山口小夜の不思議遊戯

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2006年05月10日
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 「なんとまぁ、VIP待遇じゃねぇか、ガードマン付きなんてのは」

 1997年夏、中央アフリカ・チャド共和国。
 乾いた砂埃を巻き上げるランドクルーザーの上で背伸びをし、遼は後続の車両を満足そうに眺めた。政府軍のジープの列に厳重に警備された調査チームのキャラバンは、ほぼ順調にこの六時間を走り続けている。

 「初めてこの道走ったときなんか、おれとふたりっきりで遭難して、ミッチーがカッパの干物になりかけたもんな。レンジャーと一緒だってのはゆんゆんにも心強くていいだろ。な~?」
 ご機嫌で顔を覗かれ、
 「こんなマッチョに囲まれて、気分いいわけないだろ!?」
 砂まみれのキャップの下から、豊は遼をにらみ返した。

 ぎしっ! ジープが揺れた拍子に、豊は両側を固めた黒人の大男たちの谷間で押しつぶされる。岩みたいなガタイで、自動小銃まで光らせている連中だ。

 「ひとでなし、この!」
 照りつける太陽の真下、豊は当時まだ少年の面影の残る横顔をゆがめた。
 神秘的な古代遺跡や謎の部族の存在で、世界中の人類学者や考古学者を引き寄せているチャド。金を落とす外国の学術調査隊には、けっこう愛想のいい国だったのだが、一年前の内戦のせいで人も寄りつかない陸の孤島に戻った。

 首都の空港が爆破されて復旧のメドも立たず、こうやって隣国のカメルーンから丸二日、ステップしそうに熱いサバンナの気候の中を突っ切って入るしかない。
 「それより虫に気をつけろ。たしかギリギリでツェツェ蝿の生息域に入ってたはずだ」
 「ええっ!?」
 豊はまた血相を変えるハメになる。極悪な眠り病のトリパノーマを持ってるヤツだ。
 「けど、ま、眠り病になったってしずしずが口づけでもしてやればそのうち起きるだろ。それよか見てみな、まわり」

 横切っていくシマウマの群れ。地平線の緑濃い山。
 ターザンに近い野性派人類学者の遼は、こういう場所でもくつろぎきって、シャツの胸をはだけ、ボルヴィックの残りをふりかけて涼を取っている。喉元あたりから褐色に灼けた胸板にこぼされたわずかな水は、ほぼ一瞬で蒸発してゆく。
 性格が両極端なんだか、それともどこか似通っているのか──この兄とは十年近く年齢が離れているが、なんとなくウマが合って、お互いに成人してからも腐れ縁を続けている。それでも、豊は初めて、遼の研究活動の現場に着いて行くことをOKしたのだ。


 (ちょっと、みんな来いよ~! アフリカはいいぞ。おれひとりじゃ淋しいじゃねーか!)
 泣き落としで兄弟たちのべつまくなしに口説き続けてきたのだが、小夜に中国方面に逃げ去られて行き詰まりを感じた豊がそのことについてちょっと口を滑らせたばかりに、“気晴らし”を名目に今回の調査旅行に連れ去られるハメになり──とうとう黄熱病や肝炎その他もろもろの予防注射を打ちまくったあげく(B型肝炎は痛かった!)、25時間かかる飛行機の旅に出た次第である。

 それさえも全行程のほんの一部に過ぎないことは、こちらに来てから知った。
 ナイロビ空港に降り立ち、カメルーンまでの小型機に乗り換えたときから、予想していた何倍も──正直言ってアフリカは、気候から食べ物から空気の匂いからして、いちいち豊の気にさわっていた。すべてが強烈すぎる。体調のいい瞬間さえわからないほど。

