
 ──エキサイトしないかな~。この山まるごと、中世の大金庫だとしたら。スゴクねぇ?
 書き込みだらけの地図を広げて、遼と豊は血を分けた兄弟らしく、ぐにゃっと同じ格好で座り込んでいた。

 群青色の空に夏の名残の入道雲。
 右肩上がりのジェット雲。

 ──黄金なんて掘り出して、なんに使うのはるさん。何億円も買いたいものがあるの。
 遼は迷いもせずに答えた。草に寝そべり、ガッツポーズで。
 ──そりゃ発掘した金を元手に、またバーンとチーム組んで機材そろえて、別の財宝掘るに決まってんだろ。
 地球にはまだ謎がいっぱい残ってる──のだろう。でも、小夜には遼たちそのものがなんだかまぶしく、ミステリアスに見えた。
 欲でギラギラした探索ぶりとは、確かに違う。探検しに行くまでに付きものの、ごちゃごちゃした手続き、危険──そんな煩わしさをものともせず、世界中で夢を掘り当てる。多くの人々が望んだとしても得られない‘遠く’の匂いを彼らに感じた。

 (この人たちって、‘異邦人’だ)
 べつにハーフとかクォーターとか、血の方が外国人と混じってるわけじゃなくて、古来からのばりばりの日本人でも。
 もともと彫りが深い、鼻筋が通った面立ちが本物に見える、遼などは特に大航海時代の船乗りみたいな外見のせいもあるにはあるが──アジアの暗い路地裏や、祭りの夜や──よその国で重ねてきた、コーヒーの濃い酸味にも似た、‘違う時間’が身体の節々にみなぎっている。
 この国、学校、そこらへんの街。そういうスカスカの日常ではない、どこかここではない時間と場所の──風の匂いをまとって見えた。

 (なにを・・・・・のん気に思い出してるんだろ、あたしは)
 正気に戻ると、危機感も一緒にふくらんでくる。
 小夜はくるりと方向転換すると、母屋の黒々とした瓦屋根を目指して石段を昇り始めた。

 石段を踏むその後ろ姿を、木立ちの中で作業していた老人たちが指さした。
 ──ありゃあ山口のお嬢さんとちがうか? 節句に合わせて帰っておるんだなぁ。
 別の老人が腰を伸ばした。
 ──そういえば、山口の大旦那様にお伺いを立てんと・・・・おとといから麓に乗り捨ててある、なにやら若者風の車。レッカー移動たのんでええですかって。
 ──あの車、どっかで見たことあるような。
 ──・・・・・そうかぁ?




 本日の日記---------------------------------------------------------

 うちのDVDのリモコン、どこにいったか知ってる人いますか~。
                                 不二豊。



 明日は●はるさんしずさん●です。
 はるさんファンの方、お待たせ致しました!
 明日は‘はるさんいのちの電話’を公開します☆

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最終更新日  2006年04月04日 06時52分41秒
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