「007 スペクター」21世紀のボンドにスペクター
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ヤミ、闇、病み
ハロウィーン記念 その執事、仮装
セバスチャンやマダムレッド、エリザベスやうちの使用人たち・・・。
それに僕が一緒になって笑っていた。
何をしていたのか、なぜなのかは分からないが夢の中の僕は本当に楽しそうな顔をしていた。
そんな事、現実では“ありえない”のに・・・。
その執事 仮装
「坊ちゃん、坊ちゃん」
誰かが、僕の体を揺らす。それをされる事により僕は目を開く。
が、あまりの眩しさにすぐ目を閉じた。
「やっとお目覚めですか?坊ちゃんは本当に朝が苦手の様ですね」
僕は目を閉じたまま体を起こすとセバスチャンにそう言われた。
「うるさい・・・それに今日は休みのはずだろう?なぜこんな時間に・・・」
特に会社でやることもなく、“仕事”もこの前終わったばかりだから
今日僕は休むつもりでいた。それはちゃんとセバスチャンに伝えてあったはずなのだが・・・。
「先に朝食をお召し上がりください」
「そうだな・・・貰おうか」
僕はセバスチャンからトーストと新聞を受け取り、トーストを齧りながら読み始める。
大した事件は起きてないらしい。たまにはこんな日があってもいいだろう。
「それで?なぜなんだ?」
普段あまり寝る時間が無い僕にとって久しぶりの休みだ。変な理由だったら幾らこいつでも許さない。
「そのことですが・・・つい先ほどエリザベス嬢がお出でになりました」
なん・・・だって?
「どうしたんですかいきなり・・・」
どうやら僕は気がつかないうちにトーストを落としていたらしい。
セバスチャンが落ちる寸前でキャッチした。
「今から何か入れるぞ」
「何か、とはなんですか?」
「なんでもいい。バイオリンでも絵画でも帝王学でも・・・」
今日だけは・・・今日だけはあいつの相手はしたくない。本当は休みたいところだがこの際贅沢は言っていられない。
授業でも何でもやってやる。
「それは無理でしょう。家庭教師(チューター)の方たちにも予定というものがありますから」
「ちっ」
僕は軽く舌打ちをする。世の中そう簡単にはいかないという事を分かってるつもりでいたが甘かった。しかし僕には一つ疑問があった。
「そういえば、エリザベスは何で今日来たんだ?」
あいつが意味もなく来る事はよくあることだから、今日も「シエルに会いたかったー」とか言うに決まっているが、一応聞いてみる。
セバスチャンが知っているかどうかなど頭になかった。
「何でも、「今日はハロウィンだから」と仰っていました」
「ふっ・・・」
ハロウィン・・・か。
そういうことかと僕は納得がいく。あのエリザベスの事だ、こんな機会逃すわけがない。
きっと僕の分まで準備されているのだろう・・・。
「セバスチャン、“仕事”をするぞ」
「坊ちゃん、それは先週終わらせたでしょう?それに女王陛下からお手紙は届いていませんよ」
そうだった・・・しかもついさっきその事を考えてたじゃないか。
我ながら相当焦っているみたいだ。
何か、何か方法はないのか・・・。
「今日くらい諦めてお相手してあげればいいのでは?仮にも許嫁なのですし」
そう言うセバスチャンの顔はどこか楽しげだった。
「前にも言っただろう?なったんじゃない。“された”んだ」
貴族の妻は貴族しかなれない。
この様な暗黙の了解がイギリスには数多く存在する。もちろん僕もファントムハイヴの名を継ぐものとして許嫁が存在した。
生まれた時から・・・。
「もちろん存じておりますよ」
セバスチャンはベットの下に僕の靴を置く。要するに「早く準備をしろ」ということなのだろう。
まぁ・・・たまには付き合ってやるのも悪くないかもしれない。暇潰しくらいにはなるだろう。
そう思い僕はベットの端に座り、足をだらんとさせる。セバスチャンは少し笑って僕に靴をはかせる。
それが終わると次に僕は立ち上がり今度は服を着せられる。
まるでセバスチャンの着せ替え人形みたいだが僕一人では何もできない。
どれだけみじめであろうとこうするしかない。
「では、そろそろ参りましょうか?」
セバスチャンがドアを開けた。
バルド達の騒ぎ声が聞こえる。一体何をやっているのだろうか?
