あるワインバーでグラスワインのオーストラリアのシャルドネを飲んでいると、ソムリエがやってきていった。
「お客様、こちらのボールをワインに入れて飲むととても美味しくなりますよ」
「そりゃ、何だい?」
「こちらは、オークボールと言いまして、オークの木でできたボールでございます。木のにおいがワインに移って美味しくなるんです」
「じゃお願いするよ」
ソムリエがピンポン玉より一回り小さいぐらいのボールをワイングラスの中に落とすと、何とも良い香りが漂った。
ためしに飲んでみると、悪くない。味に複雑さが増し、まるでワインの価値が1ランク上がったようだ。
ソムリエはにっこりと微笑んで聞いた。
「いかかでございますか?」
「気に入ったよ。素晴らしい。でも、ちょっと飲みにくいのが難点だね。もし、ボールを飲み込んじゃったら、どうするんだ?」
「お客様、その時は、他のお客さんみたいに、次の日に返してくれりゃ結構(けっこう)です」