バックパッカーの旅Ⅱ(欧州~北アフリカ~欧州~日本)

バックパッカーの旅Ⅱ(欧州~北アフリカ~欧州~日本)

アルファンブラ宮殿とシェラネバダの雪山


 夜中に何度か寒さで目を覚ました。
 パンティ-・ストッキングを穿いて、毛布をかぶっているのだが、それでも寒いのだからかなわない。

 眠っていたのか、起きていたのかわからない状態で、うとうとしながら朝を迎え、荷物をまとめて宿を出る。
 駅前の宿という事で、あまり条件は良くなかった。
 外は遅くまでざわついているし、外灯が明るすぎて、おまけに窓ガラスが割れているときている。
 夜遅く街に到着すると、早く宿を確保しなくちゃーと思い・・・焦りが先に立ち、こういう宿を選んでしまう。

 早速、昼間選んでおいたコロニアル・ホテルに移ることにした。
 荷物を担いで、ゆっくりと通りを歩く。
 あれだけの雪が、昨日の陽射しで大部分とけてしまっている。
 純白だった雪もドロと入り混じって、醜く変わっている。
 肌を刺す冷たい外気が心地よい。

 途中、Barに立ち寄って朝食を取る事にした。
 カフェにトーストで27pts(130円)。
 ホテルに正午までに入ると、超過料金と言う奴を取られる事があるという誰かの忠告を思い出して、ホテルに入る時間を少し調整することにした。

 Barは朝と言わず、昼と言わず、結構人が集まっている。
 音楽も聞こえず、ただカフェやビールを飲み、向かい合ってヒソヒソと・・・・また、大きな声で話をしている。
 遊戯台を一つ二つ置いているBarでは、若者達が集まってガチャガチャ音を立てて騒がしい。

 街の様子は何処もあまり替わり映えがしないようだ。
 正午に少し前だがホテルに入る。
 ブザーを押すと、がチャっと鍵が開いた。
 どこかで操作しているのか、そうなっているのか。
 階段の途中にある、大きな鏡に昨日のおばあちゃんの顔が映っている。
 昨日話をつけているので、笑顔で迎えてくれた。

       お婆ちゃん「昨日決めた部屋はちょっと寒いから、こっちに替えといたから。」
       俺    「ああ、そうなの。有難う。」
 309号室に通される。
 昨日の彼も少々寒さにこたえたらしく、隣の部屋に移っていた。
 安い部屋は、暖房が効いていないので、何処も寒い。

 案内された部屋に入ると、部屋は奇麗に整理されていた。
 今日の夜もシュラフが手放せないようだ。
 部屋のドアに貼られている紙を見ると、60~80pts(290~390円)と書かれてある。
 ”粘れば、もっと安くなるかも知れないですよ。”と言う彼の言葉が聞こえてきた。

       彼 「ここのディナー、95pts(456円)もするんですよ。」
       俺 「そりゃぁ・・高いよな。宿泊代の二倍弱だもんな!」
       彼 「高くて、あまり美味しくは無いけど、ボリュームがあるから、お腹一杯にはなりますよ。」
       俺 「・・・・・。」
       彼 「一品ずつ、ゆっくり出てくるんで、食べ終わるのに一時間ぐらいかかったかな・・・。」
       俺 「早食いの俺には、ちょっとむかない食事だな。」

 街全体を、冷気を含んだ靄のようなものが、山の方角からゆっくりと下りてきて、完全に包んでしまっている。
 天気は最悪だ。

       彼 「僕は今からもう一度、インフォメーションへ行ってきます。」
       俺 「・・・・・。」
       彼 「今日アルファンブラ宮殿へ行きます?」
       俺 「ああ、いくつもり。」
       彼 「じゃあ、向こうでまた逢えるかも知れませんね。それじゃあ・・・!」

                  *

  荷物をホテルに置き、すぐ近くのBarで昼食をとり、・・・靄のかかった静寂の道を、アルファンブラ宮殿へと足を運んだ。
 いかん!いかん!見ちゃあ・・・いかん!というのに、とうとう土産物屋を見てしまった。
 タバコ入れに、小銭入れ、そして例の火縄銃のようなライターを購入して、200pts(960円)。
 二日分の宿泊代が消えてしまった。
 アルファンブラ宮殿への坂道には、こんな土産物屋がいくつか建ち並んでいる。
 店の中には、可愛いスペイン娘がニッコリ笑って立っているもんだから、この買い物も仕方がないと言えば・・・・仕方ないか・・。

