バックパッカーの旅Ⅱ(欧州~北アフリカ~欧州~日本)

バックパッカーの旅Ⅱ(欧州~北アフリカ~欧州~日本)

ベルリンの壁



    列車の窓の外を見る。

駅の近くは、幾重にも張り巡らされた、鉄条網が見えてきた。

人影はまるでない。

ベルリンを抜けるのに、そう時間はかからなかった。

郊外に出ると、壊れたままの建物とか、小さな小屋のような人家とか工場な

どが見えてくる。

    アウトバーンのようなものも見えてきた。

そうしているうちに、それらしきものが見えて来る。

「ベルリンの壁」

高さ四、五メートルの白い壁で、その上には忍び返しのような鉄柵が見え

る。

その鉄柵の上のほうが、東ドイツ領内に向って折り曲げられているのを考え

ると、東ドイツからの逃亡者を防ぐために造られたものだと言うことがわか

ろうと言うものだ。

                   *

    どのくらいその白い壁が続いたことだろう。

随分と長い間、走る列車の窓から、その白い壁を眺めていたように思う。

その白い壁が、突如普通の鉄柵に変わった。

鉄柵が、線路に沿って、また線路と線路の間にも幾重にも続いているのがわ

かる。

ところどころに、ゲートが設けられていて、その何箇所かに監視塔らしき建

物も見える。

    まず西ドイツ側で、パスポートのチェックがあり、続いて東ドイツ

からは、物々しく係官が列車に乗り込んできた。

ついに来た。

窓の外では、相変わらずシェパードのような大きな犬を連れた、係官がノッ

シノッシと歩いている姿が目に入って来る。

30代前後だろうか、女性のカスタムも男性と同じ帽子を被り、列車内の検査

に立ち会っていた。

    制服に、円筒型の帽子を身につけている。

帽子には、東ドイツの紋章が輝いている。

チケットの検査に、大柄な女性係官が、俺の居るコンパートメントに入って

きた。

チケットのチェックが終わり出て行くと、今度はトランジットビザとパスポ

ートのチェックに、柔道でもやってそうな大柄な若者が入れ替わりに入って

きた。

     頭が列車の天井に今にも届こうかと思うほど、背が高く筋肉隆々

の若者だ。

顔を見ると、まだあどけなさが残っているような、可愛い青年だった。

西ドイツの老人達は、検査にやってきた係官に目をやると、すぐ外へ目をや

った。

鉄条網とパトロールの犬達を見た後、すぐ読みかけの雑誌に目を落とした。

同じ民族なのだ。

                      *

    検査が無事終わって、しばらく走ると、白い壁も鉄条網も無くなっ

ていた。

東ドイツ領内に、列車が入った。

今まで見えていた人家までも消えている。

殺風景な風景が続く。

冬枯れの木立が黒く、広い田園風景は白く積雪で包まれていて、どこまでも

続いている。

    人家はほとんど見ない。

たまに見つけると、ひどく質素で暗い感じのする風景だ。

白く続く雪の中を、野うさぎだろうか、懸命に走って黒い林の中に消えてい

った。

何もない世界が広がっている。

単調な景色に、やはり何度めかの眠りに襲われた。

                    *

    今度目を覚ますと、雪は相変わらず降ったり止んだりしているが、

地面や屋根は白一色だ。

50DM(≒6250円)で共産圏の雰囲気を味わうことが出来て、やはり行って良か

った。

Buchen駅の手前で、東ドイツの係官・・・そして、Buchen駅で西ドイツの係

官からと、それぞれのパスポートチェックを受ける。

    17:45、Hamburg.Hbfにて下車。

ドーム型(半円筒)の大きな駅構内・・・・なにか暗く、薄汚く・・・ゴチャ

ゴチャしている・・・そんな印象の駅だ。

夕食用のサンドイッチを買い込んで・・・・・さて、どうしようか???

北へ行く都合の良い列車は二本。

ストックホルム方面とオスロ方面の二本。

オスロ方面の列車は、出発までにはまだかなりの時間がある。

5時間・・・くらいあるな_!!

その代わり、朝コペンハーゲンの海を見ることが出来そうだ。

    ストックホルム方面は、18:21発でもうすぐ出発の時間が迫ってい

る。

夜海を渡り、ストックホルムには朝到着予定だ。

様子を見に、五番ホームに向う。

ホームに降り立って決心が付いた。

・・・・・・・ストックホルムへ行こう!!

    この列車、8両編成であるが、これが何と車両ごとに行き先が分かれ

ていると言う、厄介な列車だった。

Lubek止まりとPuttgarden止まりに、コペンハーゲン止まりにストックホルム

まで行く車両。

そのうえ、寝台車と普通車の座席に分かれているものだから、俺の乗るファ

ーストクラスのコンパートメントは、8車両のうちの一車両・・・・の中の半

分だけと言う少なさ。

それでも空いている。

18名分の座席しかないのだが、俺の居るコンパートメント(6人掛け)は、、俺

のほかに二人いるだけだ。

    その二人も聞いてみると、Lubek駅ですぐ降りるという。

Lubek駅からは、広いコンパートメントに一人、貸しきり状態となってしまっ

た。

Lubek駅は、西ドイツ北の港町。

この街から、海を渡りデンマークへと入る訳だ。

                    *

    20:08、Puttgarden駅に到着。

コペンハーゲンとストックホルム行きの車両だけが切り離されて、そのまま

なんと・・・・列車ごと、フェリーに乗り込んでいく。

フェリーの中にレールが引かれていて、その上を乗ったまま列車が滑り込ん

でいく。

列車がフェリーの中に入った。

列車はもう海の上。

列車は我々が乗った一本だけ。

列車の右隣の窓を覗くと、トラックだの乗用車などが、順序良く入ってく

る。

    時々、大きく揺れた。

西ドイツの出国検査がやってきた。

Puttgarden駅は国境の町なのだ。

今日はこれで何度目だろうか。

パスポートを無線でチェックする簡単なものだった。

こうしたカスタムの仕事は、なぜか若い人が多く目に付く。

また何日目か後、この西ドイツに戻ってくる。

あのハンブルグ駅にも・・・・・。

列車を飲み込んだフェリーが動き出した。

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