「007 スペクター」21世紀のボンドにスペクター
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ヤミ、闇、病み
エンゲージリング 第5話
目覚ましが鳴るのが聞こえ、私は夢から醒める。
いい夢だったのに・・・孝介くんと結ばれて、みんなに祝福されて・・・。
あれが正夢になればいいのにと思うほど幸せな夢だった。
でも、それを否定するように外はポツリポツリと雨が降っていた。
「今日はどういたしましょう。車を出しますか?」
家を出る前、彩華に聞かれる。
「ううん、大丈夫。歩いて行くから」
そこまで強く降っている訳でもないし、雨が嫌いというわけでもない。
何より歩いて行きたかった。自分で何故だか分からないほどに。
「左様ですか・・・。ではいってらっしゃいませ」
「行ってきます」
水たまりを避けながら私の脚は上機嫌に歩を進めていく。
雨はいい。
嫌な事を洗い流してくれる気がする。
でも今はそれが理由で歩きで来たわけじゃない。
体が熱い。
どうしようもないほどに・・・。
だから、歩けば少しくらい火照った体が冷めるかと思っていた。
だけど考えが甘かったみたいで冷める様子などなく。
私の体はまだ熱いまま・・・。
夢だと分かっているのに、自分の願いそのままだから引きずってしまっている。
今孝介くんに会ったらどう接していいか分からない。
どうすれば・・・どうすれば・・・。
「おはよう、みやび」
そんな事を考えている間に、学校についてしまった。
何にも考えは浮かんでいない。
「うん、おはよう」
「どうかしたの?」
阿左美が私の顔を覗き込む。
「ううん、ちょっと考え事・・・。」
そう言いながら夢の続きを想像している自分を見つけて、私は気を紛らわすために二人に積極的に話しかけた。
席に着き、阿左美とまゆみと他愛のない事を話している内に時間が過ぎ、ホームルームを行った後、授業が始まった。
私は赤い絨毯の上に、真っ白なウエディングドレスを着て立っていた。
隣には孝介くんがいて、私たちは手を組んでいる。
これはまさに結婚式。
私はついに夢を叶えられた。
私と孝介くんはゆっくりと、そしてしっかりと一歩ずつ進んでいく。
周りには阿左美やまゆみ、竜也くん。
他にもたくさんの人がいて祝福してくれている。
そして私たちは教会のドアの前に立ち、振り返る。
目の前にはたくさんの笑顔。どれも本当に幸せそうな顔をしている。
私が孝介くんの方を向くと、孝介くんは軽く笑って頷いた。
それを合図に私は一度後ろを向く。
その瞬間後ろから人の動く音がした。その音が小さくなった時、私は手に握られていたブーケを力の限りに後ろへと放り投げた。
私は一呼吸して振り向く。
すると、竜也くんがガッツポーズをしているのが見えた。
その手にはブーケ。
ブーケって女の子が取るんじゃなかったっけ?
孝介くんも同じことを考えていたのか。
「おい竜也。お前がつかんでどうすんだよ」
と言っていた。
「俺だって幸せになりたいんだよ」
という竜也くんの言葉でみんなが笑って・・・。
「おい、神原。起きろ」
誰かに体を揺さぶられ、私は頭を起こす。
「う、う~ん?」
「疲れてるのかもしれないが寝るんじゃないぞ」
ポンポンと肩をたたき先生は黒板へと戻っていった。
気がつかないうちに私は寝てしまっていた。
しかも見ていたのは今朝の夢の続き。
あのまま覚めなければよかったのに・・・。
「ちょっと待って先生。
俺の時は思いっきりたたくくせに何故みやびちゃんの時はそんなに優しいんだ?」
いきなり竜也くんは立ち上がり抗議する。
確かにいつも竜也くんは先生にたたかれてはいるけど・・・。
「それはいつもお前が寝ているからだろう。それにみやびは女の子だからな。加減ぐらいする」
至極真っ当な先生の意見だけど竜也くんは納得できなかったようで
「俺は先生の可愛い教え子だろ?もっと優しくしてくれよ」
と食いかかる。
「お前がいなければもっと静かで授業がはかどるんだがな」
「そ、そんな~」
先生の一言にクラスのみんなが笑い、竜也君くんだけが嘆いていた。
なんとなく夢で見た竜也くんとかぶってくすりと笑ってしまった。
こんな時がいつまでも続くと思いたい
。だけどそれは叶わない。
あと半年もすればみんな離れ離れになるかと思うと寂しくなった。
その後は特に何も起きる事は無く、放課後になった。
私は帰る準備をしていた。するといきなり竜也くんの声が教室に響く。
「おい、孝介。それはどういう意味だよ!!」
竜也くんは孝介くんの胸ぐらをつかみ、揺さぶっている。
普段喧嘩などしない二人がいったいどうしたのだろう?
