「007 スペクター」21世紀のボンドにスペクター
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家族戦隊ゴニンジャー
明日
静かな室内に、点滴の落ちていく音だけが、やけに響く。
一時は呼吸も乱れ、どうなることかと思われた慎一は、酸素マスクの中で規則正しい寝息を立てている。
靜子は、張り詰めていた緊張の糸を、ようやく一本一本ほぐし始めることができた。
慎一が、肝細胞癌だと判明してから、半年が過ぎた。子供の細胞は文化が活発なので、癌の進行も早い。
学校から帰ってきた後は、いつも物憂げに寝転んでファミコンをしていた慎一を、
「この子は引っ込み思案だから、遊びに行く友達もいないんだわ」と靜子は思っていた。
それが肝臓の不調から来る気だるさだとは、夢にも考えなかったのだ。
だから、学校から
「慎一君が、気分が悪いというんですが、ここのところ三日間連続で保健室に行ってますので、
今日は帰宅させますから、病院に連れて行っていただけないでしょうか」
という担任からの連絡が入るまで、慎一の体の変化に気付いてやることができなかった。
「あたしのせいよ! あたしに母親をする資格なんてなかったんだわ!
あたしさえ、ちゃんと慎一を見ていれば、あたしさえ・・・」
慎一の精密検査の結果がわかった時、自責の念に駆られて半狂乱になった靜子だが、父親である祐次は、冷静に靜子を諌めた。
「靜子。慎一の病気は、運命だ。お前が気付かなかったのは、仕方のなかったことだ。
先生も、子供の癌は進行が早いから、気付いたときには遅いのだとおっしゃっていたじゃないか。
私はお前を責める気はない。責めるのなら、父親である私も同罪だ。
これ以上、自分を責めて消耗してもしょうがないんだ。
それよりも、慎一の病気を治すことができるように、できる限りの努力をしてやることが、
親である私たちの務めなのではないか。
慎一が、自分の病気に関して疑いを抱いて、治療を嫌がることがないように、
精一杯笑顔で明るく助けていこう」
その言葉で、靜子も幾分落ち着きを取り戻し、今日まで慎一の看病を続けてこれたのだった。
だが、病魔は容赦なく慎一に襲いかかっていた。
ここ一ヶ月は、予断を許さない状況が続いていて、
それまで週一度だけ学校に登校することが許されていたのも、当然取り消されてしまった。
放射線治療と抗癌剤とで、ぼろぼろに抜け落ちた髪を隠す野球帽をかぶり、
まったく追いつくことのできない授業を受ける。
それでも、慎一は生き生きとしていた。
もともとおとなしい子であったから、本を読むことが大好きだったし、
自分にはない知識を身につけることが、心底楽しいらしかったのだ。
だから勉強も大好きだった。
そして、友人達が一生懸命励ましてくれるのも、大きな糧となっていたようで、
毎日交替で『慎一君へのクラス日誌』と名付けられた日誌を当番の子が持ってきてくれるのを、
何よりも楽しみにしていた。
しかし、それも今の慎一の体力では読むことができないので、日誌を二冊に分けて、
一週間に一度、新しいものと交換していくようになった。
そして、届けてくれる友人と、話をすることもできない日が多くなった。
時折、病状が落ち着いて意識もはっきりしている時、慎一は靜子に日誌を読んでくれるようにせがむ。
靜子は一字一字、ゆっくりと声に出して読んでやる。
日誌は、担当した子によって個性に富み、いつしか靜子も楽しみにしていた。
ほんの数行で終わる子、一ページを一杯に使って詳しく報告をしてくる子、絵を描いてくる子。
でも、どのページにも慎一への暖かいメッセージが沢山詰まっている。
慎一が眠りについている間、靜子はそっとページを繰りながら涙することも多かった。
ある日の日誌を読んでやっていた時のことだった。
『慎一くん、今日は中学の先生が来て、せい服のことや、校そくのことを話していきました。
慎一くんのところにも、せい服のすんぽうをはかりに行くかも知れませんね。
中学はぼうしもあるそうなので、もう野球ぼうをかぶらなくても学校に行けますね。
では、さようなら 佐々木琢磨』
途中、声が震えそうになるのを懸命に抑えながらも読み終えると、慎一がぽつりと言った。
「ママ、ぼくは制服はいらないよ」
「どうして、慎一。中学は制服を着ないと通えないのよ」
まさか、この子は自分の寿命を知ってしまったというのか! 靜子の動揺をよそに、返って来た答えは、
「ぼく、もう学校の勉強がわからないもの。病気をやっつけても、
もう一度六年生をしなくちゃいけないからね」
という、勉強好きな慎一らしい心配だった。
「ねえ、どうしてこの病院には学校がないの? 一年生のときに入った病院にはあったじゃない。
ママ、あの病院に入院したら良かったね」
慎一は、かつて喘息の発作を起こすようになって、半年ほど入院した経験があった。
それは、長期の治療が必要な子供たちばかりを集めた小児病院だったので、
