「007 スペクター」21世紀のボンドにスペクター
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バックパッカーの旅Ⅱ(欧州~北アフリカ~欧州~日本)
雪のグラナダ
朝九時半、慌てて宿を出る。
時計が一時間も遅れていた。
時差なのか?
今日はグラナダに発つ日。
10時6分の汽車に乗らなくてはいけないのに、時間が迫っている。
昨夜の雨は上がっているが、空はいつ降り出して来るか分らないような模様を呈している。
最後にバザーを覗いて置きたかったが、汽車は今日これ一本しかない。
これを逃すと、出立が一日延びてしまう。
残念だが・・・・・・致し方ない。
空になったファンタ一リットルビンを持って、パン屋の娘に会いに行く。
別れを言わなくてはいけない。
彼女「ブエノス・デイアス!」
俺 「今日お別れにきました。今日発ちます。」
彼女「何処へ?」
俺 「グラナダへ。」
彼女「あら!良いわね!」
俺 「元気で!」
彼女「別れは辛いですね。良いお友達にやっとなれたと思ったらお別れだなんて・・・・。」
俺 「グラシャス!」
空ビンのお金をもらって握手。
彼女「グッバイ!お元気で。また来てね!」
ニッコリ笑いかけてくれた笑顔が可愛い。
*
駅には数人のスペイン人達が同じ汽車を待っていた。
俺 「グラナダ一枚。」
500ペセタ紙幣を渡す。
171ペセタ、お釣りが返ってきた。
つまり329ペセタ(1580円)という事になる。
昨日聞いた駅員は、500ペセタと言っていたのに、・・・・。
後でわかった事だが、500ペセタは急行料金だった。
これから乗ろうとしているのは、各駅停車のようだ。
もう少しで、安いマラガ行きのバスに乗るところだった。
九時五十分、汽車がホームに滑り込んで来た。
あの懐かしい銀色の車体が姿を現した。
三両編成。
スペインからポルトガルの国境へ入るとき、夜中乗せられたのと同じ汽車のようだ。
車両のシートは前・後ろ、どちらにもなる。
通路をはさんで、二人掛けと三人掛けに分けられている。
十時六分より、少し遅れて汽車は動き始めた。
アルジェシラスの街よ、さようなら・・・・・!
海の向こうに見えるモロッコ・・・・北アフリカ大陸に別れを告げる。
いつもの見慣れた景色が続いたかと思うと、雪が降り出してきた。
この辺は高地なのだろうか。
白一色の景色へと変わっていく。
雪化粧とはよく言ったものだ。
南下してきたときに見た緑の丘陵地も、規則正しく並んだ低い木々の葉も白く化粧している。
旅に出て、ヨーロッパに入って、二度目の雪だ。
最初に見た雪は、イタリアの山中、バスの中だった。
スペインでは、大平原での雪を見ることになるとは・・・・。
”白いジュ-タンを敷きつめたような”と言う表現は、この景色のためにあるような、そんな雪景色が汽車の窓から見えてくる。
Rouda駅の近くが一番雪が多かったように思う。
雪掻きをしている少年達が、雪掻きの手を休め、列車に向かって手を振っている。
降雪の為、100メートル先がかすんで見える。
暫くすると、雪が止んだ。
止んだというより、雪の降っているところを列車が、走り抜けてきたと言った方が適切なのかも知れない。
止んだように見える雪も、U-ターンすれば、相変わらず雪は降り続けているに違いないのだから。
高い丘陵地は皆、白い帽子を被っているように見える。
雪の降っている山、薄日の差している山、すでに雪を大地の中に吸収してしまった平原。
そんな中を列車はゆっくりと進んで行く。
実に・・・・のんびりと。
*
暖房の効いた列車の中は、少々空気が悪くなってきたようだ。
換気が悪い。
少し窓をあける。
冷ッとした冷気が入り込んでくる。
周りの目が集まってきた。
慌てて窓を閉める。
生肉とパンで食事をする親子ずれ。
途中から乗り込んできた毛唐の女。
同じ旅行者のようだ。
毛唐の女を連れた地元の青年。
なかなか美人だが、主導権を握られているようだ。
軍人も乗り込んできた。
雨が降ったり、霙になったり、雪に変わったり、また晴れたり、トンネルの中をいくつも潜り抜けたり、岩肌が多く見える渓谷に入ったり出たり、列車は車体を大きく左右に振られながら、ゆっくりと進んで行く。
アルジェシラス~グラナダ間、432Km。
もう何時間走っているのか、道ずれにしてきた時計が止まってしまいわからない。
”俺の国ではなー!600Kmを三時間で走り抜けるんだ!”