「ふう・・・」
僕は一つため息をし、その一歩をゆっくりと踏み出した。
大広間へ出る階段で僕は足をとめた。
「やっぱり、か・・・」「ええ・・・」
エリザベスがここに来た時点で分かっていた事だ。
大広間は・・・エリザベスの言葉を借りるなら“可愛い”大広間と化していた。
下ではエリザベスの指揮のもと、飾り付けされていっている。僕の屋敷がピンクに染まっていく・・・。
仕方ない
「それくらいにしてや・・「シエル~(はぁと)」
僕が言い終える前にエリザベスに抱きつかれた。あまりの勢いに僕は一歩下がらなくてはならなかった。
「離れろ。息が苦しい・・・」
そう言って僕はエリザベスを遠ざける。そこで僕は初めてエリザベスの衣装に目が行った。
エリザベスの服が全体的に緑っぽい・・・
いつもならピンクを基調としたフリフリしたドレスなのだが・・・
一体何があったのだろうか?
「じゃ~ん、妖精さんを意識してみたの。似合う?」
エリザベスはその場でぐるりと回って見せる。なかなか手が込んでいるらしく背中に小さい羽がついていた。
「ま、まぁ・・・似合ってるんじゃないか・・」
何故か恥ずかしくなり顔をそむける。隣でセバスチャンがクスクスと笑っている。耳障りだ。
「よく御似合いですよ」
「でしょ?みんなも可愛くなったんだから」
そう言ってエリザベスはうちの使用人たちを指さす。
バルドは・・・なんというかブリキの兵隊みたいな恰好をしている。
元軍人だからか一応似合っている。
メイリンは杖に真っ黒の服、たぶん魔女かなんかだろう。
フィニアンはモコモコの服を着てネコ耳までしている。なんか性別間違えてないか?
タナカは・・・気色悪い。胸元にアントワネットと書いてあるから、きっとそういうことなのだろう。
エリザベスらしいといえばそう言えるかもしれない。
「みんな可愛いでしょ?シエル達の分もあるから着替えてきて」
とエリザベスはセバスチャンに紙袋を二つ渡す。それぞれに「シエル」「セバスチャン」と書いてある。
「さて、私たちは一度着替えてきますね」「・・・」
思ったより乗り気のセバスチャンに抱えられるように僕は部屋をでて、近くの一室に入った。
「くっ・・・あっ!・・もっと・・・優しく、しろ」
苦しい・・・息が止まりそうだ。
「これでも精一杯優しくしていますよ?」
くそっ、人事だと思って・・・。
「で、」
もう限界だ。
「(内臓が)出るって言ってるだろう、が」
またこれをつける事になるなんてな・・・。
5分前
「なんでまたこれなんだ・・・」
「シエル」と書かれた袋の中にはフリフリのピンクのドレスが入っていた。
しかも、スカートの丈が短い・・・。
「よく御似合いになると思いますよ」
セバスチャンは楽しそうな顔をしている。その手には黒い長めのマントと長い牙が握られている。
たぶんヴァンパイアかドラキュラだろう。そういえば違いは何なんだろうか?
まぁいいか、そんなこと・・・。
元が悪魔だから似合わないということはないだろう。ビジュアル的にも内面的にもいつもと大して変わらないからな。
「坊ちゃん、後ろを向いてください。一人ではこれは着られないでしょう?」
セバスチャンはコルセットをぶらぶらさせている。
「やはりつけなくては駄目か・・・」
「く、苦しい」
何とかコルセットをつけたが苦しくて仕方ない。大体僕は男なのだからくびれなど必要ないだろうに。
「では参りましょうか?お嬢様」
「ああ・・・」
鬱ながらも歩き出そうとしたがセバスチャンに止められた。
「おい、セバ「お嬢様、男性みたいなしゃべり方をなさるのですね?」
こ、こいつ・・・仕方ない、か。
「で、では参りましょうか」
出来るだけ高く、女性っぽい声を出す。我ながら気持ち悪い。
「はい、お嬢様」
しかし・・・丈が短いせいかスースーする。少し寒い。
そうこうしてるうちに広間に着いてしまった。
「シエルー」
エリザベスに腕を掴まれ、砲丸投げの様に回される。正直気持ち悪くなってきた・・・。
「やっぱり似合うと思ってたの~。・・・あれ?」
急に止まり手を離され僕の体が吹き飛ぶ。壁に思いっきり頭をぶつけてしまった。
一体どうしたというのだ。
「どっかで見た事ある気がする・・・」
ギクッ
背筋がぞっとする。そういえばあの時(コミックス2巻参照)エリザベスに会っている。正確に言うなら見られているだが・・・。
「そんなわけないだろう?きっと気のせいだ」
「そう・・・だよね。気のせいだったみたい」
良かったと思ったのもつかの間。
ピーンポーン
インターフォンが鳴った。
「私が出てきましょう」
そう言ってセバスチャンがドアを開くと・・・。
「やっと着いたわ~」「もう嫌になっちゃう」
「シエル、遊びに来てやったぞ」「流石ソーマ様、お優しい」
「マダムレッド、それにお前らまで」
マダムレッドにグレルサトクリフ。更にはソーマとその執事アグニまで来ていた。
よりによってなんでこいつらが・・・。
そう思いながら全員を見ていく。
マダムレッドはどこでやったのか耳が長く、エリザベスと同じく緑が基調となっていた。エルフとでもいいたいのだろうか?
