バックパッカーの旅Ⅱ(欧州~北アフリカ~欧州~日本)

バックパッカーの旅Ⅱ(欧州~北アフリカ~欧州~日本)

離婚手続き



  ドミトリー、三人だけの寂しい朝を迎えた。
 ドゥ-シュンはもう早朝学校に(アテネ大学)出かけていて、アラビックも珍しくどこかへ出かけているのか、部屋には誰もいない。
 昨晩は、なかなか眠りにつけず・・・・いろんなことを考えていたせいか、朝目覚めても頭の中がモヤモヤしていて、寝覚めの悪い朝だった。

  暫くすると、アラビックが戻ってきた。

  時計を確かめて、日本大使館へ向かう。
 陽射しを受けると、アフガンで買った唯一の冬服の毛皮が、邪魔になるほどの陽気だ。
 大使館に着いて、レターボックスをかき回していると、日本の若い女性が入ってきた。

    彼女  「あのー!離婚手続きに来たんですけど!」
 俺が近くにいる事など完全に無視されている。
    大使館員「はい!解りました。相手は外国人の方ですね!」
 大使館員がいつもの事のように、事務的に応対している。
    彼女  「ええ!そうです。」
    大使館員「じゃあ!この二枚の用紙に書き込んでください。」
    彼女  「これ、貸してくれます。」
 カウンターに置かれていたボールペンを大使館員のほうに見せた。
    大使館員「はい、良いですよ!向こうの部屋にイスとテーブルがありますから、どうぞ!」
 嫌に事務的で、離婚手続きが日常茶飯事のことのように見える。

  女性は、十人前のきれいな人で、落ち着いた物腰は全てを達観しているようで、年以上にやつれて見えた。
 きっと希望に満ちて、皆に羨望されてやってきたはずのギリシャではなかったか。
 夢に見たギリシャでの生活と現実の板ばさみに、疲れ果ててしまった結果なのか。
 異国を旅する事と、異国で生活するという大変なギャップにやっと気づき、もがき苦しんだ末のことなのだろうが、やはり彼女にとっては甘かったと言わざるを得ない結果になってしまったようだ。
 彼女は今、隣の部屋で何を思い、渡された二枚の紙にペンを走らせているのだろうか。
 そんな彼女と旅をはじめたばかりの俺との接点が、何とも不思議な思いで交錯している。

  手紙は田舎から一通だけ届いていた。
 手紙の中にはショックなことが書かれていた。
 二回に渡って送ったフィルムが日本に届いていないという。
 台湾、香港、バンコックのフィルムだ。
 何とも辛い便りになってしまった。

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