教室にいるクラスメートは誰ひとり喋る事を止め、二人に注目している。
教室に響く音は二人の少し荒い息だけとなった。
「だから、そのままの意味だよ。俺はみやびの誕生日会には行かない」
一体何が起きたのか、私には理解できなかった。
気がついたら私は膝から倒れ、顔を両手で覆っていた。
「それがなんでかって聞いてんだよ」
二人は私の様子に気づく様子もなく言い争っている。
まゆみと阿左美が駆け寄って何か言ってくれているのは聞こえたけど、頭に届いていなかった。
「めんどくさいんだよ。それじゃあな」
「おい、ちょっと待てよ。二人、みやびちゃん任せた」
最初にドアを開ける音がして、早歩きで出ていくのが聞こえ、それを追うように走っている足音が聞こえた。
たぶん二人が出ていく音だったのだろう。
でも今の私にはどうでもいいことだった。
孝介くんは私の誕生日が“面倒くさい”・・・。
聞き間違いだと何度も思おうとしたけどそれは出来なかった。
その言葉は確かに私の耳に届いてしまった。
もう、どうする事も出来ない。
「みやび、帰ろう?ね?」
「う、うん・・」
私は立ち上がろうとしたけど足に上手く力が入らなくて、二人に支えられる形で教室を出ていった。
廊下の奥の方、視界の端に孝介くんと竜也くんを見たけど今は何もする気になくて私は二人に連れられるがまま学校を後にした。
二人に連れられ私は何とか家にたどり着いた。
二人とも私に何も言うことなく去っていった。きっと私の気持ちを察してくれたんだと思う。
彩華も何も聞くことなく私を部屋まで連れて行ってくれて、落ち着くからとミルクティーを淹れてくれた。
まだ私の机の上に置いてある。
もちろん口は付けていない。
孝介くんが来てくれない?孝介くんに嫌われた?私はもう要らないの?私の何がダメだったの?孝介くん、孝介くん、孝介くん・・・。
私の頭の中でぐるぐると回り続ける、孝介くんとの思い出が。
不思議と涙は出なかった。
もしかしたら心のどこかで分かっていたのかもしれない。
孝介くんと結ばれるのは私じゃないという事を。
私は孝介くんの幼馴染。
ただそれだけだったのだと。
それでも何かが変わるわけではなくて、私は涙も出さず、声も出さずに泣いた。
泣きたくて、泣きたくて、それでも泣けなくて・・・。私は苦しんだ。
枕に顔をうずめ、耳を塞いで、私は全てを拒絶した。こんな世界いらないと・・・。
夕食は取らなかった。
彩華が部屋に来る事もなかった。
私はずっと枕に顔をうずめ、ただずっと考えていた。
何がいけなかったのか、これからどうすればいいのか。
今までの思い出・・・。
走馬灯のように色々な事が頭をめぐる。
気がつくと私は机に向かって座っていて、机の上には閉じた日記が置いてあった。
習慣だったから体が勝手に動いて書いていたのかもしれない。
いつそんな事をやっていたのか分からない。
思い出せない。
「もう寝よう・・・」
寝たら全てが変わっているかもしれない。
なかった事になってるかもしれない。
空しい期待を抱きつつ、私は布団を頭からかぶって丸くなった。
眠れないと思っていたけど、不思議なほどにすっと眠れた。
ガチャ
私はお嬢様の部屋のドアを開けた。
時間は午前2時。
もうお嬢様は寝ているはず・・・そう思い様子を見に来た。
案の定お嬢様は眠っていた。
電気をつけっぱなしにして。
ずいぶん苦しそうな顔をしている。
帰ってきた時から気にはなっていた。
だけど聞く勇気がなかった。
きっと孝介さんが絡んでいる。
そんな気がしていた。
ゆっくりと部屋を見渡すと机の上に会った日記帳に目が行った。
お嬢様が幼いころから毎日欠かさず書いているものだ。
もう50冊は超えているのではないだろうか?数えた事はないけど・・・。
いつもはしまっているはずなのに今日はなぜ置きっぱなしなのだろう?
私は何の気なしにページをめくった。
そのページを見た瞬間、私はノートを閉じていた。
見ていられなかった。
私の目に映ったのはページいっぱいに描かれた「ごめんなさい」という字だった。
ゆっくりともう一度そのページを開く。
やはり見間違いなどではなく確かに書かれていた。
しかもその一ページだけではない何ページも何ページも何ページも・・・。
ただ狂ったように書かれていた。
私は何故だか怖くなり、逃げだすように部屋を出ていった。
11月24日 火曜
ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい
後書き
どうも、孝介です
ということで第5話、どうだったでしょうか?
たぶん何も言うことはないでしょう
というより何も言えなくなっている・・・はず
これはもう先週から話が出来ていて
少し肉付けしただけであまり苦労はしませんでした
個人的にかなり楽しみながら書けた方です
さて次回どのように展開していくのか
ご期待ください
では、6話後書きでお会いしましょう
第6話
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