そう叫んでも、列車は笑いながら走っている。
又、停まった。
各駅停車だ。
出発の合図だろうか、鐘が三つ鳴ってゆっくりと動き出した。
後ろから来る列車、前から来る列車には、全てレールを譲って走る。
TEBA駅では、スペイン美人が下車していった。
ここの生まれなのだろうか。
窓を見ると、見渡す限りの大平原。
人家は数えるしか見えない。
こんな寂しい駅で降りて、さっきの美人は何処へ行くと言うのか。
*
太陽が姿を見せないまま、とうとう夜になってしまった。
闇がまわりを支配すると、もう何も見えなくって来る。
”グラナダは、まだ??”
始発から終点までの各駅停車での列車では仕方がないのかも。
しかし、俺は少々疲れてきた。
席を二三度立って、サンドウィッチを二つ口に放り込んだだけ。
夜になって、逆に落ち着いてきた。
真っ暗な中を走ってきた列車の前にようやく、街らしい灯りが見えてきた。
マドリッドの街の灯りを、夜の列車の中から見たように、今グラナダの街の灯りを、あの時と同じように列車の窓から眺めている。
実に九時間半から十時間渡る移動が、今ようやく終わりを告げようとしている。
雪は相変わらず積もっている。
グラナダも雪の街だ。
さすがに大きな駅だ。
徳島県の阿波池田の駅ぐらいありそうな大きな駅だ?
大勢の人達が、ホームに駅構内に、Barに溢れている。
*
列車から久しぶりに解放されて、背筋を伸ばして、荷物を担いで駅を出る。
寒い!
こうやって、雪を踏みしめて街の中を歩くのは初めてだ。
ニ、三のホテルを目にするが、少し街の中を歩いて、グラナダがどういう街なのかを探ってみる事にした。
足元は雪で滑りそうでかなり危険だ。
雪合戦をしている子供達がいる。
Barの中は、暖かそうで人で溢れている。
家族ずれから、若いカップル、年老いた人たちも、カウンターみ飲み物を置いて、楽しそうに笑っている。
通りのウインドウではもうクリスマスの飾り付けが終っている。
意外と宿は少ないようだ。
結局、少し歩き回ったけど、駅前に戻ってきて、駅のすぐ前にあるZocayホテルに入った。
ホテルの受け付けでは、スペインの少女が俺を迎えてくれた。
ホテルの娘だろうか。
すごく可愛い子でビックリ。
まだ、中学生か高校生あたりか。
まるで英語が通じない。
俺 「いくら?」
娘 「135ペセタ(650円)」
俺 「OK!」
少し高いが仕方ない。
娘さんに案内されて部屋に入る。
娘 「何かありますか?」
俺 「いいや。」
娘 「ごゆっくり。」
*
部屋はなかなか広く、窓からは今降りてきた駅が見える。
部屋に入ってきたときの異臭は仕方ない。
一日もいればなれることだろう。
部屋の明かりが少々暗いと言うのが、不満と言えば不満ではある。
やっと落ち着けた。
長い長い移動だった。
こんな各駅停車のローカル線に乗っていると先が思いやられてしまう。
スペイン国鉄自慢の”タルゴ”、”ラピッド”などを利用しない事には疲れてしまう。
さすがに夜は冷え込んできた。
風邪をひいてしまったようだ。
荷物を置いて、外へ出る。
午後8時30分。
Barに入ってカフェを飲んでいると、三人の少年が入ってきて、一人がコーラ、一人がミルク、そしてもう一人がビールを飲み始めた。
明日は地図を手に入れて、郵便局とユース・ホステルを、そしてなんと言っても あの有名なアルファンブラ宮殿を訪れなくてはならない。
二十日の夜が更けて行く。
もう眠るだけ。
振動のないベッドで、無の中に身を預けることができる。
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