バックパッカーの旅Ⅱ(欧州~北アフリカ~欧州~日本)

バックパッカーの旅Ⅱ(欧州~北アフリカ~欧州~日本)

グラナダで迎えたクリスマス




  今日もちょっと寝坊してしまったようだ。
 階下のお婆ちゃんに、今の時間を聞いたら、午後一時になろうとしている。
 午前中はずっと、雨が降っていたようで、外を見ると石畳が濡れている。
 そういえば、夢の中で雨音を聞いたような気がする。

 外に出て、いつものBarに入り、昼食をとる頃には、雨は止んでいた。
 ツーリスト・オフィスを訪ねること二度目。
 マドリッドに行くのに、バスと列車の二通りあるのだが、安い直通バスとなると、なかなか見つからないのだ。

 インフォメーション・オフィスで教えてもらった、バス・オフィスでは直通は出てなくて、乗り換えになると言う。
 マドリッドへは、少々高いが、直通で行ける列車に決めた。
 マドリッドへ行く途中、バルセロナへは是非寄って見たい。
 大学時代から、アントニオ・ガウディ-のサクラダ・ファミリア教会をじっくり観ておきたかったからだ。

 この教会は、現在建築中で、アントニオ・ガウディ-が死んだ後も、いまだに建築工事中という、壮大な建築物なのだ。
 完成にはまだ、これから100年かかると言う、日本では考えられない建築なのだ。
 気の長い話ではないか。
 アントニオ・ガウディ-の建築をこの目で見るという事は、この旅行の二番目に位置する目的でもあるのだ。

                     *

  Barにて、数時間過ごす。
 外では突然、雹のような雨が、ものすごい勢いで降って来た。
 白くて、丸い塊が、道の上をコロコロと転がりはじめるではないか。
 それは、突然降り始め、そして突然(5分ほどで)止んだ。

 隣では、小柄なおじさんが、若者二人を相手にして、陽気に会話している。
 それを黙って聞いていると、突然・・・・雹の様に、俺に向かって話し掛けて来たではないか。
 なにやらスペイン語で話し掛けてくるのだが、何を言っているのかチンプンカンプンでまるでわからない。

       叔父さん「・・・・ニッポン・・・・?」
       俺   「シー!ニッポン。」

 日本人とわかると、握手を求めてきて、何と・・・・手の甲にキスをしやがった・・・・!!
 汚ね~~~~やろうだ!
 話が出来ればいいのだが、スペイン語は「ノー!コンプレ!」なのだ。

 そのおじさんと店のマスターが急に喧嘩始めた。
 マスターがさっきのおじさんを、店から追い出しにかかっているようだ。
 何が原因か、俺にはまるでわからない。
 おじさんを店から追い出したかと思うと、歩道でも喧嘩が続いている。
 小柄なおっさんは、持っている傘を振り回し、マスターはそのおっさんに、回し蹴りを何発もかましだしたでは・・・・。

 それは、突然始まって、すぐ納まった。
 おじさん、なにやら喚きながら、店から離れていった。
 一見、浮浪者のような、そんな感じがしないでもなかったのだが。
 店の客に迷惑になると判断して、マスターが追い出しにかかったと言うのが、真相らしい。
 まるで、さっき落ちてきた、雹のような様子だった。

                   *

  夕闇の迫った外に出る。
 大きな紙袋を持った人が笑顔で歩いていく。
 子供達も、何かプレゼントを買ってもらって、嬉しそうに歩いている。
 別なBarに入ると、そこでは十数人集まって、歌を歌ったり踊ったり楽しそうだ。
 年老いた婦人が入ってきて、レチェを飲みながら笑っている。

 鉢植えの鉢のようなものを、脇に抱えて”ブーブー!”と音を出し、タンバリンを打ち鳴らし、若者達が踊ったかと思うと、中年の紳士らしき人も・・・・・。
 皆が参加して、楽しそうに歌ったり踊ったりして、クリスマスを楽しんでいるのだろう。

 Barを出て、今夜の食料を買い込む。
 小さなケーキも買った。
 俺もクリスマス。
 雨は上がったようだ。
 小さな鐘の音が聞こえてくる。
 グラナダで迎えたクリスマスは、通りは静かだが、Barの中は熱気で溢れている。

 八時間の時差がある東京では、そして田舎では今午前三時、皆夢の中だろう。

                     *

  午後九時。
 街は静かになった。
 人通りも少なくなった。
 宿に戻ると、マダムが正装して、もう一人のスペイン美人を引き連れて、俺の部屋を訪ねてきた。

       マダム「ヒガシワ!もう外へは出ませんか??」
       俺  「・・・・・ええ!・・」
       マダム「私たち、今から出かけますけど、宿の玄関は自動的に鍵がかかります。一端外へ出ると、私たちが帰って来るまで、ドアは開きません。分りますか?」
       俺  「シー!」
       マダム「出かけることがあれば、ここにキーがありますから、渡していきますけど・・・どうしますか??」
       俺  「シー!分りました。でも、もう外へは出ませんから・・・。」
       マダム「そうですか。あなたも素晴らしいクリスマスでありますように。」

 これから出かけるようだ。
 教会だろうか。
 クリスマスの夜、こんなに静かなのは、人がどこかに集まっているからなのか。
 ちょっと、酒蔵を覗いた時、すごい人で熱気ムンムンだったのを思い出したのだが、マダムも連れの美人もそこへ行って、クリスマスを楽しもうと言うのか。
 酒を飲み、唄をうたい、踊りを踊ってクリスマスの夜を明かすのかも知れない。
 それが、グラナダのクリスマス。

 24日が過ぎて行く。
 今日は街に物乞いが多かった。
 バクシーシは、ここスペインにもいた。
 書きものをしていると、いつの間にか午前一時をまわっていた。
 0時を過ぎる頃から、夜が騒がしくなってきたようだ。
 窓の外は歌声や話し声で、いつまでも賑わっている。
 グラナダのクリスマスが今始まったようだ。

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