バックパッカーの旅Ⅱ(欧州~北アフリカ~欧州~日本)

バックパッカーの旅Ⅱ(欧州~北アフリカ~欧州~日本)

サグラダ・ファミリア教会に登った



   1クラスだと言うのに、暖房が聞かせていないのか、寒い。
 シュラフを取り出し、中に入る。
 6人掛けのコンパートメントに、スペインのおじさんの二人だけなので、十分横になれるスペースを確保することができた。
 目を閉じる。
 夢の中。

   次に目を開けると、いつの間にか目の前で眠っていたおじさんが、何処で降りたのか居なくなっている。
 駅なのか、叔父さんの替わりに女の人が入ってきた。
 おばさんだ。
 そのおばさんも、次に目を覚ました時には、また居なくなっていた。

   列車の窓を見ると、海が見えている。
 朝焼けで奇麗に輝いている海が見える。
 今年に入って、はじめてみる朝日だろうか。
 異常に眩しい。
 それもそうだろう、それまで朝と言えば、太陽が真上に来ていたのだから、今正常な生活のリズムに戻ったと言って良いだろう。

   水平線から赤い太陽が、ゆっくりと姿を現してくる。
 海岸線を走っているはずなのに、トンネルの多いこと。
 切り立った海岸線を走っているのだろう。
 異臭が鼻をつく。
 H2SO4。

   8時38分。
 列車が停まった。
 駅だ。
 ”DASEO DE GRACIA駅”で下車。
 地下に駅舎がある。

   早速、インフォメーションへ行き、現在地を確かめる。
 インフォメーションで、スイスへ向かう列車を訪ね、メトロに乗り込んだ。
 これが、大失敗。
 Barcelnetaへ行くはずが、全く別な所へメトロは向かっているのに気が付いた。
 引き返すことにする。
 LineaⅣに乗り込み、Barcelnetaへ向かう駅を探すのに一苦労。
 すぐ近くなのに、どの建物も同じ古いもので、どの建物が駅舎なのかまるで分らないのだ。
 随分と歩いて、結局元に戻ってやっと駅舎を見つけることが出来た。
 本当に、すぐ近くだったのに。

   11番窓口にて、リザベーションを済ませて、コンシグナにて重い荷物を預ける。
 身を軽くしたところで、近くのカフェテリアで朝食を取ることにした。
 朝食を済ませて、メトロの改札口で、メトロMAPを手に入れる。
 大学時代に、訪れてみたかった、サグラダ・ファミリア教会がすぐ近くにある事が分った。
 当事は、建築学科のツアーで、80万円もしたため、手が出なかった教会。

   階段を駆け上がり、地表に出る。
 地図を見ながら、午前10時、待望の夢にまで見た、サグラダ・ファミリア教会に到着した。
 冬のヨーロッパを徘徊する、一番の目的がこの教会だった。
 目的が今、達成された。
 天空にそびえる何本の塔が目に入った。
 設計者であるアントニオ・ガウディ-が、生きていた当時に建てられた部分は黒光りしていて、どっしりとした重厚感がただよっている。

   正面の四つの塔は、まだ工事中で本体は白っぽく、足場が組まれていて、「カンカン」と言う槌音が響いている。
 何人かの作業員だろうか、建物の周りを行き来しているのが目に入った。
 アントニオ・ガウディ-が、工事半ばにして、交通事故で亡くなった後もこうして、実にのんびりと・・・・工事が進められている。
 この旅行記をまとめている今も(2004年)まだ完成していない。
 それどころか、後100年かかると言うから、壮大であるしのんびりしている。

   工事現場の正面に、小さな公園がある。
 今この公園のベンチに腰掛けて、メモを取っている。
 真下から見る、サグラダ・ファミリア教会は、実に天空におわし召される神に向かって延びている。
 ファサードには、無数の彫刻が他を威圧する。
 公園では老人達が、日向ぼっこをしながら、教会について話をしているのだろう。
 今晩十九時三分。
 バーゼルに発つ。
 国境で乗り換えるらしい。
 スペインでの暮らしも、今日で最後になる。

                     *

   ノートを閉じて、サグラダ・ファミリア教会の工事中の中に入る。
 工事中なのに見学してもいいと言うのだ。
 しかし、責任は自分で取れということらしい。
 日本では安全面でまず不可能なのだが、この国では自分の安全は、人にとやかく言われるものではなく、自分自身で守るべきものなのだそうな。
 つまり、”見せてやるが、危険だぞ!それでも良いならどうぞ!”と言うことらしい。
 日本でなら、許可した者が悪いと言う事になるのだろうが。
 日本は子供なのだ。

   説明書も置いている。
 英語の説明書が無い為、スペイン語の説明書を40pts(190円)で手に入れた。
 入場料は、30pts(145円)。
 完成模型と一部の図面が置かれてある。
 さすがに天才建築家の名を欲しいままにした、アントニオ・ガウディ-だけのことはある。
 こういう感性は、凡人には無理なようだ。
 見て驚くだけにしよう。

