バックパッカーの旅Ⅱ(欧州~北アフリカ~欧州~日本)

バックパッカーの旅Ⅱ(欧州~北アフリカ~欧州~日本)

真夜中の狂想曲



   Wien Westbf。
 20:45頃・・・・発車。
 広いコンパートメントに一人。
 暖房も、効きすぎるぐらい効いていて、快適だ。

   Linz駅・・・Wels駅・・を通過。
 もと来た道を、列車は後戻りしていく。
 少し眠っては・・・起こされる・・・と言うことが続いた。
 パスポートの検査の度に起こされるのだ。
 そして、チケットのチェック。

   さすが国際列車。
 走ればすぐ・・・国境なのだ。
 パスポートは、見るだけで、スタンプは押してくれない。
 Salzburg駅から、ドイツに入る。
 ドイツに入るとすぐ、ドイツの係官が入ってきた。

       係官「パスポート、プリーズ!」

   眠い目をこすりながら、パスポートを手渡す。

       係官「ハポン?」

   そう聞くと、後ろから付いて来ている、二人の係官に私が渡したパス ポートを渡した。
 この二人もカスタムの人間なのだろう。
 カーキー色の制服を身にまとっている。

       係官「どこへ・・・行きますか??」
       俺 「ア~~~~~・・・・・。」

   なかなか、街の名前が出て来ない。

       俺 「アアア・・・・・、ルクセンブルグ!」
       係官「ルクセンブルグ???」

   俺の顔を覗き込みながら、なお聞いてくる。

       係官「タバコ・・・ありますか?」

   ドイツ語で聞いてきたので、キョトンとしていると、再度英語で言い 直してきた。

       係官「シガレット?」

   タバコが欲しいのかと思って、俺が持っているタバコを取り出そうと すると、・・・・又も言い直してきた。

       係官「ノー、ノー、ハッシッシは持っていますか?」
       俺 「・・・・・・・。」
       係官「マリファナは持っていますか?」

   矢継ぎ早に・・・突然、それも何気なく聞いてくるので、ビックリし てしまった。

       俺 「ノー!ノー、ハッシッシ。ノー、マリファナ!」

   慌てて、持ってるわけないだろうと、打ち消す。

       係官「OK!ダンケシェ-ン!」

   ニコッと笑うと、もう一度パスポートを開いて、目を通すとパスポー トを戻して、コンパートメントを出て行った。

       俺 「・・・・・・?!」

   眠気もすっ飛んでしまっていた。

                    *

   やっとドイツに入り、入国検査も済んだと言うことで、安心してもう 一度眠りに入ったとたん、また誰かが入ってきた。
 車掌だ。
 実はこの車掌、二度目なのだ。
 慌てて入ってきたので、何事かと・・・・思っていると。

       車掌「ルクセンブルグ!ビハインド!」

   そう叫ぶではないか。
 それでも慌てず、横になったまま居る俺。
 別に、ルクセンブルグでも、どこでも良いや!と言う気持で横になってい たから、二度目の訪問に慌てた。
 列車は、ドイツとの国境の町、Strasbourgと言う街に入っていた。

       車掌「あなたは、どこへ行きますか?」
       俺 「ルクセンブルグ・・・。」
       車掌「それじゃあ、後ろの車両に移らなくては、ダメで            す!」
       俺 「いや、オーステンデ(Oostende)でも良いんです。」
       車掌「何をしていますか!早く後ろの車両に移りなさい。五          つ後ろの車両ですよ。停車時間は二分間ですから            ね!」

   急き立てるような車掌の声に、俺も少々気になり、荷物を担いで車掌 の後ろについて走った。

       車掌「早く!早く!」

   車掌は俺を急がせる。
 とにかく、足早に歩いたが、荷物が重くて思うように走れない。
 夜中の1:30ころだろうか。
 ホームは暗い。

   やっとの思いで、五両後ろの車両に移動して、列車に乗り込もうとし た時、発車のベル・・いや、汽笛が鳴った。
 俺が重たいバック・パックを持って、モタモタしていると、車掌は一緒に なって荷物を押し上げてくれるではないか。
 彼も一緒に乗り込んできた。

   5両後ろって言ったにもかかわらず、車掌はどんどん後ろへと、俺を 誘導していくので、俺は車掌に付いていくしかなかった。
 車掌は、頼りない灯りを持って、手探りでコンパートメントを覗き込みな がら、空いたコンパートメントに俺を押し込んだ。

   七両目後ろの車両に、俺は移動させられたのだ。
 俺は車掌に、出きる限りのお礼を言って、手を振った。
 荷物をシートに置き、落ち着く。
 中には、ドイツ人らしき若い男が一人居た。

       俺「やあ、参った!参った!」

   シートに腰を下ろし、・・・・ペンを落とした事に気が付いた。
 スペインで買った、大切にしていたペンだ。
 慌てて移動したときに、きっと落としたのだろう。
 もうすでに、列車は走り出している。

   車両伝いに、探しに行こうとするが、3両目まで行ったところで、ド アは開かなかった。
 なんとも言いようのない、ショボ~~~ンとした気持で、コンパートメン トに戻った。

   (ニュールンベルグで、10分ほど停車する。その時走っていこうか?そ    れまであの車両が連結されていれば良いが・・・。)

   プラットホームを走る、自分の姿を頭に描きながら、シートにうずく まって居ると、・・・あの車掌が、三度目現れた。

       車掌「これ!あなたのペンですか?」

   銀色のペンを見せられた時、なんともいい様のない感謝の念が、湧き 上がってきた。

       俺「ありがとう!」
       俺「グラシャス!」
       俺「サンキュー!」
       俺「ダンケシェーン!」

   ありとあらゆる感謝の言葉を、胸の中で叫んでいた。
 そして、両手が無意識に、顔の前で合わさっていたのだ。
 なんという親切な車掌さんなんだろう。
 ここがドイツで良かった。

   イランやイラクではこうはいかない。
 さすが昔、同盟国。
 騒がしかった夜中の大移動が終わった。

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