バックパッカーの旅Ⅱ(欧州~北アフリカ~欧州~日本)

バックパッカーの旅Ⅱ(欧州~北アフリカ~欧州~日本)

お釣りを誤魔化そうとする公務員



  ツーリスト・オフィスは、なかなか遠くって、とうとうアルファンブラ宮殿の下まで来てしまった。
 そこでやっと見つけることができた。
 どうやら、この辺りがメイン・ストリート?らしい。
 なかなか賑やかなところで、ホテルもあちこちに見ることができる。

 ツーリスト・オフィスで、グラナダの町の地図を手に入れて、彼と別れて安宿を探す事にした。
 安宿はなかなか見つからない。
 途中また、二人で旅をしているという日本人に出会った。
 近くのBarに入り、話し込む。

       俺 「いくらですか?宿は。」
       彼ら「二人で300(1440円)かな。あなたは?」
       俺 「135です。」
       彼等「安いじゃないですか。」
       俺 「夜中についたもんで、もっと安い所を探しているんですけどね。」
       彼等「そうですか。僕らモロッコからの帰りなんです。」
       俺 「俺と同じじゃあないですか。これから・・・・?は?」
       彼等「バルセロナへ行って、二月中旬頃ロンドンに入る予定なんです。あなたは?」
       俺 「マドリッドへ入って、北ヨーロッパを回ってからロンドンに入る予定ですけど。君らと同じ頃、ロンドンに入りそうですね。」
       彼等「飛行機ですか?」
       俺 「いえ!船です。ドーバー海峡を渡って行くつもりです。」
       彼等「船での入国は厳しいみたいですよ。」
       俺 「そうらしいですね。そういう噂は聞いてますけど、お金がなくて飛行機ではとても行けませんから。」

 彼らは学生らしく、親を頼って優雅な旅をしている事がわかる。
 一時間ほど、Barで談笑して、昼間近くバルセロナへ発つという彼らが席を立った。

       彼等「それではお元気で。またロンドンでお逢いしましょう。」
       俺 「そうですね。」

                  *

  彼らが出て行って少ししていると、さっきあった日本人がまたBarに入ってきた。

       彼 「やあ!ここでしたか?」
       俺 「ええ、さっきまで旅している日本人と話していた所でした。」
       彼 「ここ良いですか?」
       俺 「どうぞ。」
       彼 「今日は暑いくらいですね。」
       俺 「雪が解けてしまいそうですね。」
       彼 「・・・・・・」

       俺 「モロッコからアルジェリアへ行こうと思ってたんですけどね・・・。」
       彼 「治安が悪いでしょ。なんかの本で、国境の街で16DHでビザを売ってくれるって、書いてあったのを読んだ事があるんですけどね。」
       俺 「そうなんですか。行けばよかったなー!」


               *

  午後から、彼と一緒に安宿を探して歩く事にした。
 やっと、一泊100ペセタ(480円)と言う、なかなかいいホテルを探し出すことに成功した。

       彼 「私は今日ここに泊まる。彼は(俺の事)マシャーナ(明日という事らしい)!」

 彼が一生懸命おばさんに説明している。
 何度も身振り手振りで、何とか意味が通じたようだ。
 ホテルの名前は”Colonial(コロニアル)”。
 ”Calle Reyes Catolicos通り”と”Via De Colon通り”の交差点の近くで、”Canuelo通り”にあるホテルだ。
 ここは、”Royal Chapelt(カセドラル)”にも、”アルファンブラ宮殿”にも、ポスト・オフィスにも近く、わりと便利な所のようだ。

 大きな通りには、クリスマスの飾りつけが目立っている。
 夜になると、奇麗なネオンとなり、夜の町を華やかに彩ることだろう。
 クリスマスはもうすぐだ。

       俺 「それじゃあ、俺はこれで・・・・。」
       彼 「ありがとうございました。また、逢いましょう!」

 ホテルの前で彼と別れて、郵便局へ立ち寄り、友達(大坂君)と田舎へ手紙を託す。
 アエログラムは貰ったもの、15ペセタ(72円)。
 封書は24ペセタ(115円)。
 外の窓口で切手を購入して、外にあるAvionに投函するのだが、50ペセタコインを渡して、1ペセタしかお釣りが来ない。
 俺は確か、24ペセタの切手を買っただけなのに・・・。
 中にいる係りの人に文句をいう。