 門をくぐると道は、車道と歩道に分けられていて、舗装されていない山道を、日が当たらないために凍ってしまっている雪をゆっくりと踏みしめながら登っていく。
 白い息が自分の顔の前を塞ぐ。
 坂道を登っていると、じっとりと汗ばんできたのがわかる。
 地元のアベックだろうか、俺の前を・・・腕を組んで楽しそうに歩いていく。
 アベックに踏まれて、凍った雪が解けて行く。

                   *

  グラナダを見下ろす高台に、アルファンブラ宮殿がある。
 ここの庭園は世界の三大美庭の一つと言われているそうだが、本当なのかなー! 自分の目で確かめる日がやって来た。
 入場チケットを売っているところで、またアルファンブラ宮殿の絵葉書が目に飛び込んで来た。
 20枚で240pts(1150円)。
 ああ~~、どうしようもない。
 これからの生活に響くと言うのに・・・・。
 入場料一人、100pts(480円)。
 しかし俺には、水戸光圀公の印籠がある。

 偽学生証を見せると、35pts(170円)なり。
 仲に入ると結構広い。
 屋根に積もった雪が溶け出してきて、まるで雨の中を歩いているようだ。
 宮殿の中は何処も同じ。
 建物にはいろんな彫刻が刻まれているようだが、それはそれで素晴らしいのだが、絵葉書のように美しいとはいかない。
 一つの時代が過ぎていった後と言うことで、色あせてしまっているのは致し方がないというところか。
 だが・・・・それはそれで素晴らしいものであることに違いはない。
 その時代の大きな犠牲の上に成り立っている”美”であり、必要の”美”がそこには見えない。
 やはり私には、コロニアル・ホテルの近くに広場があり、その正面にルーバーを配置したファサードを持つ近代建築の方が美しく輝いて見えるのはどうだろう。

 午後二時近くになり、今まで覆っていた雲が去り、青空が広がり始め、靄がかかって見えなかった、グラナダの街並みの全容が、眼下に姿を現し始めた。
 まだまだ、屋根には残雪が残っていて、陽射しを浴びてキラキラと輝いて見える。
 南の方角には、真っ白に雪化粧をした、シェラネバダ山脈が美しく雄大な姿を現した。

 宮殿の庭園も、雪の影響か、樹木が折れたり噴水が出なかったりと、少し痛々しい姿を見せているが、それはそれで美しいものだが、入場料を割引してほしいものだ。
 迷路のような庭園を歩き回っていると、案内板が少ないせいか道に迷ってしまったようだ。
 庭園の美しさよりも、庭園から見える靄ったグラナダの街並みや雪のシェラネバダの勇姿が収穫だった。
 雪で濡れた靴の中から、煙のように蒸気が立ち込めている。
 暖かい陽ざしが、街全体を押し包んでいるように見えた。

                   *

 宮殿に入って三時間が過ぎた。
 宮殿を後にして、町のレストランに入る。
 コンソメ・スープ、オムレツ、コーラで120pts(580円)。
 今日は雪の中を歩き回って、少々疲れてしまった。
 午後七時。
 外はすっかり闇に包まれている。
 夜の冷え込みは、駅前のホテルとあまり変らない様だ。

        ”トントン!”
 午後九時ごろ、部屋のドアをノックする音で目を覚ます。
 どうやら眠ってしまっていたようだ。
 俺はてっきり昼間の彼が訪問してきたとばかり思っていたら、ドアを開けてビックリ、なんとこのホテルのママがガウン姿で立っていた。

 ニコニコしながらスペイン語でなにやら捲し立てて、部屋の仲に入ってきたかと思ったら、ベッドを弄りだしたではないか。
 シーツの交換をしていなかったという事らしい。
 俺はてっきり、一緒に寝ようと押しかけて来たのかと思った。
 突然の夜の訪問者だ。

 なまめかしいママのガウン姿が目に焼きついて、十二時近くまで眠れないはめに陥ってしまったではないか。
 暖房のない部屋は寒く、毛皮のコート無では起きていられない。
 シュラフにもぐりこむ。

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