   エレベーターの無い高い塔。
 四本のうちの一本に登って見る事にした。
       俺「登っても良いの?」
 塔の中は円柱の空洞で、円形の外壁に沿って、螺旋状に階段がへばりついている。
 工事中のため、まだ手すりはついていない。
 実に狭い階段である。
 これでは、上から降りてきた人と、すれ違う事もできやしないではないか。
 もうここまで来たら、高所恐怖症だが、目を瞑って登ることにした。
 400段はあるらしい。
 壁にくっ付いて、下を見ないように、一段一段上る。

   怖い。
 300段目まで来る。

       俺 「もうここまでだ。これ以上昇ると、それこそ神の世界に近づいてしまうではないか。」
   昇ってきた証に、落書きをする。
 神様、ごめんなさい。

          ”1977/1/13 東川”

   落書きは俺だけではなく、壁には夥しい落書きが書かれてあり、勇気づけられた。
 小窓から見える、バルセロナの町は圧巻だ。
 なんとも言えず、美しい。
 この塔の窓から見るから、これほど幻想的に見えるのだろう。

   降りるのが厄介だ。
 階段に腰を下ろしたまま、一段ずつ慎重に降りていく。
 地上に降り立った時の、ほっとした気分はなんとも言えずすがすがしい。
 工事中のオフィスに戻ると、大きな記録長がテーブルに置かれていて、訪問者がサインをするようになっていた。
 俺も、皆に見習って少々言葉を添えてサインをした。
 アントニオ・ガウディ-信望者が又一人増えた。

   アントニオ・ガウディ-の空気を、思う存分吸い込んで、サグラダ・ファミリア教会を後にして、地下鉄に乗り込んだ。
 ROMA駅で乗り換えて、スペイン広場に立つ。
 スペイン村の近くまで行って、また引き返してCATALUNAへ向かう。
 中央に広い遊歩道のある、花で飾られた美しい道を歩いて、バルセロナ港へ出た。
 コロンブスがアメリカを発見する航海に出た時、ここから出発したと言う。
 コロンブスが最初の発見者だとは思っていないけど。

   港には数多くの大型船が停泊し、広場には高い塔が立ち、ケーブルが走っている。
 明るい陽ざしが、キラキラと輝き港が活気付いている。
 そのほかにも、アントニオ・ガウディ-の遺作である”グゥ―ル公園”にもお邪魔した。
 海に沿った道を歩いて、Barcelonota駅近くの動物園に入る。
 偽学生証を提示するが、ここでは使えないと言うではないか。
 入場料は、50pts(240円)。
 この動物園にどうして来たかと言うと、世界でもここだけにしか居ないと言われている、白いゴリラを一目見たいと思ったからだ。

   ところがいざ入ってみたものの、何処に白いゴリラが居るのやら、全く分らない。
 絵葉書で見る限り、身体はあまり大きくないが、真っ白な毛で覆われている。
 残念ながら、逢う事は出来なかった。

                     *

   歩きつかれてしまった。
 特に、サグラダ・ファミリア教会の階段が、周り階段だったせいもあり、頭がフラフラしている。
 教会から出た時に逢った日本の青年から、声を掛けられた事を思い出した。

       青年「タバコありますか?」
       俺 「いえ!俺、タバコ吸わないんです。」

   タバコぐらい自分で買いなさいよ。

   十六時。
 駅のカフェで一休み。
 列車が来るまでの、三時間を過ごすことに決めた。
 もう歩きたくない。
 歩き疲れているのだ。
 カフェにて、和智さん・武君(薬のお礼)・田舎の両親・充子さんへのハガキを認める。

   今朝は朝焼けだったのに、今日一日良く晴れて、観光日和だった。
 しかし、やはり冬。
 風邪は冷たいものがある。
 バルセロナのメイン通りは、道幅が広く、道の中央に歩道が配置されていて、両脇に店が建ち並んでいる。
 それで居てまだ余裕があるくらいの道路だ。
 歩行者優先の道路造りが羨ましい。

                       *

   十八時四十分。
 プラットホームに出ると、教会で出会った青年にまた逢った。

        俺 「やあ!」
        青年「また、逢いましたね。」
        俺 「これから、何処へ?」
        青年「ジュネーブへ行くんです。」

   大きなバッグに、着替え服も入っている。
 羨ましい限りだ。
 俺などは、冬服と言えば、アフガニスタンで買った、アフガンコートしか、持ち合わせていないというのに。

        俺 「いつまでここに?」
        青年「もうすぐ、日本に帰るつもりなんです。日本を出てから、もう一ヶ月経ちますから。アナタは?」
        俺 「半年になるかな。」
        青年「羨ましいですね。」

   少し遅れて、列車が入ってきた。
 青年と別れて、十九時半。
 列車はバルセロナを後にした。
 席はリザーブしておいたのだが、シートの指定ではないようだ。
 暖房が良く効いている。
 今にも眠ってしまいそうだ。



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