 そのときだった。

 サバンナはいつしか風景を変えていた。目の前に迫った、薄く切り立った峡谷のほうから、複雑なリズムを持ったドラムの音が響いてきている。
 語りかけるように谷を満たすその音は、トーキング・ドラムと呼ばれる。明確なメッセージを持って、なにかをアピールしている“声”だ。なんと言っているのかは──同行している遼の教授さえも未解明だとつぶやいていた。

 ただ、それを耳にしたなり、護衛にあたっていた政府軍の軍団も、あどけなさを残す田舎の若者の顔に戻って、不安げにささやき合いはじめた。

 キャラバンは小休止した。赤茶けたその峡谷の入り口で。
 「ハルカ、困ったね! あのドラムが鳴ってるときにチャド谷に入ると殺されるって言ってるだろ? 迷信深い連中だなぁ」
 別の車両からアメリカ人のヘンリー教授が、小太りの腹を揺すって降りてきた。
 輪になって震えている褐色の大男たち。
 「仕方ないよね。ここからは山賊にだっておっかない場所だし、軍のガードも要らないだろうぜ。さいわいおれは前回の調査のときに谷の族長からフリーパスをもらってるからね、教授。ドラムがなんて言っていようと」

 「・・・・おっかない?・・・殺される?・・・・」
 聞き捨てならない部分を繰り返す豊に、遼が近寄ってきて屈託なく笑いかける。
 「心配すんな。チャド族ってのは気難しい連中だがな。集落の快適度じゃ、おれのフィールドワークの中でベストワンなんだ。そうでなきゃ誰か連れてこようなんて初めから思いやしねーさ」
 「・・・・だといいけどね」

 後悔してもはじまらない。




 本日の日記--------------------------------------

桜さん ごめん!(いきなり)

 『現代子供事情』について連載する前に、『 GW中に本当にあった怖い話 』をアップしてもいいですか?
 今年のGWはほんと、な~んもしなかったなーと回顧していたら、思い出した!

イメージソングをくださった よっくんとの学生時代の思い出です。
 当時、私たちは大学の二年生。ちょうど二十歳かそこらでした。
 他大の音楽系サークル(笑←なぜ笑う)に入っていたのですが、そこで同学年の仲間たち十人くらいでいつもつるんで遊んでいました(よっくんはマドンナ)。

 さて、その年のGW、グループの中の男の子が、母校の高校のロッヂが黒川岳の方面にあるから、そこを貸り切って合宿しよう!と言い出し、みんなそれに飛びついて提案を実行に移すことになりました(大学生になっても青木時代と同じことをやってる私・・・・)。

 合宿所に着いた私たち。
 レンタカーを二台、一泊二日で借りていたので、夜になってからそのへんをドライブしようということになりました。
 五人ずつ分乗し、黒川岳スカイラインへ。
 先頭を行く車について上へ上へと道なりに登るうちに、私は何かが違うことに気がつきました。
 寒い・・・・。

 「ねえ、寒くない?」
 「ああ、そういえば」
 「ちょっと! 雪!」

 なんと、GWの真っ最中、五月上旬に車の外は大雪。
 あっと思う間もなくチェーンをつけていない普通車はスリップをし始め、サイドシートに座っていた私は、運転している男の子がなんどもなんども路肩や反対車線にハンドルをとられるのを、なすすべなく見つめていました。

 「なんてこと・・・・」
 「一台目は? ここは真っすぐ一本道だから、一台目の連中はまだ上に向かってんのか?」
 「対向車いなかったら、戻ってないんじゃねぇ?」
 「どうしよう、このままのぼって、追いついて戻るように報せようか」
 「だめだ。視界が見えなくて危ないけど、ここでUターンしてもと来た道を戻ろう」
 運転していた子が決断し、あたり一面真っ白で対向車さえ確認できないまま、その場で無謀なUターン(しかし、これが後ほど私たちの命を救うことになる)。

