バックパッカーの旅Ⅱ(欧州~北アフリカ~欧州~日本)

バックパッカーの旅Ⅱ(欧州~北アフリカ~欧州~日本)

アテネ大学の学生になる。



  ショーンとリッチは、昨晩遅くまでどこかへ出かけていたようで、彼等の話し声で起こされてしまったばかりでなく、昨晩約束していた、ギリシャ語学校へ行く為、朝早くドゥ-シュンに起こされてしまった。
 外はほんのり薄暗く、昨日からの雨は止んでいた。
 こんなに朝早く起こされたのは、アフガニスタンのカブール以来のことかも知れない。
 ドゥ-シュンに誘われるまま、アフガンで買った毛皮のコートを着て外に出た。
 ドゥ-シュンはこの一ヶ月いつもこんなに朝早く起きて語学学校へ通っていたのだ。

    俺     「いつもこんなに朝早いの?」
    ドゥ-シュン「いつもさ!学生が来る前に勉強するのさ。」
    俺     「・・・・・・。」
    ドゥ-シュン「日本人の学生も多いから心配するな!」
    俺     「教科書も持ってないし。」
    ドゥ-シュン「俺の見せてやるよ!」

  学校の場所は、Stadiou St.のアテネ大学の構内にあった。
 神殿様式の建物の中に教室があるという。
 ISHから歩いて30分ばかりの所に位置し、アテネ市民の通勤風景を眺めながらの登校となった。
 初冬のアテネだが毛皮のお陰で、それほど寒さも感じない。
 学校へ行くという緊張感から、寒さを感じなかったのかも知れない。

  教室に入ると、早朝と言うのにすでに多くの学生で席は埋められている。
 ドゥ-シュンの言う14、5人という数ではない。
 東洋人だけでもそれぐらいいるようだ。
 教室はなかなか広くて、100人ぐらいは収容できるであろうか、もうすでに半分の席が埋まっている。

  左隅の一番前に座っていた日本人を、ドゥ-シュンから紹介された。
 後ろの席にも日本人女性が四五人固まって座っているのが目に入った。
 ”なんか変な東洋人らしいのが居るわね。”とでも言いたげに、ちょっと視線を預けてすぐ知らん顔をしてしまう。
 まるで、”あんた達とは違うわよ!”とでも言っているようだ。
 なんとも日本人らしい日本人達だ。

                    *
  少しざわついたと思ったら、先生が教室に入ってきた。
    先生    「今日、初めての人はいるかな?」
    俺     「ハイ!」
    先生    「テキストを買ってください!」
    ドゥ-シュン「ダメだよ!テキストなんか買わなくても俺のを見せてやるんだから。」
    俺     「有難う!でも記念に買っておくよ!」

  教科書をコピーした分厚いテキストを手にする。
 260Dr(2080円)を支払った。
 出席を取り始める。
 真っ先に俺の方を向いたかと思うと、名前を聞いてきた。
    先生   「初めての人、名前は?」
    俺    「My name is Higashikawa、Japan!」
    先生   「OK!」

  10分間の休憩が一度あるだけで、3時間も授業が続いた。
 スチームが入っていて、教室の中は快適だ。
 今日の授業は、季節についての講義で、まだほんの初級コースだとか。
 只今36ページ。
 一日に3~4ページしか進まず、宿題も出てなかなか中身の濃い授業である。
 この他にも二クラスあって、この教室は普段、何かの行事に使用されるだけの予備教室で、地元の大学生達は、他の教室で授業を受けているとの事だった。

  日本人も他の国の人たちも女性が多く、ギリシャ語・英語・ドイツ語の三カ国語を使っての実にゆったりとした、華やかな授業風景である 。
 俺にはオメガとかカッパなどと言うギリシャ語しかわからず、授業はさっぱり理解できないが、(時々、ドゥ-シュンが教えてくれるのだが)ギリシャ語の授業を、アテネ大学で受けている現実だけで、何かウキウキしてくるのである。
 それに何と言っても、テキスト代以外授業が無料なのが良い。

  ここに居る日本人は主に学生(留学生の実態ってこんなものなんだろうね!)とか、ギリシャ人と結婚してこの国に来ている主婦が多いのだそうな。
 つまり、この国で住むようになってしまった女性達である。
    ドゥ-シュン「心配するな。あの女性達なんか、もう何ヶ月も授業を受けてるけど、まだほとんど話ができないんだから。」
    俺     「だろうね。あんなに日本人と固まってちゃ、無理だワナ!」

  すぐ後ろの席に居る可愛い女性は、日本人と結婚しているのだが、仕事の関係でギリシャに来ていて、この教室では一番古く、もう八ヶ月になるという。
 隣の席の彼は、これからもここに居て、一二年は日本に帰らないのだと決意を語った。
 皆、なかなか頑張っている人もいるのだ。

  黒人も数多く目にする。
 彼らは、アラビックで、徴兵制を逃れるために、ギリシャやロンドンに渡って生活している、いわゆる逃亡者だ。
 もちろん金持ちに限られるのだが・・・・・。
 ISHで一緒に居るアラビックもレバノン人も、住んでいるのはカナダだと、自分の身の上を喋ってくれたこともあった。

  授業が終わる15分前に、教室に入ってきたアベックもいるが、先生は何も言わない。
 自分のことだから、自分で判断させるのだ。
 損をするのは、その人なのだから。

  7:40~10:40の三時間の授業が終わると、黒人の学生が宿題を集め始めた。
 なんら日本の授業風景と変わる所はないが、大きな違いはなんと言っても、皆自分から進んで学びたいと思っていることだろうか。
 勉強したい人だけが(一部の日本人は、ここに来ても日本を引きずっているのだが)、ここに集まり許された時間の中で、何とか自分のものにしようと頑張っている。
 学問の原点がここにあるように思えてきた。

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