バックパッカーの旅Ⅱ(欧州~北アフリカ~欧州~日本)

バックパッカーの旅Ⅱ(欧州~北アフリカ~欧州~日本)

マダムのガウン姿と断水



  午前七時、一度目を覚ます。
 窓を閉め切っている為に、部屋の中は真っ暗。
 あまり朝早く起きてしまうと、時間をつぶすの大変だし、街を散策していると、いらん出費になる事も予想されるし・・・・と、また一眠りする事にした。
 さすがシュラフの中は暖かい。

 三時間ほど眠ったようだ。
 午前十一時。
 二十三日の一日の始まりだ。
 一日の始まりは断水から・・・・水が出ないのだ。
 マダムを探す。

       俺  「マダム、おはよう!」
       マダム「早いわね??」

 マダムはガウン姿のまま、アイロン掛けをしている最中だった。

       俺  「・・・・・・?」
       マダム「何か??」
       俺  「水が出ないから、トイレも使えないし、顔も洗えないんだけど?」
       マダム「断水はグラナダ全部だから・・仕方ないわね。雪の為だから我慢しなさい。」
       俺  「何とかできないの?」
       マダム「ちょっと待ってなさい!」

 アイロンの手を休めると、一階に下りて行き、溜めておいた水を開けてくれて、何とか急場を凌ぐことができた。

       俺  「サンキュウ!」
       マダム「困った事があったら、何でも言うのよ!」

                   *

  彼はもうグラナダを発ったのか、部屋は空っぽだった。
 ホテルを出た所で、パッタリ彼に出会った。

       俺 「ヤー!今日発つんじゃぁ、なかったの?」
       彼 「ええ!今日これからバスでマラガまで行くつもりなんです。」
       俺 「マラガまで?」
       彼 「昨日アルファンブラ宮殿へ行ってきました?」
       俺 「アア!」
       彼 「私も行きました。思ったより広いですね。建物も素晴らしかったし、庭も奇麗でした。」
       俺 「俺もあんなに広いとは思わんかった。一回りして疲れきって、今起きたところさ。ところで、食事は済ましたの?」
       彼 「今、済ましてきました。」
       俺 「早いなー!安いレストランあった?」

       彼 「いいえ!昨日の夜もホテルで食べたんですけど、あまり美味しいてゃいえないですね。今日はBarでコーヒーとトーストだけで済ましちゃいました。レストランへは行きました?」
       俺 「昨日行ってビックリだよ!高くて!ちっちゃいオムレツとスープで120pts(580円)だぜ!」
       彼 「アルジェシラスにはちゃんとした安いレストランはありました?」
       俺 「アルジェはあるよ。」
       彼 「そうですか!良かった!じゃあこれから僕はバスで出ます。お元気で!」
       俺 「じゃあ気をつけて!」
       彼 「また、逢えると良いですね。」
       俺 「ああ!」

                   *

  今日も靄で煙ってはいるが、太陽の陽ざしが降り注いでいる。
 残雪も屋根とか、山の斜面に残すだけのようだ。
 道路は解けた雪と泥でグシャグシャ。
 クリスマスの準備だろうか、二人の少年が小さなツリーを運んでいるのが見えた。
 ウイークデイの昼間と言うのに、人が多い。
 通りのあちこちで、ツリーに使うのだろうか鉢が売られている。

 陽だまりの広場では、装飾品を広げて売っている。
 日本の若者も座っている。
 のんびりと気持ちのいい一日になりそうだ。
 Barのテーブルにつく。
 ここからは、何にも使われていない広い空き地が見える。
 建物の間から、薄っすらと雪のかかったシェラネバダの山が見え、空はひとすじの雲があるだけ。
 バックグラウンド・ミュージックが流れ、良い雰囲気の店だ。
 相変わらず、Barの中も人で溢れ、人々の話し声でザワザワ騒がしい。

                 *

  Barを渡り歩く一日となったようだ。
 何の楽しみもない町。
 シェラネバダ山脈を眺めるにはもってこいの街だが、それ以上の何もない町ではある。
 夜、六時半になるのを待って外へ出る。
 昼間飾り付けられたイルミネーションが、通りを飾っていて美しく輝いている。
 豆電球を並べて、星だとか、サンタだとか、ソリ・トナカイ・ローソクなどを模った飾り物が闇に浮かび上がって見える。

 寒い夜だと言うのに、人で溢れている。
 暖かい部屋の中には、窓ガラス越しにクリスマス・ケーキも飾られているのがわかる。
 しかし、どこか違っている。
 これじゃあ、日本のほうがよっぽど賑やかだし、大げさなんだけど。
 街にはクリスマスソングが響き渡り・・・・という事もない、静かなクリスマスのようだ。
 日本じゃ、一週間前から騒がしいと言うのに・・・・どうした事か。

 あの通りのイルミネーションがなかったら、明日がクリスマスイブという事をわからずにいたことだろう。
 サンタクロースもトナカイもソリも皆、日本に行っちゃったんじゃぁないの。
 今頃日本じゃあ、大変な賑わいを見せている事だろう。
 これがグラナダのクリスマス?
 南スペイン最大の街?グラナダは静かにクリスマスを迎えようとしている。

 夜のBarを覗いても同じ。
 人は相変わらずいるものの、ちょっとした飾り物だけでいつもと少しも変らない。
 日本では、家庭の中でというよりも、外へ出た方がクリスマスらしいのだが、ここスペインでは家庭の中で祝うもののようだ。
 レコード店を訪れてもクリスマス・ソングは聞こえてこない。
 明日クリスマスイブだと言うのに。
 明日はクリスマス・ケーキでも買って、シャンペンでも開けて、一人でクリスマス・イブでも迎えるとするか。

                   *

  街中で、日本人家族を見かける。
 小さなガキを」連れた若い夫婦だ。
 パパがガイドブックを見ながら、何かを探しているようだ。
 自分達が帰るホテルでも忘れたのか?
 小さいガキが、俺の視線を感じて、ニッコリ笑いかけてきやがった。

  ”坊や!知らない人に声を掛けられても、知らん顔してるんですよ。”

 と言う両親の言い付けをしっかり守っているのか、笑い返してもそれ以上の笑みはなかった。
 このガキ、どんな気持ちで異国を旅しているのやら。
 それに比べて、新太郎君と真美ちゃんの笑顔のなんと素晴らしかった事か!!
 (ヒッチハイクの会長の子供達の事)
 午前0時十五分前、TVだろうか、クリスマスの唄がやっと流れてきた。
 ”きよしこの夜”だ。
 後十五分で24日。
 人恋しい夜である。


                 *

             <今日のお買い物>

        パン2個(30Pts≒145円)、リンゴ1Kg(30Pts≒145円)、オレンジ1Kg(23Pts≒110円)、宿泊費(100pts≒480円)、ライター(75Pts≒360円)、カバー(50Pts≒240円)、ニベア(39Pts≒187円)、カフェ&トースト(27Pts≒130円)、カフェ(12Pts≒58円)

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