バックパッカーの旅Ⅱ(欧州~北アフリカ~欧州~日本)

バックパッカーの旅Ⅱ(欧州~北アフリカ~欧州~日本)

太陽のいたずらが俺を驚かす!



  戻ったホテルには、日本人二人が泊まっている。
 男女一名づつだが、カップルなのかどうかはわからない。
 街では、三人の日本人グループにも出会った。
 ここグラナダも、日本人が多い。

 朝方3時頃までペンを走らせていた。
 シュラフを出すのが面倒で、服を着たままベッドに入る。
 ホテルとは名前がついているが、安宿は暖房も効いておらず想像以上に寒い。
 その上、薄っぺらな毛布を三枚ばかり重ねたベッドでは・・・・寒さを防げない。
 寒さのせいで、浅い眠りが続く。

 起きていたようでもあり、寝ていたようでもあり・・・・そんな意識朦朧としている中、ドアをノックする音がした。
 重い腰をあげる。
 朝早くから、モップを動かす音がしていると思ったら、女主人が廊下の掃除をしていたのか。
 どうやら、水が漏れて下の部屋が水浸しになっているとかで、掃除をしているのだと言う。

 いつの事か分らないが、自分の時計が信用できない状況になっている。
 仕方なく寒い朝、”Cafe Bar”に入る。
 午前九時。
 こんなに朝早く起きたのは久しぶりだ。
 その上、書き物が進んで、六時間ほどしか眠っていないのだ。

 何か頭がボンヤリしている。
 ”Renfe Office”を覗いて見るが、まだ開いていない。
 よく見ると、九時半オープンと書いてある。
 その間、ボンヤリ待っているのもなんだからと、Barに入って時間をすごし、九時半過ぎにオフィスへ向かうと、もうチケットを購入する人がずらりと並んでいた。

 俺”ウエー!切符を買うのにこんなに並ぶの???”

 アルジェシラス方面行き、マドリッド行き、バルセロナ行き、バレンシア行きなどと、窓口がいくつかあり、それぞれの窓口に人がずらりと並んでいる。
 マドリッド行きの窓口に並ぶ。
 窓口の中には、お爺ちゃんばかりが、チケットの受け渡しをしていて、実にのんびりと事務処理にあたっているせいか、なかなか列が進まないようだ。
 なんと待つこと40分。

       俺    「Exprese Madrid! セカンドクラス、Oneway ticket!ウノ!」
       お爺ちゃん「シー!」

 今晩22:00発のマドリッド行きのチケットを購入する。
 年末だからといって、臨時便が出るわけでもなく、14:25発の一日二本しか走っていないと言うではないか。
 厄介ではあったが、これで何とか・・・28日の朝には、マドリッドにいる。

 考えてみると、グラナダに一週間も滞在する事になってしまった。
 アルファンブラ宮殿を見て、クリスマスの飾り付けを見て、”Cafe Bar”に入りびたりの一週間だったように思う。
 遠くに見える、雪を頂いた美しいシェラネバダの山とも、ついに分かれるときが来た。

 今日も雲は多いが、暖かい陽ざしが射し始めて来ている。
 駅に荷物を預け、シェラネバダ山脈が見える”Cafe Bar”にすわり、水滴の滴るビールをあおる。
 大きなガラス窓のあるテーブルに陣取り、不安定なガラスコップに注がれたビールの泡を見ながら、シェラネバダ山脈の雪景色の美しさにウットリしている。
 暖かい陽ざしが注ぐ、春のような心地よい気持ちでいると、”ピシ!!”と言う音が聞こえた瞬間、テーブルに置かれていたガラスコップが、真ん中辺りでものの見事に真っ二つになっていた。

 真横に割れた・・・いや切れた上のグラスが、そのまま落ちずに重なったまま、切れた上のビールがこぼれているではないか。
 一体、誰が!??
 触れもしないガラスコップが真っ二つ。
 ”ピシッ!”と言う音とともに割れているなんて・・・・・。
 割れ目の下に入っていたビールは1滴もこぼれていない。
 なんとも不思議なことが起こってしまった。

 只今、十一時四十分。
 冷え切ったビールと、窓から差し込む強い陽ざしが起こした事かも知れない。
 ちょっとした、太陽のジョークだろうか。

                     *

  夕方になって、雨が降って来た。
 今日一日は、22:00発の列車を待つだけの一日。
 駅に来て、かなりの日本人に出逢った。
 その中の一人に声を掛けた。
 スペインのとある島(地中海に浮かぶ島)に住んで、カラテを教えていると言う青年だ。

       青年「もう四ヶ月になります。」
       俺 「長いですね。」
       青年「まだ一年、いるつもりなんです。」

  笑っている。

       青年「今日は、一週間の休暇をとって、スペイン本島を周る初日なんですよ。」

  カラテをやっているだけあって、なかなか精悍な若者だ。

       青年「ヨーロッパにも日本柔道連盟のような組織があって、勝手には道場が開けないんですよ。」
       俺 「そうなんですか。でもカラテと言う目的があって、ヨーロッパ中を周れるなんて素敵じゃあないですか。」
       青年「いや!やっと食っていけるぐらいの収入しかありませんよ。映画の影響ですかね。カラテと言うと、とんでもない事を考える人が多くて困るんですよ。」

 安いホテルを教えてあげると、暗くなったグラナダの夜に消えていった。
 夕方から降り出した雨はまだ止みそうもない。
 駅で飲むビールはBarで飲むより少し安い。
 一杯、11pts(≒53円)
 一杯のコーヒーより安いのだから、喫茶店でコーヒーを飲むように、ついついビールを飲んでしまう。
 しかし、寒い夜にはこれに限る。

                   *

  エクスプレッソは、22:00ちょうどに発車。
 421㌔、十時間あまりの列車の旅が始まった。
 時速にすると42キロ。
 これが急行????かと思うかも知れないが、アルジェシラス~グラナダの九時間半と比べれば、ずっとエクスプレッソ(急行)なのだ。

 コンパートメント(部屋)は8人掛け。
 若い女性二人に子供一人の若者ばかり七人が座っている。
 窓の外を見ると、友人との別れを惜しむ者や恋人と別れる者・・・哀愁列車の様相を呈している。

 午前0時過ぎ、さすが二等車というべきか、暖房が止められた。
 全ての灯りが消されて、皆眠っているように見える。
 とうとう、寒さに我慢しきれずに、バッグからシュラフを引っ張り出して、中におさまるとすぐ、睡魔に襲われた。

 ・・・・・・・。
 よく眠れたのだろう、目を覚ますと列車はマドリッドの街の中に入っていた。
 時計の方は相変わらず我がままで、主人の信頼を失って久しい。
 午前8時少し前に、Atocha(アトッチャ)駅に滑り込んだ。

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