バックパッカーの旅Ⅱ(欧州~北アフリカ~欧州~日本)

バックパッカーの旅Ⅱ(欧州~北アフリカ~欧州~日本)

充子に出会った!



   十二時半。
 アデラさんの声が聞こえる。

       アデラ「もういい加減におきなさいよ。」

  雲は多いが、外は青い空が広がっている。
 今日の一日は、おきぬけの昼食を取って、ペンを走らせて、夕食を取って、仲間とトランプをして一日が終る予定だ。


                         ≪一月二日≫      ―壱―


   記述がない程、遊びで忙しかったのだろう。


                         ≪一月三日≫         ―壱―

   どうやら、本格的に風邪をひいたらしい。
 トランプで、夜更かしをしていた為だろう。
 ペンも走らない。
 朝起きると、頭が痛くて、のどもおかしい。
 今までも、何度か風邪を拗らせたことはあるが、今回ほど苦しい風邪は初めてだ。

  昨日も、午前二時頃まで”ドボーン”をやってて、起き出したのが、午後一時。

       ミー「もう紅茶、来てるわよ!」

  ”ミー”と呼ばれている女性は、夫婦で新婚旅行をしている若奥様のことだ。
 別館で寝起きしているのだが、仲間がいるからいつもここへやって来る。

  頭が”ガンガン”して、部屋の中に閉じこもっていると、余計頭が痛くなるような気がして、午後二時、食事を取った後長谷川君とプラトー(美術館)へ行く事にした。
 外へ出ると、青空が広がっていて、風が強く少々寒い。
 この寒さが、熱のある頭や身体を冷やしてくれて、ちょっと気持ちがいい。

  プラトーは、Atocha駅近くにあり、正面玄関の方を見ると、日本人の団体客だろうか、人がゾロゾロ出てくるのに出会った。
 入り口で、昨年タイで作った、偽の学生証を見せると、無料で入れてくれた。
 助かる。

                         *

   ベラスケス、ゴヤ、レンブラントなど、多数の素晴らしい作品が飾られていて、見ごたえがある。
 日本の美術館と違って、作品に触れようと思ったら、いつでも触れる事が出来る距離で、なおかつ、何も覆っていない状態で鑑賞する事が出来るのには感心してしまう。
 見る人を信用しているのだろう。

  ゴヤのスケッチ、「裸のマヤ」、「着衣のマヤ」が並んで飾られている。
 日本のように、ロープが張られたり、ガラスケースに入れられたりしていないのだ。
 直接触れたり、汚したりしないという国民性なのだろうか、こんなに近くでゆったりと鑑賞できるのもスペインだからだろうか。
 日本では考えられない事だ。
 閉館までの二時間、長谷川君と芸術論を交わしながら、館内を見て歩いた。

  プラトーを出て、街をブラブラしながら、午後六時頃アマディオに戻ると、フィリピ―ノ(本名、石川君。山形県酒田市の若者で、俺がイタリアの駅で野宿していた時出逢った青年だ。)とミーが将棋を指している所だった。
 仲間には、いろんなニックネームで呼ばれている人達がいる。
 「グエン」だとか、「前首相」とか。

                         *

   昨日の夜は、園部充子さんとBarで飲みながら話す機会を得た。
 他の仲間達と飲んでいる所へ、「薫」さんと一緒に入って来たのが「充子」さんだった。
 長い間飲んで、皆が帰った後も残ったのが、俺と充子さんの二人。
話がはずんだ。

       俺 「失礼だけど、俺より上だよね。」
       充子「そう見える?27よ。あなたは?」
       俺 「24。会社一年ちょっと勤めて、こんな事やっとる場合とちがうなって思って、旅に出てきたんですけどね。」
       充子「私は、高校出て八年間、銀行に勤めてたんですよ。」
       俺 「使い込みやって、逃げてきたんですか?」
       充子「違いますよ!!」

       充子「弟が一人の、二人姉弟なんです。」
       俺 「俺も弟が一人の、二人兄弟なんです。」
       充子「まあ!同じなんですね。」
  笑った。

       俺 「女性の一人旅、よく許してくれましたね!」
       充子「母親を説得するの・・・大変でした。」
       俺 「でしょうね。」

  田舎は、豊橋で今でも日本へ電話しても、弟が出るだけで母親は電話口に出てくれないといって、悲しそうな顔をする。

       充子「母は電話に出ると泣き出すから、弟が出るって言ってました。」

  彼女はこのスペインへ来る前にモロッコへも行っている。
 モロッコの片田舎で知り合ったモロッコ青年の家族の中で、一ヶ月半生活してきたのだと言って笑った。

       充子「トイレもない一つ部屋の中で、全員が一緒に寝るんですよ。」
       俺 「・・・・・・・・。」
       充子「暗くなってから、外へ出て着替えをして、土間のような所でそのまま眠るんですよ・・・・毛布を被せてくれるんだけど、下が冷えて、寒くて眠れないんですよ。」
       俺 「良い経験してきましたね。」
       充子「・・・・・。」
       俺 「家族は何人なんですか?」

       充子「八人ぐらいかな。家族の一人に小さなお金を貸して上げるとね、次々と黙ってお金を持って行くのね。一人に上げたという事は、他の人にも同じ行為をしてくれるという感覚なんだわ。」
       俺 「そうか!」
       充子「そんなある日、息子の嫁になってくれって!言われて逃げてきたんだけど・・・。」
       俺 「向こうの人は、女性を労働としてしか見ないから、気軽に考えると大変な事になるかもね。」
       充子「そうなのよね。」

       俺 「トイレは大丈夫だった?」
       充子「トイレなんか無いから、暗くなって藪の中に入っていって、用を足すの。もう怖くって!」
       俺 「俺の友達も、同じ体験をしてるよ。タイの奥地で、娘に連れられて行ったら、娘と結婚してくれって言われたとたん、逃げてきたって言ってたなー!」

  日本人女性としては、ちょっと真似の出来ない体験を彼女は身をもってしてきた、素晴らしい女性だ。
 コンタクトレンズをこのアマディオで、無くしたとかで、人と話をする時ジッと見つめてくる。
 そんな時、怪しげな色気を発する。
 髪の長い、スラリとした可愛い人だ。

  二人は、時の経つのを忘れて、話し込んだ。
 長い夜だった。

                          ≪一月四日≫       ―壱―

   久々に酒場へ足を運んだ。
 マヨール広場の近くにある、大衆酒場の中は、レンガ造りの酒蔵のような雰囲気を醸し出したところで、手拍子と歌声で騒がしい。

   ビーノ(ワイン)とトリテ―ジャ・デ・エスパーニャ(日本のオムレツ)で、一人当たり60Pts(288円)支払った。
 一時間座って、PM11:45酒場を出て、アマディオに戻り、いつもの”ドボーン”と言うゲームを、日が変わった午前2:30まで続ける。
 ”いつまで騒いでんのよ!全く。”と言う、アデラさんの一言でお開きとなる。
 いつものパターンだ。


             <家計簿>

                1、宿泊費 125pts(600円)
                2、酒場   60pts(288円)
                3、夕食費  71pts(340円)
                4、ノート  70pts(340円)



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