 携帯など普及していない当時、私たちは画用紙に連絡事項をマジックで書いて、お互いのフロントガラス、後部ガラスから掲げて意志を疎通していました(←笑)。もちろん、その場に携帯電話も車内電話もなく、私たちは山の中腹にある休憩所めいた場所まで降りて、そこから何らかの手段で先に行った車と連絡をつけようと思ったのです。

 すると、なんと、先を行っていたとばかり思っていた一台目の車が、すでに着いているではありませんか。
 車から降りていたよっくんは、他の女の子と一緒に泣いています(二台目が遭難したと思っていた)。
 よっくんが泣いていた理由は、そればかりではなかったかもしれません。休憩所は、山の中腹だというのになぜか洪水のような大水にあふれ、私たちが車から降りたらくるぶしまで水に浸かってしまいました。
 明らかにおかしい光景・・・・。

 合宿所まで逃げ帰る途中、今度は見失わないように二台が前後して下山することになりました。
 この時、私はまた二台目のサイドシートに。
 一台目はちゃんと見えています。
 そして、私たちの後ろには下山してくる車が。
 休憩所には車の影はなかったはず。けれども、あの雪に遭ってあわてて私たちのようにUターンしてきた車かもしれません。

 山の曲がりくねった道を、ヘッドライトが見えかくれしています。
 ライトが見えなくなったな、と思ったら追いついてくる。
 運転席に座っている男の子が、私が後続車をミラーで確認している様子に気づいて言いました。
 「小夜、後ろの車、運転席見える?」
 「ん? 見ようか?」
 「運転してる人、見えへんねん」
 「なにて?」
 「運転しとる人、おらんように見える」
 「うそ!?」
 後部座席に座っている三人が悲鳴を上げ始めます。

 「ちょっと止まろう。一台目に合図して」
 私の号令に、運転席の子がクラクションを。
 一台目の子たちが、今度はそれをちゃんと聞きつけて路肩に車を止めてわらわらと降りてきました。
 そして、開口一番。
 「後続車、どこいった?」
 一台目の子たちも、なにかがおかしいことに気づいていたのです。

 しかも、私たちの、つまり二台目の後に続いていた、私がずっと目で追っていたヘッドライトの車は、いっこうに追い抜いて行きません。エンジンの音も聞こえません。山はまったくの無音です。
 「消えた・・・・?」
 「なんで!?」

 スカイラインは一本道。
 脇道などありません。
 白いセダンはどこに消えたの?

 「帰ろう。今すぐに」
 「もう何かあっても、帰り着くまでは車を止めるのをやめよう」
 ということになり、私たちは逃げるようにして下山道を急ぎました。

 実はこの夜は、晴天の黒川岳山頂でキャンプしようと軽装で臨み、夜半、突然の大雪にみまわれて5人もの方が亡くなったその当夜でした。
 GW中の行楽登山の模様としてヘリで山頂でキャンプしている人の姿を放送して、その翌日に画面に写ってヘリに向かって手を振っていた方がすべて亡くなったという、あの事件です。

 不思議なことに、犠牲者の方たちは皆、軽装の上にわざわざ上着を脱いで亡くなっていたとか。
 この話にはまだまだつづきがあります──。


 あらためまして──。
 皆さま、リライトの期間中はあたたかいご支援を本当にありがとうございました。
 一緒に作品を作り上げていただいたこと、忘れません。

 現在、19日まで比較的フリーではありますが、毎日原稿を読み込んでいます。リライトでは内容と文章の訂正に力を入れていたのですが、著者校正が送られてくるまでに、今度は徹底的に文字のチェックをするつもりです。

 このことを鑑み、落ち着くまで更新ペースを一日おきということでよろしいでしょうか!?
 更新は一日おきですが、小夜子はいつでもここにおります(笑)。
 皆さま、いつでも遊びに来てください☆

 あさって5月12日(金)は●トントコ、トントコ●です。なんだそりゃ!?
 行こう! 人類揺籃期の大地へ──。

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最終更新日  2006年05月10日 10時10分48秒 コメント(26) | コメントを書く


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