バックパッカーの旅Ⅱ(欧州~北アフリカ~欧州~日本)

バックパッカーの旅Ⅱ(欧州~北アフリカ~欧州~日本)

サングリア酒



いつの間にか、0時をとっくに過ぎている。
日本人観光客と言っても、我々貧乏人集団には注文を取りにこない。
ビール一本で朝まで粘るつもりなのだ。
店にとっては、迷惑な客だろう。

踊り子六人が一通り踊り終えたところで、また歌が始まり六人全員のそう踊りが始まった。

内藤さん「この歌、なかなか良いでしょう!」
俺「・・・・。」
内藤さん「キリストが生まれた。この世はこれから良くなるって言う歌なんですよ。」

比較的紳士が多いのか、五月蝿いほどの騒がしさも無く、心地よい時間が過ぎて行く。
六人の踊り子が姿を消すと、ギター独演とか、男性ダンサーが続く。
そうこうしていると、午前一時を過ぎて、いよいよ大本命が姿を現した。
大きな拍手が湧き起こる。
歌舞伎なら、一声あがろうと言うもの。

中年の女性ダンサーが、舞台の中央に進み出て、ゆっくりと両手を上げ、小刻みな足が床をゆっくりだが激しく打ち鳴らしていく。
激しく動いているのだが、止まって見えるのだ。
日本で見たフラメンコのなんと幼稚な事か。
我々観客達が、いつの間にか陶酔の世界へ入って行くのに、そう時間はかからなかった。

一人で、3~4曲踊るスタミナもたいしたものだ。
背中に光る汗。
手に持たれた、カスタネットがあれだけ難解な音を響かせている。
人の足から、あれだけのリズムが響き渡る。
身体を移動せず、激しく床を叩きつける足技。
情熱の国スペインは、このフラメンコから生まれたのかも知れない。

生の迫力が、身体全身に響き渡ってくる。
ドレスのすそを左手で掴むと、その手を頭上に高く上げ、そのままの姿勢で動かなくなった。
いや?動いている。
全身が目に見えないほど、細かく、鋭く動いている。
足が細かく、床を踏み鳴らす。

ずいぶん長い間続いた。
彼女の目は閉じられ、なにやら苦もんの表情を見せる。
またそれが、色っぽいし美しい。

                           *

   一番前の席が空いたというので、二回目の移動。
 舞台のまん前に陣取った。
 メインのダンサーの踊りが終ったからか、お客さん達も少しずつ減り始めたようだ。
 時計を見ると、もう午前3時だ。
 舞台へは、最初に踊っていた六人のダンサーが上がった。

       誰か  「ビール一杯では、どうも持たなくなってきたな。」
       俺   「何か、頼む?」
       内藤さん「最初400pts(1920円)だけど、次のオーダーはビールでもコーラでも270pts(≒1300円)かな。」
       俺   「じゃあ!一人100pts(≒480円)ぐらい、・・・どう??」

  オーダーは全て、内藤さんに任せる事にした。

       内藤さん「じゃあ!700pts(3360円)で、サングリア酒でも頼むか!」
       俺   「サングリア酒って何?」
       内藤さん「レモンなどが入ってる果物酒かな。赤ワインのような色をしてるんだ。」

 暫くすると、ウエーターが二つの大皿を運んできた。

       俺   「あれ?二つも頼んだの??」
       内藤さん「一つは、ここのマスターからのおごりだってさ!」
       俺   「やったじゃん!」

  客が少なくなって、踊り子達も気楽に踊りだした。
 目の前で長時間かぶりつきになって見ている我々にも、いろいろ話し掛けてくるようになった。
 もう終わりに近いのか、チップ用のかごを片手に持った踊り子達が、客席の間を回り始めた。

       内藤さん  「チップを入れてくれたら、もっと好きになるだってさ!」
       俺     「どうする??」
       他のメンバー「少しぐらい、良いんじゃない。」
       俺     「いくらにする?」
       内藤さん  「一人、15pts(≒70円)ぐらいならどう?」
       俺     「そうしよう!」

  七人で、105ptsが集まった。
 早速、かごの中にチップを放り込む。
 チップを貰った踊り子達は、ニッコリ笑っておどけて見せる。
 投げキッスがあっちからこっちから飛んできた。

       内藤さん「これも、日本人観光客達が作った、悪しき慣習の一つなんですよ。」

                      *

   ついに、最終ステージまで居座って500pts(≒2400円)。
 ビール一本にサングリア酒。
 少々、サングリア酒が効いて来たのか心地よい。
 果物酒なので、飲みやすくついつい飲みすぎてしまったようだ。

  最終ステージが終ると、舞台にいたダンサー達が、歌を歌いながらステージを降りてきた。
 すぐ近くに来て見ると、舞台であれだけ大きく見えていたダンサーが、実に小柄な可愛い女性達だった。
 化粧が濃い為、舞台では怖そうに見えたダンサーも、近くに来て見ると可愛い女性なのだ。

   午前4:30。
 早朝のマドリッドの街を歩いて、アマディオへ向かった。
 早朝の寒さも、サングリア酒のおかげなのか、はたまた、フラメンコを見た興奮がよみがえってきた為か、寒さも気にならずかえって心地よい。
 宿舎であるアマディオについて、眠りについたのが午前5:00だったと思われる。

                    *

   15:00。
 日本大使館に出向く。
 大使館の開館時間は、9:30~13:00までと、16:30~19:00となっている。
 その他の時間は、閉館。
 午後からは、昼寝の時間らしい。
 殿様のような、仕事タイムではないか。
 旅行者のことを考えているの?

  全く、大使館の野郎どもは、気位ばかり高くって、本来の仕事を全く忘れているんじゃあ無いのかな。
 税金で食わせてもらってるくせに。
 ・・・・・・。
 日本からの手紙は、外に出されていて、閉館時間でも受け取ることが出来るようになっている。

       俺  「俺らにとっては、大事な手紙。無くなったらどうするの???」

  閉館時間が長いので、旅行者から苦情が出て、外で手に入るようにしてくれたのはいいけど、これって・・・・おかしいよね。
 日本からの手紙が届いていた。
 弟から一通、山中くんから年賀状一枚、そして一番嬉しかった恭子からの手紙が一通。
 計三通も来てたのだ。

  異邦人にとって、手紙こそ日本と自分を結びつける唯一の手段だからだ。


                         *

             <十二月二十九日の家計簿>

                 1、宿泊費      125pts(600円)
                 2、昼食費       25pts(120円)
                 3、夕食費       50pts(240円)
                 4、フラメンコ観劇費用 550pts(2640円)

             ≪十二月三十日の家計簿≫

                 1、宿泊費      125pts(600円)
                 2、昼食費       26pts(125円)
                 3、夕食費       76pts(365円)
                 4、チーズ       38pts(180円)
                 5、ビスケット     25pts(120円)
                 6、サラミ       60pts(290円)

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