院内に小・中学校が作られていたのだ。
発作が治まっている時には、自分の学校で使われている教科書を持って、
教室とされている部屋に行き、専属教師の指導を受けることができる。
教師は学校の担任と連絡を取って、極度に勉強が遅れないよう、きちんと指導してくれていた。
「そうね、あの病院にはあったわね。
でも、今の慎一の病気は、あの病院の先生には良くわからないのよ。
専門の先生に診てもらった方が、早く治るでしょ。だから、この病院で頑張ろうね」
「でも、学校があった方がいいよ。ね、ママから先生に頼んでみてよ。
ぼく、タクちゃんと同じクラスになりたいんだ。
だから、本当は一緒に中学に行きたいんだよ」
慎一の事情なら、たとえ勉強が追いつかなくても、中学に進学することはできるかもしれない。
でも、それでは本人は納得しないだろう。
いまの慎一に、少しでも生きていくための目的を与えるためには、院内学校が必要かもしれない。
その日の午後、慎一に昼食を食べさせてから、靜子は早速主治医のところに出かけていった。
そして、院内学校を開校してくれるように頼んでみた。
「先生、慎一は学校の遅れをとても気にしているんです。
だから、慎一がいつでも学校に戻れるんだと安心できるように、
院内学校を作っていただけないでしょうか」
もちろん、それには費用も手間もかかることは、承知の上だった。
でも、今すぐにではなくても、いつか作ってもらえるだろう。
せめて、教師を呼ぶ手配ぐらいは・・・ と、甘い考えでいた靜子に、
先生の言葉は冷水を浴びせかけた。
「この病院が、どんな患者を収容しているのか、知っているでしょう!
生きていくのさえやっとの、明日をも知れない子供たちばかりなんですよ。
勉強のことを気にするよりも、やらなくちゃいけないことがあるでしょう!」
「でも先生、慎一は勉強が好きなんです。勉強させてやるわけにはいかないんですか?」
「治る見込みのない子供たちに、勉強をさせて何になるんです? 無駄ですよ。
とにかく、一分一秒でも長く生きてもらうために治療をしてるんですから、
その妨げになるようなことは考えないで下さい。お願いしますよ」
それだけ言うと、主治医はさっさと歩み去っていってしまった。
靜子は、がっくりと肩を落として病室に戻った。
幸い、慎一は寝入っていたので、靜子の落胆の表情は見られずに済んだ。
それにしても、勉強が生きる支えになると思って頼みにいったのに、そうではないのだろうか。
慎一が勉強することは、果たして無駄なのだろうか。
靜子は付き添い用の椅子に腰掛け、じっと我が子の寝顔を見ながら考え込んでいた。
その夜、慎一の病状が安定しているので、久しぶりに家に帰った靜子は、祐次にそのやり取りを話した。
「やっぱり、親は我が子のことだけを考えてしまうから。
他人の迷惑なんて、考えられなくなってしまっていたのかしら」
すると、それまで黙って聞いていた祐次が、碇に顔を真っ赤にして、唇を震わせながら怒鳴り始めた。
「靜子! 何でお前は、黙ってそんな言い訳を聞いていたんだ!
治る見込みのない子だと! そんなこと言う奴は医者じゃない!
どんなに難病で、治療の難しい子でも、明日、突然治療薬が完成するかもしれない。
今までの治療が、急に効き目を表すかもしれない。
とにかく、行き続けている限り、希望はあるんだ。治る可能性は0じゃないんだ!
俺は、俺は慎一が元気になって帰って来ることを信じて、信じているんだ!」
「あなた・・・ そうよね。慎一は絶対良くなって帰って来るわよね」
「そうだ。本当の医者なら、最後まで希望を捨てずに、患者を治そうとしてくれるのじゃないのか?
そして、治った時のことを考えれば、勉強はとても大切なんだ。
医者としての務めを放棄するのではない限り、
入院している子供たちに、必要な教育を受けさせてやるべきなんだ。
俺は、明日、病院に行くぞ!
子供の生還を信じている他の親のためにも、俺たちができることはしてやろう!」
祐次の初めて見せる怒りに、靜子は泣いた。
そして、必ず慎一のために、いや、それに続く子供たちのために、
院内学校を設立させようと、心に固く誓った。
春。
爛漫の桜の中、慎一を乗せた車は、病院の裏門をひっそりと出て行った。
その日は、病院内の会議室を使って、院内学校の開校式が行われていた。
とうとう慎一が院内学校の授業を受けることはできなかったが、
祐次も、靜子も、とても安らかな気持ちで、慎一の棺と同じ車に乗って帰路についた。
※この物語はフィクションであり、実在の人物とは関係ありませんが、
主治医の台詞、院内学校の現状についてはTBSテレビの特集番組を参考にさせていただきました。
なお、実情は1995年前後のものですので、現在とは異なる部分も多いと思います。
その点をご了承ください。
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