バックパッカーの旅Ⅱ(欧州~北アフリカ~欧州~日本)

バックパッカーの旅Ⅱ(欧州~北アフリカ~欧州~日本)

≪フランス経由のスイス≫バーゼルの喫茶店



   フランス側の国境である”CERBERE”と言う街は、スペイン国境の街”PORT-BOU”からすぐの所だった。
 ”SERBERE”駅にて全員、列車から降ろされる。
 各々荷物を持ち、税関を通る。
 パスポートを調べるのは、ごく限られた人達で、我々はパスポートの表紙を見せるだけで無事税関を通過する事が出来た。

   ここから列車をチェンジして、スイスに入る予定なのだ。
 フランスは、列車の中で、眠っているうちに通り過ぎ、眠っているうちにスイスに入るという訳なのだ。

   二十二時四十分。
 CERBERE駅を静かに発車。
 何度か、列車の中で、チケットの検査とパスポートのチェックがあった。

       車掌「パスポート、ムッシュ-!」
       俺 「・・・・。(黙ったまま、パスポートを渡す)」
       車掌「メルシー!」
       俺 「・・・・。(黙ったまま、パスポートを受け取る)」

   1クラスの乗客は少ない。
 これも、フランスで貰ったユーレイル・パスのおかげである。
 (しかし、偽物であることがばれれば・・・・・大変な事になる。犯罪者であるからして・・・・どういう処罰が待っているのか・・・・わからない。)
 期限は、十五日間。
 共産圏を除き、ヨーロッパ中、いつでも何処でも移動可能な、魔法のチケットなのだ。
 それも、1クラスで。

   俺は今、この一等列車をホテルの替わりとして、これから使おうと思っている。
 シュラフ無し、ホテル代無しの豪華な旅だ。
 難点は、十五日間しか、時間がないと言う事だ。
 夜列車に乗り込み、朝到着した国で一日を過ごし、又夜列車に乗り込む。
 そんな旅になるのだ。
 隣に居る彼は、ホテルではなく、列車の中で眠る苦しさを今、味わっている。

                    *

       彼「私はここで降りますから!」

   彼の声に起こされた。

       俺「もう、ジュネーブですか?」
       彼「ええ!」
       俺「それじゃあ、お元気で!」

   簡単な挨拶をして別れる。
 列車の窓の外は、夜が白々と明けようとしている。
 もう8時が近い。
 列車は、スペインのバルセロナを出て、フランスのアビニョン、そしてリヨンを 夜中に通過して、今スイスとの国境の街”BELLEGARDE”を通過して、スイスに入ったと思われる。

   バルセロナ~ジュネーブは、870㎞。
 列車がジュネーブの駅を出ると、白銀の世界が窓の外に広がっていた。
 雪だ。
 雪景色が、何処までも広がっている。
 降っている訳ではないが、空は今にも雪を降らしそうに暗く、どんよりとして静かだ。

   列車は、湖に沿って走った。
 細長い湖で(そう見えた)、川のようでもある。
 湖の向こうには、真っ白な雪を戴いた大きな山が、薄ボンヤリと見えた。
 山の近くでは、雪が降っているのだろう。
 小さい窓を、至る所に配した、急勾配の屋根を持った家が、静かに湖畔の側にたたずんでいるのが見える。

   川の色は透き通り、いかにも冷たそうだ。
 雪が覆い被さってくるような、狭くなって見えるレール道や道路に、列車や車以外、動いている者を全く見る事はない。
 静かに、あくまでも静かに、列車の音が心臓の鼓動であるかのように、聞こえてくる。

   8時43分。
 ”LAUSANNE”駅に列車は滑り込んだ。
 そして列車は、今までとは逆の方向へ走り出した。
 少なくとも、俺にはそう感じた。
 フランスとの国境沿いを列車は走っているように思う。

   ”NEUCHATEL”駅に着いてから、また雪が降り出してきた。
 雪を戴いた山が、完全に視界から消えた。
 まるで雪が、真横から飛んできているようだ。
 いくつかのトンネルを抜け、国道と透き通った川は、列車の進む方向に続いている。
 山間の狭い峡谷を列車は、走っている。

   Biel駅を過ぎて、11時15分バーゼルに到着。
 東洋人らしいおじさんと、同じコンパートメントだったが、とうとう会話を交わすことなく列車を降りた。
 この列車は、ここからドイツに入り、ハンブルグまで行くと言う。
 地下を抜けて、バーゼル駅の外へ出た。
 全て絵入りの表示がある案内板が、あちこちにあった。
 我々旅人にとってはありがたい。
 さすがに、観光立国である。

   まず、ウイーンへ行く列車の時刻を確認する。
 20:02発。
 両替所で、富士のトラベラーズ・チェックを見せる。
 富士銀行のチェックは、時々両替を拒まれる事があるからだ。
 今回は大丈夫だろうか、緊張が走る。
 暫く待っていると、OKのサイン。
 5000円のチェックを、一枚スイス・フランにチェンジしてもらった。

         1スイス・フラン≒125円

   41スイス・フランを手にして、荷物を駅の構内にあるロッカーに預ける。
 料金は、1フラン(≒125円)、高い。
 身軽になり、駅構内のカフェテリアに入る。
 朝食を取る。
 日本の喫茶店のような雰囲気で、なかなか清潔感溢れる感じが良い。
 全て、セルフサービスになっている。

   フランクフルト一個に、ポテトチップ、コーヒーで4.8フラン(≒600円)。
 高い、こんなもんかな。
 安ければ、何日でも滞在したいのだが、早くウイーンを抜けなければ。
 奥のテーブルに、空席を見つけて、そこに座る。
 食事を取りながらメモをしていると、スイス人らしい若い男女が近寄ってきた。

       若者達「席、座っていいですか?」
       俺  「ええ、どうぞ!」

   俺のすぐ横には、若くて奇麗な美人が座って、ニッコリと笑う。
 俺の書いているメモを見ながら、色々質問してきたではないか。
 言葉は、ドイツ系だ。

       若者達「アナタ、エイゴヲ、ハナセ、マスカ?」
       俺  「ええ、少しぐらいなら、OKですよ。」
       若者達「ドコカラ、キマシタカ。」
       俺  「東京です。」
       若者達「オオ!トーキョー!ドコカラ、スイスへ、キマシタカ?」
       俺  「スペインから・・・。」
       若者達「コレカラ、ドコヘ、イキマスカ?」

       若者達「ドノグライ、エイゴヲ、ベンキョウ、シマシタカ?」
       俺  「少し。」
       若者達「センセイハ、イナイノデスカ?」
       俺  「いません。」

   食事もメモも取れないくらい、質問攻めにあってしまう。
 店内には、英語のミュージックが流れている。
 スイスに入って気がついたことは、駅に三つの時計が掲示されているという事だ。
 一つ一つ、時差があるようで、10~15分ずつずれている。
 こんな小さな国なのに、たくさんの国に囲まれている為に、時差を明確にして置く必要があるのかもしれない。
 バーゼルの街は、今も雪が降り続いている。
 時計に針は、12時30分を指している。

   次の列車に乗るまでにまだ、7時間近くもある。
 これから、どう過ごそうか?
 雪の中を駆けずり回ろうか、それともここでのんびりすごそうか。
 薄暗く、雪が降っているので、行動半径も狭まって来るから悲しい。
 若者達は、相変わらず、騒がしい。
 俺は、のんびりしたいのだ。



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