ウオッシャー


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ウオッシャー

小さな仕事で田舎町へ出張した。
その町には長いこと会っていなかったが遠い親戚がいたので、連絡して泊めてもらうことにした。
年寄りばかりのへんぴな町の中で、親戚の家はことさらみすぼらしかった。

年齢よりずっと老けて見える老人が一人で住んでいた。他の家族はみんな死んだり都会へ出て行ってしまったという。

老人は夕食を出してくれた。黄色い皿に焼いた魚が乗っていた。
食べた後、皿を指でこすると黄色い色が取れた。

「おじさん、このお皿はちゃんと洗ってますか」と、聞くと、
「ちゃんと、ウオッシャーがきれいにしてくれるよ」と、答えた。

こんな貧しい家に食器洗浄機なんてあるはずがない、多分ウソだと思ったが、それ以上は聞かず早々に眠った。

次の朝、朝食が出た。皿には魚のスープが入っていた。
半分ほど飲むと皿に何かこびりついているようだったので、それ以上飲むのをやめた。

「おじさん、このスープ皿はちゃんと洗ってますか」
老人は前の晩と同じように「ちゃんと、ウオッシャーがきれいにしてくれるよ」と、答えた。

気分が悪くなったので、一刻も早くこの家を立ち去ろうと思い、老人に礼を言ってから、少々のお金を渡した。

「おじさん、ちゃんとお風呂には入ってくださいね」と、言うと、
「チンコポは、ウオッシャーがきれいにしてくれるがね」と、分けのわからないことを言った。

もう我慢ならない。カバンを小わきにかかえ、「さようなら」と言って玄関から飛び出した。

すると、裏庭の方から、一匹の雑種の犬が出てきて吠(ほ)えかかってきた。
皮膚病の汚い犬は懸命に吠えながら、行く手をはばんだ。

すると、家の中から老人の大きな声がした。
「こら!ウオッシャー!その人に吠えちゃいかん!!」


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