バックパッカーの旅Ⅱ（欧州～北アフリカ～欧州～日本）

アマディオで愉快な仲間達に出逢っ･･た！

　　列車内では、何のアナウンスもなく、皆が下り出すのを窓から見て、自分がこの駅で下りるべきかどうか判断する。
　列車は、黙って発車し、黙って停車する。
　隣のスペイン人が俺に尋ねてきた。

　　　　　　　隣人「アトッシャ駅ですか？」
　　　　　　　俺　「俺の方が聞きたいくらいですよ。」

　一度踏みしめた駅という事もあって、少しは余裕が出てきた。
　もうすでに地図も手に入れている。

　朝8時を過ぎているとは言え、薄暗く、曇りがちなせいか、それとも靄か、街全体を包み込んでしまっている。
　宿はもう決めている。
　”ホセ・アントニオ”地区はどこか。
　すぐ見つけることが出来た。
　チェックインの十二時まで、Cafeで過ごすのか？？

　さすがに地方都市・グラナダと違って大きな街だ。
　郵便の車のような派手な赤いバスが、目の前を通り過ぎていく。
　二両連結された、欲張ったバスが走り抜けていく。
　何か十分に眠れなかったせいか、眠りすぎたせいか、頭が少しボンヤリしているようだ。

　　　　　　　俺　”ア～～～～～ア！早く飯らしい飯が食いたいよ――！いつになったら安いレストランが見つかるのかな！”

　Barで時間をつぶし、ガイドブックにも載っている、HOTEL”アマディオ”を見つける。
　四階に上がる。
　テーブルとイスが並べられた洋間には、日本人ばかりが集まっていた。
　ここのオーナーだろうか、おばさんが部屋を案内してくれる。
　マドリッドの日本人の為の下宿やの様だ。
　ここで生活する限り、ここがスペインでも一番大きな都市だという事を忘れてしまいそうだ。
　しかし、ここの女主人が何かと五月蝿いという事がすぐわかった。

　　　　　　　女主人「使っていない部屋の電気はすぐ消しなさい！」
　　　　　　　女主人「イスにはきちんと座りなさい！イスが壊れますからね。」
　　　　　　　女主人「玄関のブザーは1回押せば良いの！何回も押すと、五月蝿いでしょ！」
　　　　　　　女主人「タバコの吸殻を床に落としたのは誰？？」
　　　　　　　女主人「荷物をこんな所へ置いたのは誰？もっと隅の方へ置きなさい！」
　　　　　　　女主人「あなた、今日発つんでしょ！早くしないと遅れますよ。何してるの！！」
　　　　　　　女主人「ハヤク！キョウ！アシタ！カオル！」

　片言の日本語をまじえながら、スペイン語で捲し立ててくる。

　　　　　　　俺　”なるほど、ガイドブックに書いてある通り･･･五月蝿そうだ。”

　しかし、この女主人どこか人がいい。
　日本人旅行者にとっては、異国のお袋さんなのだ。
　きっと、日本人が好きで、日本の若者を自分の子供のように思っているのかもしれない。
　日本人のほかにも、オーストラリア人・アメリカ人もたまには泊めるようだが、ここは完全に日本人の館だ。
　少々五月蝿いが、ゆったりと正月を過ごせそうだ。

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　＊

　　近くには安いレストランがあり、久しぶりに食事らしい食事を取る事が出来た。
　安くて、日本人に合うせいか、皆すごい食欲だ。
　俺が一品だけで満足していると（今まで碌な食事しかしてこなかったせいか）一人の日本人が声を掛けてきた。

　　　　　　　青年「インド・中近東では、それだけで済ませなくちゃいけないんですか？」

　心配そうに聞いてくる・

　　　　　　　俺　「いや！別に・・・・ただ食いたくても、今は胃が小さくなっているから食えないだけなんですよ。」
　　　　　　　青年「へ～～～～！そうなんですか！」

　皆、精力的に、このアマディオの館を基点にして飛び回っている。
　ここには、アフガニスタンの路上で出会ったオート―バイの彼が・・・・。
　そして、イタリアのベネチアの駅で野宿していた時であった彼もいる。

　　　　　　　薫さん「今から、日本に年賀状を送るの。」

　何十枚という絵葉書をテーブルに並べている、感じのいい女の子も笑っている。
　何人かが旅立ち、何人かが戻ってくる。
　夜は夜で、将棋を指す者、本を読む者、書き物をしている人、今日買って来たとお土産を見せびらかす人、日本の母からの仕送りと手紙が届いたと言って喜んでいる人、トランプに講じている人（俺）、などなどでこの部屋は一杯になっている。

　別館もあるようだ。
　夜遅くなると、一人去り二人去りするのだが、部屋に近い者五六人が残って、朝の3時近くまで、話をしたり、トランプで恋占いをしたり、楽しい夜が過ぎて行く。

　　　　　　　薫さん「もう三時よ！またおばちゃんにどやされるわよ。もう終わりにしなくちゃ！」

　薫さんの一言で、時間の経つのも忘れて楽しんでいた我々も、重い腰をあげた。
　おかげで、今日は随分楽しませてもらった。
　旅をしている事を忘れさせてくれる。
　長い一日だった。

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　＊

　　同じ部屋には、モロッコからグラナダを周ってきて、これからバルセロナへ行くという彼（27～28歳）いる。
　ベッドにもぐり、今日の恋占いを思い出している。

　　　　　　　　恭子　”貧しくてもやっていける人”
　　　　　　　　一美　”今、俺から離れようとしている人”
　　　　　　　　恭子　”この旅が終って、結婚しそうな人”

　怖い程当たっているのかも知れないし、まるっきり外れているのかも知れない。
　そんな事を思い出しながら、今日は久しぶりにぐっすりと眠れそうだ。

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