グレルはそのまま死神だ。一点違うのは死神の鎌(デスサイズ)ではなくハロウィン用のおもちゃの鎌を持っている事だ。
ソーマは・・・何を考えたのかボロボロの布を腰に巻いただけだ。
古代の神はあんな感じだったのではないだろうか。
アグニはいつもと変わらない。まあ執事だしそれでいいのかもしれない。うちのが少しおかしいだけで・・・。
「ああセバスちゃん。そんな恰好もいいわぁ。貴方の子なら「生物学的に無理ですから」
グレルが言い終わる前にセバスチャンが言いのける。何も言い返せないからかグレルは黙ってしまった。
「おいシエル、何で俺が来たのにそんな浮かない顔をしてるんだ」
セバスチャンたちのやり取りを見てる間にソーマに絡まれる。まったくお前が来たからというのを気付いて欲しいんだがな・・・。
「まぁ色々とな・・・」
そう言ってやっても良かったが流石にそれは可哀そうだと思い適当に流す。
それで満足したらしくソーマはうちの使用人たちの方へと行った。
何の気なしにセバスチャンの方を見ると今度はアグニと話していた。
少し気になったがそちらの方へは行かずマダムレッドに会いに行く。
「あらシエル。少し大きくなった?」
「いや、残念ながら変わっていない」
「そう、それは悪かったわね・・・」
そう言うマダムの顔は少しも悪気があるようには見えなかった。
まぁそれがマダムだから気にはしてないが・・・。
「そうだ、セバスチャン」
「分かっております。中庭に食事の準備がしてありますのでどうぞ移動してください」
僕は「全員分の食事を準備しろ」というつもりだったのだが一体いつの間に準備したのだろうか?
「ファントムハイヴ家の執事たるものこの程度の準備できなくてどうします?」
僕の気持ちを読んだようにセバスチャンがそう言った。確かにあいつならそれが出来る。特に疑問に思うことなどなかった。
そう思いながら僕は中庭へと向かった。
「今回はバイキング方式をとらせていただきました。量はありますのでどうぞご賞味ください」
セバスチャンの一声で一斉にテーブルに向かい思い思いに皿に料理を載せていく。
全体的にハロウィン感を出せるような料理が中心の様だ。テーブルの上には大きなカボチャをくりぬいて作られた奴がある。あれはなんというのだったかな?まぁいいか僕も少し食べるとしよう。
その後僕たちは談笑しながら料理を舌鼓した。しかし残り少なくなってきた時マダムがある“ゲーム”を提案してきた。
「みんな、王様ゲームしない?」
みな口々に何それ?というが僕とエリザベスは青ざめていた。
マダムにこれをやらせるのは危ない。
「シエルはもちろんやるわよね?なんたってゲームなんだから」
「くっ」
痛い所を突かれた。確かにゲームと名につくもので逃げるなんていうことはしたくない。仕方ない、受けて立とう。
「セバスチャン、準備しろ」
「御意、御主人様(イエスマイロード)」
そう言ってセバスチャンはどこからともなく人数分の割りばしを取り出した。まさかマダムとグルだったのではないだろうか。
「とりあえず簡単に説明しますと、全員でこの割りばしを引き、王様と書かれたのを引いた方が王様です。」
セバスチャンはここで一呼吸置き、続ける。
「王様は一度だけ命令する権利を得、番号を言うことで命令でします。例を上げるならば「1番と5番は紅茶を淹れてくる事」などです。おわかり頂けましたか?」
「「「「はーい」」」」
どうやら全員分かったようだ。
「それでは始めましょうか。さあ皆さん一本持って・・・せーの」
「「「「「「「「「「「王様だ~れだ」」」」」」」」」」」
「僕の様だな、それじゃ、4番と7番はその場で跪け」
「7番は私ですね」
どうやらセバスチャンだったようだ。とすると4番は誰だ。
「4番は僕だ~」
何だフィニアンか。これではいつもと変わらないがまぁいいだろう。
「さあ、跪け」
僕の言葉に二人とも跪く。なかなか心地いい。やはりこうでなくてはな。
「それじゃあ2回目に行こうか」
その後も特に何も起ることなく進んでいった。
グレルが物まねをしたり、メイリンが眼鏡を外したり、ソーマが料理を作ったり・・・。
そこまでは良かった。しかしマダムが王様になってから流れが変わってしまった。
マダムが命じたのは「5番が9番を御姫様抱っこ」
5番はアグニで9番はタナカだった。一応絵的には男女ちゃんとしていたがどちらも男だ。明らかに気持ち悪い。
それからそういう流れになり、僕とフィニが恋人つなぎをしたり、エリザベスが語尾にニャンをつけたり、マダムが脱いだりとにかく何かがおかしかった。
日が落ちてきたので最後の一回という事になりみんな一本ずつ手に取った。これが最後だ。ここは何としても取りたい。
「「「「「「「「「「「王様だ~れだ」」」」」」」」」」」
僕が引いたのは・・・・・・3番だった。
「おお、俺みたいだな」
引いたのはバルドだ。くそっ、まさかバルドに負けるとはな。まぁ仕方ない、別に僕が当たるというわけでもないだろう。
「じゃあ3番と10番がキスってのはどうだ?」
なん・・・だと?