       俺 「ちょっとあんた、俺は24ペセタの切手を買ったんだ。おつりが1ペセタと言うのはないだろう!」
       係り「・・・・・・。」

 お釣りの1ペセタと切手を見せると係りの人は、黙ったまま平然とした態度で、25ペセタコインを投げてよこすではないか。
 スミマセンでしたの一言もないばかりか、投げてよこすとはなめている。
 ああ平然とした態度を見ていると、こういう方法で何度も日本人を騙してきていたのだろう。
 言葉が通じない事をいい事に、抗議して来ないとたかをくくっていたのかも知れないが、俺はそうは行かない。
 汚い野郎たちだ。
 でも、日本人観光客達もいけない。
 主張しないのだから、彼らも良い儲けだとばかりに、つり銭稼ぎをしてくるのだ。
 憮然とした顔で、睨み返す。

                  *

  歩道を歩いていると、屋根やベランダに積もっていた雪が、強い陽射しに照らされて、霧氷のようにキラキラ輝きながら、雪の結晶が頭の上に降りそそいでくる。
 落ち着けると言ったら、Barくらいなもの。
 Barが日本で言う喫茶店と言ってもいい。
 Barはほとんどがカウンターだけで、立ち席が多い。
 テーブルが置かれているBarもある事にはあるが、そう多くはないようだ。

 ほかに休まる所と言うと、レストランだがちょっと高くて行きたくはない。
 荷物をホテルに置いて、今までと逆の方向へ歩いていく事にした。
 閉館だと言うユースを見ておきたかったからだ。
 遠くから見ただけで、また郵便局の前に出た。
 どうやら一周して、また舞い戻ってしまったようだ。

 ユースの方から見るグラナダの街とシェラネバダ山脈は素晴らしい。
 強い陽射しに、積もっていた路面の雪も、見る見るうちに解けていく。
 車道は雪がほとんど見えなくなっている。
 歩道も少し石畳が露出し始めている。
 こんな雪のグラナダにも日本人はいた。

 ”コカコーラと日本人はどんな小さな町にもどんな山奥にでも見かけることができる。”らしい。

                 *

  街を一回りした後、Barに入り時間をつぶす。
 皆、少しばかりのコーラやビールをチビリ!チビリ!とやりながら、お喋りを楽しみながら悠久の時間を過ごすのである。
 地元の若い女の子も数人でやって来て、お酒をコーラで割って、タバコをふかしながらお喋りをしている。
 さっきから、珍しいのか俺の方をチラチラと見る。
 異様な風体をしている東洋人に見入っているようだ。

 スペインの人たちの楽しみと言ったらなんなんだろう。
 TVのチャンネルは七つ。
 テニスの試合が映し出されている。
 やはり、彼らにはお喋りや音楽が似合うのだろうか。
 明日は、ホテルをチェンジする。
 アルファンブラ宮殿も覗いて見るつもりだ。

 アルファンブラ宮殿は入場料一人100ペセタ(480円)。
 学割引だと、35ペセタ。
 やはり、偽の学生証を作って置いて良かった。
 星が出ている。
 夕焼けも見ることができた。

 夜の冷え込みは一段と厳しいものがある。
 今年ももうすぐ終ろうとしている。
 春には日本に帰るだろう。
 日本に帰れば、仕事も見つけなければならないし、彼女もつくらなきゃ・・・なんないし、二十四歳の年男も新しい年を迎える。
 来年は又新しいスタートの年になることだろう。
 まだ、北ヨーロッパの旅もイギリスも控えている。
 まだまだ、旅は続く。

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