3番は僕じゃないか。この中で女性はメイリン、エリザベス、マダムの3人。つまりまだましな確率は3分の1。あまりにも低すぎる。
「3番は僕だ」
思い切って宣言してみる。さて、どうなるか・・・。
「10番は私ですね」
セバスチャン?それが分かった瞬間胸が焦げるような感じがした。
何だこの感情は・・・。
「では、早く済ませてしまいましょう」
そう言ってセバスチャンが僕に顔を近づける。
「おい、まさか本当にするつもりか?」
冗談じゃない。誰がこいつなんかと・・・。
「シエル、往生際が悪いぞ」
「そうよ、シエル覚悟決めなさい」
「きー、セバスちゃんとキスするなんてあいつも死亡者リストにいれてやるー」
皆勝手に言っているが男同士だぞ?誰が喜んでするんだ。しかし決まってしまった事だ。大人しく従うしか、ない。
「早く、済ませろよ・・・」
「はい・・」
僕とセバスチャンは一瞬だけ唇を重ね合い、そしてすぐ離した。
唇が離れた瞬間、またあの焦げるような感情が僕を襲う。
何だこの感情は・・・。
「それでは今日はこれでお開きということで。皆さんお帰りください。片づけは私どもの方でやっておきますので」
セバスチャンがそう言うと皆帰っていった。うちの使用人たちも屋敷に戻っていく。
僕は抱いた感情に疑問を持ちながら屋敷に戻った。
その後僕は風呂に入り、ベットに横になった。結局抱いた感情の正体は分かっていない。
「なぁセバスチャン」「なんでしょうか?」
どうしようもないくらいに気になってしまい、セバスチャンに聞いてみる事にする。
「僕はパーティーが終わった後焦げるような感情を覚えた。これは病気なのだろうか?それともおかしくなってしまったのだろうか?」
分からないなりに出来るだけ伝わるように言葉を紡ぐ。セバスチャンはふっと笑ってこう言った。
「それは坊ちゃんの感情ですから私には分かりません。ですが、少なくとも病気でもおかしくなったのでもないと思いますよ」
「それは、本当か?」
「ええ、私は嘘は申しません」
僕は寝がえりを打ってセバスチャンに背を向けた。何故だか顔を見たくなかった。
「もうお休みになりますか?」
後ろからセバスチャンの声がする。
「ああ、電気を消してくれ」
そう言うと電気が消える。そしてセバスチャンが部屋を去ろうとする音が聞こえた。
「セバスチャン、そばにいろ。僕が眠るまでだ」
僕がそう言うと振り返りクスクスと笑う。
「私に弱みを見せるのですか?」
「そういうわけじゃない。今日は、こうゆう気分なだけだ」
自分でも何故止めたか分からない。だが、セバスチャンが行ってしまうのが嫌だった。
「大丈夫ですよ、私はいつまでも坊ちゃんの御傍にいます」
その言葉に安心し、僕は眠りについた。
「そばにいろ」ですか・・・。
あの坊ちゃんが・・・ねぇ。
ずいぶんと可愛くなられたものだ。もしかしたら私の気持ちに気がついてくれるかもしれませんね。
それにどうやら、同じ感情を持っていただけたようですしね。
これから・・・ですかね。
「さてと・・・」
明日の準備をしなくては・・・。
全てを隠す夜の闇にセバスチャンの怪しい笑顔が浮かんだ。
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